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格安SIMの通信速度が遅くなる要因は何か

ITmedia Mobile のロゴ ITmedia Mobile 2017/07/24
昼のMVNOは全て0〜1Mbps台に 「格安SIM」17サービスの実効速度を比較(ドコモ回線6月編): 【その他の画像】 © ITmedia Mobile 提供 【その他の画像】

 MVNOが提供する通信サービス(格安SIM)は、通勤時やランチ時に通信速度が下がるといわれる。一方で、MVNOは定期的に帯域を増強し、快適な通信を提供できるように努力している。また、MNO(キャリア)は技術革新を続け、規格上の通信速度は上がり続けている。しかし、実際にスマホでWebサイトを見ていると、数値ほど速度が上がったようには感じられないことがほとんどだ。

 通信速度はなぜ遅くなるのか。そもそも通信速度はどのようにして測っているのか。通信速度に影響を与える要素について、インターネットイニシアティブ(IIJ)の基盤開発課長の掘高房氏がIIJmio meeting 16で説明した。

●通信速度はどのように測るのか

 コンシューマー向けの通信サービスで通信速度は「最大○Mbps」と表記されているが、この値は理論値で、この速度を保証しているものではない。いわゆるベストエフォートだ。ベストエフォートのサービスにおいて、理論値と実効速度のギャップは「永遠のテーマ」(掘氏)。IIJmioのフレッツやモバイルサービスでも速度低下についてユーザーから不満や要望をもらっている状態だという。

 ところで、通信速度はどのようにして測っているだろうか。スマホを使っていると、Webサイトの表示が遅いとき、画像が表示されないとき、動画が止まるときなど、遅いと感じることが結構ある。これも通信速度を体感で測っているといえるのだろうが、ある程度の速さを超えると体感では速度を感じにくくなる。

 数字で確認したいときは「みんな大好きなスピードテスト」で計測することが多い。数字が出てくるので分かりやすいが、「分かりやすすぎるところもあって、われわれも悩んでいる存在」(掘氏)でもある。

●スピードテストで測る通信速度は何か

 一般ユーザーがよく使うスピードテストには、大きく2つの測定項目がある。「ダウンロード/アップロードの速度(bps)」と「ping(秒、ミリ秒)」だ。ダウンロード/アップロードの速度は、端末と計測先のサーバとの間で単位時間に転送できたデータ量を表す。スループットといわれるもので、一般的に通信速度といえばこれを指している。計測方法はアプリによって異なるが、多くはTCP(Transmission Control Protocol)で計測するのが一般的だ。pingは、端末と計測先サーバの行き帰りでかかった往復の時間で、Round Trip Time(RTT)、つまり遅延を表している。

 これら数値から分かることは、ある計測先とのTCP 1セッションの実効速度だ。また、計測先とのICMP(Internet Control Message Protocol)を使ったときの遅延がミリ秒で出てくる。

 逆に分からないこともある。計測先サーバとの通信で、どれだけパケットロスしたかは分からない。また、遅延がどれだけ“ゆらいで”いるかも分からない。遅延はゆらぐとVoIPの音声が聞きにくくなるという。自分が使うアプリの速度も分からない。

 ちなみに、通信速度は「bps」で表されるが、1秒あたり何パケット送れたかを表す「pps」という単位もあるという。ppsはネットワーク機器の性能を表すときに使われるという。

●なぜTCPで測るのか

 IIJのサービスで流れているトラフィックの内訳のグラフがあるが、TCPによるトラフィックが2017年でも9割近くに上る。2015年と比べると「UDP(User Datagram Protocol)」が増えており、増加したのは443/UDP(QUIC)という新しいプロトコル。それでも、実利用でモバイルネットワークを流れている通信の大半はTCPによるものだと分かる。「一般的に使われるプロトコルで測ると、実際の速度を表しやすいということで、TCPを使って測っているのではないか」と掘氏は推測している。

【訂正:2017年7月25日0時53分 初出時に『2015年と比べるとオレンジ色の「UDP(User Datagram Protocol)」といわれる新しいプロトコルが増えている』と記述していましたが、増加したのは「443/UDP(QUIC)」でした。おわびして訂正いたします。】

 TCPは、1981年ごろに登場した、インターネット上で標準的に使われているプロトコルだ。信頼性を重視した設計で、確実に相手にパケットを届けられる設計になっているが、UDPに比べると非効率なプロトコルだ。混雑や欠損への対策、順序逆転、重複などに対処ができ、枯れたプロトコルにもかかわらず、今も研究や拡張が続いているという。

 TCPは、通信を始める前に、相手と確実に送受信できる状態かを確認して通信し始める。パケットを1つ送ったら、相手からの応答を待ってから次を送るという、丁寧なやり方をとっている。相手から応答がないと再送する。まとめて送る仕組みもあり、受信側が忙しくて受信できないときは、送信を止める制御の仕組みも備えられている。

 最初はゆっくりパケットを送り始めて、徐々に通信速度を上げていくスロースタートという仕組みも採用している。また、送ったものの、相手から応答がないとペースを落とす混雑制御の仕組みもTCPのプロトコルに実装されている。

●速度低下の大きな要因はPOIの帯域不足

 携帯電話のデータ通信ネットワークには、端末、基地局、SGWとPGWがあり、その先がインターネットにつながっている。各ノード間をつなぐデータの通り道を「ベアラ」というが、ベアラをつなぎ合わせることで、最終的に端末がインターネットにつながる。各ベアラで発生している事象が、端末とインターネット上にあるサーバとの通信や速度に影響していく。

 とはいえ、IIJmioの場合、借りているドコモやKDDIのネットワークは強固に作られているので、ここの問題によって全国的に速度が遅くなることはあまり起こらないという。IIJ自身も長年ISPとして事業を運営し、全世界にネットワークを張り巡らせて強いネットワークを作っているので、「インターネット側の事象によって最終的に通信が遅くなることはあまりないと思っている」(掘氏)。

 では、どこが速度低下の要因になっているのか。掘氏によると、やはり一番はMNOとMVNOの間の「POI(Point Of Interface):相互接続点」と呼ばれる部分だ。「POIの帯域不足が速度低下の要因になることが、正直申し上げて一番多い」(掘氏)。POIの帯域は、MVNOがMNOから購入する接続帯域。MVNOが「帯域増強する」といった場合は、ここの帯域を増やしていると思っていい。

 なぜPOIの帯域が不足するのか。さまざまな要因があるが、「短期的には需要の読み違えから不足する」。POIの帯域は、MNOに「○Mbps欲しい、○Gbps欲しい」と申し込む。その際、書類のやりとりが発生するので時間がかかるという。「だいたい1カ月先の需要を見越して帯域を増強しているが、突発的なイベントやOSアップデート、アプリのアップデートなどがあると読み違いが発生し、予測を外すことがある。ただ、「短期的なので、しばらく我慢すると直る。それに対策も1カ月あればできる」(掘氏)

 もう1つの要因は、MVNOのビジネス的要因だ。MVNOは大手キャリアよりも安くサービスを提供している。「ISPやMVNOは設備産業なので、究極的には一定の設備、ここでいえば帯域にいかにたくさんのユーザーを“詰め込んで”、ギリギリの設備でやり繰りしたいのが本音。POIの帯域は、昔から比べるとかなり安くなってはいるものの、コストに占める割合はかなり大きいので、潤沢に足すことはできない」(掘氏)。コストと品質のバランスを最適に保つことがMVNOの事業のキモであり、「一番悩ましいところでもある」。

●POIが混雑したらどうするか

 読み違いが発生して、POIが混雑してしまったらどうするか。「できることはそんなにたくさんあるわけではない」といい、「どれかのパケットを破棄する(パケットドロップ)か、帯域に余裕が出るまで、ほんの一瞬だが送信を我慢(バッファリング、キューイング)」するという。

 パケットドロップについては、通信事業者が自由にパケットを破棄していいわけではなく、通信の秘密やユーザー間の公平性、ネットワークの中立性といった制約がある。事業者の一方的な都合で、好き勝手に破棄するパケットを決めることはできない。

 また、トラフィックは一定に流れているように見えるが、一瞬、一瞬をとらえると波があるという。そのため、送信を遅らせ、空きができたタイミングで流すことができる。これがバッファリング、キューイングだ。蓄えられる量には限りがあるので、遅らせられるのは長くても100ミリsecとか200ミリsec程度だが、一瞬、遅延する。

●パケットの破棄と遅延、対策としてはどちらがいいのか

 パケットを破棄してしまうと、TCPの特性としてパケットを再送する。こうなると、データを1つ送りたいだけなのに、実際にパケットは2つ、3つに増えてしまう。一方、遅延が発生すると通信速度が低下する。POIの混雑が避けられないときには、パケットドロップとバッファリング、キューイングのどちらの対処が良いのだろうか。

 掘氏は「流れているネットワークの特性や、通信事業者として何を重視するかにも依存するので、簡単に答えを出すのは難しい」という。破棄すると無駄なトラフィックが発生し、さらに混雑を生む。ただし、TCPの仕組みでパケットロスが起こると自然に速度を下げる仕組みを持っているので、そのうち再送が減る傾向になる。

 一方、多少遅延が発生しても、最終的には無駄なパケットを送ることなく通信は成立する。しかし、遅延が発生するとリアルタイム性が求められるアプリは使いにくい。また、一瞬ではあるがパケットを蓄えないといけないので、ネットワーク機器のリソースが必要になり、機材が高額になる。

●IIJとしての考え方

 IIJとしては、極力再送を減らすように制御しているそうだ。再送はさらに混雑を生むことになるので、混雑が始まったら各端末の送信ペースを落とし、さらに混雑が発生しないように制御する。

 “使ったもの勝ち”にならないよう、公平性を重視したネットワーク設計にもしているという。混雑している状態でも、ある程度の速度が出るように極力帯域を確保し、使った分に対してユーザーが等しくコストを負担してもらうモデルになっている。

 さらに、遅延は一定にするように制御しているという。遅延がゆらぐとVoIPが使いにくくなるため、実利用での品質を重視し、遅延が多少大きくなっても極力一定にするような設計だ。

 掘氏は「優れた土管を目指している」とIIJの姿勢を表現。土管なので通信の中身には基本的に触れず、全てのパケットを等しく扱う。一方、IIJのネットワークの特徴として、「どちらかというと他社と比べてRTT(応答時間)が長い」といい、その結果として、スピードテストのRTTの値やスループットの値が悪く出やすいと認識している。

 速度対策にはさまざまな方法があるが、最終的には「ドコモ、KDDIから帯域を買うのが一番手っ取り早い。結果も一番出る」といい、堀氏は「増強は正義」と断言する。しかし、企業としては利益を出さなくてはならない。「短期的にお金をつぎ込んで品質を良くしても、それが続かなくて品質がガタ落ちしては意味がない。将来に渡って安定したサービスを続けるのが通信事業者の責務。ユーザーの満足と事業者の利益のバランスをとって、最適化する方法をずっと考えながらやっていく」と語り、IIJのネットワークに対する考え方を示した。

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