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松江哲明の『ワイルド・スピード ICE BREAK』評:進化し続けるハリウッドの『ドラゴンボール』

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/05/15 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 『ワイルド・スピード』シリーズは第1作目からすべて劇場で観てきました。シリーズもので続いている作品の中では一番好きです。1作目を観た時はここまで好きになれるとは思いもしませんでしたが。ジャスティン・リンが監督を手掛けたシリーズ4作目〜6作目(『ワイルド・スピードMAX』『ワイルド・スピードMEGA MAX』『ワイルド・スピード EURO MISSION』)で作風をガラリと変えて(『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』も手がけていますが番外編ということで)、まるで『ミッション:インポッシブル』に対抗するかのようにスケールアップしていきました。そして、なんといってもシリーズの中心キャラクター、ブライアンを演じたポール・ウォーカーの遺作となった前作『ワイルド・スピード SKY MISSION』。あのラストは、今、思い返しても泣けるほどです。新世界のハッテン場の劇場で観た時でさえ号泣できました。  もともと、このシリーズは、『インファナル・アフェア』や『レザボア・ドッグス』、『ハートブルー』などに連なる「潜入捜査モノ」でした。潜入捜査官として調査をしていたはずのブライアンが、ヴィン・ディーゼル扮するドムの漢気に惹かれてしまい仲間(ファミリー)になってしまう。作品のトーンが決定的に変わったのは、4からです。犯罪者集団だったはずが、さらなる強大な悪に立ち向かうために、結束して仲間となる「チームアクションモノ」になった。  1〜3まではどこか尻すぼみになっていて、あの路線のまま続けていたら日本ではビデオスルーになっていてもおかしくなかった。それを1〜3の要素とキャラクターを盛り込み、素材を利用しながら4から再起動させたことは、ハリウッドの常識を覆したといえます。3のサン・カンの事故がジェイソン・ステイサムの仕業だったなんて作り手の「なんでも利用してやるぜ」という自信を感じました。  悪いヤツよりもっと悪いヤツが出てくると、かつて敵だったヤツが仲間になる。まさに『ドラゴンボール』というか、少年マンガの展開(笑)。物語がどんどんスケールアップしていくところも『ドラゴンボール』と似ていますね。街の不良が超人化していくのも。

 でも、ジャンルやスケール感は変化しても、このシリーズの好きな部分は1作目からずっと変わっていません。それは、人種を越えた結束を見せてくれる点です。アフリカ系もいれば、アジア系もいる。乗っている車もアメリカ車から日本車まで多様性があります。彼らが結束していく理由も、権力やお金といったものではなく、あくまで「生き様として格好いいか、そうじゃないか」、「男気があるか、ないか」。今の時代と反比例するような彼らの精神的な繋がりを重視する姿が、多くの観客に受け入れ続けられている理由のひとつになっていると思います。

 ハリウッドメジャー映画であれば、白人のポール・ウォーカーが主役になるのが自然です。でも、このシリーズでは、一作目からヴィン・ディーゼルがクレジットでも先に記載されている。ヴィン・ディーゼルが上になることで、他のキャストも引き立っているんです。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』や『ローグ・ワン』の多人種キャストも話題になりましたが、メジャー映画で人種の壁を取り壊したのがワイスピシリーズの革命だと思います。  最新作の『ICE BREAK』は、レースシーンや最後の“打ち上げ”シーンなど、シリーズお決まりの部分を押さえつつも、一線を越えてしまった部分も感じました。CGとリアルなカーアクションの比重が、今までと逆転してしまったのです。邦題の通り、氷上でのカーアクションが見どころではありますが、氷上や砂漠といった広大なフィールドが生かされているとは言い難い。どこまで走っても似た風景が続いてしまって。障害物がない分、空間をどうやって車が動くのか、時間制限がある中でのギリギリのアクションの見せ方が、過去シリーズに比べると薄れてしまったように思います。

 もうひとつの問題点として、本作の悪役・サイファーを演じたシャリーズ・セロンが、モニター越しに怒っているだけで芝居に動きがなさすぎる。『マッドマックス 怒りのデスロード』では見事な運転技術を見せているだけに、彼女のカーアクションこそ見せてほしかった。次回作以降の見せ場として温存しているのかもしれませんが。

 とはいえ、監督を務めたF・ゲイリー・グレイは、前作『ストレイト・アウタ・コンプトン』や僕の大好きな『ミニミニ大作戦』など、群像劇をアクションと絡めながら描くのが非常にうまい。今作でもあれだけのキャラクターを、誰も埋没させることなく、見せ場を作っているのは流石の手腕です。今回は主人公・ドムがファミリーを“裏切る”。この展開も少年マンガでも新章が始まるときによく使われる手法ですね。そういった意味でも、本作は起承転結における「転」であり、次回作へのジャブになっているかなと。ポール・ウォーカーの死によって、映画の奇跡を起こしてしまった前作と比べるのは酷ですが、次回作、次々回作に向けて期待が高まる作品になっています。悪役を演じたシャリーズ・セロンも、シリーズ10では仲間になっていそう。  様々な国のハグレものたちが集いながら“ファミリー”となっていく『ワイルド・スピード』シリーズを見ていると、僕は自然と涙してしまうんです。世界に戦争や差別がなくならない現実がある中、映画が理想を描くと現実もそうなるんじゃないかと思えて。ハグレものたちが集い共同体となっていく映画は、日本で言うと『闇金ウシジマくん』が似ているかもしれません。その意味では、山田孝之君なら“ファミリー”に参加しても違和感なく溶け込めるんじゃないかな(笑)。(松江哲明)

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