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箱根の老舗温泉旅館がクラウド型FAQ導入で「発見」したこと

ザテレビジョン のロゴ ザテレビジョン 2017/09/04
箱根の老舗温泉旅館がクラウド型FAQ導入で「発見」したこと © KADOKAWA CORPORATION 提供 箱根の老舗温泉旅館がクラウド型FAQ導入で「発見」したこと

 国内有数の観光地である箱根(神奈川県箱根町)。一の湯は、そんな箱根の塔ノ沢、仙石原、芦ノ湖の各地区に合計7つの宿泊施設を持つ、温泉旅館/リゾートホテルグループだ。1630年(寛永7年)創業、380年以上の歴史を誇る老舗旅館であると同時に、近年では「安く」「気軽に」「便利に」をモットーに掲げ、積極的な宿泊の低料金化を推し進めてきたことでも知られる。 塔ノ沢 一の湯本館。明治後期に現在の骨格が作られた木造4層建て数寄屋造りの建築物で、国指定登録有形文化財に指定されている 塔ノ沢 一の湯本館。明治後期に現在の骨格が作られた木造4層建て数寄屋造りの建築物で、国指定登録有形文化財に指定されている  その一の湯が今年、自社Webサイト内の「よくある質問(FAQ)」ページに、オラクルのカスタマーサービス向けクラウドサービス「Oracle Service Cloud」を組み込んだ。その結果、顧客サービスの改善や問い合わせ対応業務の効率化につながっただけでなく、宿泊客が入力する検索キーワードからさまざまなビジネスヒントが得られているという。  増加を続ける訪日旅行客への対応も含めた顧客サービス改善、そして老舗温泉旅館の経営改善に、クラウド型ITがどのように役立っているのか。今回は、一の湯 常務取締役 商品開発本部長の小川尊也氏、同社 営業マネージャーの福岡昭憲氏に話を聞いた。 一の湯 常務取締役 商品開発本部長の小川尊也氏(右)、一の湯 営業マネージャーの福岡昭憲氏 一の湯 常務取締役 商品開発本部長の小川尊也氏(右)、一の湯 営業マネージャーの福岡昭憲氏 「安くて気軽に泊まれる宿」を目指し、徹底した業務効率化を進める  一の湯ではおよそ30年前の1980年代後半から、現社長(15代目)である小川晴也氏の方針のもと、宿泊料金の低料金化に取り組んできた。  「30年前の当時は1泊3万円、5万円がふつうだったものを、『お客様のニーズに合っていない』と1泊1万円前後にし、安くて、気軽、便利に泊まれる宿に変えました」。常務取締役 商品開発本部長を務める小川尊也氏はこう説明する。当時はほかの旅館から「箱根の価格を壊すのか」と反発もあったというが、現在では空き室の稼働率を高めるため格安料金で提供することも一般的になっており、一の湯には“先見の明”があったと言えるだろう。  ただ、当然ながら単に低料金化するだけでは利益は減ってしまう。また、宿泊業には「部屋数」という制約があるため、いくら稼働率を高めても売上の限界は決まっている。そこで一の湯では、ビジネス指標として「人時(にんじ)生産性」を取り入れた。人時生産性とは、1人の従業員が1時間あたりで上げる粗利益高のことだ。小川氏によると、ファミリーレストランでは約3500円、製造業では1~2万円の人時生産性が一般的だという。「30年前の一の湯では1700円でしたが、これを5000円まで引き上げることを目標にしました」(小川氏)。  ここで採用したのが、近代的なチェーンストア経営の理論だった。多店舗化(当時2店舗→現在7店舗)とセンター化(予約窓口の一元化やセントラルキッチンの採用)を図り、部門別管理を行うことにした。  もちろん、サービスの質が低下して“安かろう、悪かろう”になってしまうのでは、中長期的には顧客が離れていってしまう。そこで、人的コストのかかるサービスについては、本当に顧客ニーズに見合っているかどうかを検討し、たとえば客室での部屋食や下足番といった、従来の温泉宿では当たり前だったサービスをやめることにした。一方で、ニーズのあるもの(アクティビティ付き宿泊プランなど)については常に商品化を検討し、付加価値を高めていく。 一の湯における「人時生産性」の説明ビデオ(一の湯YouTubeより) 一の湯における「人時生産性」の説明ビデオ(一の湯YouTubeより)  こうした取り組みを徹底してきた結果、昨年には人時生産性が「5040円」となり、目標を達成できた。さらに収益性を向上すべく、現場レベルでは次の目標となる「6000円」を目指して努力を続けているという。 訪日旅行客比率が40%、オンラインで宿泊客の心をつかむために  一の湯におけるもうひとつの特徴が、宿泊客に占める訪日旅行客比率の高さだ。箱根町がまとめた資料によれば、町全体では宿泊客のうちおよそ10%が外国人客(訪日旅行客)だが、一の湯ではその比率が「約40%」と非常に高い。 取材当日も、国内旅行客と並んで訪日旅行客を出迎える看板が出ていた 取材当日も、国内旅行客と並んで訪日旅行客を出迎える看板が出ていた  営業マネージャーの福岡氏によると、とりたてて海外からの旅行客だけを重視してきたわけではない。ただ、比較的早期の1996年からWebサイトを開設していたこと(当時から簡単な英語版ページを提供)、1997年から露天風呂付き客室を提供していること(大浴場には抵抗感のある訪日旅行客でも安心)など、国内旅行客向けに改善してきたことが半ば偶然に作用して、訪日旅行客比率は徐々に高まってきたという。  「2009年ごろから空室をWebで公開していることも理由のひとつです。海外から来られるお客様は3カ月前、6カ月前と比較的早く予約をいただきますので、国内のお客様が予約しようとしたときにはもう埋まってしまっている、ということもあります」(福岡氏)  2010年代に入り、旅行客の予約行動はいちだんとWeb/オンライン中心にシフトしている。特に訪日旅行客の場合は、Webを使って情報を収集し、プランを立て、そのままWebやメールで予約に移るケースが多いはずだ。実際に一の湯の場合も、自社Webサイトとオンライントラベルエージェンシー(OTA、じゃらんや楽天トラベル、Booking.comなどのオンライン旅行業者)を合わせ、現在では宿泊予約の「およそ70%」はオンライン経由だという。したがって、オンラインで顧客の心をつかみ、宿泊予約までスムーズにつなげることが肝要となる。  ちなみに、自社WebサイトやOTAからの宿泊予約は「サイトコントローラー」と呼ばれる旅行業向けシステムを介して、一の湯の基幹システム(空室管理や予約台帳など)で一元化される。一の湯には専任IT担当者はおらず、基幹システム、サイトコントローラー、Webサイトそれぞれを構築するSIベンダーの間を、福岡氏が仲介するかたちでシステムを構築している。 WebサイトのFAQ刷新で問い合わせ件数削減、顧客満足度向上と業務効率化  Oracle Service Cloudの導入は、Webサイトのリニューアルがきっかけだった。新たな旅館「ススキの原 一の湯」のオープン(今年7月)に合わせ、昨年秋頃から新しいWebサイトの検討を行っていたが、そのタイミングでオラクルから「Webサイトの『よくある質問』を、AIを使って今までにないかたちで運用してみてはどうか」という提案を受けた。  「正直なところ、初めは聞き慣れないカタカナが飛び交っていると思ったのですが(笑)、わかりやすくかみ砕いて説明していただきました。社内に持ち帰って提案を検討し、最終的には『きっとこれを入れればお客様も便利になるだろう』と判断しました」(福岡氏)  ただ、Oracle Service Cloudを導入した狙いは、顧客サービス改善のためだけではなかったという。実は、一の湯では「問い合せ対応業務の効率化」がひとつの業務課題となっていた。  一の湯グループでは、各旅館/ホテルに対する予約を「総合予約センター」で一括して受け付けている。このコールセンターには電話やメールでの問い合わせもあるが、近年では英語による問い合わせメールが増え続けている。訪日旅行客にとっては勝手の分からない海外旅行ということもあり、問い合わせ内容は国内旅行客よりも細かいものが多い。「たとえば『歯ブラシは置いてますか』というレベルのものまであります」(福岡氏)。こうした問い合わせに対応するために、予約センターの従業員が残業することも増えていた。  前述したとおり、一の湯では人時生産性の向上をビジネス目標としている。労働時間を削減しなければ、その向上は見込めない。WebサイトのFAQを充実させ、顧客自身がその場で自己解決できるようにすれば、顧客側のストレスも、従業員の労働時間も減らすことができるはずだ。そう考え、Oracle Service Cloudを採用したという。 これまで「自己満足」だったFAQを、顧客本位のサービス改善につなげる  Oracle Service Cloudは、マルチチャネル対応のカスタマーサービス業務をサポートするSaaSスイートだ。顧客からの質問と適切な回答を蓄積する社内向けナレッジベースの「iKnow」、顧客向けにナレッジをFAQとしてWeb公開し顧客の自己解決につなげる「Webセルフサービス」、コンタクトセンターのエージェント「エージェントデスクトップ」などのアプリケーションを備える。  このうちリニューアルした一の湯のWebサイトに組み込まれたのは、Webセルフサービスの「カスタマーポータル」機能だ。FAQが自然文で検索できるだけでなく、自己学習機能を備えており、頻繁に閲覧されるものや「お役立ち度」の高い質問/回答を動的に上位表示するようになっている。また、ある回答にひも付けて、関連性の高い質問/回答を自動でレコメンドする機能もある。 Oracle Service CloudのWebセルフサービスが組み込まれた、一の湯の「よくある質問(FAQ)」画面。日本語、英語でFAQを公開している Oracle Service CloudのWebセルフサービスが組み込まれた、一の湯の「よくある質問(FAQ)」画面。日本語、英語でFAQを公開している  さらにFAQを提供する一の湯側では、エージェントデスクトップを通じて、どんな検索キーワードが入力されたか、どの質問/回答が多く閲覧されているか、回答が役に立ったかどうかといった、顧客の反応や評価がわかる仕組みになっている。そして、これが顧客サービス改善のヒントになっていると、小川氏、福岡氏は口を揃える。  実は、リニューアル前のWebサイトにもFAQのページは用意されていた。ただし、質問の内容はあくまでも一の湯の側で考えたものであり、本当に顧客の役に立っているのかどうかまでは把握できていなかった。「それまでは20項目程度しかなく、“自己満足”に近いものだったかもしれないです」と福岡氏は振り返る。  そして実際、Oracle Service Cloudの導入後にFAQの検索キーワードを確認してみると、これまで気づかなかったさまざまな発見があったという。  「たとえば、英語で『Parking』という検索が多いことに気づきました。われわれはそれまで、海外からのお客様は公共交通機関で来られるものと思い込んでいましたが、実は駐車場を探しているお客様も多いのだと気づき、回答を追加しました。日本語の『手すり』や『コンビニ』なども、(Oracle Service Cloudを)入れてみてわかった、見えないニーズですね」(福岡氏)  ちなみに、英語で検索の多いキーワードは「Tatoo」だという。「検索される方の約2割。これほど多いとは思っていませんでした」(福岡氏)。たしかにタトゥーを入れている旅行者にとって、その温泉宿が受け入れてくれるのかどうかは重要な問題だろう。回答では、プライベート露天風呂付き客室や貸し切り風呂の利用を勧めるとともに、大浴場利用時の配慮を呼びかけている。 「Public Bath(大浴場)」で検索したところ、頻繁に検索される「Tatoo」に関する項目がトップに表示された。表示順位は動的に最適化される 「Public Bath(大浴場)」で検索したところ、頻繁に検索される「Tatoo」に関する項目がトップに表示された。表示順位は動的に最適化される  こうして顧客ニーズの高いFAQは随時追加を行い、現在までに日本語でおよそ300、英語で60の質問/回答を用意している。今年2月のFAQリニューアル後、メールによる問い合わせ件数は横ばいとなり、少なくとも増加の流れは食い止められた。FAQは今後もさらに追加していく方針だと、福岡氏は語った。  一方で、FAQの検索キーワードデータは、小川氏が手がける商品開発の業務にも役立っているという。  「週次で上がってくる検索キーワードのレポートが、オリジナル商品を開発したり、新しいアメニティを取り入れたりするきっかけにもなっています。たとえば『コーヒー』という検索キーワードがあったので、コーヒーが飲みたいというニーズがあると考え、オリジナルブランドのコーヒーの提供を始めました。アメニティに関しても、これまでは経費削減に重点を置いていましたが、お客様が本当に欲しているものをキーワードを通じて知ることができます」(小川氏) * * *  福岡氏は「FAQの回答を蓄積していくことで、未来に何か活用できるのではと、おぼろげながら思い始めています」と語った。まだ具体的なプランはないが、ゆくゆくは問い合わせ対応にチャットボットを組み込み、質問/回答や予約などの問い合わせに自動対応できる仕組みもできるのではないか、と期待しているという。  また小川氏は、Oracle Service Cloudが「社内の情報共有の場としても有効だと感じている」と言う。宿泊客にどんなニーズがあるかというナレッジを、問い合わせ対応を行う部門だけでなく広く社内で共有することで、前述した新商品のように業務改善アイデアが生まれるはずだ。  歴史ある老舗旅館と言えども、顧客ニーズを敏感に把握し、それに応え続ける姿勢がなければ生き残ってはいけない。そして、それは“WebサイトのFAQ”という小さな仕組みからでも実現していくことができる。そう強く感じさせる取材だった。 ■関連サイト 一の湯 Oracle Service Cloud

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