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第17回東京フィルメックスが閉幕 最優秀作品賞は「よみがえりの樹」

エキサイトイズム のロゴ エキサイトイズム 2016/12/05

 11月27日(日)、第17回東京フィルメックスが閉幕した。コンペティション作品は、アジアの広域から、個性豊かな、新鋭監督の新作が10作品、上映された。とりまく社会との軋轢を描いたり、問題意識が色濃く反映された作品に、作家の力量を感じた。ことさら、声高に叫ばなくても、人間の喜怒哀楽が表現された作品が多く、見ごたえたっぷりだった。10作品で、印象に残った作品は、中国のワン・シュエボー監督の「神水の中のナイフ」、韓国のユン・ガウン監督の「私たち」(仮題)、フランス、スリランカの合作で、スリランカのサンジーワ・プシュパクマーラ監督の「バーニング・バード」、中国のチャン・ハンイ監督の「よみがえりの樹」の四本。

 「神水の中のナイフ」は、寧夏回族自治区で牧畜を営む老人の日常生活と、老いた牛との関わりを、静謐に描く。亡くなった妻の法要で、回教の教えから、牛を屠らなければならないことになる。老人は、家族のように育て、可愛がっていた牛を殺すことに耐えられない。少ないセリフの老人の一挙一動に、その哀しみがじんわりと伝わってくる。

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 「私たち」は、学校で仲間はずれの10歳の少女と、転校してきた少女が知り合う話。ふたりは仲良しになるが、それぞれの家庭環境の違いが、ふたりを引き裂いていく。韓国のいまの経済格差、家族のありようがくっきり。

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 「バーニング・バード」は、内戦中のスリランカを舞台に、8人の子どもを抱える主婦の苦難が描かれる。暴力、女性蔑視への作家の怒りがこもった力強い作品。

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 「よみがえりの樹」は、陜西省の山間の村が舞台。数年前に亡くなった女性の魂が、息子にとりつく。息子の姿を借りて、女性は夫に、ある願い事を告げる。結婚したときに植えた樹を、別の場所に移しかえてほしい、と。ゆったりと静かな語り口が、効果的。ジャ・ジャンクーが、若手監督の作品を製作するシリーズの最新作。

 受賞作の記者会見が26日(土)にあった。観客の投票で選ばれる観客賞は、「私たち」。学生の審査員による学生審査員賞は、フィリピンのエドゥアルド・ロイ・Jr監督の「普通の家族」。受賞理由は、「愛や、親が子を想う気持ちは万人共通。生まれ育った環境が何であれ、誰もが共通に持つ感情が描かれており、一番、世界観にのめり込むことができた。なおかつ、問題提起が含まれるエンターテイメントとしての重要性を感じさせる」。

 コンペティション作品の受賞が発表になる。まずスペシャル・メンションが「私たち」に。これは、観客賞とあわせてのダブル受賞となる。松岡環審査員が受賞理由を述べる。「繊細、シンプルな手法で、子どもたちのストーリーを語り、気持ちを表現している。とくに子どもたちのクローズアップの表情が多くを語り、我々の心を打つ」。

 審査員特別賞は、「バーニング・バード」。受賞理由は、「内戦で負った痛みに対する痛烈な叫びがある。過去の、世間で知られていない出来事が描かれ、今日でも意味がある」。サンジーワ・プシュパクマーラ監督が謝辞をのべる。「この賞を、1989年のスリランカ内戦で亡くなった人々、傷ついた多くの人々に捧げたい」。

 コンペティション作品の最優秀作品賞は、中国のチャン・ハンイ監督の「よみがえりの樹」。受賞理由は、「オリジナリティにあふれ、安易なノスタルジーに浸ることなく、驚くべき手法で描かれている」。

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 最後に、審査委員長のトニー・レインズが総評を述べる。審査では、評価が分かれ、多くの支持があったにもかかわらず、受賞できなかった作品もあったようだ。「多くの議論があったが、最終的には、全員が納得できる結論だった」。

 各審査員がコメントするなか、カトリーヌ・ドゥサール審査員のコメントが印象的だった。「どの作品も高いレベルで、幅広い内容に驚いた。まだ若い映画作家たちが、新しい映画言語、語り口で、映画を作ろうという姿勢に驚きを隠せない」。

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 5本の特別招待作品は、いずれも作家性の濃厚な作品ばかり。全部は見られなかったが、オープニング作品で、韓国のキム・ギドク監督の最新作の「THE NET 網に囚われた男」は、韓国と北朝鮮の南北分断を背景にした、迫力ある作品だった。北朝鮮の漁師がある事故で、韓国に捕らえられる。スパイ容疑をかけられ、亡命を強要される。異なる政治体制では、常に犠牲者は弱者である。北と南、どちらにもくみしないキム・ギドクの鋭い視線が、朝鮮半島の現実を鋭く映し出していた。

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 特別招待作品のなかでは、中国のワン・ビン監督の新作「苦い銭」が、強く印象に残った。若い女性が、雲南省の田舎から地方都市に出る。似たような出自の若者たちと、縫製工場で働く現実が、淡々と映し出される。お金にちなんだセリフが多く、中国のたしかな、ある現実が、ストレートに浮かび上がる。監督は、若者たちの見せる、さまざまな表情、しぐさを見逃さない。

 そのほかの特別招待作品は、いずれも傑作揃い。アミール・ナデリ監督の「山<モンテ>」、リティ・パン監督の「エグジール」、クロージング作品で、フランク・ホイ、ジェヴォンズ・アウ、ヴィッキー・ウォンの三人の監督による「大樹は風を招く」は、ぜひとも一般公開してほしいものだ。

 特別招待作品の「フィルメックス・クラシック」では、やっとというか、ついに、モフセン・マフマルバフ監督の「ザーヤンデルードの夜」が上映された。1978年のイスラム革命とは、いったい何だったのかを問いかけるマフマルバフの自由な視点は、検閲によって、ずたずたにされた。100分ほどのオリジナルが、63分にカットされ、さらに、一部の音声がカットされていた。それでもなお、上映されたことの意義は大きい。

 昨年より、上映作品が少なかったせいか、観客動員は、昨年を下回ったようだが、作品の質、中身は濃かったように思う。映画で描くテーマは、それこそ無限にある。また、映画表現には、まだまだ、いろいろなアプローチ、手法のあることを示した、意義ある映画祭だった。(文・二井康雄)

■リンク

東京フィルメックス

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