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松坂桃李と菅田将暉の“等身大の姿”に共感! 歯科医のロッカー・サエキけんぞうが『キセキ 』を観る

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/02/02 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 これは、なかなかにリアルだ! 80年代よりお先に「歯科医のロッカー」をやってましたサエキけんぞうとしては、1シーン、1シーンが「そうだ、そうだ!」と頷かされた。(サエキは現在、歯科医はしてませんが)これは「GReeeeN」の真実が入ったストーリーと直感した。  厳格な医者の父親の下を飛び出したパンク・バンドのジン(松坂桃李)と、父の「医師をついでほしい」という願いをズラす形で歯科医を目指す弟ヒデ(菅田将暉)。ジンはふとしたことからヒデの音楽の才能に気付かされる。そしてヒデの同級生仲間に自分の夢を託すことを決める……という物語。  JINのことはサエキの音楽仲間から聞いている。PCを操る優秀なプロデューサーである。  JINの動きが重要だと思ったのは、GReeeeNが初期に関わった「UNDER HORSE RECORDS」(エドワード・エンターテインメント・グループ株)がユニークだったから。仙台市に本拠を置く、地方インディーズの草分けなのだ。MONKEY MAJIKなど、人気アーティストが所属。地方アーティストの牙城となった。2000年に仙台のレコード会社各社の営業所が全て閉鎖になり、そこに躍進のチャンスがあったということ。しかし他の地方都市は、そんなレコード会社は育たず、音楽情報がサビれたままになった。UNDER HORSEがいかに日本の地方の夢を背負ったか計り知れない。  まずJINとGReeeeNには、そうした裏ストーリーがあることを、映画を見る前に知ってほしい。GReeeeNは仙台のUNDER HORSEを通し、近所の郡山から東北の夢をしょって出たのだ。  冒頭にジンが自分の夢を託したパンク・バンドが登場。レコード会社がいかにも悪役然として登場し「あ~、いわゆるサクセス物語?」と思わせる。そのペースが一気に壊れるのはジンの弟ヒデ役、菅田将暉のホニャーっとした振る舞いの自然さがハンパないから。ファーストフードに、大学に、コンビニにいるいる、こういうクシャっとした学生。「あ~すいません~」とかいいながら現れるホゲホゲしたニクめない奴。菅田の地かもしれないが、半分閉じたような目の開き方をはじめとして、リアル大学生としての等身大ぶりがちょっと凄く、擦り寄るような息遣いに引き込まれる。  そんな兄弟の物語を際立たせるのは、絶対存在としての小林薫扮するおっそろしい父親と、当初悪役となっているレコード会社の、ダブル“父性”だ。サエキの注目は、この二者の振る舞いがどこまで「現実だったか?」という点に集約される。実は、サエキの「歯科医のロッカー」人生もその“壁”がポイントとなったからだ。  サエキけんぞうは、1978年徳島大学歯学部に入学。千葉で結成した「ハルメンズ」でレコード会社と契約できそう、ということになったので、親と大学を説得して休学。東京に戻り、非常にリスキーな状況の中『ハルメンズの近代体操』『ハルメンズの20世紀』という2枚のアルバムをビクターレコードから発売した。2枚目のレコード制作が頓挫しそうになった時「どうしてくれるんだよ!」とレコード会社のディレクターに胸ぐらを掴まれたこともあった。昔は豪傑のような管理職がいたのだ。  一方でサエキの父親は大変おとなしく“父性の壁”とはならなかった。「一生に一度だしやらせてあげれば?」という今時の甘い親の先駆だ。映画を観てのお楽しみだが、ジン&ヒデの父親は刀を出してきたり、ちょっと凄い。本当なのかなあ。  その怖さはそのまま、この父親の医者としての自負とつながっている。昔はよくこうした人がいた。今はいない。  自分や観客の映画を見る目線が、極めて社会的なもの、と気付かされた。この父親がしっかり怖いので“ありがたい”と感じさせられたのだった。誰でも患者になる可能性がある。そんな庶民にとっては「この父親ぐらい怖い方が、医者として頼りがいがあっていい」という感慨を持つはず。この父親がレコード会社のイヤミなディレクターと共に、GReeeeNの音楽も追い詰めて鍛える。  映画を見ると、父子の軋轢がGReeeeNを産んだのは、恐らく間違いない?という実感が得られる。これは凄いこと。色々な伝記映画があるが、今も流行ってる曲について、リアルな生い立ち物語が体感できるなんて、まずない。今、日本の国土から消えようとしている“しっかりしたコワいお父さん”の背中。それを映画館で、みんなで見つめる一方、麻生祐未のお母さんは綺麗で凄~く良いお母さん過ぎて、ちょっとうらやましくなっちゃう。いい家である。  特筆すべきは、ヒデの恋人役理香役の忽那汐里の好演。ヒデのライブに出会った時、クルクルっと嬉しそうに変わる表情筋の動きは、ちょっと事件なほどのリアルで可愛い! こんな表情、良く撮れたなあ、と思う。  今時のお部屋スタジオでのレコーディングシーンも凄くリアル。冒頭のパンク・バンドのレコーディングや、GReeeeNが、ボーカルユニットとして育つところも、ヤラセっぽさがない。あんな感じです。ジンがハードなロックから転じてソフトなヒップホップ・ポップスをプロデュースする、という転換が、玄人的に見ても非常に納得のいく呼吸で描かれる。ライブハウスで会場が沸いた瞬間に、後に日本中の人生を左右するようなヒットへの道のりが作られる。その現場感が描けたのは、JINが良くこの映画をスーパーバイズできているからだろうと思う。  サエキの80年代、歯医者をやりながらロックをやることは、巨大なシステムとの戦いでもあった。システムが“父性”の代わりに立ちはだかる壁だった。大学や医局の連中とギリギリの連携をとって何とか歯科医となり、診療に参加した。(角川文庫「歯科医のロック」参照=絶版ですが)。そんな環境で歌いたかったことはニューウェイヴ。崩壊の危機を内包した社会や人間関係について、テンションいっぱいの作品を作り上げてきた。トガっていなければロックではなかった。その戦いは僕の人生そのものだし、誇りに思っている。  一方、JINがふと発見したHIDEの優しさあふれるポップスの才能は、80年代バンドブームを経てJ-POPが90年代、日本の風土に定着した後、さらに2000年代の地方インディーズの時代に展開した。そこで生まれたのは、かつての演歌とは全く違ったやり方で、各地の人の気持ちを癒やす運命を持った純日本産のポップスだ。  歯科医としての面だしをせずに、曲だけで成功する、という離れ業が可能になったのは、成熟したプロダクションシステムから生まれた素晴らしいキセキだ。JINもHIDEも本当にベストを尽くしている。  JINとHIDE、UNDER HORSE RECORDSの東北からの挑戦には、このように非常に意義深い日本のロックへのトライが隠されている。実はそれがこの映画を重層的に強い構造にしているのだ。  お父さんが本当にどれくらい怖かったのかは、会うことがあったら聞かせてくれ!(サエキけんぞう)

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