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焦点:選挙控えたドイツ、サイバー攻撃や偽ニュースに戦々恐々

Reuters のロゴ Reuters 2017/05/15

[ベルリン 11日 ロイター] - 米国とフランスで大統領選挙を巡るハッキングが横行したことを受け、9月に連邦議会(下院)選挙を控えたドイツでは、自国が次の標的になるのではないかとの懸念が深まっている。

メルケル首相の続投がかかった9月24日の選挙まで4か月あまりとなった今月9日、ドイツの情報セキュリティ庁(BSI)は各政党に対し、コンピューターのセキュリティを強化するよう警告した。

ドイツ情報機関の連邦憲法擁護庁(BfV)のハンス・ゲオルグ・マーセン長官は4日、ロシア政府がサイバー攻撃で大量の政治関連データを収集していると非難。集めた情報を悪用して9月の選挙への干渉を試みるかどうかは、ロシア政府の政治的な判断になると指摘した。

ドイツ政府は、BSIの予算を大きく増額し、今年新たに職員を180人増員する。また、サイバー防衛センターを拡張し、民間企業との情報共有も強化している。大規模なサイバー攻撃を受けた場合に、相手のサーバーを破壊するなどの報復を可能にする法改正も検討している。

だが対策を強化したとしても、米大統領候補だったヒラリー・クリントン氏や、仏大統領に当選したエマニュエル・マクロン氏が選挙戦中に受けたようなハッキング攻撃を受けた場合、欧州最有力国であるドイツの指導者は大きな困難に直面する。専門家や連邦議会議員、官僚など10数人は、ロイターにそう語った。

情報セキュリティ研究者や米政府関係者は、米国に対する攻撃の背後にはロシアのハッカーの存在があったとみており、ロシア政府の現在の狙いはドイツだと警告している。マクロン氏のメールのハッキングの発信地については、現在も捜査が続いている。

ドイツ当局者が特に懸念しているのは、2015年にドイツ議会に対して行われたサイバー攻撃で流出したメールが、9月の選挙前にリークされることだ。関係者2人によると、攻撃された10数件のアカウントのうち、1つはメルケル首相の議会用のアカウントだった。首相の執務用メインアカウントは無事だった。

メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)のペーター・タウバー事務局長はその後、ランサムウェア(身代金ウィルス)の攻撃に遭ったと、その関係者の1人は言う。ランサムウェア攻撃では、送り付けられたウイルスがコンピューターをロックし、再開するために攻撃者に「身代金」を払うよう要求される。

「われわれは、デジタル化に圧倒されている。油断してはならない。セキュリティを強化したと言われているが、ドイツは実際には、来るものへの備えがたりない」。イスラエルのサイバーセキュリティ会社、チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズで在ドイツのディルク・アレント氏はそう指摘する。

<シーシュポスの岩>

ドイツ政府や政党幹部は、2015年のサイバー攻撃で誰のアカウントが被害に遭ったかを明らかにしていない。

BSIは、特にメルケル氏とCDUが、「APT28」と呼ばれるロシアのハッキンググループの標的になっているとみている。APT28は、クリントン氏のメールのハッキングを実行したとして米政府高官が非難したグループだ。

「ポーン・ストーム」や「ファンシー・ベア」という名でも知られるAPT28が、2015年の独議会と、16年のCDUに対する2度のハッキングの背後にいる、とBSIはみている。

CDUと連立パートナー社会民主党がそれぞれ運営するシンクタンクを、APT28が3月と4月に攻撃した、とセキュリティー大手トレンド・マイクロは指摘する。同社は、APT28はマクロン氏も標的にしたと述べている。

ロシアは、他国の内政に干渉することはないとして、一連の攻撃への関与を否定している。ロシア政府の報道官は、APT28の背後に誰がいるのか見当もつかないとして、「どんな連中か知らないし、われわれとは何の関係もない」と述べた。

しかし、米国とドイツの政府高官は、その関連性は明確だと反論する。BfVのマーセン長官は今月、ロシアがサイバー攻撃や影響工作を周到に準備し、ドイツ社会を不安定化させようとしていると指摘した。ドイツは防衛を強化しているが、どうしても対応しきれない部分があると述べた。

長官は、徒労を象徴するギリシャ神話を引き合いに出し、「山頂まで巨大な岩を押し上げては、(岩が転がり落ちるという)避けられない運命に見舞われるシーシュポスの様だ」と述べた。

2日にロシアで行われたメルケル首脳との会談で、プーチン大統領は、米大統領選に関連してロシアがサイバー攻撃を行ったとする指摘は、うわさだと一蹴した。

だが、欧米の政府高官は、ロシア政府が西側民主主義への信頼を脅かし、欧州の結束を揺るがそうとしていると非難する。

「プーチン大統領の短期的な目標は、ロシア制裁を巡る欧州の合意を弱めることだ」と、メルケル連立政権で法律アドバイザーを務めるハンス・ペーター・ウール氏は指摘する。

「長期的な目標は、欧州連合(EU)を分断し、西側との戦いでのロシア的価値の勝利を確実にすることだ」と、同氏は機関誌に寄稿で述べた。

焦点:選挙控えたドイツ、サイバー攻撃や偽ニュースに戦々恐々 © REUTERS 焦点:選挙控えたドイツ、サイバー攻撃や偽ニュースに戦々恐々

ロシア政府はこうした指摘に対し、「厚顔なうそだ」と反論している。

<多面的な行動>

2015年のサイバー攻撃後、ドイツ議会は、ドイツ・テレコムにソフトウェアの再構築を依頼し、事務職員3000人にセキュリティー訓練を受講させるなどして対策を強化したと、連邦議会のエルンスト・へベカー報道官は話す。

しかし関係者によると、ドイツの民間セキュリティー会社セキュネットは2月、議員に対する独自の機密報告書で、中央監視されていない携帯電話やタブレットを議員が「管理されていない状態で使用」していることなど、数多くの弱点が残っていると指摘した。

報告書は、マルウェアに汚染されている可能性があるUSBスティックが禁止されていないとも指摘したという。

「機密書類が保存されている連邦議会のサーバーに、十分な防御がない」と、独情報機関の連邦情報局(BND)のアウグスト・ハニング元長官は話す。

BSIは現在、連邦議員や州議員、政党やそのシンクタンクの職員に対し、サイバー訓練を実施している。

だが、三権分立が厳密に守られているドイツにおいて、BSIは議会に助言することはできるが、強制することはできない。「交通安全を教えているようなものだ。われわれが、『赤信号で道を渡らないでください』と言っても、守るかどうかは彼ら次第だ」と、BSIのアルネ・シェーンベーム長官はロイターに語った。

ドイツ政府はまた、いわゆる虚偽ニュースの取り締まりも強化している。対象は、ロシア寄りのプロパガンダに影響されやすいとみられている約300万人のロシア系ドイツ人だ。2016年1月に、13歳のロシア系ドイツ人の少女が移民にレイプされたとの根拠のないニセ報道が広まり、自発的な抗議活動に発展したことを受け、こうした懸念が強まっている。

連邦政治教育センターのトマス・クルーガー氏は3月、地域のコミュニティ指導者250人を集めて、啓発会議を開催した。

「われわれは、この問題についてもっとオープンになり、なるべく多くの人が批判的思考の技術を身に着けるようにしなければならない」と、同氏は話す。

ロシアは、攻撃力の高い情報は重要なタイミングまで取っておくことで知られている、と米戦略国際問題研究所(CSIS)のジム・ルイス氏は指摘する。

「ワイルド・カードは、選挙戦が近くなった時に炸裂させられるような何かを、ロシアが2015年のサイバー攻撃で得たかどうかだ」と、同氏は言う。「8月になったら、非常に緊張するだろう」

(Andrea Shalal記者 翻訳:山口香子 編集:下郡美紀)

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