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名優デ・ニーロ、73歳にしてキャリアぶち壊す!? 『ダーティ・グランパ』“お下劣”演技の衝撃

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/01/10 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 今年のNHK・BSプレミアムの年越しラインナップは実に圧巻だった。大晦日の夕方から『ホビット』3部作を一挙放送したかと思うと、新年明けた瞬間の午前0時からは『ゴッドファーザー』3部作がスタート。とりわけ周囲の喧騒がようやく落ち着き出す深夜3時台には『PART II』で若かりし頃のロバート・デ・ニーロの名演を十分に堪能することができた。  撮影当時、彼は30歳。コッポラ監督が彼を“若き日のドン・コルレオーネ”役に大抜擢するや、デ・ニーロは自ら進んでテープレコーダーを抱えてシチリアへと渡り、その風土を血肉化し、地元の人々が話し笑う表情をその目に焼き付け、吹き込んだ方言を何度も聴き返しながら完璧なイントネーションを習得。さらに『PART I』のマーロン・ブランドの演技を何度も再生して分析し、単なるモノマネにならない創造的なレベルにおいて整合性をもたらすことに死力を尽くした。  本作におけるデ・ニーロの役へのこだわり、そして『レイジング・ブル』のストイックな体作りをはじめ、『タクシードライバー』では実際にタクシー運転手として街を流して経験を積んだり、さらには『アンタッチャブル』では自毛を抜いてハゲ頭を獲得するなど、彼が役を掴み取るまでに踏む過酷なまでの手順は“デ・ニーロ・アプローチ”として世に知られている。  そんな彼も今や73歳。年齢から考えて映画のメインを張る主演から助演クラスへの移行を考えても不思議ではないのに、未だに第一線で様々な自分の魅せ方を模索し続けている点は凄いと言うほかない。最近では『リベンジ・マッチ』で老体に鞭打ってトレーニングに励んでボクサーとしての身体を作り、スタローンとガチンコ対決するなどのアプローチで健在ぶりをアピールしてみせた。そう、彼の演技は、いくつになっても観客の心を震わせ、熱く魅了するもの。私はそう強く確信していた。  しかし、である。人生のこの段階において、デ・ニーロのとんでもない、スペシャルQの演技が飛び出すとは。その発火元が6日より公開となった『ダーティ・グランパ』。まさか『ゴッドファーザーPART II』の深い感動から一週間も経たないうちに、その輝かしいキャリアをたった一作でこっぱみじんにしてしまう、これほど破壊力満点の作品に出会うとは思ってもみなかった。 ■デ・ニーロ一世一代の、とんでもない等身大のジジイ像  主人公ジェイソン(ザック・エフロン)は祖母の訃報を受けて、一週間後に迫った結婚式の準備そっちのけで葬儀に駆けつける。伴侶を喪い、ひとり遺された祖父ディック(デ・ニーロ)は、孫のジェイソンに「俺の傷心旅行に付き合ってくれ」とお願いごと。しぶしぶ了解して出かける彼らだったが、実はジイさんの“傷心”なんてただの嘘っぱちで、本当は40年ぶりの独身生活に戻った今、「若いお姉ちゃんとベッドを共にしたい!」というスケベ心をみなぎらせているだけだった。かくしてフロリダのビーチへ向けて祖父と孫は、無軌道で狂騒的な珍道中を続けていくのだがーー。  もともと、ジョン・M・フィリップスが脚本を執筆した『ダーティ・グランパ』の脚本はハリウッドの業界内で高く評価され、未製作の優秀脚本をリスト化した“ブラックリスト”入りも果たしたほどだった。なるほど、Fワード連発で、かなり際どいラインまで攻撃性が満ち満ちているものの、最後にはきちんとジジイと孫の絆へと帰着していく普遍的な巧さもある。ちなみにフィリップスは、デ・ニーロ本人から「こんな卑猥な脚本に仕上げるなんて大した才能だよ」と賞賛されたのだとか。  一方、監督を務めるダン・メイザーは、英国のケンブリッジ大学で学び、卒業後はサシャ・バロン・コーエンとのTVシリーズや映画でもプロデューサーや脚本家としてキャリアを積んできた。つまり秀才ながら危なっかしさを秘めた一番厄介なタイプというべきか。  これらの才能が出会って作り上げたレーティング「R15+」の問題作ゆえに、『ダーティ・グランパ』はタイトル・ロールを演じるデ・ニーロにとっても、いざ現場に入ってしまえば最後、引き返すことのできない体当たり作となった。  今回の彼は本当に凄い。怖いもの知らずというか、本当にキャリアで最もお下劣なスケベ野郎で、なりふり構わず女性の尻を追いかけ回す。そして前半シーンでは下半身素っ裸になって自慰にふけり、それを孫に見られるという史上サイテーのシーンすら刻まれている(観客としてさすがにショックで、正直なところ、未だに立ち直れていない)。でもきっと彼のことだ。このシーン、この役柄を演じる上でも、とてつもなくストイックな“デ・ニーロ・アプローチ”が培われたことだろう(そう信じたいものだ)。それでいて筋骨隆々な身体は『リベンジ・マッチ』の頃と同様に維持されており、ザック・エフロンと並んで、ジジイと孫とのマッチョな、そして息のあった隔世遺伝ぶりを惜しげもなく見せつけたりもする。  笑う観客もいるだろうし、怒り出す観客もいるだろう。実はデ・ニーロがキャスティングされる前、ジェフ・ブリッジスやマイケル・ダグラスなども候補に挙がっていたというが、彼らではこの“ダーティなグランパ”役をここまで高めることは無理だっただろうし、出演したところで再起不能の大火傷を負うところだった。そして思う。デ・ニーロはこれまで積み上げてきたものを全てぶち壊す、いわばキャリアの総仕上げ段階に突入しているのではないか、と。まさしく、ビルド・アンド・デストロイ。あるいは、その演技を常にありがたがって享受する映画人および観客に対して「これでもか!」とサディスティックな鞭をくれている状態とも言えようか。  いずれにしても73歳になって一向に守りに入らない姿勢、常に自らを不安定な位置に追いやる姿勢は真の探求者と呼ぶにふさわしい。その反面、「映画を通じてデ・ニーロから多くのものを学びたい」と語っていたザック・エフロンにとって、果たして良いお手本となったかどうか。悪い影響が出ないかどうか、いささか不安でもあるのだが。(牛津厚信)

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