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携帯電話の高額キャッシュバック、なぜ各社一斉に収束?「純増数」重視から転換の兆し

サイゾー のロゴ サイゾー 2014/04/18 Cyzo

 ここ最近、大きな問題として取り上げられるようになった、携帯電話のMNP (携帯電話のキャリアをまたぐ番号継続サービス)利用者に対する高額なキャッシュバック。このキャッシュバックを、3月下旬より携帯電話キャリア各社がそろって急速に縮小する動きを見せている。この動きは今後も継続するのだろうか?

●なぜキャッシュバック競争が加速したのか?

 キャリア各社はここ数年、新規契約者獲得策の1つとして、新規契約者にキャッシュバックを行うという施策を打ち出してきた。特にMNPで移行してくるユーザーに対しては、ライバル他社の契約数を減らし自社の契約数を増やせるため、キャッシュバックの額を増額するなど優遇する施策をとっていた。

 では、なぜこのキャッシュバックの問題が大きく取り沙汰されるようになったのだろうか。その背景を改めて振り返ってみよう。

 キャッシュバックという施策が生まれた背景には、実は「2年縛り」が大きく影響している。2006~07年頃から、契約年数に応じて基本料を割り引くサービスに代わり、2年(もしくはそれ以上)の長期契約を約束することで、例えば基本料を半額に値下げする「2年縛り」が前提の割引サービスが急増し、広く普及することとなった。例としてはau(KDDI)の「誰でも割」などが挙げられる。

 だが、これらの割引サービスを途中で解除するには、1万円前後の高額な解除料金がかかってしまう。そのため、販売店がMNPでの移行を促進するため、解除料に相当する1万円程度の料金をユーザーにキャッシュバックする施策を打つようになったのだ。この施策がユーザー獲得という成果に大きく結び付いたことから、キャッシュバックを提供する店舗が増えていったといえる。

 もう1つ、キャッシュバックに大きな影響を与えていたのが、電気通信事業者協会(TCA)が毎月発表している携帯電話・PHSの契約数や、キャリア各社が公表しているMNPの純増数である。これら毎月の契約数の増減が、キャリアの好不調をはかるバロメーターとして近年高い注目を集めるようになったことから、キャリア各社が“数”を重視してキャッシュバック施策を強化。良い数字をつくることで、自社の評価を高めようという動きが加速していったのである。

 そしてキャッシュバック競争が一段と激化する要因となったのは、昨年NTTドコモがiPhoneを取り扱うようになったことだ。従来はiPhoneの有無がキャリアの差別化要因となっていたが、主要3キャリア全社がiPhoneを扱うようになったことで、目立つキャリア間の差がなくなってしまったのである。そのことが、キャッシュバック強化によるユーザー獲得を加速させたといえよう。

●キャッシュバック競争の過熱で表面化した問題とは

 こうした背景から、MNP利用者に支払われるキャッシュバック額は年々増加の一途をたどっていった。そして今年の春商戦に至っては、MNPするだけで1人当たり7~8万円、さらに複数台だと50万円を超える額のキャッシュバックが得られるなど、異常ともいうべきキャッシュバック競争が繰り広げられることとなったのである。あまりの過熱ぶりに、キャッシュバックを稼ぐために多数の携帯電話契約を確保してMNPでキャリア間を渡り歩く人々が現れ、一部報道では「現代の錬金術」といわれたほどだ。

 だがキャッシュバックとして支払われる金額は、そもそもキャリアと契約しているユーザーが毎月支払っている料金が原資となっている。つまりキャッシュバックが増えれば増えるほど、頻繁にMNPする人だけが得をし、長きにわたって同じキャリアで契約している人は損をするという、大きな問題を抱えているのである。

 またキャッシュバック競争の激化は、端末の販売価格を歪め、正当な評価を得る機会をも失わせている。事実、今年の春商戦では、人気のiPhone 5sにまで高額のキャッシュバックが付与され、端末が0円で手に入ることも少なくなかった。こうした状況は、キャリアに紐付かないSIMロックフリーのスマートフォンなど、正規な価格で端末を販売しようとするメーカーの参入を阻害する要因にもなっており、健全な競争環境を失わせているといえる。

 以上から、行き過ぎたキャッシュバック競争を問題視する声が相次いだ。それを受けてか、3月下旬から相次いで高額キャッシュバックのキャンペーンを終了する店舗が増え、キャッシュバック競争が縮小に向かいつつある。もっともこの競争は、1社だけがやめると“独り負け”の状況を生み出す可能性もあり、キャリアが自主的にやめるのは難しいと考えられる。それゆえ、水面下で総務省などが沈静化に動いたのではないかという声もあるようだ。

●「適切なキャッシュバック」の追求が求められる

 キャッシュバック抑制に向けた動きは他にも見られる。TCAは4月7日、これまで毎月公開していた携帯電話の契約数を、四半期単位での公開に変更すると発表した。国内では携帯電話がほぼ1人に1台行き渡っており、タブレットやWi-Fiルーターなど端末の多様化、さらにMVNO(仮想移動体通信事業者)による回線の多様化が進む現状、すでに純増数がキャリアのバロメーターとはなりにくくなっている。毎月の公開を控えることで、純増数を過度に評価しキャッシュバック競争を加速する流れを断ち切りたい狙いがあるようだ。

 またNTTドコモは4月10日、国内通話が相手を問わず定額でし放題になる「カケホーダイ」など、新たな料金プランを発表したのだが、その際、利用年数に応じてパケット通信料を割り引く「ずっとドコモ割」を提供すると発表。16年以上契約している長期契約者は月額最大2000円の割引が受けられるなど、従来軽視されてきた長期契約者を重視する方針を示している。

 こうした動向から、過熱したキャッシュバック競争を収束させようという動きが、急速に進んでいることがわかる。ただし、だからといってキャッシュバック競争がなくなったかというと、そうではない。特に気になるのは、沈静化に向かうタイミングが、春商戦の終わりに差し掛かった3月下旬だったということ。大きな商戦期が終わりつつあるタイミングを見計らって、支出を抑え始めたに過ぎないと見ることもできるからだ。明確な規制がなされていない現状、またなんらかのタイミングで競争軸をつくり出し、キャッシュバック競争が過熱してしまう可能性も、否定できないだろう。

 とはいうものの、現時点でキャッシュバックを完全に抑え込むことが正しいかというと、必ずしもそうとは言い切れない。それを証明しているのが07年の事例だ。同年、総務省は今のキャッシュバックに近い販売手法である「0円ケータイ」を問題視し、キャリア各社に端末代と携帯電話料金を分離する、分離プランの採用を促した。

 その結果、割引がなくなったことが消費者心理を直撃し、端末販売が急激に落ち込んだのだ。実際、電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によると、08年度の携帯電話出荷台数は、前年度から一気に4割近く減少。国内端末メーカーの体力を奪い、生産からの撤退を加速させた要因の1つにもなっている。

 現在のキャッシュバック問題を真に解決するには、競争過熱によるユーザーの不公平感をなくしつつも、急激な市場変化による端末メーカーへの影響を抑えるなど、バランスを保った上でのソフトランディングが求められる。KDDIの田中孝司社長が、今年の2月の決算説明会で「適切なキャッシュバック」という言葉を残して話題となったが、キャリア各社には今まさに、真に適切なキャッシュバックのあり方を追求することが問われているのではないだろうか。(文=佐野正弘/ITライター)

※画像は、NTTドコモは新料金プラン。長期契約者を優遇する割引サービス「ずっとドコモ割」の提供を発表。

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