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理想もビジョンもなき時代のガンダム 「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」第二期

エキサイト Bit のロゴ エキサイト Bit 2016/11/13
© Excite Bit 提供

ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんによる、話題の作品をランダムに取り上げて時評する文化放談。今回はアニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』について語り合います。

一期であれだけ頑張ったのに、治安が悪くなった!?

藤田 『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』は、2015年10月に一期が放送開始。そして2016年10月から、二期が放送されたアニメですね。監督・長井龍雪と、シリーズ構成・岡田麿里の『あの花』『ここさけ』のコンビの作品ですね。

飯田 貧しい火星で低賃金で過酷な労働を強いられている子どもたちが、混乱に乗じて中小企業を乗っ取ってのしあがるために、火星で革命のシンボルになっているお姫様を、敵対勢力から護衛しながら地球まで運んでいく……という、全体的にはわかりやすいロードムービー的な筋立てが第一期の大まかな流れですね。

「300年前に厄災戦と呼ばれる大きな戦争があって~」みたいな設定を掘っていくのかと思ったら、そういう謎解きとか世界の秘密的な部分にはほとんど踏みこまない。ガンダム然とした「連邦対ジオン」の独立戦争みたいな大きなスケールの話にはしない。それは意外だったし、だからこそ先の読めない展開で、おもしろい。

藤田 一期はそういう内容でしたね。過酷な環境で生きる少年兵たちが、会社を乗っ取って叛乱を起こし、火星の独立を望む「革命の乙女」と神格化されてしまった姫様を助けて地球まで行く。

 なんだけど、色々と、利用されたり罠にはまったり、犠牲者が出たり、革命をやろうとするだけでは失敗に終わる例を経験したりで、色々と苦い。

 二期も、一期であんだけ頑張ったのに、そのせいで全体の治安が余計悪くなったみたいなことをさらっとナレーションで言われていて、「えっ」ってなった。

飯田 あれは「あ、そういうリアリズムでいくんだ」と思って「すげえな」と期待が高まりましたね。

藤田 貧困、差別、搾取などをなくそうと思って努力した結果、逆に大変なことになるというのが、お姫様であるクーデリアが実際の少年兵たちと接しながら学んでいったこと。「そんなに安易には解決しない」っていうところに踏み込んでいるのが、オルフェンズの実に意欲的なところですよね。

 まぁ、現実の革命も、こういうことになってしまうパターンって多いので(長期的には人類の進歩に貢献している説をぼくは採りますが)、その辺り、革命や叛乱を単に理想化しているわけではないリアリティは、現代的な説得力を持ちますね。

 一方、少年兵たちのほうは、企業をでかくすることで、「どこか」に向かっている。それがどこなのか、よくわからない。

ニュータイプと阿頼耶識システムの違い

飯田 プロデューサーの小川正和さんも言ってたけど、クーデリアの主張は「労働条件をよくしたい」というレベルの訴えで、ファーストガンダムにおける「人類の革新」みたいな革命思想(ニュータイプ思想)じゃないんだよね。鉄華団も実利しか求めていないし、思想がない。彼らがことあるごとに強調する「俺たちは家族だ」っていうのは思想といえば思想だけど、盃交わしたりするのに象徴されてるように、やってることはヤクザの抗争ですよね。

藤田 その「革命」観の差は顕著ですよね。意識や存在を拡張するっていう、ニューエイジの時代の革命思想よりも、夢がなくなっている(笑)

 鉄華団とその後ろ盾の組織は、日本的な意匠を用いた描写をされていますね。かなり強い「仁義」の価値観が入っている。一期で敵役だったギャラルホルン側のほうは、陰謀や内ゲバが渦巻く、ヨーロッパ貴族社会のような感じ。

飯田 あの世界ではEUがなくなってヨーロッパは「アフリカンユニオン」になっているはずなんだけど、だったらなんであんな騎士っぽい風習なんだと思うね、ギャラルホルンに関して言うとw

藤田 デザインとしては、どう見てもヨーロッパですよねw

 二期との違いで言うと、一期は、わかりやすい対立構造があった。火星と地球を象徴する、主人公達と、ギャラルホルンという組織。そして、一期で、ギャラルホルンの支配に打撃を与えた結果、治安は悪化。二期では、ギャラルホルンは内輪揉めしているし、クーデリアはクーデリアで企業を立ち上げているし、複数のエージェントが絡み合う複雑な内容。『仁義なき戦い』で言えば、「代理戦争」辺りの感じ。DVDに収録されている抗争の図を見ても何がどうなっているのかよくわからない感じ(笑)

飯田 一期ほどわかりやすい軸はない感じはしますね。というかもとから鉄華団のボス・オルガは「ここじゃないどこか」「外の世界に行くんだ」って言ってるけど具体的で壮大なヴィジョンがあるわけじゃなかった。三日月に「次は何をすればいい」って聞かれて一歩ずつ具体化していく。あとは依頼を受けてこたえるというかたちでしか道筋を示さない。オルガは「まあまあ豊かになっていい暮らしをする」程度の未来しか描けてない。高度経済成長期の一般人(中小企業の社長?)の発想ですよ。ほとんど今と直近のことしかない。

藤田 かつてだったら、ガンダムを操縦する才能があるのは「ニュータイプ」という新しい人類的な存在だったのが、今回は、阿頼耶識システムという、単に命の危険のある手術をさせられて生き残っただけの存在。その手術を受ける理由も貧困からの身売りみたいなものだし、成功したところで、モビルワーカーを使った単純労働に使われるだけ。この差は、象徴的ですよね。

飯田 長井龍雪監督の複数のインタビューでの発言をまとめると「ガンダムと言えば戦争だけど、自分には戦争というものがわからない。だからわかるところから始めた。わかるようなものにしようと思った。結果、イデオロギーの闘いじゃないものになった。で、天才主人公が出てくるサクセスストーリーにしたかった」と。たしかに、未来が描けないキャラクター目線で、とりあえず目先のことを片づけて進むというのは、今の日本っぽい戦争観だなあと。

藤田 理想像もビジョンも目的もない主人公の三日月が、「邪魔」という理由で次々敵を倒していくわけですよね。それは、確かに今の日本っぽいんですよね。長期的なビジョンや、未来イメージを思い描きにくくなっていて、とりあえず生き延びることに必死にならざるをえないような状況。

飯田 マクギリスは「腐敗したギャラルホルンを改革する」というお題目を掲げているけど、やっぱりそれもシャアみたいに「人類をどうこうしたい」ではない。自分の所属している組織を変革したいという、企業戦士みたいな欲求。そのためにあそこまでするのがどうかしてるんだけど……w

藤田 そういう主人公とライバルを中心に、割と古典的な革命家というか、社会改良主義者のクーデリアを軸とした大状況が絡んでくる。今後どうなるのか、全然読めないです。

鉄華団のやっていることは、正しいのか間違っているのか」

飯田 『THE DOCUMENT OF機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ』でのインタビューによると、シリーズ構成・岡田磨里が当初書いたラストでは、オルガと三日月の関係が壊れるギリギリになるものだったらしい。僕も視聴当初はそうなるだろうと思っていたわけですけど、そのプランには監督がNoを出して、今みたいな一期の終わりになったと。

 そのインタビューはおもしろくて、岡田磨里的には「鉄華団のやっていることは間違っている」という認識なんだよね。たしかにオルガは一期終盤には合理的に考えれば破綻した命令とか出しまくってるし。だから2期はどんどん破滅していくのがいいと思いますけどね。悲惨すぎる路線は、商業的な理由でやるのは無理かもしれないけども……。

藤田 少しずつでかくなっていく組織運営の苦労を描くところは面白いですね。オルガという、副主人公的な存在がむしろ中心になっていますが。たとえば、会社をでかくして、雇用で人を救おうとしている。それなのに彼らが死んでいってしまう。この矛盾とキツさを一期の後半では描いていたところは好きでした。

飯田 鉄華団のやっていることがヒューマンデブリを増やすことにしかなってないなら、かつて自分たちがやられていたことを多少ワリのいい給料で再生産しているだけだとどっかで気づくと思うんだけどね。そこで思想を持つかどうか。持たないまま行くなら、ますます読めない。

藤田 彼らが活躍したから、少年兵が「使える」と分かって、少年兵も増えた、その辺りについて彼らがどう思っているのかがまだ描かれていないのと、一期の後半にあった矛盾・葛藤のテーマのいくつかが受け継がれていない感じなのが、二期の最初の数話を観た不満ですね。

飯田 内側でオルガに批判的なことを言えるビスケットが途中で死んじゃったからね。

藤田 このガンダム、面白いのは、結構、年上の女性が出てきてアドバイスしたり、批判したりする役割を担っているところなんですよ。鉄華団に対して距離を置きながら見る視点も、それら登場人物に託されている。会計でサポートしている女性とかね。一期の後半で、批判しまくっていた。でも二期では、物分りよく若いやんちゃな男の子達を見守るお母さん的な存在になってて、ちょっと違和感ある。

 もうちょっと組織がバランス崩したり暴走して失敗する描写もいずれ入ってくると思うんだけれど。

飯田 この作品ですげえなと思うのは、普通、重要人物が死んだら反省して更正しそうなものじゃないですか。なのにビスケットが死んでもオルガ、ますますこじらせてるだけじゃね? って。そこもヤクザ映画っぽいなあと。

 身近な人の死に慣れすぎているからこそすぐ状況に順応しちゃうのかな? という意味では、僕は2期序盤の展開も納得できないわけではないです。

藤田 『仁義なき戦い』では、若い衆が死ぬと、怒りを覚えて、行動に影響受けてますけどね。所払いされたりw

彼らはどこを目指しているのか? エイハブ・リアクターとは?

藤田 ところで、これは『EX大衆』10月号に載ったインタビューでも答えたのですが三日月とオルガが行こうとしている「どこか」が全く見えないし、なんか昔の約束に縛られて機械的にどこかに向かわされているような不気味さがあるんですよね。三日月との約束に、オルガは明らかに縛られている。

「エイハブ・リアクター」という推進装置の名前とか、「エイハブ・ウェーブ」の強調から推測できることですけど、これは『白鯨』のエイハブ船長を参照しています。『白鯨』は、捕まえることのできないものを捉えることに執念を燃やし続ける人を描いた典型的な作品。だから、きっと、見つからない何かを見つけることに駆動されちゃって動いているらしきことは推測できるのだけれど、その過程で何が起きるのか、それが何なのかが、結構見えない。

 無動機的にとにかく「先に進む」。それって前向きなようだけれど、死の危険がある状態に自分から突っ込んで行って、死者も出しているわけで。それは資本主義のドライブと彼らの動きは重なって見えるわけですよ。一期の後半ではそれに対する自省や葛藤があった。二期は、ただただ「前に進む」ことが自己目的化している状態がより強調されている。「目の前の邪魔な敵を排除する」三日月と、「ただ先に進む」オルガと、この主人公・副主人公のキャラクター設定は、異様。

飯田 そう思う。だってさ、企業乗っ取りして独立したあとテイワズっていう別の企業の傘下にあっさり入っちゃうんだよ? あ、儲かって食っていければいいんだ、何がなんでも独立を保つみたいな路線じゃないのね、っていう。「自分たちで道を切り開く」のレベル感、レイヤーが独特だなと思う。

「ギャラルホルンを潰さなきゃやられる」って1期で言ってたのに、2期ではマクギリスと組んじゃうとか、それも「実利を取る」ということなんだろうけども、そのわりに危険なほうに突っ込んでいっているところもあるし、バランス感覚が独特ですね。わかるようでわかんない。だから気になる。

藤田 三日月は、字も読めなかったぐらいだから、教育がない。そういう環境だと、目先のことしか考えなくなる。クーデリアは教育があるから情勢について視野が持てるけど。せっかく一期で字を教えたのだから、少しは変化があるかと思えば、今のところ、一期よりもより何も考えてないような感じが強くなっている。

飯田 思想じゃなくてプライドと利権の争いなんだよな。敵側のセブンスターズにしても。で、基本的にみんなほとんど成長も変化もしない。変化するやつはほとんど死んでいくw

藤田 どこに着地できるか、読めなくて、スリリングです。現代日本の社会的なテーマに対して、本気で背負って、本気でぶつかっているからこその、この内容になっている感じがする。

主人公達が成功すると敵と同じになる?

飯田 クーデリアの言っていることを、手段を選ばずやればマクギリス的になる。ギャラルホルンの体制をマシにして、みんなが住みよい環境をつくろうって目的はわりと重なるわけで(クーデリアのほうが末端の人間に目線が向いているけれども)。

藤田 マクギリスは、「友達」を利用して殺しちゃったからね。鉄華団その他の主人公側との一番の差異は、そこじゃないかな。仲間を道具化するか、しないか。信頼できるか、できないか。(だからこそ、ビスケットやその他の団員の死をあっさり片付けると、敵と同じじゃんってなっちゃう――実際、手を組んでいるけど)

飯田 「老害を一掃すればよくなる」幻想がある。組織なんてメンバーちょっと入れ替えたってそんなに変わらないよ。仕組みと運用の両方を変えないとよくならないって。

藤田 『サイコパス』的な話ですねw

 腐敗した上層部を倒した結果、自分が腐敗した上層部に入れ替わって終わり、みたいな、刑事ドラマとかでよくある構図ですね。

 でも、多分、組織の運営の問題は、二期で中心的に描かれるのではないかな。支部に不満持っている人間がいるのも描かれているし。抑圧し、搾取する側、あるいは、叛乱を鎮圧する側に回る葛藤・苦悩も描かれるかも。

飯田 鉄華団はゲマインシャフト(打算抜きの共同体)なのかゲゼルシャフト(利益によって結びつく機能的な組織)なのかが曖昧だよね。とくに2期に入ってからは新入りもいっぱいいるわけで、そうなったらもう「家族だ」っていう理屈は通用しなくなっていく。ベンチャーがでかくなると起こる問題と同じで。そうするとギャラルホルンみたいに内部の軋轢が生じてきて(三日月みたいにモビルスーツに乗れるやつが利権みたいな扱いされたり現にしているし)、敵に似てくるはず。まあ、そこにフォーカスされたドラマを観たいかどうかは微妙ですが……。

藤田 どんどんでかくなって、複合的にいろいろ経営したり、火星圏全体の経営を請け負ったりして……ギャラルホルンみたいな組織になって、クーデリアみたいな叛乱分子が出てきて、それの始末に三日月が向かう……とか。

飯田 「立ちふさがるやつはぶっつぶす」でずっとやっていくと落としどころがないと思うんだけど、本当、どう決着させるのかが気になりますね。

 コロニー落としまくって地球を完全に壊滅させて火星を支配するとかかなw

藤田 二期は、阿頼耶識システムと、肥大化した組織の内部問題をどうもやるっぽい感じがするんですよね。三日月はどうも、マシーンに近づいているような感じがするし。

飯田 「邪魔するやつは殺す」って言ってスターリニズムに走る主人公たちになったらすごいエンドだけどね。

 スターリンってトロツキーに比べたら思想も教養もないからこそああなったわけで。毛沢東も、文化大革命ってようするに「思想とか文化、歴史なんてぶっ壊せ」って運動だし(本人は詩人なのに)。理想がなくて暴力で目先のものを潰していくしかなかったら、握った権力がでかくなるほど大虐殺に至る確率は上がるよ。21世紀らしい「イデオロギーなき戦争」を追求したら20世紀の悪夢に回帰した、というのはそれはそれで衝撃的な作品になると思いますが、なんにしても楽しみです。

藤田 その結末は滅入るなぁ…… 同時代に、少しは励ましと希望を提示して欲しいな、と、個人的には思いますが。難しく、気高いチャレンジだからこそ、成功して欲しいな。

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