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東京国際映画祭ディレクターが語る、日本映画界の課題「多様性が失われているのでは」

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/01/07 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 スペースシャワーTVの高根順次プロデューサーによる連載「映画業界のキーマン直撃!!」第10回は、東京国際映画祭(以下、TIFF)にて作品選定ディレクターを務める矢田部吉彦氏にインタビュー。TIFFの社会的な役割から、日本の映画界が抱える問題点や、昨今のアニメ映画の流行についてまで、忌憚のない意見を語ってもらった。(編集部) ■「日本らしい文化が映り込んでいることが期待されてしまう」

ーー矢田部さんは元銀行員なんですよね? どんな経緯で東京国際映画祭(以下、TIFF)のプログラミングを?

矢田部:映画の仕事がしたいと思い始めたのは、銀行の社内留学制度を利用してイギリスのロンドン郊外にある大学に留学したのがきっかけです。大学キャンパス敷地内の映画館は良いプログラムが組まれていて、とても面白かったんですけれど、ほとんどの作品は日本未公開だということに改めて気付いてしまったんです。そこで、もし海外の映画を日本に紹介するような仕事があるなら、自分はそれをやってみたいなと。また、映画祭という空間が大好きだったので、ビジネスにとらわれすぎずに、映画祭を手掛けてみたいと思うようになりました。その後、会社を辞めて自分で買い付け配給をしてみたり、映画祭のスタッフを手伝ったり、ドキュメンタリー映画のプロデューサーみたいな事をしているうちに、だんだんと映画祭の仕事が増えていって、12〜13年前くらいから映画祭に専念するようになりました。TIFFのディレクターとしては10年目ですね。 ーー公益財団法人ユニジャパンの社員として、TIFFに関わっているのですか? 矢田部:TIFFの運営はユニジャパンが行っていますが、僕はフリーランスとして契約しています。映画会社の出向者とフリーランスのスタッフが集まって、毎年やっている感じです。東宝、東映、松竹、角川の出向者がいますが、特に幹事会社があるわけではなく、フリーランスも出向者も関係なく溶け込んで一緒にやっているのが、面白いところでもあります。そのほかのスタッフはアルバイトだったり、学生インターンだったり。ピーク時の9〜10月はスタッフ数も多くなりますが、11〜12月には解散して、春くらいからまた動き始めるというパターンです。スタッフが一新されるのでノウハウが蓄積されないという批判があった時期もあるのですが、ここ10年くらいは通年のスタッフもいて、毎年開催できる体制は整っています。しかし、年に9日間しかないイベントなので、限られた予算の中でどうスタッフィングしていくかは、例年の課題ではあります。 ーーそもそもTIFFはどういう目的で運営されているのでしょう? 矢田部:1985年に、日本にも世界に通用する国際映画祭を作ろうと、各映画会社が政界とも手を取り合い、映画文化の振興を掲げて発足したのが始まりです。初期の頃は隔年開催でしたので、2017年で第30回になります。映画文化を盛り上げること、日本映画を海外に向けてアピールすることが、主な目的ですね。最近は外国映画の人気が落ち着いてきて、日本が少し閉じているような印象も受けるので、日本の映画ファンに外国映画をもっと観てもらうのも、大きなミッションになりつつあると考えています。 ーー僕自身は音楽業界にいて、音楽という表現は思っている以上に国境を越えられないと実感しているのですが、日本映画を海外にアピールするのも課題は多そうです。 矢田部:そうですね。僕の友人にトルコ人の監督がいるのですが、彼がとある映画祭に出品しようとしたら、「君の映画は面白いんだけど、トルコ映画っぽくない」という理由で断られて憤慨していたんですよ。「それはひどいね」って言って一緒に笑っていたんですけれど、映画祭のプログラマーとしては、向こうの言い分もわかるところがあって。我々もトルコなどの外国映画だと、どうしてもその国の伝統や風習が映り込んでいることを期待してしまうんですよ。同じように、日本映画にも日本らしい文化が映り込んでいることが、海外からは期待されてしまう。とはいえ、実際の日本と海外の方が思い描く日本にはやはり隔たりがあって、それを埋めながら万国共通で楽しめるものと考えると、なかなか難しい。是枝裕和さんや河瀬直美さん、最近であれば深田晃司さんがカンヌ映画祭を賑わしていますが、やはり国境の壁は高く、日本映画の海外進出はすごく大変なことだと感じています。 ーー一方でアニメ映画の勢いはすごいですね。『君の名は。』が海外でも高く評価されるなど、日本映画にとっては活路とも言えそうですが、矢田部さんはどう捉えていますか? 矢田部:アニメに関してはまったくの門外漢ですが、今年大きな話題となった『君の名は。』『聲の形』『この世界の片隅に』の三本は観ました。TIFFでもアニメ映画の特集をやるなど、近年は力を入れているところです。ただ残念なのは、日本のアニメが海外で受けているものの、日本のアニメ市場は外国アニメにほとんど興味を示さないんですよね。だから、東京国際映画祭に外国産のアニメの応募があっても、なかなか上映にまで至っていません。アニメに限らず、外国の作品に対する関心が下がっていることに、僕は大きな危機感を抱いているんですが、その原因のひとつとして考えられるのは、情報が多すぎて逆に届きにくいという皮肉な状況になっているからではないかと。10年前は年間500〜600本だったのが、いまは1200〜1300本近い作品が公開されています。そうなると、情報が散ってしまって多くの人はブロックバスター映画にしか目を向けなくなってしまう。作品が多くなったことで、かえって多様性が失われているというか。『君の名は。』がものすごくヒットしたのも、そうした状況に依るところもあったのでは。 ーー作品自体についてはどう思っていますか? 矢田部:『君の名は。』は、日本的な風景や文化を数多く盛り込んだことで成功した例ではあるものの、是枝さんも指摘していたように、“女子高生とタイムスリップ”はもう十分なんじゃないかなと、個人的には思っています。若い人たちが作る自主映画を観ていても、夏の青空と入道雲とセーラー服を映した作品があまりに多くて、少々辟易としています。もちろん、そういう作品を撮るなというつもりはないし、『君の名は。』は素晴らしい成功例だとは思います。ただ、海外のクリエイターの作品と較べると、幼稚な題材が目立つこともある。もう少し、大人の成熟した視点で作られた作品があっても良いのでは。 ーー“女子高生とタイムスリップ”に限らず、ただ消費されていくような作品が数多く作られて、結果として秀作が埋もれている状況だとしたら、それはもったいない感じがしますね。 矢田部:以前、ドキュメンタリー作家の松江哲明監督と「作れる状況ならどんどん作るべき」なのか「作れば良いってものじゃない」のか、話し合ったことがあって。松江監督は後者の意見で、僕自身も最近の状況を見て、少しそう思うようになってきました。クリエイターの 「映画を作りたい」という欲求は否定できないですが、 映画は人に見られて初めて完成するとも言いますし。作品数も多ければ良いというものではないのかもしれません。 ■「映画業界の側でも、ロビー活動をする必要がある」 ーー以前、『フラッシュバックメモリーズ3D』でTIFFに参加して、ほかにも音楽業界との違いを感じるところがありました。音楽のコンペティションなどでは、関係者の話題は作品の良し悪しに関してが中心となりますが、映画祭では配給会社の方々が宣伝効果を非常に気にしていました。こうした違いをどう捉えていますか? 矢田部:外国映画が日本に公開されるには、採算が取れるか否かが非常に重要で、良作ではあるものの日本で公開できない作品はたくさんあります。そうした作品を公開する場として、今ほど映画祭の存在意義が問われている時代はないでしょう。一方で、配給会社にとっての映画祭は、作品の宣伝の場としての意味合いが強くなります。我々は映画文化の多様性を重視していますが、配給会社の目的意識は必ずしもそこにあるわけではない。また、海外の権利元の立場からすれば、TIFFで上映するのは良いけれど、その後に日本に売れそうなので、あまり上映回数を増やさないでほしいといった要望があることもあります。ただ、結局は配給会社が決まらず、映画祭での少ない上映に留まったというケースになることも少なくありません。外国映画に触れる機会を増やしていくためには、今後は映画祭とネットでの配信サービスなどが連携して、そうした作品をうまく公開していける環境を整える必要があるのかもしれません。 ーー2016年のTIFFでは個人的には『鳥類学者』が素晴らしすぎて、観れただけでも大収穫でした。一方で、チケットトラブルがあり、批判も起こりました。今回は批判されても仕方がない部分もあったと思いますが、良作を上映しているのは確かなのに、それとは違うところで批判されがちな状況を、どう捉えていますか? 矢田部:もちろん、心が折れることはたくさんありますよ。ただ、国から助成金をもらって運営している以上、厳しい目で見られるのは当然のことです。特に日本は文化に使われる予算の割合が他国に比べて著しく低いですし、一番お金を出しているのが経済産業省だという事実もあります。つまり、日本における映画は、文化である以上に商品であるという認識が強い。そのため、商品としての扱かい方を問われるわけです。これは構造上、仕方のないところです。その中で『鳥類学者』のようなアート性の高い作品をいかに届けるかが僕の仕事なので、頑張るしかないですね。 ーーところで先日、是枝監督の『邦画大ヒットの年に是枝裕和監督が「日本映画への危機感」を抱く理由』(現代ビジネス)というインタビュー記事に対し、矢田部さんは反論していました。「“クール・ジャパン”と言って、公的資金を使ってカンヌ映画祭で、くまモンと一緒に写真を撮っている場合ではない」という意見に対し、「是枝さんのような影響力のある方がばっさりと切り捨ててしまうと、いよいよ何にもできなくなってしまう」と仰っていましたが、その真意を改めてお聞かせください。 矢田部:公的資金は、ないよりあった方が絶対に良いんですよ。是枝さんの言うことももっともですが、くまモンの件は去年の話だし、いまその話を持ち出す必要はないんじゃないかなというのが、僕の意見でした。是枝さんの発言で、せっかく予算をうまく運用して、一般的にわかりやすい施策をしながら、ちゃんと映画のためになる使い方をしようと工夫している方が、動きにくくなる可能性がありますよね。僕が直接なにか批判されたというわけではないですが、この件に関しては一言残しておきたかった。クールジャパンはあくまで経済のための施策であって、わかりやすい方向に行くのは致し方ない。ただ、お金はお金なので、それをどう工夫していくかが大事です。そのためには、映画業界の側でも、きちんとロビー活動をする必要がありますよね。とある政治家の方は、映画業界の力になりたいけれど、何をすれば良いのかが全然わからない、大作を手がける配給とインディペンデント映画のプロデューサーでは言うことが全然違う、と仰っていたそうです。まずは映画業界の側できちんと、どういう風に資金を回していくべきか、意見をまとめていく必要があるのかもしれません。 ーー文化庁の助成金も、小規模だけれど意義のある作品より、メジャー大作に出ていたりしますよね。 矢田部:助成金に育成という考えは薄いのかと思います。助成金を出したのに映画が形にならないのが一番困ることで、そうなるとある程度、実績がある監督の作品に助成金を出さざるを得ないのかと。税金を使う以上、回収の見込みを考えるのは当然のことで、それはある程度、仕方がないことなんだと思います。映画は文化だとはいっても、非常にお金のかかるものなので、芸術品としての扱いは難しいですよね。たとえ中規模の作品に助成金が出ても、今度は単年度決算で3月末までに仕上げる必要があったり。ドキュメンタリー映画などだと、完成が見えにくいものなので、どこで助成金の申請をするかも難しいところです。 ーーなるほど、難しいですね。あと、これは偏った意見かもしれませんが、映画は世間的にも非常にポピュラーな文化で、誰もが親しむものじゃないですか。義務教育で音楽の授業や美術の授業があるのなら、映画の授業があっても良いと思うのですが。 矢田部:それはすごく思います。僕の場合は生物の先生が授業の一環と称して、たくさんの映画を観せてくれたのがすごく良かったんですよね。そこから一歩進んで、中高生に映画を作ってもらったりすると、映画への見識もより深まり、結果として日本の文化的な素養を高めることにも繋がると思います。まずは映画祭の中で、そうした取り組みを行っていければと考えていますね。実際、大学にレクチャーに行ったときなど、「とにかく騙されたと思って見に来てくれ」って誘って、映画祭のことを知らない学生さんに来てもらうと、ほとんどの方は僕のところに来て、「めちゃくちゃ面白かった、本当に紹介してくださってありがとうございました」って言ってくれるんですよ。レッドカーペットとかがあって、敷居が高いものに思われがちだけれど、若い世代の方が来ても絶対に楽しめるし、料金だって決して高くない。もしかしたら「東京国際映画祭」なんて堅苦しい名前じゃなくて、音楽フェスティバルくらいカジュアルな名称にする必要があるのかな、なんてことまで考えてしまいます(笑)。誰もが楽しめるイベントなので、若い方にはどんどん来て欲しいですね。(高根順次)

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