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書道家・武田双雲がオーガニックカフェをオープンしたわけ

エキサイト Bit のロゴ エキサイト Bit 2017/03/29 鶴賀太郎
© Excite Bit 提供

アメリカの街を毎年のように訪れる武田双雲

2016年8月、アメリカの西海岸から東海岸に向け、様々な都市を訪れながら走る一台の車の中に書道家・武田双雲はいた。

一口にアメリカといっても、それぞれの都市によって景観も違えば、風土、人々のライフスタイルもまちまちだ。そうしたアメリカの多様性に触れながら武田は一つの街に思いをはせた。

カリフォルニア州オーハイ。ロサンゼルスから車で90分ほどの山間に入ったところにあるこの街に、武田は2013年以来4年連続で訪れている。今回のアメリカ横断の旅もここから始まった。

「完全にオーガニックの街なんです。自然でナチュラルで、すべてがオーガニック。売られているものがほぼすべてオーガニックという感じです。スーパー、レストラン、みんな個性的でオシャレで。そこに毎年行っているうちに、始めは美味しさにはまり、そしてオーガニックというもの自体にはまっていきました」

武田双雲はオーガニックに対する思いを続ける。

「アメリカの多様性を見ていて、“食”ってすごく大事だなと思うようになったのです。健康面だけでなく、ライフスタイル、幸福度までがすごく影響されてくる。そのなかでオーガニックはとても豊かな生き方だなと感じました。人々が食べているものをすごくリスペクトしていて、食に関わる人の幸福度が高いんです。なんていうか、こなしている感じがないんです。腹を満たすためだけに食べているのではなく、食べること自体を大切にして、地球を生々しく感じながら生きているという感じです」

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味の絶対音感を持つ天才シェフとの出会い

オーハイへの訪問を重ねるにつれ、オーガニックなライフスタイルに対する思いは募っていったが、オーガニックに関する考えの遅れている日本ではなかなか思うようにいかなかった。

「そこでダメモトで、エディーさんに一緒にお店をやってくれないかと頼んでみたんです」

エディーさんとは、友人で写真家でもあるエドワード・ヘイムス。

日本で生まれ育ったヘイムスはコマーシャル・フォトグラファーとして活躍する他方、フランス料理の修行も積み、シェフとしても8年の実績を持つ。実は武田がオーハイを訪れるようになったのも、10年ほど同地に住んだことのあったヘイムスに誘われてのことだった。

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武田がヘイムスら仲間内で借りているシェアハウスで食べた、氏の料理のあまりもの美味しさに驚いた経験がベースにあり、アメリカ横断の旅に同行する氏に出店を打診することになったのだ。

「エディーさんは天才なんです。味の絶対音感のようなものがあって、頭の中で調合したものをピタッと一発で作れちゃうんです。コーヒーの焙煎も自分でやっているのですが、本当に天才です」

オーガニックとの出会いは胆嚢摘出

ヘイムスの思いがけない快諾を得た武田は、その場でネットで物件を見つけ、急ピッチで開店の準備を進めた。

その店が、今年の1月5日に湘南の鵠沼海岸にオープンしたオーガニックカフェギャラリー地球だ。

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カフェをオープンして、来店者に一体何を届けたいのだろうか?

「とにかく美味しさを楽しんで欲しいです。食べてもらえれば、素材の良さや美味しさはわかると思います。そして驚いて欲しい。『何これ、ヤバくない?』って。それをきっかけに、なんで美味しいのか、なんで雑味がないのか、なんで体が喜ぶのかということに興味を持ってもらって、オーガニックの素晴らしさをわかってもらえればなと思います」

食材の美味しさに驚き、そしてオーガニックにはまる。それはまさに武田自身が歩んだ道でもある。

実は武田は2011年頃から胆嚢を悪くし、摘出の手術もしている。それを機に、油をオリーブオイル中心に切り替えた。そして良質のオリーブオイルに出会い、その美味しさに心底驚いたのだ。そこから様々な調味料、そして食材へと武田の探求は始まった。

世界最高級の食材をカフェ価格で

「僕の味わった感動を共有したいんです」

そう言って、武田はコールドプレスされたキャロットジュースを差し出した。

コールドプレスジュースとは、低速回転のジューサーで搾汁したジュースだ。従来の高速回転で熱が加わるジュースよりも栄養素が失われないという。筆者はこれまでもフレッシュジューススタンドでキャロットジュースを飲んだことがあったが、生臭い人参の匂いが残っていることが多く、正直あまり得意ではなかった。あまり期待せずにグラスを受け取ったが、ジュースが口に流れ込んだ瞬間に衝撃が走った。

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人参三本とリンゴひとかけ以外には、砂糖はおろか水一滴さえ入っていないのに、上品で澄み切った甘さが口中に広がったのだ。もちろん臭みは一切ない。武田のいう感動の意味がわかった。

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ランチではエッグサンドウィッチ、パニーニ、キーマカレー、野菜のグリルなどを提供しているが、どれも一つひとつの食材へのこだわりが尋常でない。

たとえばエッグサンドウィッチの卵が有機卵であることは言うに及ばないが、それもわざわざ山梨県から取り寄せている最高品質のものだ。そしてパンは自然栽培の小麦で作る「奇跡のパン屋」と称される恵比寿の「空と麦と」の全粒粉パンを用いている。

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他方、同じパンでもパニーニは、代々木上原にある天然酵母パンで有名な「ルヴァン」のカンパーニュとの相性がいいと、わざわざ取り寄せている。中にはカマンベールチーズがふんだんに使われており、上質なはちみつと世界三大生ハムと言われるパロマハムと絶妙なハーモニーを織りなしている。

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「地球」がオーガニックカフェを謳っているので、ただのカフェだと思って甘く見ていると脳天をたたき割られるような衝撃を受ける。このクオリティーのオーガニック食材をふんだんに使っているレストランは高級店でもそうはない。それでいて値段は普通のオーガニックカフェと変わらない。カフェの値段で日本最高級、いや世界最高級の食材を使った料理が味わえるのは奇跡的だ。

皿洗いする武田双雲

「僕は自分自身も幸せになりたいし、周りの人にも幸せになって欲しいという思いが強くあります。書を書くと喜んで幸せになってくれる人がいるので、書道をしているのと同じように、今僕はオーガニックで僕が得た感動を共有して、みんなに幸せになって欲しいと思っています」

そう話す武田は店が忙しくなってくると席を外し、皿洗いをしにキッチンへと入っていった。可能な限り自身も店に立ち、オーガニック食材の素晴らしさをお客さんに嬉しそうに説明する。

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「一回食べただけですべてを伝えきることは難しいかも知れないですが、お店なので何度も来てもらうことができます。10年、20年と続けていくうちにオーガニックの素晴らしさが伝わっていったら嬉しいですね」

半紙から離れたところで人々を幸せにする武田の新たな旅が始まった。

(文中敬称略)

(鶴賀太郎)

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