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突然に、そして唐突に「デジタル」って言われても???

ITmedia NEWS のロゴ ITmedia NEWS 2014/05/07 08:00 ITMedia
突然に、そして唐突に「デジタル」って言われても???: 図1:デジタルとは何か? © ITMedia 提供 図1:デジタルとは何か?

●デジタルを一言で説明してほしい

 このコラムで、2年以上の間、表現に多少の変化はあるが、ビジネスにイノベーションをもたらすのは、「テクノロジ」でありCIO率いるIT部門がリードしていかなければならない、と述べてきた。これは、ガートナーがグローバルのCIOに向けてアドバイスしている内容に準えているのであり、占いや第六感に従って話をしている訳ではない。しかし、「そもそもデジタルって何だろう? 定義が不明だ」などの言葉が巷では主流になっているように思えてならない。

●デジタルの定義

 このコラムでは、デジタルを「日本のCIOは、デジタルワールドの潮流に乗れるのか? ――CIO アジェンダ 2013」ではっきりと定義したつもりだったが、世界標準の定義として再掲したい。(図1)

 これで分かるように、デジタルは従来のITよりも範囲が広い。エレクトロニクス領域のテクノロジ全般を指しているといっても過言ではない。このことは、技術者の皆さんにしてみれば、「ことさら、何を言うのか? 私たちの中では、当たり前のことだ」と思うかもしれない。しかし、ガートナーが、ここ数年の間に強烈に「デジタル」を強調するようになったのは訳があるのだ。そして、その新たなる「デジタル」は、従来の常識であるデジタルとは全く異質だとご理解いただいても良いだろう。

●デジタル化の起源

 世の中がデジタル・テクノロジに変化していくことをデジタル化と日本語では呼んでいる。英語では、「digitize」と書く。「データをデジタル化する」とか「コンピュータで取り扱えるようにする」などと辞書には掲載されている。直訳はともかくとして、この言葉の名詞形で「digitization」という言葉があるが、実は、この言葉はビジネス界では1993年〜95年頃にかけて、とても流行ったことがある。

 私と同年代か、若しくは少し先輩方には記憶に新しいかもしれないが、93年に米国でクリントン政権が発足すると、情報スーパーハイウェイ構想を発表した。その後、積極的な民間投資も手伝ってインターネットが充実し始める。ビジネス界では、1人に1台ずつPCが配備されはじめた頃で、ネットワークにつながったPCの貢献も手伝いホワイトカラーの生産性が著しく向上した。

 クリントンの前、ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ政権下では、双子の赤字で泣かされ、空前の不景気だったにも関わらず生産性向上とともに景気が上昇し、この時の様子は「雇用無き景気回復」と呼ばれた。これら一連の景気向上の要因の一つとして揚げられたのが「digitization」だったのだ。

 この頃、課長クラスとして最前線にいた人たちが、現在、CIOとして活躍しているのではないだろうか? そんなことも手伝ってか、「デジタル」という語感から「当社は、すでにパソコンは全社員に配備済みだし、パソコンが、スマホやタブレットに変化したからといって殊更に"デジタル"と言ってもピンとこないなぁ」と思っている人もいると聞くが、それはとても残念なことだ。

 なぜなら、日本語では同じ「デジタル化」という言葉になるが、ここ数年のデジタル化は、英語では「digitalization」と呼んでいるからだ。この言葉は、2010年代以降に、(図1に示す)「デジタル」を用いたデジタル・ビジネスの世の中に変化していく様を表現するのにガートナーが作ったものなのである。

●なぜ「digitalization」なのか?

 図1に示したデジタルを用いたデジタル・ビジネスとは何か? ガートナーの定義を図2に示した。

 昨年10月に東京、オーランド、バルセロナなど世界主要都市で開催されたGartner Symposiumの基調講演でリサーチ部門のトップであるピーター・ソンダーガードは、こう言った。

 「Every company will become a technology company.」

 「Every employee will become a technology employee.」

 これは、世の中の全てのビジネスが「デジタル化」の影響を受けて変化していくことを象徴的に表現したのである。

 そして、多くの技術者が言う「そんなものは常識」と少し違う面がここにある。全てのビジネス(人材にも)に影響していくのが「デジタル」なのである。自社のビジネスがデジタル化するのか? 例えば製品がいきなりデジタル化することはないかもしれないが、製品を販売するためのチャネルや、ビジネス・プロセスの最適化においてはデジタル・ケーパビリティの恩恵を受けることは十分に有り得る。

 極端に言うと、既存のITは、元々伝票を回覧させて処理していたプロセスを自動化させることにより成立していた。これをトランザクション型のITと呼んでいるが、これに対し、デジタルでは、モノのインターネットをはじめとするセンサーが発信してくるようなデータの処理も含まれる。言い換えると、バックオフィス中心のITからフロントオフィスで活躍するデジタルへと領域が拡張されていると考えても良いだろう。

●フロントオフィスへの期待

 既出「フロントオフィス・イノベーション――CIOは社内企業家“イントラプレナー”となれ」で、フロントオフィス・イノベーションについて述べた。ここでは、従来のITが不得手としていた領域であるフロントオフィスに出てこなければならなくなった理由を考察してみよう。

図3を見てほしい。

 これは、従来のIT(IT部門が管轄するIT)が、製品・サービスを販売する瞬間(Point of Sales)と、その前(Before sales)後(After sales)とを比べた時に、どこに投資をしてきたかを示したものである。ここで示したグラフは、2011年のCIOサーベイを元にグラフ化したものであるが、一般的な企業は、概ねこのような傾向ではないだろうか? 中堅クラスのスーパーマーケットなどでは、販売時(POS)のIT支出が突出しているかもしれないし、一方で製品開発や生産ラインのシステムをコーポレートITサイドで管轄しているIT部門では、もう少し比率が違うかもしれない。例えば金融業界などでは、概ねこのようになっているのではないだろうか? このグラフを有り体に表現すると「ビジネスの勝負がついてからのIT」にばかり投資しているのが現状のITとなる。

 逆に、ガートナーがCEOやシニア・エグゼクティブを対象にした最近のサーベイの結果では「競争優位性を確立する」とか「顧客を引き留めておく」とか「新規顧客を獲得する」ことがエグゼクティブたちの優先事項だということが「常識的に」証明されている。既出の図3と優先事項を比べてみると明らかな違和感があることに気付くのは、私だけではないだろう。つまり、競争優位を確立したり顧客に当社を選択してもらうためには、他社との「違い」を打ち出さなければならないのに、ITとして、その部分に重点投資しているとは言い難い現実である。

 つまり、多くのエグゼクティブ達の期待を裏切っていると言わざるを得ない。とは言うものの、既存のIT部門は、概ね経理部EDP(Electric Data Processing)室などが発祥で、そもそもバックオフィスの機械化、合理化、効率化を主業務としていたのだから仕方ない現実かもしれない。実際、2014年のCIOサーベイの結果からも日本のCIOがテクノロジ面で多く支出する領域はERPだと言う。「ERP=バックオフィス」と単純には言えないが、大半は顧客に選択されるため他社と差異化を図るための投資ではないことは明らかであろう。(CIOサーベイの結果については次回のコラムにて詳細に解説する)

●なぜ、今なのか

 先に述べた、経理部EDP室と呼ばれた時代は、70年代からせいぜい80年代前半頃までだろうか。その後、システム部とか情報システム部とかになり、80年代後半から90年代前半にかけて、日本では情報システム子会社が設立されるようになり、本社にはシステム企画部が設置される。今頃、なぜ突然に顧客に選択されるような特徴を持つためにITも貢献するように言われるのか? それは、2007年頃、米国の住宅ローン崩壊に端を発する世界金融危機以降に顕著になったと考えられている。

 この不況は、さすがに全ての読者の記憶に新しいとは思うが、この不況から脱するために議論されたキーワードは、「行き過ぎたアメリカ型経済の崩壊」とか「サスティナビリティ」に代表されるように「持続可能な経済発展」などという言葉が一世を風靡した。これらのキーワードの経済・ビジネスでの捉え方をこのコラムで詳細に議論するつもりはないが、世界中のエグゼクティブ達がこう考えたのだ。「今までと同じやり方は通用しない」「今までとは違う戦略や方法を打ち立てなければマーケットから追放される」と。多くのビジネスエグゼクティブがそう考える中で、従来のビジネスではあまり有効活用できていなかった(広義に)「情報」という経営資源に着目し始めたことから、ITへの期待が急速に高まったと考えるのが自然であろう。

●ITのコンシューマライゼーションの台頭

 ここまでは、経済環境の変化や、ビジネス面での期待の変化を主に説明してきた。実は、ここでは、時を同じくして起きてしまったテクノロジ面での変化を説明しなければならない。それは、ITのコンシューマライゼーションである。例えば、携帯電話(フィーチャーフォンのこと)やパソコン、古くはワープロや電卓に至るまで、企業や組織で導入されるのと、個人が導入するのとどちらが先だったかというと、明らかに企業での活用だろう。

 これらの先進テクノロジは、当初は高価だし、大きくて重いものが多い。しかし、企業向けに多く採用されるようになるとテクノロジは急速に熟れてコンパクトになり軽量化される。もちろん、価格は(幸か不幸か)桁違いに下がっていく。そうすると、個人でもテクノロジの恩恵を受けられるようになっていくというパターンだった。そして、この傾向は未来永劫、変化しないものと固く信じていたというのが業界の常識だったようにも思う。

 しかし、90年代後半から相次いで発売される、米アップル社の開発したiPod、iPhone、iPadなどのシリーズは、企業ユースを全く想定しておらず、明らかにコンシューマ市場をターゲットにしていた。しかしながら、その通信機能や、データプロセッシング性能は、明らかに既存のパソコンとほぼ同等で、タッチパネルを使用したユーザー・インタフェースも、オフィスで普通に使われるキーボード・マウスを凌駕するものだった。個人に拡がったこれらのデバイスは、すぐにオフィスに持ち込まれるようになり、企業・組織内のエンタプライズITに圧力をかけた。「社内でも使用したい」「メールを見られるようにしてほしい」などという要望だ。

 この現象には驚いた人も多かったのではないだろうか。今までの常識とは違うからだ。先に述べたとおり、順序が逆だからだ。もちろん、これらの現象を起こすためには、端末性能だけが起因したのではない。高性能半導体デバイスの低廉、無線通信の技術の確立、通信網の成熟度合い、ソフトウェアの進歩など、まるで謀ったかのように、これらのテクノロジがコンシューマ・エレクトロニクスの台頭の時期に(利用に耐え得るほどの)成熟期を迎えるのである。

 価格や性能もさることながら、特筆すべきは、全ての人々にこれらのパソコン同等かそれ以上のデバイスが行き渡ってしまい、その現象を(あくまでもデバイスの所有者ではない)企業サイドが、製品やサービスのマーケティングなどに利用できるかもしれないという既成事実ができてしまったことだろう。

●誰もがソーシャル・メディアに参加しはじめた

 ソーシャル・メディアと言えば、FacebookやTwitterなどをすぐに思い浮かべる方も多いと思うが、まさにそれである。ここには、個人が自由に情報を発信できる環境がある。しかも、ほとんどは無料である。個人が、企業の助けを借りることなく個人同士でつながり新たなコミュニティを形成していく。同じ会社に勤める仲間や、同じ地域に住んでいるというような従来の物理的な制約の上で成立するリアル世界でのコミュニティではなく、何ら制約を受けないコミュニティが形成されるのである。

 個人個人の価値観が直接的に反映されるし、経済的な損得のつながりがベースではないことも特徴の一つである。デジタルのケーパビリティは、人々のコミュニケーションの方法を変え、コミュニティの形成に関する制約を取り払ったのである。かくして、ソーシャルでつながった仲間同士は、暴動を扇動し、政府を転覆させたりしたことも記憶に新しいだろう。

 このコラムでコミュニケーション論や、コミュニティ論を掘り下げるつもりはない。しかし、従前までの、企業サイドからの一方的なコミュニケーション手法は、ここでは成立しない。そして、大衆の「心」をつかまなければ市場で存在することさえ難しいということを示唆している。これらの現象は、単なる時代の変化だけではなく、デジタルが引き起こした現象であり、多くの人々は、それが当たり前で特別なことではないと考えていることに、そろそろ気付かなければならない読者も少なくない筈だ。

●突然に、一気呵成にやってきたデジタル

 2010年代に入る頃から、経済やビジネスの状況やテクノロジが、デジタル産業革命を起こすべく一気呵成に私たちに攻撃を仕掛けてきたように見える。そして、実際に、社内では一番テクノロジに詳しかったはずのIT部門の要員達でさえも、そのテクノロジに起因する社会現象についていけていない状況を作り出した。それが、今回のデジタル化の正体なのである。

 多くの技術者達は、個々の技術については明るいだろうし、それらを活用する方法も知っているだろう。しかし、それらを駆使し、今までにないビジネス・モデルを創出し、いまだ見ぬ顧客へリーチしていくイノベーションを興すには、従来の技術者では不可能だと言わざるを得ないだろう。私たち、ガートナー エグゼクティブ プログラムでは、世界中のCIOに向かって、こう投げかけている。「デジタルという名の竜を飼いならせ!」

 竜のパワーを手中にしたものだけが、ビジネスで成功するに違いないからである。次回のコラムでは、今年のCIOサーベイの結果を説明しながら、ガートナーの提言を伝えたい。

●著者プロフィール:小西一有 ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナー

2006年にガートナー ジャパン入社。CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」において企業のCIO向けアドバイザーを務め、EXPメンバーに向けて幅広い知見・洞察を提供している。近年は、CIO/ITエグゼクティブへの経営トップからの期待がビジネス成長そのものに向けられるなか、イノベーション領域のリサーチを中心に海外の情報を日本に配信するだけでなく、日本の情報をグローバルのCIOに向けて発信している。

(ITmedia エグゼクティブ)

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