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未来を花束にして 【今週末見るべき映画】

エキサイトイズム のロゴ エキサイトイズム 2017/01/25

雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 本来、女性は肉体的、精神的に、男性より強くて、優秀だと思っている。マラソンなどは、そのうち、男性よりも早く走れるようになると思うし、国や自治体の政治のトップにも、ますます女性が増えてくるだろう。日本などは、都知事と総理大臣が入れ替わったほうがいいのではないかと、ふと考える。外国にお金をばらまくことでしか、おともだちになれない宰相は不要である。

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 女性の強さが、端的に分かる映画を見た。

「未来を花束にして」(ロングライド配給)の舞台は、1912年のイギリス、ロンドンである。女性には参政権はなかった。ときの首相は、ハーバート・ヘンリー・アスキス。イギリスでの女性の参政権をめぐっては、19世紀なかほどころから動きはあったが、大きく動きだしたのが、1912年である。

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 映画のタイトルからは、ロマンチックなラブストーリーかと思うが、まったく違う。原題は「Suffragette」(サフラジェット)で、元々は、女性の参政権を認めさせようとする闘争的な活動家を蔑んだ言葉だが、その後、女性参政権活動そのものを指すようだ。

 これは、女性参政権を認めさせようとする女性たちが、男社会、女性差別社会に抗議し、怒りをこめて闘うドラマである。もちろん、史実に基づいている。

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 過激派と穏健派、その方法論こそ違え、思いはひとつである。過激派が「言葉より行動だ」と立ち上がる。ともかく、女性のあらゆる強さが、際だった映画である。監督のサラ・ガヴロン、プロデューサーのアリソン・オーウェン、フェイ・ウォード、「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」を書いた脚本のアビ・オーガンと、主要スタッフも女性ばかりである。

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 そのせいか、映画はストレートの直球を投げるように、小細工はない。いい意味で単純そのもの。迷いはない。虐げられ、過酷な状況に陥る。それでも一歩を踏み出そうとする。手段を選ばない。そういった気概に満ちている。だからメッセージはたったひとつ。いろんな国の政治の中枢にいる女性が増えているのは、この時代の女性たちが、参政権という花束の獲得をめぐって闘ったから。

 絶妙のキャスティングである。運動に身を投じていく若い主婦モードにキャリー・マリガン。モードを支える優しい夫役にベン・ウィショー。過激な活動家女性のイーディスに扮するのはヘレナ・ボナム=カーター。WSPU(女性社会政治同盟)のリーダー、エメリン役にメリル・ストリープ。申し分ない俳優たち。ことに、下院の公聴会に出たモードの証言シーンは圧巻である。身の上や賃金の少なさなど、自らの境遇を語る。モードの大きな自己変革が、ここから始まっていく。

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 メリル・ストリープは、このほどの第74回ゴールデン・グローブ賞でセシル・B・デミル賞を受けた際にスピーチしている。「アメリカで最も尊敬される座に就こうとする人が、障がいのあるレポーターの真似をした。特権、権力、抵抗する能力で、彼がはるかに勝っている相手に対してです。心が打ち砕かれる思いでした」と。メリル・ストリープは、すでに「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」という映画で、マーガレット・サッチャーを演じている。

 女性が政治の世界に大進出している。ほんの最近でも、イギリス首相のテレーザ・メイはじめ、ローマ市長のヴィルジニア・ラッジ、ドイツ首相のアンゲラ・メルケル、職務停止中だったがブラジル大統領のジルマ・ルセフ、台湾総統の蔡英文、ミャンマー国家顧問のアウン・サン・スー・チー、デンマーク元首相のヘレ・トーニング=シュミット、タイ元首相のインラック・チナワット、アメリカ大統領になれなかったがヒラリー・クリントン……。

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 まさに、モードやイーディス、エメリンの活動の成果が、今日、花と開きつつある。

 当時のロンドンの町並みを再現したセットや、すみずみまで考証された衣装など、リアリティがたっぷり。細部までの目配せは忘れない。これがまだ、サラ・ガヴロンの監督2作目とは思わせない。

 ちなみに、女性の参政権が最初に認められたのは1893年、イギリス領ニュージーランドで、以降、1902年にオーストラリア、1906年にロシア領フィンランド、1913年のノルウェーと続く。イギリスで女性の参政権が認められたのは1918年で、デイヴィッド・ロイド・ジョージ首相の時代まで待つことになる。

 これからも、さらに女性は、肉体的、精神的に、男性よりもますます強くなっていくことだろう。

●Story(あらすじ)

 1912年、イギリスのロンドン。若い主婦のモード(キャリー・マリガン)は、洗濯工場で働いている。夫のサニーも同じ職場で働き、まだ幼い息子ジョージとの三人暮らしである。サニーは優しく、ジョージも可愛い盛りで、貧しいけれど、モードは幸せを感じている。

 ある日、モードは、洗濯ものを届ける途中で、ふと洋品店のショーウィンドゥを眺める。とつぜん、ショーウィンドゥのあちこちに石が投げ込まれる。女性の参政権を得ようと活動しているWSPU(女性社会政治同盟)の行動である。モードは、その活動の実力行使の一端を見ることになる。

 やがて、モードは仕事仲間のバイオレット(アンヌ=マリー・ダフ)から、WSPUのメンバーのひとりのイーディス(ヘレナ・ボナム=カーター)を紹介される。イーディスは、メンバーのなかでも、9回もの逮捕歴のある、過激で行動的な女性である。イーディスは、夫のヒュー(フィンバー・リンチ)とともに、自分たちの薬局に秘密の集会所を持っている。

 警察の取り締まりが強化される。アイルランドでのテロ対策で辣腕をふるったスティード警部(ブレンダン・グリーソン)が、ロンドン赴任となる。市民の行動を監視するカメラが導入される。

 モードの同僚バイオレットが、夫とのいざこざで暴力を受ける。モードは、バイオレットの代理で、下院の公聴会に出ることになる。モードは、自らの生い立ちを語り、男性に比べて、賃金や待遇の差別を訴える。活動家の女性たちはデモで法改正を訴えるが、警官たちに殴られ、逮捕される。

 WSPUのリーダー、エメリン(メリル・ストリープ)は、活動家女性たちに訴える。「将来生まれる少女たちが、兄や弟と同じ機会の持てる時代のために闘うのだ」と。

 モードの過酷な日々が続く。優しかった夫サニーからは、家を追い出され、息子ジョージに会えなくなる。洗濯工場では、セクハラを続ける工場長から解雇宣告を受ける。スティード警部からは、無罪と引き換えにスパイ行為を強要される。

 もはや、実力行使で闘うしかない。やがて、モードたちの闘いは、放火、電話線の切断、政府要人の別荘爆破と、エスカレートしていく。(文・二井康雄)

<作品情報>

「未来を花束にして」

(C) Pathe Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2015. All rights reserved.

2017年1月27日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

公式サイト

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