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星野源「恋」なぜロングヒット? 『逃げ恥』メッセージとリンクした“主題”歌としてのあり方

Real Sound のロゴ Real Sound 2016/12/24 株式会社サイゾー
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【参考:2016年12月12日~2016年12月18日のCDシングル週間ランキング(2016年12月26日付・ORICON STYLE)】(http://www.oricon.co.jp/rank/js/w/2016-12-26/)  今年最後の「チャート一刀両断!」。これまで筆者は基本的には対象週のオリコンチャートで1位となった楽曲、もしくは惜しくも2位もしくは3位となった曲を取り上げて、その状況分析と楽曲分析を行ってきた。なので今回は少々異例な形となるのだが、この曲をフィーチャーしたい。星野源の「恋」だ。 (関連:http://realsound.jp/2016/12/post-10644.html)  10月5日にリリースされたこのシングルは、2016年12月26日付のオリコンチャートで9位にランクイン。パッケージ出荷枚数は累計25万枚を超え、再びTOP10入りを果たした。主題歌となったドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の人気と共にロングセラーを実現している。  ちなみに、対象週のオリコンチャート1位は初週で24.8万枚を売り上げたHey! Say! JUMP『Give Me Love』なのだが、CDセールス以外の指標を織り込んだ複合チャートであるビルボードJAPAN HOT100では、この曲はセールスとルックアップ以外の指標が振るわず総合2位に。かわりにラジオ、ダウンロード、ストリーミング、Twitter、動画再生という5指標で1位となった「恋」が総合でも1位となっている。  さらに、2016年12月21日に発表されたレコチョク週間ランキングでは、「恋」が10週連続1位を獲得した。ちなみにこれは、2014年の松たか子「レット・イット・ゴー~ありのままで~(日本語歌)」の9週連続1位を上回る、レコチョク史上最多連続記録だという。  つまり、様々な指標を見ても、注目を集め、話題となり、記録的なセールスを上げているのは、あきらかに『Give Me Love』ではなく『恋』ということになる。先日上梓した『ヒットの崩壊』でも書いたが、「パッケージのCDが売れている順」を並べたオリコンチャートは、もはや「ヒット曲の指標」としては役に立たないものとなっている。そういう状況をまざまざと見せられた形だ。  さらに、この曲は『FNS歌謡祭』(フジテレビ系)や『MUSIC STATION SUPER LIVE 2016』(テレビ朝日系)といった年末の大型音楽番組でも番組の盛り上がりの一つのピークを作っていた。大みそかの『紅白歌合戦』(NHK総合)でも大きくフィーチャーされるはずだ。そうなると、年末年始のチャートでもかなり上位に入るだろうことが予想できる。  拙著『ヒットの崩壊』の帯には「『国民的ヒット曲』はもう生まれないのか?」というコピーが大きく書かれている。しかし、この状況を踏まえて言えば、おそらく星野源「恋」は、もはや「国民的ヒット曲」と呼んでも差し支えないものになっていると言えるだろう。  前述した通りこの曲のロングヒットの要因は12月20日に最終回を迎えたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の人気なのだが、改めて感じ入るのは、この「恋」という曲が、単なるタイアップ的な主題歌ではない、ということ。愛や人生の多様性を肯定する『逃げ恥』の主題と深い部分でリンクしたメッセージ性を持つ曲であることだ。まさに本質的な意味で“主題”歌なわけである。  星野源は当サイトのインタビューでこう語っている。 「〈夫婦を超えてゆけ〉というフレーズを思いついたときに『あ、もう大丈夫だ』みたいな気持ちになれました」 (参照:http://realsound.jp/2016/10/post-9613.html)  ただ、曲がリリースされた当時には、彼が語った「あ、もう大丈夫だ」という感覚の半分くらいしか、我々はわかっていなかった。そもそも『逃げ恥』は始まったばかりだった。ドラマのストーリーは、主人公であるみくり(新垣結衣)と平匡(星野源)が、夫=雇用主、妻=従業員という雇用関係として“契約結婚”をしたという筋書きから始まる。だから、その時点では〈夫婦を超えてゆけ〉という一節から、形だけの関係としての夫婦ではない本当の「恋」が二人の間に芽生えるという予感を受け取っていた人は多いはずだ。  が、このフレーズの奥深さはそれだけではなかった。ドラマの最終回では、みくりと平匡だけでなく、登場人物たちを縛っていた全ての呪縛が解けていくようなハッピーエンドが描かれていた。  仕事に生きてきたアラフィフの百合(石田ゆり子)は、年の差にこだわって恋愛感情に向き合えなかった自分の呪縛から解放される。若い恋敵として登場した“ポジティブモンスター”こと五十嵐(内田理央)に彼女が言った「自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからは、さっさと逃げてしまいなさい」というセリフは、ドラマ全体のキーワードでもあったはずだ。さらにゲイの沼田(古田新太)も、ようやく思いを寄せる相手に出会うことができた。 「みくりみたいな生き方、津崎みたいな生き方、百合ちゃんみたいな生き方、みんなちょっと変わっているけれど、どの選択も正しいんだっていうことは、ひとつのテーマです」  ドラマのプロデュースを手がける那須田淳氏は、姉妹サイト「リアルサウンド映画部」のインタビューでこう語る。 (参照:http://realsound.jp/movie/2016/12/post-3549.html)  ドラマは『東京フレンドパーク』の回転ダーツのパロディで終わる。コメディタッチのドラマの中で大きな見どころの一つとなっていた“妄想パロディ”シーンだ。みくりと平匡の二人が「この先、どうする?」と書かれた的にダーツを投げると、「挙式」や「子だくさん」や「別離」や「逃亡」が当たる。 「たくさんの道の中から、思い通りの道を選べたり選べなかったり。どの道も面倒臭い日々だけど、どの道も愛おしい日もあって。逃げてしまう日があっても、深呼吸をして別の道を探して、また戻って。いい日も悪い日も。いつだってまた、火曜日から始めよう」  そんなみくりのモノローグで物語は幕を閉じる。  全ての選択肢を、どれが正しいとも、どれが間違いだともせずに、「どの道にも愛おしい日がある」と締めくくる。そういう高らかな“肯定性”が、ドラマの大ヒットの背景にはあったはずだ。そして、それが鮮やかに描かれた最終回の終わった後に、全てを祝福するように鳴り響いたのが「恋」だった。  そう考えると、この「恋」にある〈当たり前を変えながら〉というフレーズ、そして〈夫婦を超えていけ〉〈二人を超えていけ〉〈一人を超えていけ〉という最後のラインが、どれだけ渾身の力を持った言葉だったか、深く伝わると思う。  そしてもちろん、そういう小難しいことを考えなくても、「恋ダンス」の伝播力がある。みんなが夢中になって真似して踊っている。MIKIKOさんが振り付けをしたあのダンスにも、二本の指が一本になる印象的な動きがある。 「イエローミュージックという、僕が思い描いているジャンルや言葉をもっと浸透させていきたいという思いは強くありますね」 「今回の『恋』に関しては『これがイエローミュージックです』と提示して『ああ、なるほど』と感覚的に思ってもらえるようなものをつくりたくて」  前述のインタビューで星野源はこう語っていた。2016年は、彼の提唱した「イエローミュージック」が、まさに「国民的ヒット曲」となった一年だったと言えるのではないだろうか。(柴 那典)

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