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映画館で映画以外のコンテンツを上映するのはアリ? “ハイパーローカル興行”という鉱脈

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/01/21 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第12回は“ハイパーローカルな興行”について。 参考:『この世界の片隅に』ヒットを目指し、映画館はこう仕掛けたーー立川シネマシティ・遠山武志が解説  なんとあの「ザ・スライドショー」が20周年で映画化! タイトルは『映画 みうらじゅん&いとうせいこう 20th anniversary ザ・スライドショーがやって来る!「レジェンド仲良し」の秘密』。タイトル長過ぎ。2月18日公開。これをシネマシティでも上映させてもらえることになって、ラフォーレ原宿の「みうらじゅん 大物産展」に足を運んで実際にエロスクラップを見たり、バイト仲間の結婚式で「ザ・スライドショー」を模倣してどんずべりしたことがある程度のファンの僕としてはかなりテンションが上がってます。  「マイブーム」「クソゲー」「ゆるキャラ」「いやげもの」「見仏記」など数々のブームや名フレーズを生み出したキング・オブ・サブカルと、日本人初のラッパーであり、編集者であり、小説家であり、エッセイストであり、俳優でもある、スーパーマルチタレントのいとうせいこうとのコンビ「Rock'n Roll Sliders」が繰り広げる、知性とバカバカしさとセンスの塊の、写真とイラストとトークで観客を笑い殺しにかかる唯一無二のエンタテイメントが「ザ・スライドショー」なのです。ホント楽しみ。  さて、今作のような、濃い映画マニアや偉い評論家の方には「こんなものは映画と認められん」と叱られそうな上映が、ここのところ増えています。その最も大きな理由は、2011年頃、映画の上映方式がフィルムからデジタルに変わったことです。制作の手間もコストも格段に少なくなったことで、これまで映画館で上映されることがまずなかったようなものが上映できるようになって来たのです。演劇、歌舞伎、宝塚、オペラ、バレエ、音楽ライブ、スポーツなどを映画館でご覧になられた方も少なくないと思います。  映画館は現在、ほぼすべての劇場でデジタル上映に切り替わっています。デジタル上映というのはつまり、皆さんの学校や会社の会議室にもあるようなプロジェクタで映しているということです。映画館のはそれがデカくて性能が良いというだけです。パソコンがあって、そこにHDDで送られてくる動画データを入れて、あとは再生ボタンを押すだけ。  プロジェクタと同じですから、パソコンやゲーム機、Blu-rayプレイヤー、スマホ画面だってつないでスクリーンに映し出すことが出来ます。実際に試しにPS4やWiiU、iPhoneをつないで382席の最大劇場でゲームをしてみたこともあります。シビアな格闘ゲームやFPSでなければ、ラグも大して気にならないレベルで遊べました。どこの映画館でもこういう状況であるのに「映画」だけを上映し続けるのはもったいない、ということで、フィルム時代には考えられなかったような上映が増えているんですね。   そんな中でもしかし『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』と『ローカル路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE』はここまで来たか、と結構衝撃でした。テレビドラマの映画化なら数え切れないほどありますが、特に『キス我慢』は深夜バラエティの、しかもその1コーナーをスケールアップして劇場で見せようというのですから、ちょっと今までになかったような気がします。  しかも『キス我慢』は劇団ひとりとセクシー女優たちが演じるアドリブドラマを芸人陣が他の場所でモニタ鑑賞している、というメタフィジックな構造を持っており、ドラマパートを映画的にスケールアップすればするほどバカバカしさが笑いに反転していくという仕掛けがある上に、劇中の出演芸人たちの状況と劇場鑑賞している観客の状況がシンクロする面白さもあります。実に「劇場鑑賞型」作品なんですね。  広い層のお客様を集めるのは難しいでしょうが、ファンが集まり、みんなで笑ったり、時に泣いたりしながら観たら、これは面白さが自宅で観るときの何倍にもなります。だから作品を見せるということよりも、「観る場を提供する」ということに近いと思います。応援上映や発声可能上映までいかなくても、熱心なファンが集まっているというだけでやはり雰囲気は全然違います。こういう“興行”には、大きな可能性があると思いませんか?  もはや映像コンテンツであれば、映画館だからこういうもの、という判断基準は取っ払ってなんでも上映してしまっていいのです。回転寿司がフライドポテトやラーメンを出して人気メニューにしたみたいなものです。  NHKのダイオウイカの映像が映画館で上映されたというのもありました。YouTuberの作品だっていいんですよ。映像だけで集客に不安があったら、本人登場でトークでも演奏でもして集客力を強化する。ニコ生主のリアルゲーム実況だって人を集められるでしょう。別に1,000名集めなくていい。200名も集まれば十分です。時間帯が深夜とか、必要経費が少なければ、50名でも利益は出ます。日本全国でやる必要なんてないんです。東京、大阪でも1カ所だけとか、ローカル局のテレビ番組の映画化で札幌しか上映しないとか。  ローカル限定上映の実例だってもうあるんですよ。現在神奈川県6館だけで上映中の「FOR REAL ベイスターズ、クライマックスへの真実」。タイトル通り、球団横浜DeNAベイスターズのドキュメンタリー映画です。絵に描いたような地元密着です。これはすごいやり方です。  シネマシティでの最近の例を挙げると、音響の強みを活かし、年末に佐野元春さんのライブ映像のソフト発売記念で、ご本人と監督とのトークショー付き【極上音響上映】を行いました。382席の劇場でチケットは即完売。上映前のトーク終了後にすぐに帰られるはずの予定が、劇場での音響を気に入っていただき、佐野さんも監督も最後の最後までファンのみなさんと一緒にご鑑賞されてました。  この先、2月5日には“minus(ー)”というアーティストのライブ映像上映を行います。こちらも発売後すぐに完売でした。やはりトークライブつき【極音上映】です。  また音楽モノではありませんが、この前日の2月4日にはアニメ映画『クラッシャージョウ 4Kリマスター』を【極上爆音】、かつ高千穂遙さん、安彦良和監督、竹村拓さん、佐々木るんさんのトークショーつきで上映。やはりこちらも発売後最大劇場がすでに即完売済です。  いずれも1回だけ、シネマシティだけでの上映です。まさにハイパーローカル興行。行う我々もたった1回ですから熱がこもりますし、熱心なファンが集中しますから、劇場内の空気が違います。愛が充ち満ちます。もし10回、あるいは10カ所で上映したら、お客様は分散して劇場には空席が目立つでしょう。その分、収益は大きくなるかも知れませんが、ある種の“熱”は確実に下がります。ハイパーローカル興行の魅力は“熱”にありますから、このバランスが肝になります。  “熱”こそが特別な“場”を生み出すのです。“場”での“熱”の共有こそが、ファンを感動させます。忘れられない体験になります。そしてそれは“次”につながります。その映画やミュージシャンだけでなく、映画館自体のファンにもなってもらうのです。広く上映している作品よりも、ハイパーローカル興行には、そのチャンスが大きくあります。  正直、多くは単発イベントになるものを収益の柱にするのはなかなか難しいです。準備なども普通に映画を上映することの何倍も掛かりますから、効率は良くないかも知れません。なにより企画力と段取り力が要求されます。ですが、映画ファンだけでない多様な集客が出来るようになれば、必ずメリットがあります。閑散期にも集客できる可能性が生まれます。その内の何割かの方を映画ファンにすることも出来るかもしれません。  映画館スタッフが自らもエンタテイメントを創り出していく。そこまで踏み込んでいかなければならない段階に来ていると感じます。映画館というビジネスは大きく変わっていきつつあります。  映画館を、手にしたデジタルの自由を存分に活かした場所に。できることは、まだまだ星の数ほどあります。You ain't heard nothin' yet !(お楽しみはこれからだ)(遠山武志)

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