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秦 基博楽曲の核心は“浮遊感”にあり? 初期〜最新曲までを分析してみた

Real Sound のロゴ Real Sound 2016/10/31 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 今年でデビュー10周年を迎えるシンガー・ソングライター秦 基博が、10月19日に通算21枚目のシングル『70億のピース』をリリースした。『土曜ワイド劇場』(テレビ朝日系)の主題歌にも起用された表題曲は、アコギとウーリッツア、そしてハモンドオルガンの響きが混じり合う、シンプルで美しいミディアムバラード。歌詞は驚くほどシリアスで、<愛の歌が届かない 暗い闇もあるの><かたちの違う僕らは 近づくほど 傷つくけど><かたちの違う僕らは ひとつに今 なれなくても>などと綴っている。『シンクロ』でメジャーデビューを果たしてから10年、卓越したソングライティングで常に人々の琴線に触れ、人と人とをつないできた秦ですら、「時に『音楽の無力さ』を痛感したこともあった」と以前、インタビューで語ってくれたことがあった。そうした思いと向き合いながら、それでもなお「音楽の力」を信じようともがく姿が、多くの人の心を掴んで離さないのだろう。今回は、そんな秦の紡ぐメロディの魅力に迫ってみたい。

(関連:秦 基博、笑顔で迎えた10周年 プロデューサーを務めた『Augusta Camp 2016』レポート)

 秦基博の音楽的な魅力といって、真っ先に思いつくのはやはり歌声だ。スモーキーで少ししゃがれた地声と、透き通るようなファルセットのコントラストは、しばしば「鋼と硝子でできた声」と称されている。そんな声の魅力を最大限に発揮しているのは、切ないメロディとヒネリの効いたコード進行、シンプルかつオーガニックなアレンジだ。コード進行は、唐突な転調などはほとんど用いず、基本的にはダイアトニックコードで構成されていて、そこに時おりサスフォー(sus4)やアドナイン(add9)、ディミニッシュ(dim)、ハーフディミニッシュ(m7-5)などが散りばめられたり、ドミナントマイナー(Vm)、サブドミナントマイナー(IVm)、セカンダリードミナントコード(III7やVI7など)で調性を崩したりすることで、メロディの印象をより際立たせている。

 実際に曲を聴いてみよう。まずは、2007年にリリースされた2ndシングル表題曲「鱗」。プロデューサーに亀田誠治を迎えて制作された、秦の初期代表曲である。キーはF#で、Aメロが<F#sus4 /F# - F#add9 /F# - F#sus4 /F# - F#add9 /F# - G#m - B>。コードのトップノートが、<シ - ラ# - ソ# - ラ#>とスムーズに移動しており、これがサスフォー(シ)やアドナイン(ソ#)の響きになっている(このコード進行で思い出すのが、ジョン・レノンの「Woman」だ)。サビは、<F# - B - C# /Ddim - D#m - B - A#m - G#m - C#>の繰り返し。ディミニッシュコードを経過音に使っているが、メロディの最も高い音がここに来ているため、胸をぎゅっと締め付けられる。また、次のコード、D#mの所で歌う、<たとえどんな〜>のメロディがアドナインのノート(ファ)を強調していて、何ともいえない浮遊感を醸している。

 次に、2010年にリリースされた9thシングル表題曲「アイ」。シングルはオリコンウィークリーチャートで初登場5位を記録し、2度目のトップ5入りとなった作品で、アレンジは松浦晃久が手がけている。キーはDで、Aメロは前半が<D - Gadd9 - Em7 /Asus4 ・A - D>、後半が<Bm7 - Gadd9 - Em7 /A#dim - Bm7>。メロディ自体は前半、後半でほとんど変わらず、コード進行を変化させて違う風景を見せている。Bメロは、<G#m7(-5) - GMaj7 - F#m7 - Bm7 - E - Esus4 /E - Em7 -A7sus4 - A7>。この曲の中で、最も美しいファルセットに不安定なコードG#m7(-5) を当てて切なさを強調。ちなみにEも、ダイアトニックから逸脱したコードだ。サビは、前半が<D - Gadd9 - Em7 /A#dim - Bm7/Am7 ・D7 - Gadd9 - F#m7 - Em7 - GmMaj7 /A7>。Am7がドミナントマイナーで、GmMaj7がサブドミナントマイナー。5小節目のGadd9、<ただの一秒が>のメロディの抑揚はまさに「秦節」と言うべきもの。8小節目、GmMaj7のメジャーセブンスの響きも気持ちいい。

 2014年にリリースされた17thシングル表題曲「ひまわりの約束」は、映画『STAND BY ME ドラえもん』の主題歌にも起用され、秦基博といえば<切ない泣きのメロディ>というイメージを決定づけた曲だ。キーはB♭で、Bメロが<FonE♭ - Dm7 /Gm7 - Csus4 /C - Fsus4 /F>。1小節目、Fのコードに対してベースがマイナーセブンスのE♭を弾いているのがポイント。サビは、<B♭ /E♭add9 - F /F#dim - Gm - Fm /B♭7 - E♭Maj7 /Em7(-5) - F/ F#dim - Gm7 /Em7(-5) - Fsus4>。先に述べた、秦の楽曲の特徴であるサスフォー、アドナイン、ディミニッシュ、ハーフディミニッシュ、ドミナントマイナーが、この8小節の中に総動員されており、秦節全開となっている。

 ところで秦は、これまでに一青窈の「空中ブランコ」や南波志帆の「髪を切る8の理由。」、V6の「Beautiful World」など他アーティストへの楽曲提供も行なっている。11月30日リリース予定の、花澤香菜のシングル曲「ざらざら」も秦が作曲を手がけているが、これはまごう事なき“秦節メロディ”でありながら、花澤が歌うことを想定したキュートな仕上がりだ。キーはDで、Aメロは<D/D♭m7(-5)・F# - Bm/Am7・D7 - G/F#m - Em/Asus4・A>。ここでもセカンダリードミナントコード(F#)やドミナントマイナー(Am)が効いている。メロディも、下降すると思いきや上昇したり、その逆だったり、ふわふわと舞うような譜割にグッとくる。特にEmの部分、<おかしくて>の「て」や、<他の誰に>の「に」が肝だ。

 そして、最新シングルから表題曲「70億のピース」。キーはAで、Aメロは<A・EonG# /F#m - D /E>の繰り返し。Bメロは、<D - C#m7 - Dm - E /E7onD - C#m7 /Bm7>。後半はベースが<ミ-レ-ド#-シ>と下降していくのがポイントで、そこに絡むオルガンに、プロコル・ハルムの「青い影」や荒井由美の「ひこうき雲」が一瞬頭をよぎる。サビは、前半が<A /B7sus4 - E /Fdim - F#m7 /BonD# - DMaj7 ・AonC# /Bm7 ・E>で、後半が<A /B7sus4 - E /Fdim - F#m7 /BonD# - E /A - D - Dm>。どちらも1小節目のB7sus4が、長調なのか短調なのか曖昧にしているところがポイント。この、サビの後半(BonD# - E /A - D - Dm)も、やはりプロコル・ハルムや荒井由美を彷彿とさせる。

 「音楽を長くやっていると、思い通りにいかなくて悔しい思いをすることも一度や二度じゃないですし、そこで『いい曲を書きたい』『いい演奏をしたい』と発奮することの繰り返しで、ここまで来られたんです。とにかく、曲を書き続けるということが大切なんじゃないかと思います。 」(参考:http://trendnews.yahoo.co.jp/archives/457306/「トレンドニュース」)

 不断の努力により確立した「秦節」は、これからも我々の琴線を揺さぶり続けることだろう。(黒田隆憲)

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