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政策やiPhoneの影響で変わったケータイの形 今こそ「au Design project」や「iida」が必要と思う理由

ITmedia Mobile のロゴ ITmedia Mobile 2017/07/21
政策やiPhoneの影響で変わったケータイの形 今こそ「au Design project」や「iida」が必要と思う理由: 7月21日から31日まで東京・丸の内で開催される「ケータイの形態学 展」 © ITmedia Mobile 提供 7月21日から31日まで東京・丸の内で開催される「ケータイの形態学 展」

 「INFOBAR」で鮮烈な印象を世に与えた「au Design project」の発足から15年がたったことを記念し、KDDIは東京・丸の内の「GOOD DESIGN Marunouchi」で、「ケータイの形態学 展」を開催している。ここには、au Design projectの原点ともいえるINFOBARのコンセプトモデルから、比較的最近登場したスマートフォン、さらには現状を踏まえた上で新たなコンセプトとして、「SHINKTAI」のデザインを展示。さまざまな事情でお蔵入りしてしまった、iidaブランドのスマホも初めて公開された。

 折りたたみケータイ全盛期に登場したINFOBARだが、au Design projectに携わってきたKDDIの砂原哲氏によると、もともとはスマートフォン的な存在を目指したものだった。裏面全てがディスプレイになり、そこに情報が表示されるというコンセプトが、INFOBAR(情報のバー)という名称の由来だ。ポップでカラフルな外観が注目を集めていたINFOBARだが、デザインだけでなく、発想そのものが今のスマートフォンを先取りしていたのだ。

 その後、「talby」や「MEDIA SKIN」など、さまざまな“名作”を生み出してきたau Design projectは、「iida」に名称を変え、「G9」などを発売する。iPhoneが登場し、スマートフォン時代に入る徐々にラインアップは減っていってしまったが、AndroidスマートフォンとしてINFOBARを複数発売し、ハードウェアとソフトウェアが融合したユーザーインタフェースに挑戦してきた。ここでは、au Design projectやiidaの軌跡を振り返るとともに、未公開だったコンセプトモデルを元に、その可能性を考えていきたい。

●折りたたみ全盛に一石を投じたINFOBARやTalby、素材への挑戦も

 製品として初代INFOBARが登場した2003年は、折りたたみケータイ全盛の時代だった。当時、INFOBARと同時に発表されたラインアップは、東芝の「A5501T」、三洋の「A5503SA」、カシオの「A5403CA」、ソニー・エリクソンの「A5404S」、京セラの「A5502K」で、5機種中4機種が折りたたみ。京セラのA5502Kはディスプレイ側が回転するリボルバータイプだったが、ケータイといえばクラムシェルタイプが当たり前だった。

 特に日本で折りたたみ型ケータイが普及したのには、理由がある。1つは、ケータイが通話のための道具から、コンテンツを見るための道具に役割が変化したこと。キーを載せつつ大画面化し、なおかつ持ち運びやすいようコンパクトにするには、折りたためてしまえた方が都合がよかった。1999年に登場したiモードがこの流れを決定づけ、競合であったauやVodafone(現・ソフトバンク、INFOBAR登場直前にJ-フォンから社名変更)もこれにならっていた。iモード以前には一般的だったストレート型やバータイプと呼ばれる端末は、この当時、特殊な存在になっていた。

 この折りたたみ一色のデザインに一石を投じたのが、IFNOBARだった。同端末は、プロダクトデザイナーの深澤直人氏のアイデアから生まれたもので、ストレートタイプであるのと同時に、キーを市松模様にしたユニークさが話題を呼び、auを象徴する製品になった。機能面では、フラグシップモデルに位置付けられていた5000シリーズに一歩見劣りしていたが、それでも31万画素のカメラや2型のディスプレイ、GPSなどには対応していた。コンセプトモデルにはなかったアンテナが搭載されているのも、技術的な苦労のあとがうかがえる。

 KDDIとしても、商品化には迷いがあったことがうかがえる。当時の記事では、プロダクト統括部長の牧俊夫氏(現・ジュピターテレコム会長)が「台数が売れるか不安があり、ふっきれなかった」と語っている。コンセプトデザインの「info.bar」を発表したのが2001年。そこから商品化には、2年以上の歳月を要した。この不安を払拭(ふっしょく)するかのように、INFOBARは完売店が続出。今に至るまで、その姿を変え、何度も後継機が作られている。

 ベースモデルのデザインだけを変えた「W11K」のような例外もあったが、INFOBARが好評を博した結果、au Design projectの端末は、その後、定期的に発売されるようになった。翌2004年には、プロダクトデザイナーで、現在はアップル製品のデザインにも携わっているマーク・ニューソン氏を起用した「talby」を発売。

 2005年には、蒸着塗装を用いてメタリックな質感を実現したサイトウマコト氏デザインの「PENCK」もリリースされている。PENCKはテンキーのフォント無断使用で一騒動あったが、2006年にはLEDが特徴の「neon」、2007年には吉岡徳人氏を起用した「MEDIA SKIN」やINFOBARの光景である「INFOBAR 2」を発売。いずれもユーザーからは高く評価されていた。

 PENCKの蒸着塗装や、MEDIA SKINの手触りを実現したソフトフィール加工のように、見た目だけでなく、端末の素材への挑戦もしていたのが、au Design projectの特徴だった。今では当たり前にケータイやスマートフォンに用いられている技術も、当時は数々の苦労の末に実現している。結果としてアンテナの問題があり樹脂で質感を再現しただけになってしまったが、talbyも、コンセプト時はボディーにアルミニウムを採用していた。スマートフォンでは常識のように用いられる素材だが、当時はチャレンジングな発想だったというわけだ。

 「デザインケータイを作っていたわけではない」と砂原氏が語っていたように、au Design projectは、時代を先取りしながら、後のケータイ、スマートフォンのスタンダードに影響を与えたプロジェクトだったといえるだろう。

●政策の変化やiPhoneの波を受け、変わる役割

 純粋にケータイのあるべき姿を追求してきたように見えるau Design projectやiidaだが、やはり環境から受ける影響も大きく、その役割を徐々に変化させている。特にau Design projectからiidaになってからは、その傾向が顕著に出るようになった印象だ。砂原氏によると、2009年に発売されたiidaの「misora」は、2007年に出された総務省のモバイルビジネス研究会の報告書によって、「0円ケータイ」や「1円ケータイ」が消える中で開発されたという。

 misoraは、au Design projectに深く関わり、現在はKom&Co.Designの代表を務める小牟田啓博氏の会社に所属していた、迎義孝氏がデザインした端末。その外観はシンプルの一言に尽き、そぎ落とされたデザインながらも、必要十分な機能を備えていた。モバイルビジネス研究会が問題視していたのは、通信料金と端末代が一体となった価格でしか販売されていなかったこと。2015年に開催された総務省のタスクフォースに通じるところがあるが、この報告書を受け、各社が端末と料金を明確に分けた、分離プランを導入することになった。

 KDDIは、2007年に「au買い方セレクト」を導入。端末価格が安いぶん、一定の縛りがある「フルサポートコース」と、端末は基本的に定価で買う半面、毎月の通信料を抑えられる「シンプルコース」の2つから選択できるようになった。こうした料金制度の変化があり、シンプルで買いやすい端末が求められていたのだ。これに対応したのが、misoraである。auはもともと、フルサポートコースをメインにしていたが、ソフトバンクの「新スーパーボーナース」やドコモの「バリューコース」に押され、2008年にはシンプルコースを改定し、割賦販売制度を導入している。

 それでも、いわゆる1円ケータイや0円ケータイは姿を消さず、毎月の割引と組み合わせることで実質0円(以下)の価格で販売する手法は残り、2016年のガイドラインが出されるに至っているのだが、iidaもこうした販売制度の影響を受けざるを得なかったというわけだ。

 このタイミングで、もう1つ大きな変化があった。それが「iPhone 3G」の日本上陸である。2008年にソフトバンクが日本で初めてiPhoneを発売。当初は話題性ほどの販売実績はあげられていなかったiPhoneだが、その後、ソフトバンクが「iPhone for everybodyキャンペーン」を展開したり、iPhone 3GSでソフトバンクのキャリアメールに対応したりすることで、売れ行きを伸ばしていった。ドコモやKDDIは、これにAndroidで対抗。XperiaやGalaxyなどのグローバルモデルをいち早く導入したドコモに対し、KDDIはおサイフケータイやワンセグを搭載した「IS03」で、スマートフォンの本格展開を始めた。

 「デザイナーも含め、みんなアップルの製品が好き」と砂原氏が語る一方で、当時のiidaは、iPhoneにはないスマートフォンの形を模索し、コンセプトモデルを発表していた。こうした取り組みが実を結んだのが、iidaブランドとして初のスマートフォンとなる「INFOBAR A01」だ。

 INFOBARは、その後もテンキーを搭載した「INFOBAR C01」や、HTCが製造を担当し、物理キーを廃した「INFOBAR A02」、金属ボディーを採用し、キーをセンサーとして復活させた「INFOBAR A03」が発売されている。iida名義ではないが、Firefox OSを搭載した、最初で最後のスマートフォン「Fx0」も、砂原氏が担当し、デザインはMEDIA SKINや「X-Ray」でおなじみの吉岡徳人氏が手掛けている。

 スマートフォンは前面から見ると、ディスプレイの占める比率が高く、キーを搭載していたフィーチャーフォンによりも、デザインで差を出しづらいといわれる。そこで、iidaは、ユーザーインタフェースとハードウェアを一体にしたデザインを採用し、他のスマートフォンとの差別化を図った。INFOBAR A01開発時には、中村勇吾氏を起用。縦スクロールで、アイコンの代わりにタイルを用いた「iida UI」を採用している。このiida UIに磨きをかけ、動きにも躍動感を持たせたものがINFOBAR A02に搭載された。

●au Design projectやiidaは役割を終えてしまったのか?

 一方で、スマートフォンの登場によって、キャリアと端末メーカーのビジネス構造も大きく変わってしまった。フィーチャーフォン時代は、キャリアが端末のラインアップを企画し、メーカーがその仕様に基づいて開発するというスタイルが一般的だった。au Design projectやiidaのようなモノ作りは、その構造を一歩推し進めたものと捉えることもできそうだ。

 これに対し、スマートフォンは、iPhoneが代表的だが、メーカーが自身のブランドで端末を開発し、キャリアがそれを調達する。もちろん、おサイフケータイやネットワークへの対応など、キャリアからの要求仕様は満たす必要はあるが、Xperia、Galaxy、AUQOSなどは、どれもメーカーのブランドとなる。また、こうしたメーカーの端末は、一部を除き、グローバルに展開され、コスト構造も変化した。キャリアが企画やデザインまで手掛け、ゼロから作り起こすau Design projectやiidaのような手法とは、逆を向いている。

 そのせいもあってか、スマートフォンがauのラインアップの中心になってからは、iidaブランドの端末が目に見えて減っている。しかも、Fx0を除けば、Androidは全てINFOBARだ。砂原氏は、複数のラインアップを検討していたというが、「バカバカと出せないようになり、絞り込む中でINFOBARになった。サイクルとしても、複数出すような状況ではなくなった」になったという。

 現在、iidaは「止めたつもりはないが、いったん初心に帰って、本来何が必要なのかを考えている」(砂原氏)といい、新端末の具体的な計画は進んでいない。展示会に合わせ、「デジタルデトックス」をコンセプトに考えられた、通話に特化したSINKTAIが披露されていたが、本流であるスマートフォンについては白紙に近い状態だという。

 では、au Design projectやiidaのような端末が役割を終えたかというと、必ずしもそうではないというのが筆者の見解だ。むしろ、スマートフォンが成熟化し、機能面での進化が一段落した今だからこそ、必要十分な機能を満たしながら、毎日持ち歩くのが楽しくなるようなデザインの端末は出しやすい環境になっている。

 例えば、au初のAndroid端末として発売された「IS01」を現在のスペック、機能でリファインすれば、小型PCのような存在として一定のニーズは満たせるかもしれない。INFOBAR A01も、デザインは今でも古臭さを感じさせないし、INFOBAR C01はAndroidをベースにしたLTE対応ケータイにすれば、フィーチャーフォンを維持したいユーザーに受け入れられそうだ。

 時代が早すぎたコンセプトも、技術が進歩した今こそ、再検討する価値がある。展示会では、お蔵入りになったコンセプトとして、キーボードを搭載した「SUPER INFOBAR」や、マーク・ニューソン氏がデザインした「talby 2」、G9、G11のコンセプトを受け継ぐ「G13」が初披露された。

 例えば、SUPER INFOBARは、縦長すぎるアスペクト比がAndroidの規定に合わず、製品化を断念したというが、2:1やそれに近いディスプレイを搭載した端末は、サムスンの「Galaxy S8/S8+」や、LGエレクトロニクスの「G6」があり、2017年以降の技術的なトレンドになりつつある。デザイナーがアップルに関わっているため、製品化は難しいかもしれないが、talby 2も今の金属加工技術を用いれば、よりコンセプトに近い形で作れる可能性はある。これは、G13も同様だ。

 くしくも、KDDIは7月から分離プランである「auピタットプラン」「auフラットプラン」を導入した。「アップグレードプログラムEX」はあるものの、のプランを選ぶと、端末は毎月割なしの“定価”で買わなければならない。ユーザーが、コストパフォーマンスにシビアになる環境に変わりつつあるというわけだ。モバイルビジネス研究会の結果、misoraが生まれたように、分離プラン時代に即したiida端末があってもいいのではないか――ケータイの形態学 展を取材し、あらためて今のauにはau Design projectやiidaの端末が必要だと感じた。

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