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痩せ細るケンウッド、売り上げ6割減、なぜ悲観論広がる?戦略なきリストラの代償

サイゾー のロゴ サイゾー 2014/06/05 Cyzo

 カーエレクトロニクス大手・JVCケンウッドの業容縮小が止まらない。同社が4月30日に発表した2014年3月期決算は、売上高が前期比3.2%増の3163億円だったものの、営業利益は同54.2%減の44億円、最終利益は66億円の赤字となった。営業利益は主力のカーエレクトロニクス(以下、カーエレ)部門をはじめ、全部門が減益になった。特にカーナビ事業が大変を占めるカーエレ部門は、円安による原価上昇などの影響で、カーナビの市販・OEM事業とも14年度上半期に16億円の大幅赤字となった。光学・オーディオ部門などの国内事業も、同期は7億円の赤字を計上するなど不調だった。

 この大幅減益を深刻に受け止めた同社は「事業基盤の再構築が緊急課題」とし、5月14日付で組織変更と経営体制刷新を行った。組織変更では事業部制を廃止。事業部の上位組織に位置付けていたカーエレ、プロフェッショナルシステム、光学・オーディオ、ソフト・エンターテインメントの 4事業部門に組織を集約した。同社はこれにより「商品主導(プロダクトアウト)型の事業運営を市場主導(マーケットイン)型運営に変える」という。これに伴い、日本、北米、欧州、アジア・新興国の4地域に「地域 CEO(最高経営責任者)」を新設、各地域CEOが管轄地域の業績責任を負うことになった。

 経営体制刷新では会長兼CEOの河原春郎氏が留任する一方、社長兼COO(最高執行責任者)だった江口祥一郎氏が新設の欧州CEOに転任、社外取締役を務めていた辻孝夫氏が新しい社長兼COOに就任した。

 組織変更、経営体制刷新と、一見抜本的に見える同社の業績回復策について、証券アナリストは「業績回復策の旗振り役が相変わらず河原会長では何も変わらない。業容縮小は来期も続くだろう」と悲観的だ。

 同社は08年10月、旧日本ビクターと旧ケンウッドの経営統合で生まれたが、統合直前にリーマンショックが発生。そのダメージから回復するため国内外の生産拠点閉鎖、希望退職者募集などのリストラを進めたが、AV(音響・映像)機器事業の不振もあり、営業赤字が続いた。しかし、経営資源をカーナビなど車載機器事業へ集中するなどの収益改善策で、12年3月期に統合後初の最終黒字を達成。13年3月期も減収減益ながら最終黒字は確保したが、今回の決算で再び赤字に転落した。

 この間、統合直前には両社合わせて8237億円あった売上高は14年3月に3163億円に縮小、6年間で業容が38%に縮まったかたちだ。「両社の強みを合わせた相乗効果でさらに成長」(発表時の声明)するはずの経営統合が、真逆の結果となったが、その背景を探ると、リストラ頼みで業績回復を模索してきた同社の「戦略なきリストラ」が見え隠れする。

●急速に痩せ細る経営資源

 統合前の旧ビクターは業績不振に喘ぎ、身売り話が浮かんでは消えていた。そして、紆余曲折を経て旧ケンウッドと経営統合することになった。この時(08年3月期)の売上高は旧ビクターが6584億円、旧ケンウッドが1653億円だったため、「小が大を呑み込む」と騒がれたが、旧ケンウッド社長(当時)の河原会長の決断だった。

 東芝で社長に上り詰める夢をあきらめ、米投資ファンドに転じて「米国流合理主義経営を学んだ」という河原氏は、「成熟市場ではM&Aなどでプレーヤーを減らさなければ成長できない。市場でトッププレーヤーになれば、存在感が増し、売り上げも収益も増進する」(12年10月、経済産業研究所主催の講演より)が持論。旧ビクターとの経営統合はその実践だった。河原氏は02年に経営再建中だった旧ケンウッド社長に就任し、債務超過を解消するため社員の3分の1を人員整理する大胆なリストラで、就任後1年で黒字回復を行い、「再建請負人」として一躍脚光を浴びた。だが、黒字回復後の成長戦略は描けず、その矢先に浮上してきたのが旧ビクターとの経営統合だった。持論を実践する好機だった。

 河原氏が特に興味をそそられたのが、カーナビ事業だった。音響・無線技術に強い旧ケンウッドと、映像技術に強い旧ビクターが一緒になれば、間違いなくカーナビのトッププレーヤーになれると確信した。そして実際、統合後のカーナビ事業はケンウッドの売上高の37%(14年3月期)を占める主力事業になり、欧米市場ではトップシェアも獲得した。だがその一方で、経営資源が急速に痩せ細っていった。

●旧ビクターに吹き荒れるリストラの嵐

 それは11年10月3日、午後のことだった。経営統合から丸3年。横浜市内のホテルの大会議室では、前月に発表した中期経営計画の社員向け説明会が行われていた。同社関係者は「その時、河原会長は最後に『We are the Kenwood』と叫び、中計の全体説明を終えた。しかし、私は会場の後ろに座っていたので『JVC』を聞き逃したのだろうと思っていた。ところが、河原会長に続いて個別説明を行った役員も、説明の結びで『We are the Kenwood』と叫んだため、今度は会場のあちこちで失笑が漏れた」と振り返る。経営統合後の旧ビクターの立場を象徴するようなエピソードだった。

 統合後の旧ビクター出身社員を待ち受けていたのは、苛烈なリストラだった。統合3カ月後には同社員480人の人員整理を発表。以降、旧ビクターが東京・新橋に所有していたオフィスビルの売却、八王子工場の売却、創業の地である横浜の本社工場の売却など、旧ビクター側にとってリストラの嵐が吹き荒れた。

 役員クラスも安泰ではなかった。統合から半年後、河原氏のリストラに抵抗していたケンウッド社長の佐藤国彦氏(旧ビクター社長)が退任させられたのを機に、他の旧ビクター出身役員もさまざまな理由でケンウッドから去っていった。その結果、現在の経営陣は旧ケンウッド出身者と、河原会長が外部から招聘した役員とで構成されている。

 加えて、河原氏が「これが最後」とした10年11月の人員整理では、旧ビクター出身の管理職社員145人が退職した。さらに11年3月になると、勤続5年以上の旧ビクター出身社員が人員整理の対象になり、738人が退職した。このうち、約500人が生え抜きの優秀な技術者だったといわれる。

 こうした果断なリストラの結果、経営統合から3年後の11年10月、「完全統合会社」となった年度の12年3月期決算は、売上高が3209億円となり、わずか3年で業容は38%に縮んでいた。それが14年3月期決算でさらに縮んだ。

●成長戦略を覆う、先行き不透明感

 カーナビ業界関係者は、同期決算の赤字要因を「業績の足を大きく引っ張ったのが大黒柱のカーナビ事業。国内市場でこそ市販向けのAV一体型カーナビ『彩速ナビ』が売れたが、海外市場では市販向けもOEM向けも振るわなかった。スマートフォン(スマホ)向けのカーナビアプリが高機能化し、カーナビ専用機の市場が縮小傾向にある。これに対し、なんら有効な対策を打てなかったのは致命傷」と分析する。ちなみに、カー用品大手・オートバックスセブンでも、カーナビの既存店売上高は昨年11月まで20カ月連続で前年同月割れとなり、13年度累計では前年度比23%減と、売上減少に歯止めがかからない状況だ。

 急速にスマホに追い込まれた市販カーナビ事業の代替として、ケンウッドはカーナビのOEMや北米・中国市場の業務用無線などBtoB事業へのシフトを急ぎ、14年3月期に46%だった比率を、15年3月期は50%に引き上げる計画を立てている。だが「北米の業務用無線市場はモトローラの牙城。これから攻勢をかけて壁を崩すのは容易でない」(同関係者)ため、BtoB事業シフトも先行き不透明といえる。

 同社は14年3月期決算説明会で、事業基盤再構築の柱として、「カーエレクトロニクスと先進車両技術」「ブロードバンドマルチメディアシステム」「次世代カメラ」などの「次世代事業を軸とした成長戦略」を発表している。別の業界関係者は「この成長戦略が仮に正しいとしても、これから一本立ちするまで数年はかかる。その間は稼げる事業もなく、業容が縮小の一方」と心配する。

 さらに株式市場関係者の間でも「次世代事業の育成に時間がかかるのはビジネスの常識。そんな悠長なことを言っている間に、トッププレーヤーどころか自身が業界再編の的にされる」との見方が広がる中、ケンウッドは今、待ったなしの構造改革を求められている。(文=福井晋/フリーライター)

※画像はJVCケンウッド本社(「Wikipedia」より)

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