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初登場1位の『ラ・ラ・ランド』、映画業界の常識をくつがえす大ヒットの意義

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/03/02 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 2月24日に公開された『ラ・ラ・ランド』が、公開から1週間足らずで興収10億に届く勢いで大ヒットを記録中だ。先週末の土日2日間の動員は約29万人、興収は約4億1600万円。初日24日を合わせた3日間成績は、動員40万2709人、興収5億6858万7200円。デイミアン・チャゼル監督の前作『セッション』も口コミ効果でロングヒットを記録し、独立系映画配給会社の作品としては大健闘と言える累計興収5億7000万円を記録したが、今回の『ラ・ラ・ランド』はたった3日間でその記録にほぼ並んだこととなる。ちなみに『セッション』公開時のスクリーン数は16スクリーン(のちに50スクリーン近くまで拡大)、『ラ・ラ・ランド』のスクリーン数は308スクリーン(261館)だから、スクリーン数においても興収においても文字通り「ケタ違い」のスタートダッシュとなったわけだ。  今回の『ラ・ラ・ランド』の大ヒットは、三つの点で映画業界の常識を覆したと言える。ひとつは、独立系映画配給会社の作品として異例の308スクリーン(261館)という規模での公開を実現できたこと。もちろん、その背景にはアカデミー賞最有力候補(結果的に作品賞は逃したものの、監督賞、主演女優賞を含む最多6部門受賞)という作品への前評判の高さもあったわけだが、実は海外で公開されて絶賛の声が届く前から、現在のスクリーン数に近い公開規模が確保されていた。聞くところによると、事前に作品を観た日本の興行関係者の人々の「大きな規模で公開したい」という熱意が大きな追い風となったという。独立系映画配給会社の作品にもかかわらずIMAXの劇場でも公開されていることにも驚かされたが、きっとそれを実現させたのも興行サイドの熱なのだろう。  ふたつめは、「アカデミー賞関連の話題は、日本での興行にはあまりプラスにならない」というここ数年定着しつつあった定説を、真っ向からひっくり返してみせたこと。その定説にはまず、近年のアカデミー賞の主要賞を獲った作品の中には、そもそも大作が少ないという前提があるのだが(近年はアメリカでもアカデミー賞受賞作が必ずしも大ヒットしているわけではない)、それを踏まえても今回の『ラ・ラ・ランド』の大ヒットは日本の他の配給会社にとって大きな刺激になったはずだ。実際、今回アカデミー賞の作品賞にノミネートされた9作品中、アカデミー賞開催前に日本公開された作品は『ラ・ラ・ランド』1作のみ(他のノミネート作品では『最後の追跡』のみNetflixで観られるという状況)。アカデミー賞の3日前という絶好のタイミングで公開された『ラ・ラ・ランド』の大成功を受けて、来年以降、他の配給会社も同じようになるべく早く日本公開にこぎつけるような動きが起これば、映画ファンにとっては朗報となる。  三つめは、日本独自の鋭い判断があったこと。『ラ・ラ・ランド』は確かに世界中で大絶賛を浴びているが、本国アメリカをはじめとする諸外国でのヒットの規模はあくまでも「アート系のミュージカル作品としては十分なヒット」という水準でしかない(ちなみに今年のアカデミー作品賞ノミネート作品の中で最大のヒットとなっているのは、日本公開が未だに決まっていない『Hidden Figures』だ)。日本では興収30億突破もあり得る現在の勢いだが、外国の実写映画で30億を超えた作品は、例えば2016年だと『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』と『オデッセイ』の2作品のみ。単純に海外の興行成績から作品の規模を判断するのではなく、日本の観客との相性の良さを確信して、作品自体の規模以上に大きな規模で公開して、そこで結果を出してみせた『ラ・ラ・ランド』。そこにはもちろんいくつもの運もあったのだろうが、そんな運をも引き寄せた配給サイドと興行サイドのファインプレーに心から賛辞を送りたい。(宇野維正)

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