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残業代ゼロルールは、ゆとり教育?“世界唯一の尺度”お金を悪とみる日本の不思議

サイゾー のロゴ サイゾー 2014/05/31 Cyzo

 5月27日、政府は年収数千万円以上の高度な専門職の人を労働時間規制の対象外とし、仕事の成果だけに応じて賃金を払う新制度、いわゆる「残業代ゼロ・ルール」を導入する方針を固めた。成長戦略にも同ルールが盛り込まれることが決まったが、連合は「企業は『成果が出ていない』と言って、残業代なしに社員を長時間働かせることが可能になる」と反発するなど、賛否の議論を呼んでいる。

 そんな残業代ゼロ・ルールを「まるでビジネス界のゆとり教育」と批判するのが、国内大手生命保険会社に20年間勤務後、世界50カ国でビジネスを展開するスイス系金融コングロマリットUBSグループの運用部門、UBSグローバル・アセット・マネジメント日本法人代表を務めた経験を持つ岡村進氏だ。

 今回は、2月に『外資の社長になって初めて知った「会社に頼らない」仕事力』(明日香出版社)を上梓した岡村氏に、

「残業代ゼロ・ルールに感じる危惧」「グローバル市場で熾烈な競争を繰り広げる外資の裏の顔」「世界唯一の尺度であるお金を悪とみる日本の不思議さ」「世界で通用する“お付き合い”、人脈形成の極意」

などについて聞いた。

●かたちだけの残業代ゼロ・ルール

――安倍政権の成長戦略に残業代ゼロ・ルールが盛り込まれることが決まりましたが、これについて岡村さんはどう思われますか?

岡村進氏(以下、岡村) 成果主義の考え方に基づくホワイトカラー・エグゼンプションを“かたちから”導入しようという動きには危惧を覚えます。グローバルビジネスの競争に勝ち抜き、企業利益を上げ、そこで働く個人も潤うために、労使双方に必要なのは、効率的かつ効果的に働こうという意識です。つまり時間を無駄にしない、と。そんな働き方への意識改革が労使ともに必要です。

 その意識変革が起きるまでは、残業代をきちんと払った上で残業時間を拡大していくことに固執するべきではないかと思います。裏を返せば、残業代をきちんと払ってでも儲かることならばチャレンジしよう、ということです。

 ホワイトカラー・エグゼンプションは「実績を出して早く帰ろう」という社員と、「評価は実績でしかしない。労働時間の長さは、それだけでは一切ポジティブに評価する対象にはしない」というマネジメントの意識があればこそ成り立つもの。それが成り立つ以前にかたちから議論しているのでは、まるで本末転倒です。

――日本人の働き方は「メリハリなくだらだらと残業」というスタイルが広がっていましたが、近年は「残業禁止」を謳ったり「ノー残業デー」を取り入れたりする企業が増えています。

岡村 必要性の有無を考えることなく、なんとなくみんな遅くまで働くのが当然、という風潮が、労使双方にありました。いわば高度成長期モデルで、それでも毎年昇給していけていたので、遅くまで働くことに意義があると思えた時代でした。いまはグローバル競争が激しくなってきて、単純に長く働くだけでは給与は増やせない。効率的に稼がないと、会社が存続できない時代になりました。

 そんな時代の流れと前後して、残業への監督、指導が強まり、今度は残業を極端に規制する動きにつながったんですね。まるで「ビジネス界のゆとり教育」です。

――「残業」はどうあるべきと考えられますか?

岡村 残業時間は選択であっていいと考えています。残って働きたい者まで帰れというのはナンセンス。海外企業では、「残りたい者は残れ」「帰りたい者は17時ぴったりで帰れ、その代わり評価は実績でしかしない」というのが一般的です。17時までの緊張感で仕事をするのか、その緊張感を夜中まで続けるのかは、選択であっていいと思うのです。

 というのは、人それぞれ伸びる時期というのがあるんですよ。20代で伸びる人が、40代でも伸びるかというとわからない。そんな人が20代で残業をしてでも頑張ろうとするのを抑えるというのはアンフェアです。あとで伸びないかもしれないわけですから。今は会社ごとで画一的に決まっていて選択がないのが問題だと思います。

●「金を求めない」日本人の不思議

――本書の中で、外国人から見た日本人の七不思議を挙げられていました。その中に「金を求めない」というのがありましたね。日本人は自分の腕に値段を付けること、対価を求めることが苦手だと。

岡村 資本主義である以上、お金を稼ぐというのは、程よい目標値であるべきです。なのに、日本では目標値があいまいです。何が問題かというと、お金のことを差し置いてしまっていると、世界の人と言葉が通じないということです。みんな自国の文化がある中で、最後は儲かるのか儲からないのかが共通言語になる。だからお金への向き合い方をクリアにしなければならない。

 みんな「自分の国が正しい」と戦いを起こすほど価値観なんて違う中で、誰もが否定しない唯一の尺度がお金です。そんなお金への姿勢をはっきりしないと、グローバル化なんてできません。

――「お金なんて」という人間など怖くて信用できない、とも書かれていますね。

岡村 一部の人が巨額の報酬を手にするのは理不尽ですが、お金を稼ぐということ自体を悪であるかのように捉えているのは、グローバル化の足かせにしかならないと考えます。「お金なんていりません」という姿勢は、グローバルビジネスのプレイヤーとしてはルール違反です。「仕事の出来栄えに自信がないのか?」と信頼されなくなってしまう。お金が嫌いならば、稼いだあとに寄付すればいいだけです。

●自分の腕に値段を付ける=市場価値を知るには?

――自分の市場価値を知るという意味で、ヘッドハンターとの付き合い方についても、ユニークなご提案をされています。

岡村 会社を辞めるためではなく、自分のスキルを磨き、経験を積んでいく方向性のアドバイザーとして、ヘッドハンターと付き合うことをお勧めしています。ヘッドハンターというのはホームドクターと同じで、その人のことがよく見えているもの。どこが強みかを常に考えてくれていますからね。

 ただし、何に対しても「いいですね」としか言わないタイプのヘッドハンターではいけません。「あなたは今、業界でこう思われていますよ」というのを欠点も含めて話してくれるヘッドハンターと付き合うことで、自分への理解が深まります。そしてそれは自分の市場価値の源泉になります。あなたをよく知るヘッドハンターは、あなたの価値を強み、弱みともに客観的に見て、分解して言葉にしてくれますから。

――出向へのネガティブな捉え方にも異議を唱えられています。

岡村 出向をネガティブに捉える人もいますが、喜んで気持ちを前に向けていく人のほうが勝ちだと思います。出向すると、たいてい役職が上がり、権限が広がるんですよ。仕事にまつわる悩みも、人のクビにかかわることなど、より高い次元のことになります。だから出向というのは、素晴らしくいい経験になります。

 グローバル企業では出向によって経験を積み、腕を磨いていくのです。「人・モノ・金」の三権を握るのが経営の役割ですから、社員を若い頃から子会社で訓練させて本社に戻すという方法をとるのです。今の若い人にも、出向をポジティブに捉えて自分を磨く最高のチャンスに変えてほしいです。

●日本企業から見ると摩訶不思議な「外資の裏」

――外資系企業がリゾート地で会議を開いたり、高級ホテルでパーティーをしたりするのには、理由があるそうですね。

岡村 コスト管理の厳しい外資系企業で、なぜそんなことにお金を使うのか、と疑問に思われるかもしれません。日本は終身雇用が基本で、顔も性格も見知った人たちが物事を回します。一方、外資系企業では転職もあるし、世界的企業グループでは時には50カ国もの人たちが集まるので、お互いを知りません。それをひとつにするのに効果的なのが、素敵な場所で、素敵な時間を共有したという思い出なんです。社員の家族も招待しますが、決して無駄な金ではないのです。ぜいたくでも華美でもない。多様な価値観をまとめるための工夫なんです。

 ただ、日本企業には必要のないことかもしれません。お互いを見知っているわけですから、だからこそ外資とはまた違った工夫が求められるのではないかと思います。

●営業担当も外資では高評価

――お付き合い重視型の営業担当は、日本では低スキルだと思われがちですが、海外では高評価が得られるそうですね。

岡村 はい。優れた営業担当は、どの海外企業も採用したいと考えます。ただし、ひとつだけ前提条件があります。そのお付き合いが、会社組織を離れた途端に切れてしまうような人ではダメです。営業スキルの高い人は、飲みながら必ず相手に何かを渡すんですよ。単純に高い店を選ぶというわけではなく、安くても面白い店を選んだり、組織を超えた工夫や配慮がある。相手は「時間を使ってくれたんだな」と、うれしく思いますよね。

――お土産というのは、なにもモノを持っていくということではなく、例えば企画やアイディアであったり、「こんな面白い人がいるので紹介しますよ」といったものでもよいのでしょうか?

岡村 大変なことでもありますから、それができるというのはすごいですよね。そのために労力をかけているというのは、相手には伝わりますから。何度も同じ相手と飲みに行くというのは、何か気持ちがなければしませんよね。

――付き合い型の人が増えていかないのは、仕事において「個」を出してはいけないという意識があるからでしょうか?

岡村 個人がリスクをとっていないのだと思います。私は個人対個人のお付き合いを大事に考えたいのです。かつて若手社員だった頃は、もちろんお金はありませんでしたが、好きな人や面白い人には自腹でごちそうしてでも付き合ったものです。もっと一緒にいたい、話を聞きたいから。また、時には相手がおごり返してくれることもある。そうして関係が深まっていくのです。

 小さくても、工夫はいくらでもできます。ちょっとしたお茶セットを外国人に贈るなんてことでいい。今振り返ると「あんな偉い人に、よく安物を贈ったものだな」と思うけれど、喜んでもらえる。

――会社の経費で支払える以上のことはしない、という組織人はたくさんいます。

岡村 損得計算がうまくないと感じますね。まずそれで個人として偉くなれるか? 個人が偉くなっていても、乗っている船自体が沈んでいないか? 個と個で付き合わずに、そもそも幸せか? その関係を30年後も維持できているか? 何をもとに損得計算をするかだと思います。

――私は会社組織にいた頃、社外の方とのお付き合いにおいて、「○○社の大川内麻里」の中に、2%だけ素の個人の「大川内麻里」を入れることを意識していました。もちろん、そこには身銭も切っています。

岡村 2%どころか、もっと入っている気がしますが(笑)。それ自体がグローバルな発想だと思いますね。グローバル化というのは、工夫や努力、したいことをすること、自分を抑えつけないことです。だから苦しいことではない。やりたいことをやる、楽しいことなのです。

――岡村さんの、お付き合いの工夫にまつわるエピソードを教えてください。

岡村 日本企業にいた頃の話になりますが、アメリカ駐在時代、ドミニカ共和国で行われる金融機関の世界会議で、アテンドのトップをしたんですね。アテンド業者を上回るレベルを目指して、同国に5台しかないリムジンのうち、4台を押さえました。残りの1台は、なんと大統領車両(笑)。空港でほかの国から来る要人たちが20年落ちのボロボロのカローラに乗り込むなか、自社のマネジメント(経営陣)だけ燦然と輝くリムジンに乗り込む。爽快でしたよ。

 そういった姿勢を外資でも転用しましたね。外資のシニアマネジメントで、日本のことをあまり好まず、なかなか来てくれない、でも重要な人物がいました。彼が来日した時に、私はホテルの部屋に「来てくれてありがとう」という手紙を置いて、アジア風のお香を焚いておきました。以来、頻繁に来日してくれるようになり、メールや電話では進まないような交渉事も、会って話すことでスムーズに進みました。特にお金をかけたわけではないですが、しっかりと書いた手紙ひとつで「来てよかった」と喜んでもらえたんですよね。

 グローバル化とは、価値観の違うところからシナジーを生むこと。日本は価値観を抑えてマネジメントしようとします。でもグローバル化で面白いものが生まれる快感を一度味わっていただきたいですね。(構成=大川内麻里)

※画像は岡村進氏(撮影=伊藤真)

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