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業界初、資生堂が84インチ「Surface Hub」を導入した理由

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2016/12/14
業界初、資生堂が84インチ「Surface Hub」を導入した理由: 未来創造局の萩原なつらさんと「Surface Hub」の導入を担当したグローバルICT部の中田香奈さん © ITmedia エンタープライズ 提供 未来創造局の萩原なつらさんと「Surface Hub」の導入を担当したグローバルICT部の中田香奈さん

 オフィス内で、社員同士のコミュニケーションを活性化させたい――そう考える企業は多いのではないだろうか。最近はコミュニケーション活性化をテーマにオフィスのデザインを変えたり、IT機器を導入する企業も増えてきている。

 大手化粧品メーカーの資生堂もそんな企業の1つだ。同社は2016年9月、汐留オフィス内に、社員のための多目的ワーキングスペース「SHISEIDO PIT」をオープンした。

 このSHISEIDO PITを企画、運営するのは、未来創造局という名の部署。SHISEIDO PITの中には、84インチの大画面端末「Surface Hub」が設置されているのが目を引く。SF漫画に出てきそうな部署名も、最新のIT機器を導入したという話も「化粧品の老舗ブランド」という資生堂のイメージとは異なるような……。

 同社で今何が起こっているのか。SHISEIDO PITのプロジェクトを進めている、未来創造局の萩原なつらさんとSurface Hubの導入を担当したグローバルICT部の中田香奈さんに、同社で何が起きているのか聞いた。

●サーキットの「ピットインレーン」をイメージした空間

 SHISEIDO PIT(以下、PIT)があるのは資生堂の汐留オフィス。天井が吹き抜けになった明るいスペースだ。入り口近くには、コート掛けと荷物を置く場所が用意されているが、これは汐留オフィス内の社員だけでなく、他のオフィスで働く社員が立ち寄るケースを考えてのものだという。

 在宅勤務制度もあり、11月の「テレワーク月間」には、各部署で社員のテレワークを推奨したという同社だが、自席以外にPCを持ち出して働くことに慣れていない社員がまだまだ多いそうだ。「自宅やカフェで働くということに対して、メリットやイメージが湧きづらい人もいると思います。まずは、社内のこの場所で仕事をしてみることが、ワークスタイルを変えるきっかけになれば」(萩原さん)

 PITという名前の由来は、サーキットにあるピットインレーンだ。社員が「未来に向けて動き出せるエネルギー」を素早く補充するイメージから名付けたという。社員が気分を変えて仕事ができるスペースであるとともに、社員同士のコミュニケーションを促す仕掛けが至るところにちりばめられている。

●シャイな社員たちに交流を促す秘策、コーヒーマシンにあり!?

 例えば、PIT中央に設置しているコーヒーマシンもその1つだ。コーヒーを無料で飲める場所だが、ここにも社員の交流を促す仕掛けがある。

 「このコーヒーマシンは、1杯のコーヒーをいれるのに40秒ほどかかります。『2台置きませんか』と言われましたが、あえて1台にしているんです。そうすると、皆さんコーヒーを飲むためにここで待つことになりますよね。その間に『どこの部署ですか?』とか『今日寒いですね』とか、そんな会話が生まれればと考えています」(萩原さん)

 この場を使ったワークショップやセミナーなどの企画も多い。イベントを主催するのは未来創造局以外にも、IT部門やリサーチ部門、グループ会社などさまざまだ。単なる飲み会ではなく、「知識や経験の共有」という要素が含まれるのであれば、夜はアルコールを持ち込んでもよいのだそうだ。

 萩原さんいわく、資生堂の社員はシャイな人が多いという。「今までは交流のなかった社員同士がそれぞれの知識を交換し、新たなアイデアの誕生につながるように、今後も工夫を凝らしたい」と語る。

●社員の要望から生まれた「PIT」、口コミで広がる

 萩原さんが所属する未来創造局は、社内公募でメンバーが集められ、2015年4月に新設された部署だ。そのミッションは「100年先の資生堂の未来を考え、社員のトライを後押しする」。社員のアイデアの具現化や部門を超えた連携を、ボトムアップで推進していくことが求められているという。

 部が結成されてすぐ、局員らは「未来創造マラソン」と銘打ち、100年先の会社のあるべき姿について、全国の社員にヒアリングしてまわった。PITはその中で挙がった「もっといろいろな社員とコミュニケーションしたい」「自由な発想が出やすい、開放的なオフィスが欲しい」といった意見を基に企画された。

 「PIT」は普段社員が行き来する動線から少し離れた場所にあるため、同じビルで働いていても、まだ存在を知らない社員もいる。それでも、オープンして3カ月で毎月のべ500〜600人の社員が訪れたという。目立たない場所にあることでかえって“秘密基地”のような存在となり、一度訪れた社員が他の社員を連れてくることが増えているそうだ。

 萩原さんは、「エレベーターに乗っていたら、『ちょっといい場所見つけたから、今度のミーティングはそこでやろうよ。コーヒーが飲めて、PITって名前なんだけど……』という会話が聞こえてきて、『やった!』と思いました」とうれしそうに語った。

●「これ、本当にいるの?」と言われた84インチ「Surface Hub」

 PITの奥のスペースには、入り口よりもさらに大きな本棚があり、その中心に84インチのSurface Hubが設置されている。84インチのSurface Hubを導入したのは、化粧品業界では資生堂が初めてという。

 Surface Hubは普段、社内情報サイトと未来創造局などの社員がキュレーションした動画が流れるオリジナルのアプリが表示されている。ミーティングに利用するのも自由で、ビジュアルの多い資料を大きく映してみんなで見たり、Skype for Businessを使って他のオフィスの社員と会話したりといったことに使われているそうだ。

 Surface Hubの導入は未来創造局の発案で、グローバルICT部(IT部門)の中田さんに相談したという。

 「この場所を作るにあたって、さまざまな情報を集めていたときに『Surface Hub』を知り、ぜひ使いたいという話になって日本マイクロソフトさんにお願いました。ホワイトボードやプロジェクターではなく、Skype for Businessが使えるSurface Hubならば、遠隔地の社員とこの場所をつなぐことができると考えました」(萩原さん)

 プレゼンテーションとオンライン会議のためと考えると、高い買い物のようにも思えるが、未来創造局では、さまざまな用途で活用できそうという“ポテンシャルの高さ”に魅力を感じたのだという。しかし、相談を受けた中田さんは、「IT部門の人をどう説得するか」が課題になった。

 「グローバルICT部内では、『これ、本当にいるの?』という反応でした。ただ、それまでに未来創造局がいろいろな新しいことに取り組んでいる様子を見ていて、何か生まれるものがあるんじゃないかということで、周囲を説得し、導入のサポートをすることになりました」(中田さん)

 もちろん、中田さん自身もSurface Hub導入のメリットは理解していた。Skypeが使えることや、2つのアプリを同時に表示できることの便利さに加え、映像の美しさやスタイラスペンでの手描き機能に注目していたという。

 「これまで何度か、電子ホワイトボードの導入を検討したことがあったのですが、『やっぱりアナログにはかなわないよね』という結論に至っていました。でも、Surface Hubは今まで試した製品に比べて反応が早く、書き味が断然良くて、感動しました」(中田さん)

●リアルな場を起点に、遠隔地の社員ともつながる場所に

 中田さんも萩原さんも、決して社員の平均的なITリテラシーが高いとはいえない同社で、個々の社員がSurface Hubを使いこなせるのか、という心配があったという。

 そのため、アプリは極力分かりやすいデザインを心掛け、「PIT」に常駐するコンシェルジュが操作方法を教えたり、あえて有線のコネクタを見えやすいところに出して、PCとつなげやすくしたりするなど、さまざまな工夫をしている。

 「歴史が長い会社ということもあり、資料を紙で配る文化が根強いなど、働き方に改善の余地があります。PITでSurface Hubを使ってみて『大画面で映した方が見やすいよね』など、新しい働き方やITツールの良さにだんだんと気付いてもらえればと思っています」(中田さん)

 PITもSurface Hubの利用もまだ始まったばかり。ホワイトボードやオンライン会議以外にどんな使い方ができるのか、部内やさまざまな社員と考えていきたいという。中でも今萩原さんが注目しているのは「アイデアを生み出す」という役割だ。

 「先日は遠隔地のオフィスの方にここを使って知ってもらう機会を作ったので、今後はそれぞれのオフィスからPITにつながってもらいたいです。未来創造局のメンバーは公募で集まったこともあり、私も含めて地方にいた人も実は多いんです。

 だから、地方の元同僚たちにもぜひ、PITでやっているセミナーやいろいろな企画に参加してほしいという気持ちがあって。ここに来られなくても、オンラインで見てチャットで参加できるだけでも違いますよね。PITで起きる“知の交換”が他の場所にも広がっていくような仕掛けを、今後も考えていきたいです」(萩原さん)

 萩原さんと中田さんからはPITを、そこでリアルに顔を合わせる社員たちのためだけのものにせず、ICTによって全国の社員がつながりあうハブにしていこうという意志が感じられた。“リアル”と“IT”の力を合わせた新たな取り組みで、老舗の日本企業の文化はどう変わるのか――彼女たちの挑戦は始まったばかりだ。

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