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姫乃たまが背負う“地下アイドル”の肩書きは伊達じゃないーー3rdワンマンで見せたアングラ的感性

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/02/17 株式会社サイゾー
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 地下アイドル【ちかーあいどる】ゼロ年代後半に発生した、特異なアイドル文化/現象  上記は、姫乃たまによる初の単著『潜行〜地下アイドルの人に言えない生活』の冒頭に記された、自身による地下アイドルの定義だ。この定義の中にある“特異な”部分を、姫乃たまは2月7日に行われた3rdワンマンライブ『アイドルになりたい』のパフォーマンスで、実にユニークに表現してみせた。地下アイドルという言葉に潜む、どこかネガティブな印象を、その自主性、音楽性、カルチャー性、ファンとの双方向性によって払拭し、見事に人々の心を踊らせる新たな表現者像として確立したといっても過言ではないだろう。その活動スタンスを表すには、表現の質も含めて、単に“サブカル系アイドル”と一括りにするだけでは不十分である。むしろ寺山修司の時代から続いていた“地下=アンダーグラウンド”文化の文脈で捉える方がより近しいイメージだ。彼女が背負う“地下アイドル”の肩書きは伊達じゃない。 (参考:姫乃たま&ベルハー宇佐美萌が語る地下アイドルの裏側 「嫌いになる前に辞めなきゃと思った」)  渋谷WWWの階段を降りると、会場はすでに多くの人々で賑わっていた。一個人が自主的な表現活動によって、渋谷WWWを満員にすることなど、そうあることではない。年齢層は若者から大人まで、とても幅広く、女性ファンも多い。誰もが幸せそうな表情で、この日を待ちわびてきたことが伝わり、それだけで彼女が様々なフィールドで信頼を勝ち得てきたことがわかる。物販商品のバリエーションの豊かさも、その証だ。CD、DVD、写真集、書籍、Tシャツーーすべてに彼女特有の世界観が反映されている。多くのクリエイターが、彼女と共に仕事をすることに喜びを見出し、そのイメージを形にしてきたのだ。ライブに限らず幅広いイベントに出演し、さらにはライターとしても多くの連載を持つなど、マルチな活動を続けてきた彼女の集大成が、その地下空間には広がっていた。 「16歳だった私も、今週末(2月12日)には24歳になり、人生の三分の一を、『自分は地下アイドルだ』と言い続けてきたことになります。嘘つきです」  入り口で手渡しされた彼女からのメッセージカードには、そう記されていた。ソロアルバム『First Order』と、僕とジョルジュの新譜リリースを記念して開催された今回のライブだが、そのイベント名が「アイドルになりたい」というのも彼女らしい。友人に誘われるがまま、なんとなくステージに上がって約8年、“地下アイドル”が何なのかよくわからないまま、今日まで活動してきた。だが、わからないことを誰よりも自覚している彼女だからこそ、どこか俯瞰してシーンを見つめ、独自の活動を行うことができたのも確かだろう。実際、彼女のステージや作品群を見ればすぐにわかるが、そこにはアイドルシーンの悲喜こもごもに対する温かな愛情がありながら、かつてのアンダーグラウンドカルチャーに通じる一貫した美意識のようなものも感じられる。姫乃たまにしかできない表現があり、ファンはそれを求め、彼女もまた応えてきたのだ。  中村保夫(和ラダイスガラージ)によるDJが止むと、青くライトアップされたステージに僕とジョルジュの面々が登場する。僕とジョルジュは姫乃たまのセルフプロデュースによるユニットで、サウンドプロデュースをカメラ=万年筆の佐藤優介が、副プロデュースを金子麻友美が担当し、スカートの澤部渡が楽曲提供するほか、山崎春美、佐久間裕太、シマダボーイ、清水瑶志郎といったゲストメンバーが加わる。ポップだが実験的ともいえる不思議な音楽性となった1stアルバム『僕とジョルジュ』は、音楽評論家の宗像明将氏を以ってして「底なし沼のような怪作」と言わしめた。その期待に応えるように、繰り返される奇妙なシンセのアルペジオから徐々にノイジーな演奏となり、一転して1曲目「恋のすゝめ」がスタート。髪を巻き、いつもより少しドレスアップした姫乃たまが登場すると、会場が大きく湧き上がる。“奇妙な”とは書いたが、登場のサウンドこそ尖っていたものの、「恋のすゝめ」は渋谷系の流れを汲んだ口ずさみたくなるようなポップソングで、姫乃たまの飄々としたボーカルの魅力を引き出した一曲だ。小振りな振り付けも相まって、とてもキュートである。厚みのある編成によるバンドサウンドも素晴らしく、音楽マニアも唸らせるライブだ。  その後、「悲しくていいね」「巨大な遊園地」と続き、いわゆる“アイドルソング”の枠にとらわれないユニークな楽曲で、会場を盛り上げていく。そして、4曲目にはスペシャルゲストとして有賀幼子さんが登場。見覚えのない婦人に会場が「?」となっているのも構わず、幼子さんはシンセのアルペジエーターを起動させ、再び会場を奇妙なサウンドで満たす。そして、「恋のジュジュカ」が始まるとそのまま退場。聞けば彼女は、姫乃たまのおばあちゃんで、今回のライブのために出演オファーをしたところ、難交渉の末にようやくステージに上がってくれたのだとか。姫乃たまが、ミュージシャンの父を持つことは知っていたが、まさか祖母を連れてくるとは、誰も予想だにしなかっただろう。さらに、同曲からはロックバンド・TACOなどで活躍してきたアンダーグラウンドシーンの伝説的人物、山崎春美もゲスト参加し、奇声と躁病的なダンスで盛り上げていく。想像を超えてくるのが、僕とジュルジュの最大の魅力である。  僕とジョルジュのパートが終わると、ステージの幕が閉じ、映像が流れ始める。今回のワンマンライブ成功に向けた“ドサ回りツアー”の模様を捉えたドキュメンタリーだ。1日で8箇所のCDショップなどを巡るツアーで、彼女の旧友であるミュージシャン・マーライオンらと珍道中を繰り広げる模様が、おもしろおかしく描かれていた。登場人物の中ではマーライオンが唯一、まともな人物であるかのように扱われていたが、筆者は彼もまた相当に奇矯な人物であることをよく知っている。姫乃たまの周辺人物は、みんなどこか変わっているのだ。  その後、いよいよ姫乃たまのソロステージへ。チャイニーズ感溢れる「来来ラブソング」に合わせ、真っ白な衣装を身につけた姫乃たまが再び登場し、カンフーをモチーフにした楽しげなダンスを披露する。そして次は、彼女の代表曲のひとつ「ねぇ、王子」へ。アルプス一万尺の手遊びをモチーフにした振り付けを、彼女に倣って行うことに、もはや何の躊躇いもない。まるで子どもに戻ったかのような純粋な気持ちで、筆者は静かにその振り付けを楽しんだ。ふんわりと思考停止していくような、心地よい脱力感を覚える。  思えば、姫乃たまと初めて出会ったときも、彼女は「ねぇ、王子」を歌っていた。とあるアイドル関連のトークイベントにて、彼女はその楽曲を披露したのだ。当時の筆者はアイドルカルチャーに疎く、世間でヒットしている楽曲もそれほど熱心に聴いてはいなかったのだが、彼女の危うげで儚い歌声と、手作り感のあるステージングには心を奪われた。独特の間を感じさせる、どこか惚けたトークにも好感を抱いた。読者との心温まる交流を通して、終わりゆくエロ本文化への哀愁を綴ったとあるブログ記事の筆者が、彼女だったとわかったときは、同じくエロ本からキャリアをスタートしたものとして、深いシンパシーさえ感じた。例の振り付けを真似るのは、30代の男性として少し気恥ずかしかったが、彼女への好意がそれに勝った。こういうのは、恥ずかしいほど気持ちの良いものだと、そのとき気付いた。  あれから約2年半、筆者が知るだけでも彼女は、数多くのアイデアを次々と形にしてきた。音楽方面では、僕とジョルジュだけではなく、DJまほうつかいとコラボしたユニット・ひめとまほうとしても作品をリリースし、16年末には今回のライブに繋がるソロアルバム『First Order』をリリースした。書き手としても充実し、15年には先述の『潜行』を刊行した。同書もまた、彼女らしい一冊に仕上がり、携わった編集者のひとりとしてとても嬉しく思う。例のメッセージカードには「私を愛してくれるファンの人、自分のことのように力になってくれる関係者、好奇心を持って会場まで駆けつけてくれる人がいるということ。そういう人達に自分が何をできるのか、はっきりさせたかったのです」と記されていたが、少なくとも筆者は、彼女の書籍がちゃんと形になったこと、こうして晴れ舞台を見せてくれたことで、もう充分に多くを受け取ったと感じている。  なぜか姫乃たまがファンを「たまちゃん」と呼び、ファンがレスポンスをする「たまちゃん!ハ~イ」など、童謡のようでいて少し倒錯した楽曲の世界観は続き、ステージはさらに彼女の色に染まっていく。VJでは似ているのか似ていないのか、よくわからない姫乃たまらしきイラストが、サイケデリックな動きでゆらゆらと揺れていて可笑しい。ソロセット12曲目「人間関係」からは、ゲストとしてソウル・シンガーの藤井洋平が登場し、いよいよカオスの様相だ。それにしても出てくる面子がいちいち面白い。誰ひとりとして「よく居そう」なタイプのアーティストはおらず、みんな強烈な個性を放っている。藤井洋平のパフォーマンスもまた、しゃべり口調からギターの弾き方に至るまで、過剰なほどにソウルフルで忘れがたいものだった。姫乃たまが自身のパフォーマンスを通じて描き出す東京アンダーグラウンドシーンは、極めて濃密である。  楽しい時間が過ぎるのはあっという間で、ノスタルジックなワルツ曲「さよならのワルツ」、そして『First Order』の最後に収録された「くれあいの花」で、本編は幕を閉じた。幸福な余韻が続く中、湧き上がったアンコールに応えて姫乃たまがふたたび登場すると、ステージにはステーキとワインが用意される。困惑しながらも、周囲の人々に言われるがままに姫乃たまが席につくと、これまで彼女と関わった人々が「ねぇ、王子」の振り付けを踊るサプライズ動画が流された。彼女が本当に多くの人々に愛されていることが伝わる動画で、中には「え、あの人も!?」と驚くような方々まで登場していた。涙をぐっと堪えて、みんなへの感謝の気持ちを伝えたのも、姫乃たまらしい。そして、活動初期「*☆姫乃☆*゚」名義の頃にリリースした「三両列車でにゃんだりあ」を、彼女の楽曲の多くを手がけるSTXらによるスペシャルバンド編成で披露。ゴスロリファッションに身を包んでいた頃の、筆者の知らない彼女の姿に、またしても胸が熱くなってしまった。最後にはふたたび「たまちゃん!ハ~イ」をコール&レスポンスし、この日のライブは終了した。  「私の存在は、隙間で生きている人ほど響きます」そう綴る姫乃たまは、これから先、どんな表現を見せてくれるのだろうか。なかなか予想が難しいところだが、少なくともその活動はきっと、“地下アイドル”の定義をさらに豊かで実りあるものへと更新していくに違いない。 (松田広宣)

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