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松田龍平 × 山下敦弘『ぼくのおじさん』対談 山下「自分で言うのも何ですが、このタッグは面白い」

Real Sound のロゴ Real Sound 2016/11/04 株式会社サイゾー
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 松田龍平と山下敦弘監督が初タッグを組んだ映画『ぼくのおじさん』が、公開された。北杜夫の同名小説を原作とする本作は、松田扮する偏屈で変わり者な「おじさん」と、大西利空扮する甥っ子・春山雪男の凸凹コンビが騒動を巻き起こす“バディ”ムービーだ。ほのぼのとした日本での日常を描いたシーンから、「おじさん」が一目惚れをしたエリー(真木よう子)を追いかけてハワイに飛び立つ“ラブストーリー”まで、山下監督ならではの演出が刻まれた作品となっている。リアルサウンド映画部では、主演の松田龍平と山下敦弘監督にインタビュー。お互いの印象や、奇跡が起きたラストシーンの撮影エピソード、そして「おじさん」の魅力について語ってもらった。 ■山下「龍平君とできると決まってドキドキしてました」 −−今回、タッグを組むことになった経緯は? 山下敦弘(以下、山下):企画を立ち上げた須藤泰司プロデューサーが、この原作を映画化したいってずっと思い続けていたようです。須藤さんの中では、「おじさん」が龍平君、監督が俺って最初から頭の中にあったみたいで。オファーが来た時点で龍平君が「おじさん」役に決まっていたので、それなら是非と。 松田龍平(以下、松田):僕も、山下さんが監督なら是非やらせていただきたいと。山下監督の作品はほとんど観ていました。すごく好きです。『ぼくのおじさん』はゆったりした映画なので、『天然コケッコー』を思い出しました。 山下:俺も龍平君が出演している作品は観ていましたが、自分の作品に出てもらうことになるとは想像もつかなかったですね。『ぼくのおじさん』で龍平君とやると決まった時は「ちょっと待てよ?」と戸惑いつつ、すごいドキドキしました(笑)。自分で言うのも何ですが、このタッグは面白いと感じましたし、龍平君も想像もしてなかっただろうなと。実は北杜夫さんの原作はオファーをいただくまで読んだことがなかったんです。でも、作品への思い入れはプロデューサーの須藤さんが抱いていたので、そこはお任せしました。僕自身は、龍平君と一緒にできることにモチベーションが上がっていた感じです。 −−初めて対面した時、どんな会話をしましたか。 山下:映画が決まった段階で、龍平君が「会いましょう」と連絡してくれました。原作小説は1962年に雑誌で連載されていたものですが、ストーリーや台詞はかなり原作に沿った形にしました。時代背景が50年以上も違うわけですから、そのままやったらおかしくなるとは思ったんですけど、あまり現代風に直してしまうと原作の持つ味が消えてしまう。それでは、この作品を映画化する意味がなくなると矛盾を感じたので、どうしたものか悩んでいたんです。でも、龍平君に会えばきっと何か答えを持っているだろうと思ってたら、龍平君も「どうしましょう」って(笑)。 松田:お互いに一度持ち帰って、改めて考えましょうという感じでしたね(笑)。 山下:次に会うのが衣装合わせと分かっていたので、そこで答え合わせをしようと。 −−おじさんの靴下に穴が開いていたり、眼鏡のデザインだったり、衣装のこだわりが細部まで行き届いていると感じました。 山下:衣装合わせの時点では、龍平君の「おじさん」もまだ探り探りだったよね。メガネも色んなタイプがあって、全部が微妙に違うんですよ。最終的にいまの物になるまで、何十種類もかけてみてね。 松田:メガネもそうでしたが、一番「おじさん」がしっくりきたのは、あのベストを着た時ですかね。 山下:そうそう。ベストを着た龍平君を見たら、ああこれだ!って感触があった。これなら原作に沿った形でも問題ないと確信できました。 −−松田さんは「おじさん」として現場に入ってみてどう感じましたか? 松田:まず、春山家は昭和の香りが感じられる家でとても居心地がよかったです。この家なら、「おじさん」が万年床になってしまう気持ちもよく分かるなと。「おじさん」の兄を宮藤(官九郎)さんが演じて、その奥さんを寺島(しのぶ)さんが演じる。お二人とは初めて現場でお会いした時に、妙にしっくりくるものがありました。宮藤さんが口髭をたくわえて着物を着ている姿を見て、「あ、こういう感じか」と思って。 −−春山家の雰囲気が絶妙ですよね。 山下:宮藤さんの口髭とかどこまでやっていいか賭けでしたからね(笑)。しかも宮藤さんの撮影はたった1日で、クランクインしたと思った途端にクランクアップでした。ようやく暖まってきたのに終わっちゃったのが残念でしたね。 −−寺島さんもこれまでとは違った演技を見せてくれています。特に、子供たちにお土産を求められた「おじさん」が、意地悪でムカデのおもちゃを買ってきた時の反応は印象的でした。 松田:寺島さんのお母さん役もすごくいいですよね。初めに脚本を読んだ時、このシーンを一体寺島さんはどう演じるんだろう?ってみんなで話していたんです。そしたら、あの絶叫からの失神で。 山下:百歩譲って、ムカデのおもちゃを本物と勘違いして失神するまでは、自分の中のリアリティとしてあるんですよ。でも、雪男が「ママ、偽物だよ」って耳元で言うと、ムクっと起き上がるじゃないですか。なんでなんだろうって考え出したらまったく分からなくなって(笑)。 松田:「おじさん」は「おじさん」で、倒れているお母さんを心配はせずに放っておくじゃないですか。雪男たち相手に、冷静にウンチクを語っている「おじさん」っていう画が想像できなかったんです。「おじさん」を演じる上で、それでいいのかなと思っていたんですけど、いざやってみたら全然できちゃった(笑)。 山下:普通、母親が目の前で失神したら泣きますよね。自分が子供だったらすごい恐怖だな、とか色々考えてたんですけど、子供たち二人は当たり前のように芝居してる。寺島さんも失神する気満々でね。余計なこと心配していたのは俺だけかと(笑)。 ■ラストシーンで訪れた映画の“マジック” −−この映画を語る上で欠かすことができないのが、雪男を演じた大西利空君の存在感です。おじさんと雪男の関係性がこの映画の肝とも言えますが、日本パートからハワイパートへと移行していく中で、松田さんと利空君の関係性がより深まっているように見えました。 松田:日本での撮影が終わってからハワイでの撮影まで、少しだけ時間が空いたんです。その期間、利空と離れていたら、自分が「おじさん」をまた演じられるか急に不安になってしまって。考えてみると、雪男が「おじさん」にとっての鏡になっていたんですね。利空が演じる雪男の顔を見ることで、自然に「おじさん」になっていったんだなと再確認したんです。だから、ずっと一緒にいるハワイパートの方が、親密度は自然と高くなったかもしれないです。 山下:日本で撮影している時は、二人の関係性はそうでもなかったんです。日本パートでは、利空は妹がいるお兄ちゃん役でもあった。もちろん、龍平君とのシーンが多いんだけど、家族がいて、学校もあって、雪男にとっての世界は「おじさん」だけじゃなかった。それがハワイに行ってからは、ある意味二人だけの世界になる。だからか、利空もハワイに来てから急に頼もしくなって。雪男がこの映画の語り部であり、雪男あっての「おじさん」なんだ、というのがハワイパートでよく分かりましたね。利空は誰よりもシナリオを読み込んでいて、本当に頼もしかったです。日本パートでは、どこか「おじさん」の観察者で受け身の演技だった利空が、ハワイパートでは龍平君をどんどん引っ張っていく存在感を見せてくれました。 −−「おじさん」と雪男、二人が最後に夕陽を見て、そのままエンドロールに入りますが、このシーンの二人の表情、幻想的な雰囲気がとても素晴らしかったです。 山下:ロケハンした時からあの農園から見える景色がすごくいいなと思っていたんです。決して有名なスポットではないんですけど、どこかで使おうと考えていました。結果、ラストを飾るシーンとなったのですが、当日は天気が不安定で撮影が大変でした。 松田:ラストシーンを撮影している時、フィナーレ感がすごかったのを覚えてますね。 山下:現場でそんなこと感じてたの? 松田:感じていました。幻想的な夕陽を見ながら、利空が海にクジラが見えたみたいなことを言い出しまして。二人で「クジラどこ?」って探している中で、あの夕陽に包まれていたら不思議な気持ちになっていました。 山下:あのシーンを撮るギリギリまで土砂降りだったんだよね。諦めて帰ろうかなと思ったタイミングで、パッと晴れて「今だ」と。 −−「おじさん」が、これまでとは少し違う“大人”になった雰囲気をまとっているようで、印象深かったです。シリーズ物としてずっと見ていたい気持ちになりました。 山下:俺もやりたいと思っていますけど、龍平君がどう思っているか次第かな(笑)。 松田:是非やりたいですね。早くしないと利空がどんどん大きくなっちゃいますし。続編を作るとしたら原作がない分、また自由なこともできますよね。 山下:みんなで話していた中で候補として出てきたのはドイツだったよね。おじさんは一応哲学者なので、カントやニーチェの故郷であるドイツを目指すんじゃないかって。 −−「寅さん」シリーズのように老若男女が楽しめる作品になっていきそうですね。 山下:小学生の頃、1年に1回くらい体育館とかで映画鑑賞会があったじゃないですか。ああいう場で上映してもらえる作品になれたらいいですね。俺が小3とか小4だったら「えー、『ぼくのおじさん』?」とか言いながらブーブー言いながら見に行くんですけど、見終わった後に一番興奮しているタイプなんです(笑)。「意外と良かったな」みたいな。そういう映画になって欲しい。 −−実際に、この映画の「おじさん」がいたらどうでしょうか。 松田:割と可愛げのある「おじさん」ではありますよね。でも、映画の「おじさん」は、あくまで雪男の目線で見たイメージの「おじさん」なので。実際にいたらそんなに可愛げがある人じゃないですよね。かなり面倒くさい人だと思います(笑)。 山下:「おじさん」には雪男が必要なんだよね。 松田:雪男が見るからこそ可愛げが出るんですよね。 山下:でも、映画界には「おじさん」に似ているような人、社会不適合者は結構いるんですよ(笑)。「おじさん」は哲学という、ある種答えのないものを研究する人間じゃないですか、映画を作る行為も哲学と似ている部分があると思うんです。そういった部分で言うと、大体の映画監督はおじさんと似ている部分があるんじゃないかなあ。 (取材・文=石井達也 撮影=三宅英正) ■松田龍平 ヘアメイク 須賀元子 スタイリスト 坂元真澄(The VOICE)

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