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焦点:日銀短観が示した強まる人手不足、価格に連動しない実態も

Reuters のロゴ Reuters 2017/10/02

[東京 2日 ロイター] - 9月日銀短観で、人手不足感の強さがバブル期以来となった。しかし、企業の価格転嫁への動きは鈍く、IT投資などの設備投資にも加速感が出ていない。他方、企業の内部留保は高水準で推移し、賃上げから消費拡大、価格上昇への経路で物価が上がる「確信」は高まっていない。

政府内には、賃上げや内部留保の活用に向け、企業に働きかける新しい政策を検討するべきとの声も出ている。

<止まらぬ人手不足感、価格上昇は鈍く>

「人手不足による雇用ひっ迫感では、物価は期待されたほど上がらない。大事なのは成長期待だ」──。野村総合研究所・エグゼクティブエコノミストの木内登英氏は、人手不足だから賃上げという行動は固定費の単純な増加につながり、企業は採らないと指摘。賃上げや価格引き上げのコンフィデンス強化には、将来の成長期待が欠かせないとみている。

短観の雇用判断DIは、大企業から中小企業までリーマンショック以降、一貫して不足感が強まる方向だった。

中小企業では、2013年12月からリーマンショック前の07年3月の水準を超える不足感となっていたが、大企業は今年に入りリーマンショック前の不足感ピークを超えた。

しかし、人手不足が賃金上昇を通じて物価を押し上げるには、力不足であることもうかがえる。

販売価格判断DIをみると、大企業非製造業では価格上昇圧力が低下方向となり、中小企業非製造業では、価格下落超過が続いている。

焦点:日銀短観が示した強まる人手不足、価格に連動しない実態も © REUTERS 焦点:日銀短観が示した強まる人手不足、価格に連動しない実態も

国税庁の調査でも、人手不足が賃金上昇にあまり結びついていないことが読み取れる。16年分の給与所得者の平均給与は前年比0.3%増にとどまり、昨年の1.3%の伸びを大きく下回っている。

また、1人当たりの平均給与は421万6000円とリーマンショック前の07年の437万2000円を上回っていない。

非正規労働者の給与は伸びているとはいえ、賃金水準は正規労働者の半分以下の172万1000円にとどまっている。

<日銀の物価上昇ロジックは見直し余地>

第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、日銀が期待するような、人手不足の強まりが2%の物価目標達成をサポートしていくという姿は、短観からはうかがえないと指摘する。値上げの動きは運輸業界や外食など一部で目立つが、全体に広がっているとは言えないためだ。

日銀の7月展望リポートでは「企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、(中略)消費者物価の前年比はプラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていく」とのロジックを示している。

熊野氏は「販売価格が労働コストを通じた経路で上がる力は極めて弱い。これまでの例では、ほとんどは為替要因だ」と分析し、そのうえで「日銀はこのロジックを見直した方がいい」と述べる。

政府内でも、賃上げとデフレ脱却に向けた動きが見えず、企業の姿勢にいらだち、次なる政策を議論し始めている。

今年4─6月期には企業の内部留保は388兆円と過去2番目の高水準に積み上がっていることを踏まえ、 麻生太郎財務相は9月28日の証券大会で、賃金増加や政調投資に振り向けていないことを「問題視している」と発言していた。

政府が9月25日に開催した経済財政諮問会議で、民間議員の伊藤元重・ 学習院大学国際社会科学部教授は、生産性向上と賃上げに向けた環境整備について「乱暴な言い方で申しわけないが、結局は企業が動かない」と指摘。高橋進議員は来年度春闘の賃上げ率を「3%を1つの目標にする」ことを提案した。

<生産性改善へのIT投資も力不足>

安倍政権はデフレ脱却に向けて生産性向上に力を入れ、そこから賃金上昇に弾みをつけたい考えだが、それをサポートするIT投資は今回の短観でもそれなりに伸びが確認された。

17年度大企業の設備投資計画は14、15年度には及ばないが、2000年代平均を上回る伸びを確保。ソフトウエアと研究開発を含むベースの設備投資も全体と同程度の伸びを示した。

他方、日本経済の基盤を支える中小企業は、過去平均にも及ばず、直近4年間でも最低の伸びとなっている。

設備投資計画について、ニッセイ基礎研究所の上野剛志・シニアエコノミストは「前回調査からの上方修正幅は1.7%と、近年同時期における上方修正幅をやや下回っている。堅調な需要や人手不足といった追い風を受けている割には、物足りなさも残る。事業環境の先行き懸念が根強いことが影響しているとみられる」と指摘。

数年先の景気悪化の可能性や、オリンピック後の成長期待の低下を考えれば、投資に慎重にならざるを得ないとの声が、産業界だけでなく、エコノミストからも出ている。

(中川泉 編集:田巻一彦)

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