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健闘? それとも期待外れ? 初登場4位『沈黙ーサイレンスー』の興行を考察

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/01/26 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

『君の名は。』が公開22週目にして9週間ぶりに1位返り咲きという、もう呆れるしかないニュースについては、既にいろんなところで報じられているので深追いはするまい。これでアカデミー長編アニメ映画賞にでもノミネートされていたら(十分に可能性はあった)さらにとんでもないことになっていたはずだが、惜しくもノミネート漏れ。1月22日までの累計興収は235億6000万円。このままでいくと、歴代興収3位の「アナと雪の女王」の254億8000円を超えるまで劇場公開が続くかもしれない。  動員ランキングの順位だけが一人歩きしがちな興行関連の記事にあって、本稿で重要視しているのは興行の半分以上を決定づける各作品のスクリーン数と、その週の興行全体の数字。その視点でいくと、『君の名は。』の通算13回目の1位という記録は確かに偉業ではあるが、先週末2日間の興収1億7400万円という数字は正月作品の余勢がまだ残っている例年ならば到底1位にはなれないような低い数字。1月24日、日本映画製作者連盟が2016年の映画概況を発表し、昨年の映画界の総興行収入が2000年以降で最高額となる2,355億800万円(前年比8.5%増)であることが判明したが、まだ年が明けてから数週間とはいえ、早くも2017年の数字が少々心配になってくる。  さて、そんな中で今週注目したいのは初登場4位の『沈黙ーサイレンスー』。こちらも先日のアカデミー賞のノミネート発表では不当に思えるほど冷遇されてしまった遠藤周作原作、マーティン・スコセッシ監督の作品だが(ノミネートされたのは撮影賞のロドリゴ・プリエトのみ)、土日2日間で動員10万4600人、興収1億3300万円という初動の数字を上々とするか、物足りないとするかはなかなか判断基準の難しい問題だ。  まず、過去のスコセッシ監督作品と比べると、3年前の2014年1月に公開された前作『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の初週の週末成績は興収1億6789万4500円と、少々及ばないことになる。ただ、同じスコセッシ監督作品でも『沈黙ーサイレンスー』はエンターテインメント路線の作品ではなく、スコセッシにとってのライフワークとも言える、彼の宗教観や人生観が色濃く反映された作品、『最後の誘惑』(1988年)や『クンドゥン』(1997年)の系譜にある作品。全国342スクリーンで公開されている『沈黙ーサイレンスー』とは公開規模がまったく違うとはいえ、そうした過去の作品の日本での微々たる興行成績と比べると、これだけ深遠なテーマを持つヘヴィな作品としてはかなり健闘しているという見方もできるだろう。  もっとも、日本の洋画業界には「『ラストサムライ』神話」とでも呼ぶべき迷信のようなものがあって、「ハリウッドの大作で日本人役者が活躍している作品ならば、日本でも大ヒットするのではないか?」と大きな期待がかけられることがある(今回の342スクリーンという公開規模も、それを見込んでのものだろう)。もっとも、137億円というとんでもない累計興収を叩き出した『ラストサムライ』はあまりにも異例の作品で、当時大人気だったトム・クルーズの主演作であったことに加え、日本の武士道をリスペクトしすぎるほどリスペクトした、日本人の観客にとっては非常に心地良い作品であった。  その点、同じく日本を舞台にした作品ではあるものの、『沈黙ーサイレンスー』における日本人の描写は、隠れキリシタンを弾圧する側にも、される側にも、安易な感情移入を許さない厳しさがある。スコセッシ自身が語っているように、そこでの暴力描写は一方的に日本の過去を糾弾するようなものではなく、むしろクリスチャンとしての深い自省に基づいているものではあるが、『ラストサムライ』の心地良さとは真逆にある作品と言えるだろう。  そんな作品上の特性もあってか、『沈黙ーサイレンスー』は公開日からスタートダッシュとはいかなかったが、今週の平日に入ってからは、これまでスコセッシ監督作品とは縁がなかった幅広い層の観客を集客して好調に推移しているという。作品内容、及び日本人役者の熱演に対する高評価も確実に口コミで広まりつつあるので、息の長い興行を期待したい。(宇野維正)

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