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人工知能は新ビジネスを生み出さない

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2017/08/03 09:00
人工知能は新ビジネスを生み出さない: 「平成28年版情報通信白書」第1部第3節より抜粋 © ITmedia エンタープライズ 提供 「平成28年版情報通信白書」第1部第3節より抜粋

 昨今、業種を問わず、多くの企業から「人工知能を使って○○をしました」というプレスリリースが相次いでいます。こうした状況から、トップダウンで「弊社も人工知能で何かできないのか?」という指令が下る企業も少なくないようです。

 とはいえ、そんな指令を受けた現場は大変です。「人工知能はかなり高度な技術で、何の訓練も受けていないわれわれでは作れない。大学の研究室に依頼するか、年収何千万で人を雇うしかない……」と、そんな話を聞くこともあります。もちろん、そのような資金とブランド力を兼ね備えた企業は、ごく少数だとは思いますが。

 しかし、ここには大きな誤解があります。ビジネスの現場で活用する人工知能は、本当に高度な技術が必要なのでしょうか?

●「AIで何か新しいことができそう」という誤解

 そもそも、ビジネスの現場では人工知能がどれだけ活用されているのでしょうか。総務省が刊行した「平成28年版情報通信白書」の一節で具体例が挙がっているのでご紹介します。

 職場への人工知能(AI)導入の有無および計画状況について、日米それぞれにアンケートを実施したところ、以下のような結果になっています。

 日本で、人工知能の導入に取り組んでいる企業(検討段階含む)が10.6%であるのに対して、米国では30.1%と約3倍の開きがあります。日本では「人工知能? なんかスゴいらしいねぇ」と捉えている人が多いのが現状だと思われます。

 では、導入に取り組み始めている人たちの職場では、人工知能にどのような役割を期待しているのでしょうか。以下の結果をご覧ください。

 労働力の補完や生産性向上など、日米で差が出た項目は複数ありますが、私が注目したのは、「これまでに存在しなかった新しい価値をもった業務を創出する」という項目で日本が比較的高い点です。「人工知能で一山当てたい」というもくろみのようなものを感じます。

 “人工知能とは何か”がよく分からないから、何ができるのかも分からない。だからこそ、数々の制約や特有の問題にまで考えが及ばず、「何か新しいことができそう!」という夢を抱くビジネスマンが多くいるのかもしれません。

 このまま、一昔前のビッグデータ、マーケティング領域で言えばDMPやMAなど、言葉先行で「よく分からないけど何か凄そう」というハリウッド映画の予告上映のようなセールストークで、顧客に期待させるだけ期待させてガッカリした“黒歴史”が人工知能でも繰り返されるのでしょうか。

●先端研究の人工知能だけでは、ビジネス課題は解決できない

 こうした背景の1つに、先端研究で出てくるような人工知能の仕組みが難しすぎ、ビジネスサイドの人間に活用イメージが思い付かないという問題があると思います。

 2階建ての一軒家を思い浮かべてみてください。研究を1階、ビジネスを2階として考えると、1階の部分がガッツリ数理系であるため取っつきづらく、応用するイメージも浮かばないため、結局、抽象的な議論に終始してしまうイメージでしょうか。1階部分が無いため、まさに地に足がついていないのです。

 しかし、1階に暮らす研究者たちに「ビジネス向けの用途も考えてよ!」と言うのは酷な話でしょう。彼らはそれが仕事ではないのですから。その意味で、現段階では1階と2階をつなぐ階段を作る人が求められています。

 加えて、1階で研究している手法が、そのままビジネス向けに活用できるとは限りません。研究対象としての人工知能と、ビジネスに活用する人工知能は似て非なるものだからです。解決すべき課題と必要なデータ、そして管理する人間がそろって初めて、実ビジネスに活用できるのであって、研究となるとこの3要素はもう少し曖昧です。

 以前、私もデジタルマーケティングにおける、人間の意思決定の自動化に関する研究を公開しましたが、それでもビジネスに適用できるようになるまでには、さらに細かいチューニングが必要でした。

・参照リンク→「運用型広告が難しいのは人によって意思決定の結果が異なるから」という仮説

 つまり、人工知能をビジネスに生かすために必要なのは、高度な技術ではなく、課題への手法の当てはめや、課題にマッチしたデータの取得など、細かくも精度の高いチューニング作業なのです。

 一方で、ビジネスが研究を追い抜く事例があるのも、急発展を遂げる人工知能ならではと言えます。その代表例だと思うのは、2016年に米国ラスベガスで披露されたトヨタ自動車の「ぶつからない車」です。

 AI分野では非常に有名なPreferred Networksとの提携で実現したと思われるデモであり、その基礎研究内容はブログでも公開されています。DQN(深層強化学習)という技術を使い、「ぶつからない」を評価させて、全体が制御されていく過程を記しています。

 恐らく「人工知能のビジネス活用事例」としてマスコミ受けするのはこうしたものでしょうが、その背景には、基礎研究とビジネスへの応用、両者を並行して進められる財力がある点には注意を払うべきです。こんな事例、世界を見回してもそうはありません。

●来るべき“人工知能時代”にどんな人材になるべきか?

 会社にはさまざまな人が集まっています。人工知能の研究部分であるDNN(ディープニューラルネットワーク)や強化学習が、自分には分からなかったとしても、社員全員が全く分からないとは限りません。

 人工知能やIoTなど、先端IT人材の市場ニーズと現在の状況を表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」には、詳細な人数の記載があります。2016年時点で約9万6900人、うちユーザー企業の現場で6万人が活躍しているようです。

 特定の企業群だけで6万人を寡占できるわけがなく、実際のところ、自分の知らない部署に研究とビジネスをつなぐことができる人や、研究分野でも活躍できる人がいるのではないでしょうか。

 一方で人に任せず、「学び直し」をすることで、自分自身がそういった先端IT人材になるという選択肢もあります。私自身はこちらをオススメします。前回の記事で触れたように、「もはや、大学を卒業すれば“勉強”は終わりという時代ではない」からです。

 また、こうしたトレンドは10年、20年と続きそうなものであるにもかかわらず、上記の資料にもあるように不足は明らかです。今後訪れるであろう“人工知能の時代”を生きるために、それに携わる人間になるのは、そう悪くない戦略だと思っています。

 実際、経済産業省が主催する産業構造審議会の新産業構造部会第13回では、2030年代に向けて目指すべき国家戦略として「生涯たゆまない学び直し・スキルのアップデート」を紹介しています。多くの人に「学び直し」が必要とされる時代は、すぐそこまで迫っているのかもしれません。

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