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動き出したら65分間降りられない世界最長モノレールに乗ってきた

エキサイト Bit のロゴ エキサイト Bit 2016/11/25 スズキナオ

徳島県の西部・三好市には「祖谷(いや)」という地域があり、岐阜県の白川郷、宮崎県の椎葉村と並ぶ“日本三大秘境”と称されている。秘境と呼ばれるだけあって、交通の便が良いとは言い難く、香川方面から小歩危、大歩危を経てうねりまくる山道を1時間ほど走り続けてようやくたどり着くことができた。

勾配がきつい急なカーブが続き、車がすれ違えるほどの道幅がない箇所も多く、私を乗せて行ってくれた友人も非常に運転に疲れていた様子。周囲にそびえる高い山々に張り付くようにして民家が点在しているのを見ると、ここに住もうと思った昔の人に話を聞いてみたくなる。

ちょうど紅葉のシーズンに行ったこともあり、カーブを曲がると色鮮やかな木々と水の流れの透き通った渓谷が目の前に広がり、その美しさに思わず声が出たりして、自然の豊かさと険しさに圧倒された。

65分かけて山を登る世界一のモノレール

今回の目的地は「奥祖谷観光周遊モノレール」。

森の中に敷かれたレールの上を走りながら、斜面を登り、標高1,380mの高みを目指すというもので、そう聞くとただ単にふーんと思うだけかもしれないが、レールの総延長が4,600mあり、さらにそのレールの高低差が最大で590mもある。最大傾斜度は40度にもなり、それだけ急な山を登っていくためにスピードは非常にゆっくりのんびり。スタート地点からゴールまで65分間もかかるという。65分! 池袋から西武線に乗ったら飯能に着いてしまうぐらいの時間だ。

ちなみに観光用のモノレールとしては、“全長4,600m、高低差590m、最大傾斜度40度、最頂標高1,380m”のすべてが世界一の数字なんだという。今回はその世界一のモノレールに乗りに来たのである。

モノレールは「いやしの温泉郷 ホテルかわせみ」という温泉施設に隣接していて、その駐車場から駅舎まで歩いていく。

© Excite Bit 提供

65分という長い乗車時間ゆえ、事前にトイレを済ませておくよう看板でも注意が促されている。駅舎が見えてきた。

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乗車料金は一般(中学生以上)で2,000円となっている。割高感はあるが、なんせ世界一だし……。山頂の気温は駅舎より6度も低くなるということで、受付ではカイロや雨具が売られている。

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乗車券を買う際、「モノレールがやむを得ない事情で止まることがあること。その場合、止まった場所や原因などによっては再運転までに2~3時間かかることもあること」を事前に知らされる。特に秋は落ち葉がレールと車両との間に溜まってしまい、マメにメンテナンスをしないと車両が動かなくなってしまうことも多いのだという。

車両はこんな感じの、前後二人乗りのカラフルなカブトムシ型。

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この形の車両が現在12台あり、そのうち5台はメンテナンス中で取材当日は計7台が稼働中となっていた。稼働台数によるが、運転間隔は5~7分程度だという。スタッフの方によれば、車両ごとに個性があり、メンテナンスにコツにはいるのだとか。

私と友人が乗る2台前の車両に、三人組のお客さんが並んでいたのだが、スタッフの方が「二人乗りなんで、お二人とお一人に分かれていただきます。一人は辛いですよ。65分、孤独との戦いですから」と言っていて笑ってしまった。

響く走行音 不思議な感覚の森林浴

さあ、我々もその65分間の旅にいざ出発!

の、前に、なんせ受付での説明にもあったように様々な事情により車両が停止してしまうことがあるため、スタッフの方から、前方の車両が止まっているのが見えたら前方のカバーを外して緊急停止ボタンを押すこと、

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緊急の場合は車両備え付けのトランシーバーで駅舎に連絡を取ること、

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等々の簡単な指導を受ける。シートベルトも着用しなければならないし、なんだか徐々に緊張してきた……。

では改めて出発!

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間もなくモノレールは杉木立の急斜面を登り始める。このモノレール、予想以上にハイテクで、斜面にあわせてシートの角度が自動的に変化する。最大傾斜の40度の斜面でも、水平を保った状態で乗っていられるようになっているのだ。

見渡す限りの杉木立。

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時たま現れる黄色に染まった木々が目に鮮やか。

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とにかく、少しも苦労せずに延々と森林浴し続けられる便利な乗り物だ。シンと静かな中をガタガタと走行音だけが響いている。ちなみに私はそんな中、仕事関連のメールが来て急いで返信をせねばならず、こんな状況で打つ業務メールほど滑稽なものもないと思った。

それにしても急な坂を上っていく。カタルシスのないジェットコースターのような不思議な感覚。

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「あ! シカですよ!」と友人が言う方向を見ると、ホントだ鹿がいた!

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運が良いと鹿が見られると聞いていたので、その幸運に二人で喜ぶ。そしてまた、静かに木々を眺める……。30分ほど走ったところで、「100m先、最高地点です」の看板が。標高1,380m地点から「剣山」や「塔ノ丸」、「次郎笈」といった山々が見晴らせるという。

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その瞬間を待ち望む……。お!

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来たー!

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のか? あいにく雲が分厚く、剣山の頂上は霞んでしまっていたが、確かに眺望が開き、数分の間、遠い山が見晴らせた。そして、残りは下りである。

ところどころに、「ブナ」、「ミズナラ」、「ツガ」、「ヤマボウシ」といった樹名を紹介する立札があり、それをぼーっと眺めながら「なるほど……あれがヤマボウシ」と心の中でつぶやくような穏やかな時間。友人と二人ではあるが、それぞれ自分の心の中の世界に入り、色々と思いを巡らせているような感じで過ごした。

とにかくずっとこういった風景。

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駅舎に戻るまでのラスト5分ほどを友人が動画に収めてくれた。ショパンの前奏曲 作品28-15「雨だれ」とともにご覧いただきたい。このモノレールの雰囲気がなんとなく伝わると思う。

ゴールデンウィークは売り切れになるほどの人気ぶり

いやー素晴らしかった。こんなに穏やかな気持ちになる乗り物もそう無いのではないか。心が波立って困っているような人にはぜひ乗って欲しい。降車スペースで待っていたスタッフのおじさんに「なんといっても春と夏が素晴らしいから、今度は彼女と来るんだよー」と言われた。一緒に写真を撮っていただく。

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我々が1時間余り乗ってきたカブトムシモノレール。別れが寂しい。

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スタッフの方にお話を伺うと、奥祖谷の観光振興を目的としてこのモノレールが作られたのは10年前の2006年のことだという。毎年ゴールデンウイークは大変な混雑ぶりで、昼の11時までにその日のすべてのキップが売り切れてしまうほどだという。

なんでこんなに長い距離のモノレールになったんですか?と聞くと「そりゃあ、峰々の美しさを見るためじゃけ!」と笑われた。「剣山を見るために、あの斜面を登るわけです。足で登るよりはだいぶ早い」とのこと。

レールの距離も長いため、メンテナンスはとにかく大変で手間がかかっているそう。駅舎では各車両がどこを通過したかを常に管理し、要所要所にはモニタを設置して監視して安全な運行に務めているというが、それでも「止まる時は止まります」とのこと。実際に乗ってみると、あれを管理するのは本当に大変だろうな、と実感できた。このスタッフの皆さんが日々手入れをしてくれていると思うと頭が下がるし、2,000円の乗車料金も高くないと思える。

「鹿がいましたよ!」と言う私に「ああ、そうか。しかと見たか!」とギャグを飛ばしてくれる気さくなスタッフの方であった。

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でも実際、鹿はモノレールにとってはイタズラばかりする困った存在らしく、「みんな鹿が可愛いって言うけど、どこがだかわからないよ」とおっしゃっていて面白かった。

木々の中をのんびり走り、心が穏やかになり、そして気づけば無になるという貴重な体験をさせてくれる「奥祖谷観光周遊モノレール」。ぜひ乗ってみて欲しい。天候によって運行状況が変わるので、行かれる際は事前のお電話を。ただ、予約は不可となっており、繁忙期はかなり早めに来た方が良さそう。

ちなみに年内の運行は11月いっぱいとなっており、再開は来年の4月からなのでご注意を!

(スズキナオ)

「奥祖谷観光周遊モノレール」

住所:徳島県三好市東祖谷菅生28

電話:090-7781-5828

乗車料金:一般(中学生以上)2,000円

小学生1,000円 小学生未満無料

受付時間:4月~9月 AM8:30~PM4:00

10月~11月 AM8:30~PM3:30

定休日:毎週水曜日(祝日の場合は運行) そのほか定期点検や異常気象による臨時休業あり

12月~翌年3月冬季休業

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