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特別リポート:アジアに迫るISの魔手、比ミンダナオ島の衝撃

Reuters のロゴ Reuters 2017/06/10

Tom Allard

[マラウィ市(フィリピン) 3日 ロイター] - フィリピン南部ミンダナオ島のマラウィ市で先月から続いている戦闘の発端は、数十名のイスラム主義武装勢力が刑務所を襲撃し、警備員らを降伏させたことだった。

「キリスト教徒を引き渡せ、と彼らは言った」。現地の刑務局の副局長を務めるファリダ・P・アリ氏はその時の様子を語る。「刑務所職員にキリスト教徒は1人しかいなかったため、気づかれないように彼を服役者のなかに紛れ込ませた」

過激派組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓う「マウテグループ」と呼ばれる武装勢力の戦闘員は、警備員を脅しつけ、服役者を怒鳴りつけた。だが、キリスト教徒の職員を引き渡す者はいなかった。

「戦闘員が服役者たちを解放したため、その職員も逃れられた」とアリ氏は言う。

これは喜ぶべき瞬間だった。だがそれから数時間のうちに戦闘員たちは市域の大半を掌握し、警察署を攻撃して武器弾薬を奪い、道路を封鎖し、市内に接近する主要な経路に狙撃手を配置した。こうした襲撃によって、これまでに戦闘員を含めた約180人が死亡し、約20万人に上る住民の大半はマラウィ市を逃げ出した。

ミンダナオ島でマウテグループと同盟組織がマラウィ市を占拠したことは、中東で支配地域を失いつつあるISが、東南アジアにおいて拠点を築いており、ここ数年イラクやシリアで見られた残虐な戦術をこの地域に持ち込みつつあることを示す、最大の警告である。

今回の事件は、ISを支持するさまざまなグループ勢力を糾合してマラウィを占拠するという高度な作戦だったという証拠が集まりつつある、と東南アジア諸国で国防などを担当する政府当局者はロイターに語った。

地元マラウィの出身者だけでなく、サウジアラビア、パキスタン、チェチェン、モロッコといった遠方からの外国人戦闘員も今回の襲撃に加わっていたことで、治安当局者は特に懸念を深めている。

しばらく前から東南アジア諸国の政府は、ISが中東で支配地域を失いつつあるなかで、戦場で鍛えられた自国出身のIS参加者が帰国した場合に生じるであろう事態を憂慮していた。たが今や、東南アジアが外国人ジハーディスト(聖戦主義者)を引き寄せる磁場になりつつあるとの懸念が加わった。

「何も手を打たなければ、彼らはこの地域に拠点を築く」とフィリピンの隣国マレーシアのヒシャムディン・フセイン国防相は語る。

フィリピンの国防や軍の当局者によれば、フィリピン国内でISを支持する4組織は、いずれもマラウィに戦闘員を送り込んでいる。この都市に、東南アジアにおけるISの「ウィラヤート」(管区組織)を確立することが目的だ。

特別リポート:アジアに迫るISの魔手、比ミンダナオ島の衝撃 © REUTERS 特別リポート:アジアに迫るISの魔手、比ミンダナオ島の衝撃

数十年にわたり、イスラム主義の分離独立グループ、共産主義の反政府勢力、軍閥による混乱が続いてきたミンダナオ島は、ISのイデオロギーが根づきやすい土壌となっていた。カトリック教徒が主体のフィリピンで、マイノリティのムスリムが多く住む地域の1つがこの島であり、マラウィ市自体もムスリムが多数を占めている。

海賊が跋扈(ばっこ)するほぼ無法地帯の水域を経由して、マレーシアやインドネシアなどの国から戦闘員がミンダナオ島に流入することを防ぐのは、各国政府にとって至難の業だ。

米陸軍士官学校のシンクタンク「テロ対策センター(CTC)」は、最近のレポートの中で、ISが東南アジアの武装組織を利用して、同地域における自らのプレゼンスを強化・拡大しつつあると指摘する。カギとなるのは、ISがこの地域の古参ジハーディストとの関係をうまく維持できるかだとCTCはみている。

<司令官を解任>

マウテグループによる攻撃は、フィリピンのドゥテルテ大統領にとって、昨年6月に就任して以来、最大の難題となっている。大統領は自らの地盤でもあるミンダナオ島に戒厳令を敷いた。

フィリピン国防軍は今回の襲撃に不意を突かれた格好であり、マラウィ市奪還に苦戦している。3日時点では、まだ抵抗拠点の掃討に手こずっている。

また、マラウィに駐留する陸軍旅団の司令官ニクソン・フォルテス陸軍准将が5日、解任された。

軍広報官は、この解任はマラウィでの戦闘とは無関係だという。しかし、軍の情報提供者が2日、匿名を条件にロイターに語ったところによれば、フォルテス司令官が解任されたのは、軍情報部からイスラム主義戦闘員が集結しつつあると示唆されていたにもかかわらず、攻撃発生時に配下の兵力を市内に集めておかなかったことが理由だという。

攻撃発生のほんの数カ月前には、誘拐で知られる悪名高いイスラム主義武装組織「アブサヤフ」(「剣の父」の意)を長年率いてきたイスニロン・ハピロンの山岳拠点を治安部隊が攻撃したばかりだった。

イスニロン・ハピロンは2014年にISへの忠誠を誓い、他の組織をすばやくまとめ上げた。そのなかでも最も重要な存在が、マラウィの名家の出身であるオマル・マウテとアブドゥラ・マウテの兄弟が率いるマウテグループだった。

昨年6月に公開された映像では、シリアに拠点を置くマウテグループの指導者の1人が、東南アジア地域の支持者に対し、中東に渡航できないのであればハピロンのもとに参集するよう呼びかけた。ハピロンは昨年、東南アジアにおけるISの指導者に任命されている。

フィリピン軍によれば、ハピロンは軍による襲撃のなかで負傷した可能性が高いが、何とかマラウィに逃れ、そこでマウテ・グループと合流したという。

マウテグループ戦闘員が使っているソーシャル・メディア上のグループに投稿された声明によれば、同組織はマラウィからキリスト教徒、シーア派ムスリム、多神教の信徒を一掃したいと考えているという。また、賭博やカラオケ、いわゆる「出会い系」も禁止したいと表明している。

<山岳拠点>

一部の当局者は、フィリピン治安部隊は1月の拠点攻撃の後、ISによる脅威について油断するようになっていたと話している。「彼らがマラウィに潜入していることに気づかなかった。山岳拠点ばかり気にしていた」とフィリピンのロレンザーナ国防相は記者団に語った。

フィリピンとインドネシアの情報機関関係者によれば、ここ数カ月、ハピロンの勢力が、外国人戦闘員とマラウィで新たに徴募した戦闘員によって拡大したと語る。フィリピン軍広報官ジョアル・ヘレラ中佐によれば、外国人戦闘員の多くは、先月マラウィで行われたイスラム教の祈祷イベントに紛れて市内に潜入したという。

ロレンザーナ国防相によれば、ハピロンは50─100人の戦闘員とともに、250─300人規模のマウテグループに合流した。この他に2つの組織、「バンサモロ・イスラム自由戦士」と「アンサール・アルキラファ・フィリピン」が少なくとも合計40人の戦闘員を連れて合流した。

イスラム教の断食月ラマダンが開始する4日前の先月23日、彼らは攻撃を開始した。このときフィリピン軍部隊はマラウィ市内でハピロン逮捕を試みたが断念している。

フィリピン軍が武装した護衛団に阻まれて撤退した後、50口径の機関銃を搭載したトラックに分乗し、携行式ロケット弾と高性能ライフルで武装した約400人の戦闘員が素早く市内に展開した。

数時間のうちに彼らは刑務所と近隣の警察署を攻撃し、武器弾薬を奪った、と住民は証言する。

プロテスタント系の教育機関であるダンサラン・カレッジとカトリック系の大聖堂は破壊され、1人の神父と十数人の教区民が拘束された。彼らは今も人質になっている。

シーア派のモスクも破壊され、スペインの支配に抵抗して蜂起したフィリピンの英雄ホセ・リサールの銅像も頭部を切り落とされた。

<屋根の上に狙撃手>

ヘレラ中佐によれば、この攻撃には、専門的な軍事作戦の特徴が見られるという。「マラウィ全域を制圧するための、大掛かりな戦略だ」と中佐は言う。

最初の戦闘が終わった後、市内各所でISの旗がはためき、覆面をした戦闘員が街路でマラウィを手中に収めたと叫び、拡声器を使って住民に参加を呼びかけ、呼びかけに応えた者に武器を配っていた、と地元住民は語る。

軍はヘリコプターを投入して武装勢力の拠点にロケット弾を発射し、地上部隊が主要な橋梁やビルを奪回しはじめた。だが一部の住民によれば、この反撃によって民間人も犠牲となったという。

「IS戦闘員は通りを走っていたかと思うと姿を消す。軍は通りにいる彼らを爆撃するが、われわれの家やモスクに命中した。他の多くの家もやられた」。 妊娠した29歳の女性はマラウィ近郊の避難所で、その時の状況を語った。

特別リポート:アジアに迫るISの魔手、比ミンダナオ島の衝撃 © REUTERS 特別リポート:アジアに迫るISの魔手、比ミンダナオ島の衝撃

「爆弾が爆発して、多くの人々が亡くなった」と彼女は語り、ムスリムの聖職者や子どもも犠牲となった、と付け加えた。

軍の当局者はこの件についての報告は受けていないと語った。ロイターも独自の確認は取れなかった。

軍によれば、戦闘によって20人の民間人が犠牲となった。いずれも戦闘員に拘束されていた人々だという。また、武装勢力の死者は120人、治安部隊の死者は38人に上り、そのうち10人の兵士は友軍の誤爆による死亡だったという。

<「殺されると予想」>

隣国インドネシアの当局者は、フィリピンが短期間でマラウィの奪還に成功したとしても、依然として大きな脅威にさらされるだろうと憂慮する。

「武装勢力がこちらに来るのではないかと心配している」とインドネシアのテロ対策当局者は語り、ミンダナオ島がインドネシアのスラウェシ島からさほど離れていない点を指摘する。

マラウィ中心部にはまだ2000人以上の住民が取り残されており、電気も使えず、食料や水も乏しい状況だ。住民によれば、軍と武装勢力が交わす銃撃で身動きの取れない者もいれば、脱出を試みたとしても武装勢力に阻止されるのではないかと恐れている者もいるという。

特別リポート:アジアに迫るISの魔手、比ミンダナオ島の衝撃 © REUTERS 特別リポート:アジアに迫るISの魔手、比ミンダナオ島の衝撃

頭部を撃たれた8人の労働者の遺体が先月28日、マラウィ市外の渓谷で発見された。警察によれば、市内から脱出しようとして武装勢力に阻止された人々だという。

軍によれば、マラウィ奪還には、さらに民間人の犠牲者が出る可能性が高いという。

「人々は飢え、傷つき、殺されるだろうと予想している」と軍広報官のヘレラ中佐は言う。「この種の作戦では、巻き添え被害を100%防ぐことは不可能だ」

(翻訳:エァクレーレン)

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