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今だから発見できる、デヴィッド・ボウイの狂気 サエキけんぞうの『ジギー・スターダスト』評

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/01/14 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 空前のヒット博覧会「DAVID BOWIE is」が開会される中、デヴィッド・ボウイのライブ映画の決定版『ジギー・スターダスト』(1973、英)が公開されることになった。この映画は、84年に日本初公開。今回の公開は18年ぶりで、大きな進化を遂げている。音源がリマスターされ迫力のあるサウンドになっている。注目は“訳”だ。ゴダールの『勝手にしやがれ!』『気狂いピエロ』の最新訳でも評判を呼んでいる寺尾次郎(元シュガーベイブのベーシストとしても有名)が担当。ライブでのインパクトがそのまま脳に飛び込んでくる詞となっている。 参考:サエキけんぞうの『ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEKーThe Touring Years』評:映画の主役は4人ではなく、全世界のファン  例えば1曲目「君の意志のままに」(hang on to yourself)はCDの訳詞では  嵐みたいに早口で

 輝く機械に祈りを捧げ

 彼女は今夜のショウにやってくる

 金目当てじゃなく、

 俺の恋人になりたいのさ

 彼女はいかした腿の収集家

 電気仕掛けの夢の持ち主さ

 と訳されていた。それが今回は  おしゃべり女が

 今夜ショーに来る

 軽機関銃なみの速さ

 俺の蜜(ハニー)を欲しがる

 下半身のコレクター

 電気じかけの夢を見る

 と訳されている。目で追いやすいスピード感があり、意味もしっかり追えているのでトリップ感倍増なのである。  デヴィッド・ボウイは、1967年デビューだが1969年の『スペース・オディティ』が仕切り直しの実質デビュー。先行したTレックスが1971年にグラムロックとしてブレイクしたのを追って『ハンキー・ドリー』で71年末全英ブレイクを果たし、1972年『ジギー・スターダスト』で地位を確立、相棒のギター、ミック・ロンソンを含むザ・スパイダーズ・フロム・マースを従え、世界を股に掛けた1年半もの長いツアーを組んだ。そのアメリカツアーの最中に『パニック・イン・デトロイト』のようなアメリカの情景も多く含んだ『アラジン・セイン』を録音。アメリカのチャートに食い込む。  この映画は、そのツアーの最終日、1973年7月3日、ロンドンのハマースミス・オデオンで行われたライブを収めたもの。会場はロンドン最大級の古参の会場で、キャパは3500人ほどが超満員のプラチナ・チケットとなった。  ビジュアルに贅を尽くし続けたボウイのライブは、映像作品が十分に残されていない。ビジュアルが魅力であるグラム期のこの映画が如何に貴重な映像かお分かりだろう。  ボウイは、この映画のラスト「ロックンロールの自殺者」を歌う前に突如として、このライブがバンド「ザ・スパイダーズ・フロム・マーズ」最後のライブと告げてしまう。この最終公演を最後に、ボウイはこの架空のロックスター「ジギー・スターダスト」を永遠に葬ったのだ。この映画がドキュメントとして如何に重要かわかるだろう。  そんなことがあるか?と思われるかもしれないが、バンドの解散がメンバーにも関係者にも知らされていなかったことは事実。特に相棒だったギター、ミック・ロンソンのショックはいかばかりだったろう、と気の毒になる。当時、ボウイの衣装を担当していた高橋靖子さんによれば、ボウイとロンソンは「子犬がコロコロとジャレ合うように仲良く、曲作りに励んでいた」という。日本でも当時ボウイの人気はバンドと共に沸騰していたが、誰しもがミック・ロンソンをボウイにとってのキース・リチャーズだと思っていたのである。  栄光のスーパー・バンドの想定外の崩壊さえも収めたドキュメント、それは同時にグラム・ロックの突然死を意味していた。  グラムロックがまさに爛熟、絶頂を迎えていた1973年7月、ライバルTレックスの主演フィルム『ボーン・トゥ・ブギー』を撮ったリンゴ・スターも顔を見せる。ローリングストーンズ「悲しみのアンジー」に歌われた当時のボウイの奥さん、アンジーの姿が微笑ましく楽屋で見られるのも貴重である。  監督は、ボブ・ディランの最初のクリップを撮り、かつ歴史的なドキュメント『ドント・ルック・バック』を撮ったD・A・ペネベーカーだ。ディランを尊敬するボウイにとって、嬉しい人選だろう。しかし、この映画、実は生まれるべくして生まれたのではなかった。ペネベーカーは、レコード会社から「数曲の映像をおさえてくれ」と派遣されたに過ぎなかったのだ。ところがペネベイカーは、前日2日のライブを見て、ボウイのカリスマ性に大きく心を打たれ、急遽3日の全ショウを撮影することに変更すると決意した。ボウイの最後のジギー・スターダスト姿のライブ全編が記録されたのは、ペネベーカーの奇跡的な決意のたまものだったのだ。  ご覧になればわかるが、問題は山積みだった。照明が暗いのは、映画撮影用準備でなかったからだ。しかし、それだけに浮かび上がるボウイの霊気が凄い。今となっては鬼気迫るように見えるのは僕だけだろうか? この映画はまるで暗黒の宇宙に旅立とうとする宇宙人の姿を捉えたようである。コークの影響もあっただろうガリガリの身体が白熱したロックサウンドで絶唱する。浮かされたようなボウイの瞳は本当にアブナい。黄泉の国を行き来しているようだ。それに合わせ、陶酔した女性達の表情も凄い。何か、魔物に魅入られたようである。その観客席は、稲光に映されたような断続的な光で浮かび上がる。それは、圧倒的に照明が足らず、困ったペネベイカーが、客の姿を映すために、カメラマンに客席のフラッシュ撮影を奨励した結果だというのだ。ボッボッと赤く現れる客席は、霊界へとボウイにさらわれかけている。  ボウイが山本寛斎の衣装を使用し何度も変幻する。その楽屋シーンが映し出される。信じられないほど痩せこけた生々しい若きボウイの裸体が見られることもこの映画の貴重な魅力だ。爬虫類を通りこし、まるで昆虫の裸体のようでもある。まさにエイリアンだが、衣装の変化を遂げてまたステージへ戻るのも面白い演出だ。この楽屋シーンの挿入は「ライブの流れが損なわれる」と批評家がケナしたポイントなのだが、変身というボウイの生涯のテーマが具現されているわけで、ファンにとってはたまらない展開といえるのだ。  ボウイの脱皮直前期を捉えたこの映画の白眉曲は、9曲目の「チェンジズ」だろう。「変わらなくちゃ」と歌う。まさにボウイは、ジギーを捨てる決意をそこに重ね合わせていたわけだ。本物のドキュメント・ソングである。  なぜボウイはジギーを終わりにしなければならなかったのだろう? それはズバリ、アメリカで飛躍したかったからだ。次作『ダイヤモンドの犬』はアメリカをターゲットとした整理されたサウンドに塗り変わる。そして次次作『ヤング・アメリカンズ』ではシングル『フェイム』で見事にアメリカNo.1に輝くことなるのだ。  ここでミック・ロンソンを放てきし、次作『ダイヤモンドの犬』で、生涯の付き合いのプロデューサーとなるトニー・ヴィスコンティを呼び戻す。2016年遺作『ブラックスター』を送り出したトニーにより、この映画は2003年、音響が見違えるクリアーさで蘇った。映像も良くなっており、闇の中で妖しくゆれるボウイの本物の「狂気」は、新しいファンを生むだろう。古いファンはもっと深くボウイの虜になるだろう。ボウイは最後「サフラゲット・シティ」で歌う。「俺を頼るな!チケット買えなかったんだろ?」。チケットを買えなかった、生きたボウイに出会えなかった人も、むしろ今だから発見できることが沢山ある。新しいチケットにも福がたっぷり詰まっているのだ。(サエキけんぞう)

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