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新MacBook Proが得たものと失ったもの

ITmedia PC USER のロゴ ITmedia PC USER 2016/10/27
新MacBook Proが得たものと失ったもの: スリムになったボディーと、キーボード上部に搭載した「Touch Bar」が目を引く新型「MacBook Pro」 © ITmedia PC USER 提供 スリムになったボディーと、キーボード上部に搭載した「Touch Bar」が目を引く新型「MacBook Pro」

 10月27日(米国時間)、Appleはうわさ通り「MacBook Pro」シリーズを刷新した。2012年6月以来の大幅な設計変更だ。高解像ディスプレイ(Retinaディスプレイ)を搭載する以前、2008年10月から基本的なデザインイメージを変えていないため、デザインIDという意味では実に8年ぶりの刷新だとも言えよう。

 そのハードウェア面での特徴はいくつかあるが、今さらプロセッサの速度やディスプレイの解像度といった数字面について言及しても致し方ないだろう。正確で詳細な情報がメーカーの公式Webサイトに収められている。

 そこで、ここではデザイン変更を伴う刷新を、どういった意図でAppleが行ったかについて、考えてみることにしたい。

●あえてバランスを崩した製品が登場する理由

 「バランス」という言葉は、さまざまな意味で使われる。何かを中心にして、正反対の2つの要素を比べ、その間にある均衡・不均衡をバランスという。やじろべえの錘の位置と、収支均衡の両方がバランスだ。

 大多数の製品は、メーカー(商品企画・開発者)が時流を読み取って作ることでバランスのよいものになる。時流に沿った製品を作る方が、安定した結果を得やすいからだ。しかし、時代が変化する「そのとき」が来ると、あえてバランスを崩した製品が登場することがある。

 スマートフォンによるイノベーションが一段落した今、「最もパーソナルに近いコンピュータ」の座を奪われたコンシューマー向けのパソコンは、その製品としての形を変えようともがいている。企業向けの生産性を高める道具としてパソコンの地位は不動だが、個人にひも付くコンピュータとしての立ち位置は、以前ほど盤石ではない。

 例えば、Lenovoの「Yoga Book」という製品がある。

 AndroidとWindowsという、以前ならば考えられなかったような両OSの選択が可能なこの製品は、ワコムの技術を採用したペン入力機能とタブレットデバイス、タッチ型キーボードを融合し、WANを内蔵させることで新しい領域を切り開こうとしている。

 PCほどの万能的な生産性はないが、ビジネスパースンが使う道具に特化する一方、PCとしての操作性が完璧ではないことを許容することで、新たなジャンルを模索しているのだろう。

 Microsoftが「Surface」シリーズで挑戦しようとしていることも同じだ。Surfaceシリーズは、タブレットとPCの融合、PCとホワイトボードの融合、あるいは先日発表された「Surface Studio」のようなデザイン/アート制作ツールとしてのPCの再設計など、さまざまなジャンルにチャレンジしている。

 ただし、MicrosoftやLenovoは「アンバランスな製品」を指向しているのかというと、そうではない。スマートフォンによって市場バランスが変化し、自分たちが世の中の中心ではなくなったことを悟ったときから、新たな中心へと立ち位置を変えようと模索しているのだ。

●Microsoftとは違う立ち位置でパソコンの再設計に挑戦

 では、Appleが新しいMacBook Proで挑戦しようとしているのも、それらと同じようなものかというと、立ち位置はかなり異なる。なぜなら、Appleはスマートフォン革命において勝ち組となったプラットフォーマーの1社であり、筆頭であるからだ。

 現在のデジタルワールドにおける中心にいるAppleは、商品ラインアップの形を変える必要は基本的にはない。

 Microsoftがラディカル(急進的)に、新しいパソコンの形を模索しているのと対照的なのは、Microsoftがスマートフォン時代において、もはや主役級のプラットフォーマーではなくなったからだ。いや、そもそもMicrosoftはコンシューマー市場におけるプラットフォーマーではなくなったのかもしれない(もちろん、企業向けシステムではいまだに中心となる存在である)。

 一方、AppleはMacBook Proだけでなく、「MacBook」や「iMac」シリーズで保守的な改良を行ってきた。そして発表をみる限り、今回もまた「パソコンとは何か」という枠組みを大きくは変えず、その立ち位置を変えないまま、「現在のAppleが持つ技術要素と製品の世界観をもとに再設計」したのがMacBook Proという印象だ。

 なお、従来のMacBook Proや11インチモデル以外の「MacBook Air」は併売されるものの、位置付け的には「過去とのつながりを保つための製品」であり、AppleのノートブックコンピュータはMacBookとMacBook Proの2ラインに整理されていくのだと考えられる。従来のMacBook Airが担っていた領域は、従来型ファンクションキーを搭載する新型MacBook Proの13インチモデルが引き継ぐ形だ。

 「現在のAppleが持つ技術要素と製品の世界観をもとに再設計」と表現したが、それはどういうものなのか。

 12インチの新型MacBookで取り入れられた新しいキーボード構造(キートップが安定して平行移動し、剛性感が高い)、サイズが大きくメカニカルスイッチを排除した感圧タッチトラックパッド、USB Type-Cベースの新しいコネクタ周り(MacBook Proでは、より高速なThunderBolt 3対応になっているが)、SDメモリーカードスロットをはじめ旧世代のI/Oインタフェース一掃などが、それに当たるだろう。

 さらに新型MacBook Proでは、キーボードで1番上の列が省かれ、ここに高精細なOLED(有機EL)ディスプレイと静電型マルチタッチパネルを組み合わせた「Touch Bar」が追加された。

 ボディーが薄くコンパクトかつ軽量となり、バッテリーも10時間駆動をうたうMacBook Proだが、ハードウェアコンセプトの面から捉えると、この辺りが注目点だろう。

 確かにTouch Barはなかなか面白いコンセプトだ。新たなユーザーインタフェースとして定着するかもしれないが、一方でThunderbolt 3以外のI/Oインタフェースを全廃(ヘッドフォンジャックは搭載)した点は、iPhone 7からヘッドフォンジャックを排除した以上の劇薬となるかもしれない。

●日本語環境では注意も必要だが発展性がある「Touch Bar」

 Touch Barのコンセプトは明快だ。

 iPhoneやiPadを通じて、さまざまなタイプのアプリケーションが、タッチパネルを用いて操作性を高める工夫を施してきた。Appleのソフトウェアで言えば「写真」アプリなどがそうだ。タッチパネルを用いて多様な操作を簡単に行える。発表会場でデモされたDJ向けアプリケーションもそうだ。

 パソコンはパフォーマンスが高く、さまざまな面で生産性の高い道具だが、部分的にはタッチパネルを持つタブレットの方が実装しやすく、分かりやすい機能もある。Microsoftは、タッチパネルをパソコンのユーザーインタフェースに取り込もうと奮闘してきたが、Appleはパソコンの領域を踏み外すことなく、タッチパネルの長所を取り入れようとした。

 iOS用アプリの操作性がそうであるように、Touch Barの使い方はアプリごとに異なる。詳しくはApple自身の紹介ページを参照してほしいが、Appleはディスプレイを凝視しながらキーボード周りの操作のみでコンピュータを操れる従来のパソコンが確立しているユーザーインタフェースの在り方を、大きく変えたくなかったのではないだろうか。

 Windowsユーザーにはなじみがないかもしれないが、Macの場合、デフォルトではファンクションキーにコンピュータのさまざまな設定を変更する機能キーが割り当てられている。設定変更は可能だが、いわゆるアプリケーションが認識する「F」キーは「Fn」キーとともに押し下げて使う。

 このため、Macではファンクションキーのコンビネーション操作で行う作業が少なく、一般的に今回のTouch Bar化による操作感の違いは、あまり気にならないだろう(ただし「Esc」キーは除く)。電源ボタンと指紋認証センサーの「Touch ID」が統合された点も素晴らしい。

 ただ、日本市場の場合は日本語入力時にファンクションキーを多用する人が多いのではないだろうか。筆者の場合、以前から「Ctrl」キー+「アルファベット」キーで変換していたため気にならないが、人によっては強い違和感や入力効率の低下を感じるはずだ。

 Appleの日本語変換機能を利用するときには、変換候補がTouch Barに表示されるなどの実装がされているようだが、いずれにしろ「Ctrl」キーのコンビネーションを覚える必要はあるだろう。

 ただ、それでもTouch Barには今後の発展性がある。アプリケーション次第で、操作性、作業性を高める手段が用意されたのは前向きに考えるべきところだ。もちろん、不満を持つユーザーもいるだろうが、13インチモデルならば(Thunderbolt 3ポートが2基しかないのが難点だが)Touch Barのないモデルも用意されている(蛇足だが、iMacやMac ProユーザーがTouch Barを使う手段は用意されるのだろうか)。

●Thunderbolt 3以外のポート削除は早すぎたか

 しかし、Thunderbolt 3以外のポートを削除してしまった点は、Appleらしい「数年後のコンピューティング環境」を見据えた大胆な移行と評価ができる一方、実用性の面で大きな疑問符が付く。

 例えばデジタルカメラで撮影した写真の取り込みや文書の交換などでSDメモリーカードを使いたいとき、あるいはUSBメモリに入った資料を確認したいときなど、いちいちアダプターやポートリプリケーターを経由してアクセスしなければならなくなる。

 Appleとしては、これらはワイヤレス転送、あるいはクラウドを通じた同期へとトレンドが動くと考えているのだろう。実際、そのように世の中は動くと思うが、どのぐらいのスピードで動くかは分からない。

 カメラとコンピュータのワイヤレス接続は、まだ分かりやすいと言えるほどに成熟されておらず、カメラメーカーごとの方言も多い。ファイル転送を全て「Air Drop」で行えと言われても「そんな悠長なことは言ってられない」と憤慨することもあるはずだ(転送相手が見つかるまで時間がかかることも少なくない)。

 また人が多く集まる場所などではWi-Fi転送の速度が遅くなることもあり、バッテリー切れの心配なども考えれば、有線での接続による信頼性や速度に勝るものはない。この点は初代MacBook Airの、素晴らしく先進的なコンセプトではあるが不便(次世代では揺り戻しがあった)という位置付けに近い印象を受けている。

 実際、これまでMacBookでアダプターを忘れるなどして痛い目にあったことがある身としては、果たしてこの施策にどこまで消費者がポジティブな反応を示すか疑問はある。もちろん、Thunderbolt 3は最大40Gbpsの速度が出せる新世代のインタフェースであり、電源ポートとしても利用しつつ、USB 3.1 Gen.2、DisplayPort、HDMI、VGA(アナログRGB)を統合できる優れた技術だ。

 MacBook Proが標準装備したうえで他ポートを排除したことで、対応する周辺機器は変換アダプターやポートリプリケーターを中心に一気に増えていくだろう。しかし、あらゆる周辺機器のインタフェースにまで浸透していくには時間がかかる。

 それまでの間、USBの変換アダプターとSDメモリーカードリーダーを持ち歩くことになるのか、それとも世の中が変化していく速度が速いのか。早すぎる決断か否かは数年経過してみなければ分からない。ただ、現時点で不便か否かと言えば、当然ながら困るケースも少なくないはずだ。

 一方でThunderbolt 3に対応するApple製ディスプレイとの組み合わせなど、新しいI/Oインタフェースへの期待もある。MacBook Proが備える4基のThunderbolt 3ポートは、そのいずれに接続しても電源供給を受けることが可能だ。

 新型ディスプレイをポートリプリケータとして、キーボードやトラックパッドとともにデスクトップ型のMacとして使う場合には、1本のThunderbolt 3ケーブルを接続しておくだけでデスクトップとノートの間を行き来することが可能になる。サードーパーティーからの新提案にも期待したい。

 新型MacBook Proを評価するうえでのポイントは、Appleが仕掛ける刷新による前進分が、ユーザーの払う犠牲に見合うものかどうかだろう。

[本田雅一,ITmedia]

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