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木村拓哉と浅野忠信の共演は、日本エンタメ史に残る“事件”だ 『A LIFE』配役の背景を読む

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/02/04 株式会社サイゾー
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 日曜劇場(夜9時)から放送されている『A LIFE〜愛しき人〜』(TBS系)は、木村拓哉にとってSMAP解散後、初の主演となる医療ドラマだ。それだけに、木村拓哉の今後の俳優活動の真価が問われる作品として、注目されている。  木村が演じるのは10年前に恋人を置いてアメリカに渡った医師・沖田一光。かつての恋人の父親・壇上虎之助(柄本明)の手術をするために沖田が檀上記念病院に戻ってくるところから物語ははじまる。かつての恋人・深冬(竹内結子)は沖田の親友である檀上壮大(浅野忠信)と結婚して母親として暮らしていたが、実は脳腫瘍を抱えていた。沖田は檀上から頼まれ、深冬の手術をするために日本に帰国することになる。  『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)を筆頭に医療ドラマは多数作られており、パターンは出尽くしている。そんな中『A LIFE』は丁寧に作り込まれていて、いい意味でケレン味がない。ここ数年のキムタクドラマは、木村拓哉が何を演じるか、という部分ばかりに力が入り過ぎていて、ドラマとしての面白さはどこか物足りなく感じていた。しかし『A LIFE』は、設定はシンプルだがドラマとしてバランスがよく、安心して楽しむことができる。  2000年に放送された『Beatiful Life ~ふたりでいた日々~』以降、木村拓哉は日曜劇場に、フジテレビ系の月9と交互に出演していくことで2000年代のキャリアを作っていった。木村は中高年の男性視聴者が多い日曜劇場に進出することで、月9のオシャレな恋愛ドラマを見ていた女性視聴者層だけでなく、より幅広いファン層を獲得していく。これは中居正広たち他のSMAPメンバーも同様で、日曜劇場に出演することが万人に好かれる国民的アイドルとしての成功を後押ししたと言っても過言ではないだろう。  中には『安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~』のような、未来からやって来たアンドロイドを演じたSFドラマもあったが、日曜劇場で木村が演じてきたのは、自分の仕事をストイックに真っ当しようとする職人的な男だ。それは『A LIFE』の沖田にしても同様である。ただ、今まで木村が演じてきたヒーロー像に較べると沖田は圧倒的なヒーローというよりは、ヒーローであるために最後まで努力を惜しまない姿の方が印象に残る。  手術の記録をすぐに残し、何度も何度も資料を検証して下準備をする沖田は「怖いってことは準備が足りてないということだから。オペしちゃいけない」と語る。その台詞はあまりヒーロー然としたものではなく、極めて常識的な考え方で、彼もまた一人の人間なのだと安心させてくれる。木村が沖田を演じる姿には、20~30代の頃とは違う円熟した大人の魅力があり、40代の木村拓哉にとっての代表作になるだろうと思った。  一方、共演する俳優の豪華さも『A LIFE』の魅力だ。木村とは『プライド』(フジテレビ系)以来の共演となる竹内結子を筆頭に松山ケンイチ、木村文乃、及川光博といった主演級の俳優が脇を固めている。そして何といっても驚いたのが浅野忠信の存在だ。映画を主戦場とする浅野が連ドラに出演すること自体、大きな驚きなのだが、そんな彼が木村拓哉と共演するのだから二重の驚きである。  90年代にマニアックな映画に出演して、力の抜けた自然体のたたずまいで新しい時代の演技派俳優として登場した浅野忠信に対し、テレビドラマで同じ役割を果たしたのが木村拓哉だった。木村は国内のテレビドラマを主戦場とし、浅野はマニアックな映画や海外作品に出演することで、後の日本人俳優に大きな影響を与えてきた。  そんな二人が共演することは日本のエンターテイメント史における大事件なのだが、面白いのは、海外で手術の腕を磨き続けていた沖田の経歴の方が、浅野の経歴に近く、国内のテレビドラマやバラエティを拠点に活動してきた木村の方が、妻子がいて病院を守ろうとする檀上の境遇に近いということだ。  役と本人の境遇を近づけるのであれば木村と浅野が演じる役は逆だった方が、座りがよかったのかもしれない。しかし、役者の経歴と演じる役が真逆であることによって、二人の関係が鏡を見ているかのような対比に見えてくるのが本作の面白いところで、これはそのまま深冬という同じ女を愛している幼なじみという沖田と檀上の境遇にも重なって見える。  木村拓哉は、2004年にウォン・カーウァイの中国映画『2046』に出演しているが、木村ほどの実力があれば、いずれは海外で活動したいと考えていた時期もあったのだろう。しかし、国民的アイドルとしてあまりにも成功しすぎたために、海外進出のタイミングはとれなかったが、もしかしたら海外で活躍する浅野の姿を見て、思うところがあったのかもしれない。  第3話で檀上は「あの時、カズじゃなくて俺がシアトルに行っていたらどうなってたんだろうな」と言うのだが、檀上にとって沖田は、もう一人の自分なのだろう。時代を作った二人の俳優の邂逅が本作に何をもたらすのか? 続きが楽しみである。(成馬零一)

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