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日本HP、不当解雇判決後の社員に病院検査を受けさせ、「要治療」と無給休職を命令

サイゾー のロゴ サイゾー 2014/05/13 Cyzo

 企業による不当解雇事件が後を絶たない。現在、東京地方裁判所で係争中の大手IT企業、日本ヒューレットパッカード(以下「日本HP」)の社員をめぐる労働事件もその一つだ。

 K氏(仮名/40代)は、日本HPに2000年に入社。職種は一貫してシステムエンジニアで、仕事は順調だった。しかし、06年半ばから状況は一変した。

 K氏によると、職場で嫌がらせに遭うようになり、同僚から執拗に陰口をささやかれ続けたというのである。嫌がらせの中心は女性の事務員だったという。例えば、昼食時にK氏のプライベートの知人の女性について、何も知らないはずの同僚が突然、「こうしているうちにも、君の家に誰か女性が奥さんのフリをして上がり込んでいるかもしれないよ」などと、話の中で頻繁になんの脈絡もなく、男女間のいざこざを想起させる言葉を出してくるようになった。同僚たちによる不自然な会話や、これみよがしに聞こえてくる噂話により、K氏は次第に仕事に集中できなくなっていった。

 噂の内容には、K氏が社外の友人に酒の席で漏らした、社内人事に関する情報もあったという。それは通常なら社内の人間が知り得ない情報のはず――そう感じたK氏は、何者かに盗撮、盗聴、つけ回しなどのストーキングをされ、その情報がメーリングリスト、SNS、ネット掲示板、チャットなどを通じて流され、同僚たちが情報を共有しているに違いない、と推測している。

●休職を認めない日本HP

 その後、K氏は仕事を続けることが難しいと感じるほど疲弊し、有給休暇を取りながら、会社に嫌がらせの実態調査を頼んだが、会社側は調査した上で「被害事実はなった」と回答した。それに対しK氏が再調査を依頼し、会社側が「やはり被害事実はない」とするやり取りが5~6回続いた。そうこうしているうちに、有休が残りわずかになってきたので、K氏は休職申請したが、認められなかった。

 しかし、ちょうどその頃、会社の「ビジネス倫理ヘルプライン」から調査申請を受領した、との連絡も入ったばかりだった。調査中なのに、なぜ休職が認められないのか、日本HPには特例の休職制度もあり、その社内規則の精神からすれば当然、調査中に出社する必要はないとK氏は主張する。

 社内調査中、直属上司から出社要請のメールが何度かあったが、K氏は、現在調査中であること、および被害の訴えに対して、部署の異動などなんの配慮も取られずに再就業を求めるのは無理があるとメールで伝えた。

 その後、ビジネス倫理ヘルプラインから「申告されるような嫌がらせはなかった」との回答があった。K氏は納得できず、「嫌がらせにかかわった社員のPCやサーバーを調べれば証拠が出てくるはずなので調べてほしい」と求めたが、回答は変わらなかった。

 こうして時は流れ、有給休暇が切れてから40日以上が経過した08年7月下旬、人事統括本部から「貴殿は、会社が認める正当な理由がなく、08年6月上旬以降、勤務を放棄し、欠勤しています。理由なき欠勤は、貴殿が会社に対して負っている労務提供義務についての著しい違反となり、このままの状態がさらに続くと、最悪の事態を招くことにもなります。よって、会社としては、直ちに出社し就業するよう命じます」と連絡が来た。

 K氏としては、「理由なき欠勤ではなく、日本HP社員として当然の権利を行使したにすぎない」との認識だったため、命令に応じ出社したところ、会社はK氏に対し「欠勤に対して賞罰委員会を開催し、処罰を検討する」と通知した。ちなみに、同社の就業規則には「欠勤多くして、不真面目なとき、および正当な理由なしに無断欠勤引き続き14日以上に及ぶとき」は労務提供義務違反に当たるとしている。

 それから3週間後、「40日に及ぶ欠勤に基づいて、諭旨退職」とする処分が下った。

●解雇無効の判決

 これに対しK氏は、不当解雇であるとして解雇撤回を求め、会社を訴えた。一審判決ではK氏が敗訴したが、11年1月26日、二審で逆転判決を勝ち取った。

 その判決文では、嫌がらせについて、周囲の従業員に対する聞き取り調査、K氏が会社に提出したICレコーダに録音したデータのいずれの調査によっても、K氏が申告した被害事実は確認されていないとして、K氏の訴えを退けた。つまり、裁判所は、K氏の被害妄想、と判断したといえる。

 しかし、その上で「控訴人(K氏)の欠勤に対して、精神的な不調が疑われるのであれば、本人あるいは家族、被控訴人(日本HP)のEHS(環境・衛生・安全部門)を通した職場復帰へ向けての働きかけや精神的な不調から回復するまでの休職を促すことが考えられた。精神的な不調がなかったとすれば、控訴人が欠勤を長期間継続した場合には、無断欠勤となり、就業規則による懲戒処分の対象となることなどの不利益を控訴人に告知する等の対応を被控訴人がしておれば、6月4日から7月31日までの約40日間、控訴人が欠勤を継続することはなかったものと認められる」として、「懲戒事由(無断欠勤、欠勤を正当化する事由がない)を認めることはできず、本件処分は無効というべきである」との判断を下した。

 要するに、K氏が精神的に不調で欠勤しているのはわかっていたのだから、会社はK氏を病院に行かせるなりのフォローをし、処分の前には事前告知をすべきというわけである。ちなみに、この判決を下したのは東京高裁第11民事部の岡久幸治裁判長だ。

 その後、12年4月27日、最高裁も高裁同様の判決を下した。

●司法判断に従わず、休職勧告

 こうしてK氏は、解雇処分以降の賃金が支払われ、晴れて復職することになる、と思われたが、13年9月24日、K氏が厚労省の記者クラブで開いた記者会見によると、最高裁判決後、K氏は次の事態に直面していた。

 まずK氏は、日本HP側から「精神的不調があるか否かを確認したい」といわれ、病院で診察を受けた。東京都内の心療内科で頭部CT、脳波心理検査、近赤外光によるNIRSの脳機能計測などで検査し「精神疾患はない」との診断を得た。

 さらに、日本HP側はK氏を産業医と面談させた後、都内の医大で受診するよう指示。その際、会社は医大側に最高裁までの経緯を説明した上で「会社としてはK氏の職場復帰は難しいと判断しているが、その妥当性について、ご意見をうかがいたい」と申し入れていた。

 この診断の結果、医大側は「今回の件に関してはお答えすることはできない」と回答し、セカンドオピニオンとして都心の6つの病院を紹介した。法的な争いになりかねない判断を避けたかたちだった。

 その後、日本HPはセカンドオピニオンに行かせることもなく、13年1月7日、K氏に対して「貴殿の職場復帰に関する会社判断について」という通知を出した。その中でK氏の処遇について、「就労自体は可能」としながらも、K氏が裁判中に嫌がらせがあったという趣旨のブログを書いていたことを理由に、「会社従業員による嫌がらせという社内における人間関係から生じた問題が主張されている以上、職場復帰し、会社における標準的な作業環境で就労することには障害が存する」「仮に、現在はそう思われていないという主張をされたとしても、そのような思いを持ち続けていると疑われる貴殿を同じオフィス、職場に復帰させることは、対象となる社員に対しても、大きな精神的ストレスを与えることとなり、会社としても無視することができません」と指摘。社内には適切な部署もなく、在宅勤務についても、チームメンバーとの協同作業なので難しいとした。

 そして「上記検討の結果、会社といたしましては、休職を命じ治療を勧めることで、貴殿の健康と安全に配慮することが、使用者としての安全配慮義務を果たし、判決の主旨に沿った対応ができる」として、「休職を命じます。貴殿におかれては、ご家族の支援の下、速やかに専門医の診察を受けることを命じます」「休職期間は『業務外の傷病』の期間とします。貴殿の場合、勤続年数が(略)12年となりますので、休職期間は21か月となります」「休職期間は無給とします」とした。

 また、セカンドオピニオンについては「これ以上時間をかけて結論を先延ばしにすることは、Kさんご本人にも新たなストレスを与えることになり、よくない」とし、受診させないとしている。

●報じない大手新聞

 その後、K氏は会社に反論のメールを出したが、人事統括本部は「貴殿が就労不能であるとは判断しておりません。貴殿が会社内で精神的に健康で就業してもらうためには、医療による治療が必要であるという判断です」と返答するのみだった。

 こうして復職を命じる司法判断が決定したにもかかわらず、一日も職場復帰できなかったK氏は、会社に対して、休職命令の無効とそれに伴う未払い賃金の支払いを求め、現在、係争中である。

 当サイト前回記事『ブルームバーグ、不当解雇裁判で敗訴後も原職復帰認めず、被害者を逆提訴』で報じた事件も同様だが、日本の司法判断を無視する暴挙が横行している。

 なお、K氏が記者会見をした際、大手紙の記者たちは盛んに質問し、日本HPの所行に憤慨している記者もいた。会見後にはK氏のもとに多くの記者が詰め掛け、名刺交換をしたり追加の質問をしていたが、日本HPが大手紙に多くの広告を出している影響力が働いているのか、実際にはどこも報じていなかったことを付言したい。(文=佐々木奎一/ジャーナリスト)

※画像は日本ヒューレット・パッカード本社ビル(「Wikipedia」より/Rs1421)

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