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嵐・櫻井翔主演『君に捧げるエンブレム』Pインタビュー 「車椅子バスケの“かっこよさ”を描いた」

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/01/01 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

フジテレビにとって2017年最初のドラマ『君に捧げるエンブレム』が、1月3日(火)21時〜23時30分に放送される。車椅子バスケで世界を目指す、元Jリーガーの主人公を演じるのは、嵐の櫻井翔。放送まで5年の歳月を費やしたこの注目作の裏側について、企画者でありプロデューサーでもある、フジテレビの増本淳氏に話を聞いた。 参考:嵐メンバー“役作り”の違い 天性の二宮、内面の大野、こだわりの松本、なりきりの相葉、外見の櫻井 ——まずは、企画の成り立ちにから教えてください。 増本淳(以下、増本):車椅子バスケのことを「絵になるスポーツだな」と思っていたんです。世間の人はあまり知らないけれど、知ったらきっと多くの人が「格好いい!」と思う題材という意味で、『コード・ブルー –ドクターヘリ緊急救命-』のドクターヘリに通じるものがある。そこにどんな物語を載せたら多くの人の心を打つ物語になるかを考えていたところ、2011年頃に京谷和幸さんの記事を読みまして、直接お話を聞きに行きました。(京谷和幸……JEFユナイテッドに所属していた1993年に、交通事故で脊髄を損傷して下半身不随となり引退。その後、車椅子バスケットボールと出合い、4大会連続でパラリンピックに日本代表として出場。現在は引退し、若手の育成に力を注いでいる) ——そこから取材が始まるんですね。 増本:はい。京谷さんのインタビューの他にも当時、日本代表のアシスタントコーチ、リオでは日本代表のヘッドコーチを務めた及川晋平さんにも取材させていただいたり、日本代表の合宿を見せていただいたりと、3ヵ月くらい下取材をしました。「これはドラマとして見ごたえのあるものになる」という直感のようなものがあったので、半年間くらい本格的に取材しました。自分のなかで「こんな話がつくれそうだな」と見えた段階で、『コード・ブルー』の西浦正記監督と後に『リッチマン、プアウーマン』を書く脚本家の安達奈緒子さんを日本代表の合宿や九州での大会などにお誘いして引っ張り込みました。 ——そのときはすでに、企画は通っていたんですか? 増本:いいえ、通っていなかったです。「いつ日の目を浴びるのかな」と思いながら、勝手に動いていました。でも、勝負できるのは2020年までだとは思っていました。そこを過ぎると、会社がこの企画を通すきかっけがなくなってしまう。実は、2012年のロンドンオリンピックのタイミングでプレゼンしたのですが、通らなかったので、次のチャンスを狙っていたんです。リオが終わって東京オリンピックに向けての機運が高まるタイミングで、この題材のドラマをつくることが、世の中に少なからずインパクトを与えることができると思い、上層部に2回目のプレゼンをしました。今回は、櫻井翔さんがこのドラマを面白がってくれたことで、会社側からもゴーサインが出ました。 ■「櫻井さんなら、身勝手なキャラクターも素敵に演じられる」 ——櫻井さんを主演に起用した理由はなんですか? 増本:鷹匠和也という主人公は、わがままで、自分勝手で、人をバカにしているところもあって、主人公としてはだいぶ不完全で欠陥があるキャラクターです。それを演じて、見ている人に嫌悪されず、「そんなやんちゃな面も素敵だよね」と思ってもらえる役者は誰だろう? と考えると数人しか思い浮かびませんでした。そのなかで、お芝居がちゃんとできて、一番認知度の高い人が櫻井さん。しかも、ニュース番組でキャスターをやられていて障害者スポーツへの造詣も深い。「櫻井さんがやってくれたら最高だな」と思って、事務所へ伺ってプレゼンをしたら乗ってくれました。 ——櫻井さんはどんな反応でしたか? 増本:彼と話して、「鷹匠って格好いいよね」と思ってくれているなと感じました。1人の男としてこういう人間に憧れるし、役者として演じてみたいという欲求があったのではないかなと。もちろんキャスターとしての立ち位置からこの作品に興味を持った部分もあるとは思いますが、気持ちの上では単純に、「格好いいからやりたかった」のだと思います。 ——映画なら、欠陥がある主人公でもアリですよね。 増本:映画の場合はよっぽどひどい出来じゃない限り、劇場に入ってしまえば最後まで観てもらえますからね。でも、テレビドラマは「この主人公を観ていたい」と思わせ続けないといけない。「ラスト15分で劇的に成長するんですよ」といくら言っても、途中で嫌われたらそこでチャンネルを変えられてしまいます。 ——なぜ主人公を一癖も二癖もあるキャラクターにしたのでしょう? 増本:こういうテレビドラマの場合、普段は突っ張っているけれど人の傷ついている心には敏感で、相手がかけてほしい言葉を的確にかけることができる……というようなキャラクターが主人公の定番です。でも、それだとありがちなドラマになってしまいます。それよりも、不完全な主人公なのに素敵に見えるストーリーラインをつくることこそがドラマとしての成功だと思うので、まず、主人公を身勝手なキャラクターに設定しました。 ■「櫻井さんは周りに流されない」 ——車椅子バスケのシーンを、吹き替えなしで役者が演じているそうですね。二時間半のドラマで、1ヵ月半前から練習をしたと聞いて、本気を感じました。 増本:櫻井さんをはじめ、みなさんすごく忙しいので、「スケジュールが埋まっているから無理だよ」と言われて当然の状況でした。ですから我々も代役の方を用意していたんですけど、みなさんストイックというか、練習好きというか。「寝なくてもいいから練習したい」「仕事のあとに練習したいからら体育館を押さえてください」と嬉しい要求をしてくれました。たまたまそういう人たちが集まったのは、すごく運が良かったと思います。 ——最初はどうでしたか? 「いける!」と思いましたか? 増本:いえ、全然(苦笑)。本人たちにも、「無理そうですね」と言いました。練習をみてくれたコーチの堀江航さんも、怪我をしたら撮影に支障が出ますし、プレーしているように見えるレベルを目指して教えるつもりだったんです。ところが、櫻井さんも他の方も、手がやけどしようが気にしないんですよ。むしろ、1ヵ月もつのかな、という熱量があった。結果、想像以上のペースで上達して、撮影に入る頃には別人のようになっていました。結果、編集した映像は、90%以上が本人です。代役はほとんど使わずにすみました。 ——チームメイトの市原隼人さん、ライバルチームの安藤政信さんのストイックさが櫻井さんを刺激した部分はありますか? 増本:いえ、それはなかったです。櫻井さんは周りに流されないんですよ。バスケシーンの撮影日に照準を合わせて、そこにピークを持っていくように、逆算してマイペースに練習をしていくんです。だから、周りがグイグイやっていても、「今日はこれくらいにしておこう」とおさえることができる。あの自己管理能力の高さは、さすがトップスターだなと思いましたね。 ——市原さんと安藤さんはどんなタイプでしたか? 増本:市原さんは櫻井さんとは真逆で、今、できることを限界まで全力でやって積み上げて行くタイプ。安藤さんは、寡黙に淡々とやっていましたね。 ——完成披露試写会の舞台挨拶で、櫻井さんが「撮影中は撮影のための動きを繰り返すから、フラストレーションがたまってしまって、エキシビションマッチを組んでもらった」とおっしゃっていましたが、試合ができるレベルにまで上達したんですね。 増本:はい。ちゃんと、観ていて楽しい試合になっていてすごいなと思いました。 ■「一番大切なことは、いいものをつくっていくこと」 ーーラストに「このドラマは取材に基づいたフィクションです」というテロップが入ります。リアリティとフィクションのバランスはどうとりましたか? 増本:実は、僕がつくるドラマはどれも取材に基づいているので、いつもと変わらないんですよね。どれもドキュメンタリーとフィクションが混在していると思っています。あと、取材対象者をモデルにはしていますが、そっくりそのまま描いているキャラクターは1人もいません。ある取材対象者の特徴を膨らませてみたり、ある一人のキャラクターに、実在する数人の要素を混ぜ込んでみたり。だから今回も、鷹匠も奥様もご本人のキャラクターそのままではありません。基本的にフィクションです。ただ、物語にリアリティを出すためには取材が欠かせないと思っています。とにかく取材をたくさんして、そこから抽出したものを、物語に注ぎ込むというやり方です。 ——障害者が主人公のドラマをつくる際に、気をつけたことはありますか? 増本:障害者の方々を題材にした一部の番組を、NHKさんが「感動ポルノ」と表現していたように「かわいそうだね」「がんばってるね」「えらいね」という視点からの物語がこの手の番組には多い。でも僕は、同情の涙を誘うようなつくり方はしたくありませんでした。なぜなら、僕が京谷さんや及川さんとお会いしたとき、真っ先に思ったことは「格好いい!」ということだったからです。単純に、F1レーサーやプロ野球選手に会ったときのような憧れと興奮がありました。京谷さん夫妻に出会ったときも、「苦労されたんだろうな」という空気がまったくなくて、「いい夫婦だな」「素敵な夫婦だな」と感じました。自分が感じた素直な気持ちを大切にして、人生を力いっぱい生きている格好いい人たちを描く番組にしたいなと思いました。 ——実際、これまでの障害者の方が登場するドラマとは全然違いますね。変にかしこまらず、キャラが立ったスポ根ものとして楽しく見られる。井上雄彦さんの『リアル』にも通じるような。 増本:『リアル』は偉大な作品ですので、日本代表の取材をしたときに、同じく取材にいらしていた井上さんのチームとたまたまお会いした際には、「胸をお借りするつもりでやらせていただきます」というお話をしました。あと、取材対象者が実は一緒なんですよね。日本の車椅子バスケを引っ張っている巨人、スター選手となると、京谷さんや及川さんに行き当たるので、自ずと彼らに感化されたものになるんだと思います。 ——アメリカの車椅子ラグビー選手を追いかけたドキュメンタリー『マーダーボール』も思い出しました。 増本:『マーダーボール』、格好いいですよね。実は企画をプレゼンするときに、『マーダーボール』の映像を2分くらいにまとめてオリジナルのダイジェストをつくったんです。車椅子バスケの話と言われると、人はどうしても「重くて暗いんでしょ?」という印象を持つので、「こんなにもスカッとしたイカす連中の話なんですよ」ということを伝えるために。反応は上々でした。 ——『君に捧げるエンブレム』もそういうふうに受け取ってもらえる作品だと思います。湿っぽくなくて、フジテレビらしいドラマかもしれません。 増本:そうなるといいなと思っています。車椅子バスケという、サッカー、バスケット、野球と並ぶ、見ごたえのあるかっこいいスポーツに夢中になるヤツらを描いたつもりです。これを見たら多くの人はやる気になると思いますし、少なくとも嫌な気持ちにはならない内容になっているので、一年のスタートにふさわしいドラマだと思います。そして、2020年の東京オリンピックに向けての扉を開けられたらいいなと思います。 ——2017年、フジテレビはどんなドラマをつくっていくのでしょうか? 増本:実際、数字があまりよくないなかで、一番大切なことは、いいものをつくっていくことだと思っています。他局に比べると、視聴者がフジテレビの番組に接触する可能性が少ないことをちゃんと認識し、チャンネルをせっかくあわせてくださった方に、毎回きちんと面白いものを出していけるかどうかが、僕らが生き残る鍵だと思っています。少なくとも自分が関わる番組に関しては、当たり前ですけど、高いクオリティのものをきちんとつくり、それを出来る限り多くの人に届くように宣伝もきちんとする。シンプルですけど、それが一番確実な戦術だと思っています。今の視聴者は賢いですから、お手軽につくった番組は見抜かれますので、じっくり努力を怠らずにつくっていく。 ——『君に捧げるエンブレム』の完成披露試写会を行い、SNSで拡散する宣伝方法もそのひとつですね。 増本:はい。あと、プロデューサーにはいろいろなタイプがいますが、僕個人としては、なるべくオリジナルの物語をつくり出したいと思っています。テレビという文化が生き延びていくためには、テレビがオリジナルの物語を発信していく必要があると思っていて。極端な話、原作ものに頼ってばかりいると、テレビは翻訳するだけのメディアになり、存在意義がなくなってしまうのではないかという危機感があります。だから僕個人としては、テレビ発のオリジナルをつくり、数多くの人に見てもらうという作業を、黙々とやっていきたいと思っています。(須永貴子)

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