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人工知能を単なる「自動化の道具」だと勘違いしていないか?

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2017/07/19
人工知能を単なる「自動化の道具」だと勘違いしていないか?: 日本が第4次産業革命に対応できなかった場合、多くの仕事の賃金が下がってしまう未来が予測されている © ITmedia エンタープライズ 提供 日本が第4次産業革命に対応できなかった場合、多くの仕事の賃金が下がってしまう未来が予測されている

 人工知能と人間、両者の違いの1つは「疲労の差」だといわれています。

 人間の場合、肉体労働でも頭脳労働でも、作業を続けているとだんだんと疲れてきます。集中力も下がり、判断ミスが起きやすくなります。一方で人工知能の場合、疲れるという概念がないので、長時間に渡って同じ量のアウトプットを供給し続けられます(マシンのオーバーワークで故障することもあるかもしれませんが)。

 そのためか、「人工知能は21世紀における自動化の道具だから、簡単な作業は人工知能に任せて生産性の向上を図り、人間にしかできない仕事に専念するべきだ」と主張する方もいます。私もこれからは「人間にしかできない仕事」に着目するべきだと思いますが、一方で、人工知能を単純に「自動化の道具」と見なしてよいのでしょうか。

●人工知能はあらゆる産業をアップデートする

 人工知能のビジネス活用を考える際、Bloomberg BETAのキャピタリストが、人工知能領域で事業を行っている企業をまとめた図「The Current State of Machine Intelligence」は必見です。現在はVer.3.0が公開されています。

 “deep learning”によるブレイクスルーで、第3次人工知能ブームが起こり、米国では人工知能領域のスタートアップ企業は増加の一途にあります。次回のVer.4.0では、1枚の図にまとめるのは難しいかもしれません。この図を見てみると、右側を占める開発環境やインフラ基盤を指す“テクノロジスタック”は別として、左側は既存産業で活躍する企業が多くを占めています。

 ここから分かるのは、「人工知能業界」というような特定の業種があるわけではなく、関連する手法を用いて、既存産業で変革が起きているということです。人工知能というのは、それ単体で何らかのビジネスが成立するというより、顧客に高い付加価値を提供するための手法の1つだと考えるべきでしょう。

 そのため、「人工知能は自動化の道具」という言葉は誤解を招く表現だと言えます。自動化というのは、顧客に与える付加価値の1つに過ぎません。本質的には「人工知能は高い付加価値を提供するための道具」なのです。

 私も、人工知能とマーケティングを交差させた研究開発に従事していますが、自動化よりも、人工知能を使った今までにない付加価値を生み出すように心掛けています。今は「スペシャリストの7掛け、プレイヤーの中央値以上」をたたき出すAIマーケターを目指して開発を続けています。

●人工知能で、産業構造や就業構造が劇的に変わる可能性

 介在する度合いは異なると思いますが、人工知能は“あらゆる産業に導入できる”と言っても過言ではありません。人工知能に任せる割合が高ければ、「仕事を奪われてしまう」というわけです。

 読者の皆さんが勤めている業種も例外ではないでしょう。連載の第2回で「人工知能は人間の新たな道具」だと紹介しましたが、この道具を、なるべく早く使いこなせるよう挑戦した方が良いと思います。

 日本政府では、IoTやビッグデータ、人工知能、ロボットの登場を第4次産業革命と題して、「これまで実現不可能と思われていた社会の実現が可能になり、産業構造や就業構造が劇的に変わる可能性がある」と警鐘を鳴らしています。

 2017年5月30日に経産省が発表した「新産業構造ビジョン」は、第4次産業革命を見据えた、産業界の羅針盤として注目を集めました。中でも、世界規模で発生している第4次産業革命に対応できなかった場合のシミュレーション結果は衝撃的なものでした。

 そこでは、人の仕事を「人工知能を作る仕事」「人工知能と共労する仕事(低代替確率仕事)」「人工知能に代替される仕事(高代替確率仕事)」の3つに分類した上で、次のような将来像を描いています。

・日本が人工知能のグローバル市場になれなければ、人工知能を作る頭脳が海外に流出してしまう

・人工知能を作れない日本は、仕事の人工知能化をアウトソースに依存し、新たな仕事を作れなくなる

・雇用が先細り、人工知能で済む仕事を人間が代わりに行う(人工知能の値段の方が高い)

 人工知能によって生産性が向上した場合、需要が一定だと仮定すると、供給側の労働者数が減らざるをえません。すると、生活に余裕を持つ世帯数が減り、需要が減少し始めます。あとは“負のスパイラル”です。

 そんな事態を防ぐため、新たな需要を創造し、仕事をつくる「変革」に挑むべきだ、それこそがまさに第4次産業革命に関連する仕事である――と新産業構造ビジョンでは強く訴えています。その変革に挑む場合と、今のまま何もしない場合、どのような雇用の変化が起こるのかについて、2030年時点の雇用者数の試算結果がまとめられています。

 人工知能を積極的に取り入れない未来シナリオでは、高代替確率のサービスが、「逆に雇用の受け皿として増加する」というのは生々しい結果です。人工知能が仕事を奪った後、自分の手元にはどんなスキルが残っていて、社会のニーズとしてどんな仕事が残っているのか、それを考えたときに「AIが自動化して、早く楽にしてくれないかなぁ」だけで済むのかは疑問が残ります。

 人工知能が普及する時代を迎えるにあたって、私たちは何の努力もいらないのでしょうか。読者の皆さんは、どう思いますか?

●人工知能時代に私たちは「学び続ける姿勢」を保てるか?

 2017年のダボス会議(世界経済フォーラム)で、インフォシスのビシャル・シッカCEOが「AI全盛の時代における人間の競争力は創造性になる」と発言して話題を集めました。第2回で紹介したマイケル・A・オズボーン博士の「THE FUTURE OF EMPLOYMENT」という論文でも、人工知能の時代では「creativity」が重要だと述べています。

 しかし、そんな簡単に人間は「創造(Create)」ができるのでしょうか。

 新しいものを生み出すためには、古典(歴史)を理解した上で、流行を追い続けながら、何をまだ創れていないかを考える必要があると思います。中でも「流行を追い続ける」のが難しい。なぜなら、私たちが学んだ内容は陳腐化していくからです。しかも、そのスピードはITの発展に伴って劇的に早くなっています。物事を創造するために、われわれは常に学び続けなければならないのでしょう。

 人工知能を「付加価値を高めて私たちの労働生産性を向上するための道具」だと考えてみましょう。200万年前の石器、50万年前の火、2000年前の紙、550年前の印刷機、60年前のコンピュータ、25年前のインターネット……。人工知能もこれらに連なる歴史の1つだと考えれば、本当に重要なのは、そうした道具が登場したときに使いこなせるよう、何歳になっても学び続けることができる姿勢だと思います。

 人工知能時代に人間に必要なのは、“deep learning”ではなく“keep learning”なのかもしません。道具が進化するにつれて、習得にかかる時間は増える一方です。昔学んだ内容が役に立つとも限りません。現代経営学の発明者と呼ばれる、ピーター・F・ドラッカーも次のように述べています。

 特に知識社会においては、継続学習の方法を身につけておかなければならない。内容そのものよりも継続学習の能力や意欲のほうが大切である。ポスト資本主義社会では、継続学習が欠かせない。学習の習慣が不可欠である。(ポスト資本主義社会 P.255)

 恐らく、彼が言いたいのは「創造性の発揮ではなく、創造性を発揮できるための努力をしよう」ということなのでしょう。データによって、そして人工知能によって、知識が次々と陳腐化(一般化)していく今、もはや「大学を卒業すれば“勉強”は終わり」という時代ではないのです。

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