古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

今週末見るべき映画「手紙は憶えている」

エキサイトイズム のロゴ エキサイトイズム 2016/10/26

 もう13年ほど前になるだろうか、アトム・エゴヤンの脚本、監督になる「アララトの聖母」という映画があった。アルメニア人の映画監督が、1915年、アララト山で起きたトルコによるアルメニア人虐殺をめぐる映画を撮っているという設定で、ここに、やはりアルメニア人虐殺に関わる二つのストーリーが絡むという、複雑な構造を持つ映画であった。アトム・エゴヤン監督の両親は、アルメニアから亡命している。いつか、ナチス・ドイツや、ヒトラー、ユダヤ人の虐殺といったテーマを、映画に撮るだろうと思っていた。実現した。ドイツとカナダの合作になる「手紙は憶えている」(アスミック・エース配給)だ。

 70年前、ナチスの手で家族が殺された、ユダヤ人のゼヴは、つい最近、妻のルースが死んだことも定かでないほど、物忘れがひどくなっている。ゼヴは、施設の仲間マックスから、一通の手紙を受け取る。「ルースが亡くなったあとに約束したことを覚えているか。忘れても大丈夫なように、すべてを手紙に書いた。約束を果たしてほしい」。マックスは、すでに歩行困難である。

© Provided by Excite.ism

 ゼヴとマックスは、アウシュヴィッツの収容所からの生き残りである。マックスの手紙によると、家族を殺したナチスの兵士ルディ・コランダーという人物が、まだ生きているという。しかも、ルディ・コランダーを名乗る人物が4人もいる。ゼヴは、マックスがつきとめたルディ・コランダーを探しだし、復讐を遂げるべく、銃を隠しもって、旅に出る。

 巧みな設定だろう。認知症の兆候のある90歳の老人が、ナチスの兵士を探そうと、復讐の旅に出る。ヒトラー、ナチス、ユダヤ人収容所などに関する映画の多くは、なんらかの史実に基づいた場合が多いが、これはオリジナル・シナリオである。書いたのは、ベンジャミン・オーガストという、1979年生まれの、まだ若い人で、これが脚本家デビューらしい。ドラマの結構、運びの巧さもさることながら、結末には、ミステリーの女王、アガサ・クリスティも真っ青になるほどの仕掛けが用意されている。

© Provided by Excite.ism

 おぼつかない動作で、はらはらさせながらも、最後まで観客を牽引するゼヴ役のクリストファー・プラマーの演技が圧巻。いま86歳。マックスに扮したマーティン・ランドーは、いま88歳。4人もいるルディ・コランダーのひとりにブルーノ・ガンツ。いま75歳。三者それぞれ、才能、経験、貫禄のなせるわざ。注目に値する。

© Provided by Excite.ism

 ヒトラーが愛したワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」から、第3幕の「愛と死」が、本作の重要なシーンで流される。絶妙のセレクトだろう。

 いまなお、気骨ある映画作家たちは、ヒトラー、ナチスドイツ関連の映画を撮り続けている。史観の違いとはいえ、映画は、無限の可能性を秘めたメディアと思う。このところ、優れた日本の映画もなくはないが、歴史を鑑にした秀作はほぼ皆無。監督のアトム・エゴヤンは言う。「その時代特有のトラウマが世代を越えて、どのように屈折していくか。そこに一番興味がある」と。気骨ある映画作家と思う。

© Provided by Excite.ism

●Story

 ニューヨーク郊外の施設にいるゼヴ・グットマン(クリストファー・プラマー)は、やがて90歳になろうとしているユダヤ人だ。朝、目が覚めると、「ルース、どこにいる」と、妻の姿を探す。妻は、一週間まえに亡くなっている。妻が亡くなったことを、ゼヴは覚えていない。明らかに認知症の兆候である。妻の葬儀の夜、ゼヴは、同じ施設にいるマックス・ザッカー(マーティン・ランドー)から、一通の手紙を受け取る。「ルースが亡くなったときに、君が誓ったことを覚えているか。君がするべきことはすべて、この手紙に書いてある」。

 ゼヴとマックスは、おなじユダヤ人として、かつてアウシュビッツ収容所にいて、ナチスのある兵士に家族が殺されたなか、アメリカで生き延びている。手紙には、ゼヴの妻が死んだこと、ゼヴがすでに認知症になっていること、ナチスのある兵士は、名前をルディ・コランダーと名乗り、まだ生きていることが記されている。顔をかすかに覚えているゼヴとマックスは、その復讐を約束した仲である。あいにくマックスは、足が不自由で歩けない。ゼヴは、マックスから詳細を記した手紙と銃を受け取り、ルディ・コランダーへの復讐を果たす旅に出る。

 手紙には、4名のルディ・コランダーが存在する。最初、ゼヴはオハイオ州クリーブランドに向かう。別人だと分かる。次いでゼヴは、国境を越え、カナダに入る。2人目の男は、ナチスの兵士ではなく、アウシュヴィッツに収容されていたことが分かる。3人目の男は、ほぼアメリカを横断、アイダホ州にいる。

 ゼヴは、なかば記憶が薄れ、しょっちゅう、マックスの手紙をチェックする。いまなお、目覚めるたびに妻の名を呼ぶ。よたよたしながらも、ゼヴは、アイダホに向かう。

 はたして、ゼヴは、ルディ・コランダーを探し当てて、復讐できるのだろうか。衝撃の真実が待ちかまえていることを、ゼヴはまだ知らない。(文・二井康雄)

<作品情報>

『手紙は憶えている』

(C)2014, Remember Productions Inc. 

2016年10月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

公式サイト

© Provided by Excite.ism

エキサイトイズムの関連リンク

エキサイトイズム
エキサイトイズム
image beaconimage beaconimage beacon