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突出する中国のフィンテック投資、日本では巨大な貿易金融に革新の期待が

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2016/11/09
突出する中国のフィンテック投資、日本では巨大な貿易金融に革新の期待が: 画像:ITmedia © ITmedia エンタープライズ 提供 画像:ITmedia

 「このスマホで出来ないの?」

 この素朴な問いに端的に表れているように、デジタルテクノロジーによって顧客の価値観は多様化し、厄介なことにGoogleやApple、あるいはAmazonのような巨大なデジタル企業が提供する優れた顧客体験にすっかり慣れ親しんでしまっている。当然のことだが、ほかの業界のサービスにも同じ水準の体験を期待し、そして、特にミレニアル世代以降は不満を抱き始めている。デジタルテクノロジーは、企業を取り巻く環境を顧客中心へと大きく変えようとしているのだ。

 こうした「デジタル経済」とも呼ばれる新たな経済環境では、新興企業が既存企業のビジネスを破壊し、瞬く間に世界有数のプレーヤーへと成長を遂げるのをわれわれは目の当たりにしている。非上場ながら企業価値10億ドル超のベンチャー企業が「ユニコーン」、つまり伝説の一角獣ともてはやされ、その代表格はよくご存じのUber Technologiesだ。しかし、実はこのユニコーンにはスマホ決済やオンライン融資仲介などの金融ベンチャー企業、いわゆるフィンテック企業が多額の投資を呼び込んでおり、ユニコーンも20社を下らないという。ほかの業界に比べてテクノロジーに依存しており、デジタル化が進みやすいからだろう。

 破壊ではなく、既存の金融機関との共生を模索するフィンテック企業が多いのも金融業界の特徴といえるだろう。実際のところ、共生型フィンテック企業への投資は伸びているという。既存の金融機関からすれば、より柔軟な着想で魅力あふれるサービスを生み出していくには、彼らの力を借りる「オープンイノベーション」は避けては通れない取り組みといえる。

●大手金融20社がフィンテック企業の育成に参画

 ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利という「トランプショック」が世界を驚かせ、株式市場も混乱した11月9日、ニューヨークやロンドンと並ぶ国際金融センターの香港では、Accentureが「Fintech Innovation Lab AsiaPacific Investor Day 2016」が開催された。

 フィンテック企業の育成を目的とし、ニューヨークやロンドンに続き、2014年にAccentureが香港に開設したFintech Innovation Lab AsiaPacificでは、今年も100社を超える応募から8社が選ばれ、9月から育成プログラムが実施されてきた。米最大手のBank of America/Merrill Lynchを筆頭とするグローバル金融機関の幹部らから直接助言を受けるなど、その内容はユニークなものだ。日本からは三井住友フィナンシャルグループと野村グループがアソシエイトパートナーとして参画している。このInvestor Dayは、3カ月間にわたって行われた育成プログラムの「卒業式」ともいえる。

 「金融はテクノロジーに依存しており、もし導入を怠れば、これから顧客の柱となるミレニアル世代を中心に3割の顧客を失うだろう。金融機関もわれわれもフィンテック企業と協力して変化していかなければならない」

 そう話すのは、Fintech Innovation Lab AsiaPacificの責任者を務めるAccenture 金融サービス本部グループテクノロジーオフィサーのジョン・アラウェイ氏だ。

 Accentureの最新の調査によれば、アジア太平洋地域におけるフィンテック企業への投資は、年初から9月までの累計で前年比倍増の106億米ドルに達し、初めて欧米の合計を上回った。Aribaba Groupなどへの大型案件が続いた中国がその9割を占めて突出しているが、アラウェイ氏によれば、中国のフィンテック企業はスマホ決済やオンライン融資仲介に力を注いでおり、貿易立国の日本であれば、輸出入に伴うトレードファイナンス(貿易金融)は価値の高い領域であり、また、その基盤としてブロックチェーン技術を活用していくなど、まだまだイノベーションの余地が残されているという。

 「中国におけるフィンテック投資も大半は政府や国営企業からのもの。政策や規制緩和、さらにはファンドでも日本政府の後押しが求められるだろう」とし、ブロックチェーン技術に経済成長の牽引役を期待する日本政府にもエールを送る。

 アラウェイ氏はまた、ロボティクスや人工知能では日本が世界をリードしていることを指摘し、例えば、金融機関のバックオフィス業務のさらなる効率化につながるテクノロジーにも高い価値があるとする。

 「ロボットは工場だけでなく、近い将来、銀行にも導入されるだろう。売掛金、買掛金の支払いでも、送られてきた請求書をロボットが開封し、スキャンして、帳簿と照らし合わせて支払いまで人手を介さずに行うことで、コストを劇的に下げ、精度も上げられる」(アラウェイ氏)

●中国の大手銀行で概念実証が進む日本のフィンテック企業も

 今年、Fintech Innovation Lab AsiaPacificで選ばれた8社の中にもそうしたテクノロジーを開発している新興のフィンテック企業が含まれている。唯一、日本から選ばれたSIORKだ。日本IBMで金融業界のコンサルタントとして働いた経験のある増田晴樹氏が仲間と共同で設立、CEOも務めている。

 同社は、マネーロンダリングのような不正取引を防止する金融機関向けのソリューションを開発している新興のフィンテック企業だ。IBM時代には欧米で開発された製品を日本の金融機関に導入する支援をしていたが、英語ベースのため、なかなか効果を上げられなかったことが創業のきっかけだという。人工知能の学習能力を活用した漢字の曖昧マッチングアルゴリズムを採用しているのが特徴で、日本語や中国語による取引も監視できる。顧客行動を自動学習し、疑わしい取引の検知を行うと同時に、犯罪予防のためにリアルタイムで取引をブロックする仕組みも提供している。

 Fintech Innovation Lab AsiaPacificの育成プログラムでは、ハードコピーをそのままスキャンする機能が必要だ、というフィードバックをもらい、機能追加したという。

 「現在、6億の口座がある中国大手銀行でPoC(概念実証)を進めているところ。巨大なマーケットに参入する欧米の金融機関にとってもSIORKのテクノロジーは必要とされるはずだ」と増田氏は話す。東京を拠点としながらも既に台湾と米国にもオフィスを展開しているという。

●リーマンでの経験を生かしてフィンテック企業を創業

 8社の中には、香港を拠点としているが、日本のエンジニアがCTOを務める新興のフィンテック企業もあった。欧州のLehman Brothersで働いた経験のある井口善晴氏が、やはり欧州のLehman Brothersでポートフォリオ分析を統括していたウィン・チェン氏(現在CEO)とともに2013年に創業したLatticeだ。

 同社の主力製品であるLattice Elegant Portfolio Discoveryは、機関投資家などを対象としたもので、ポートフォリオを組む意思決定に彼らの考え方を出来るだけ反映できるようにするテクノロジーが組み込まれている。金融業界では、さまざまなリスクと個別の銘柄の相関関係を数値化して提供するデータベンダーが存在するが、彼らが定義する要素に投資スタイルを合わせづらいという課題がある。Latticeのテクノロジーであれば、投資家が自分なりに重視する要素、例えば、バリュー株への投資を増やしてみたい、という考え方を数値で表現して入力していくと、S&P 500や日経225から具体的な銘柄を選び出してくれるという。

 「ロボットアドバイザーが話題を集めているが、そのアルゴリズムはブラックボックスだ。投資家には、こういう状況なら自分はこうしたい、という曖昧ながらも考え方があるはずで、それを個別の銘柄のポートフォリオに変換していくのがわれわれのテクノロジーの狙いだ。投資プロセスの透明化を実現するもので、リーマンショック以降の規制当局の動きは追い風にもなっている」と井口氏。

 現在は、機関投資家やポートフォリオマネジャー、リスクマネジャー、トレーダーを対象としたポートフォリオの最適化と分析のツールだが、使い勝手をさらに改良し、将来は個人投資家向けにも提供していきたいと話す。

(取材協力:アクセンチュア)

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