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草原に黄色い花を見つける 【今週末見るべき映画】

エキサイトイズム のロゴ エキサイトイズム 2017/08/17

雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 段々畑。清らかな流れ。緑の草原。川を渡る牛たち。凧があがる。豊かな自然、のどかである。1989年、ベトナムの中西部フーイエン省の貧しい村に、石投げで遊ぶ、仲のいい兄弟がいる。兄のティエウは12歳、弟のトゥオンは8、9歳くらいだろうか。「草原に黄色い花を見つける」(アルゴ・ピクチャーズ配給)は、冒頭から、なんとも牧歌的、みずみずしさにあふれている。

© Provided by Excite.ism

 ティエウは、近所に住む少女ムーンに恋をする。ところが、弟のトゥオンのほうが、ムーンと親しくなり始める。ティエウは、そんな弟に嫉妬を感じる。

 このような縦糸となるストーリーに、じっさいに起こるさまざまな出来事や、民話のたぐいのエピソードが絡んでくる。ヒキガエルとお姫さま。トラとお姫さま。カエルが歯ぎしりすると雨が降る。ハンセン病患者の隔離。黄色い花の言い伝えなどなど。

 ティエウの、初めて異性に抱く感情や、弟トゥオンへの嫉妬、いじめっ子と兄弟の確執、ティエウとムーンの別れなどが、淡々と控えめに描かれる。やがて、少年少女たちは、牧歌的な時代に別れを告げることになる。小栗康平監督の「泥の河」、ラッセ・ハルストレム監督の「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」などの映画で描かれた、少年たちがおとなへの一歩を踏み出す通過儀礼に、一脈、あい通じるかもしれない。

 映画は全編、少年少女の視点で展開する。従来の家族制度がある。従い、反発する世代がある。さまざまな出来事を経験し、少年たちは、確実に成長していく。

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 ふと、初めて異性を意識した12、3歳のころが、脳裏をかすめる。外国の音楽や映画に、はじめて触れたころでもある。異性の同級生を招き、いっしょに宿題をすると称して、音楽、映画の話をする。もちろん、教師の品定めも。映画を見ていて、つい、懐かしく、幼いころを振り返ってしまう。それだけのエネルギーを内包している映画でもある。

 原作がある。新聞記者から作家になった、グエン・ニャット・アインの小説で、約80ほどの、短い、断片的なエピソードからなる。脚本は、原作に肉付けし、ストーリーを組立ててある。映画の時間が進行するにつれて、兄弟の心のうち、ありようが、際だってくる。ささいなことが、いくつか重なりあい、このささいなことの集積が、どのように展開していくのかを、観客は、ほどよい緊張のうちに見つめることになる。

 ティエウ、トゥオン、ムーンに扮した子役三人は、年齢の割にそこそこの演技キャリアを重ねていて、のびのび、きびきび、達者なものである。

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 ベトナムの、貧しい町、村が舞台だが、ゆったりした自然があり、だから、映像はとにかく美しい。少年、少女が、少女、少年に想いを寄せる。だれしもが経験したことと思うが、それぞれに、郷愁を覚えるはずである。

 監督は、ヴィクター・ヴー。アメリカで映画を学び、2009年からは、ベトナムで年1、2本、映画を撮り続けている。ここでは、繊細で揺れ動く少年少女たちの心理を、微細、精緻に描く。小品とはいえ、ラスト、エンドロールまで、観客の心をつかんで離さない手腕は、練達。

●Story(あらすじ)

 1989年、ベトナムの小さな町。父親らしき男が荷車を引いている。兄らしき少年が後を押している。荷台には、怪我をしたらしい少年が横たわっている。

 仲のいい兄弟がいる。12歳の兄ティエウ(ティン・ヴィン)は、弟のトゥオン(チョン・カン)と石投げで遊んでいる。ティエウは降参したふりをして、トゥオンに油断させる。その隙に、トゥオンに石をぶつける。トゥオンの額から血が流れる。油断大敵と、兄は兄なりに弟を教育しているつもりだ。

 兄弟は、ヒキガエルを捕まえ、ヒキガエルとお姫さまの話をする。夜、ティエウは勉強し、トゥオンは本を読む。またある夜、兄弟は、ダンおじさん(グエン・アイン・トゥー)から、猟師に復讐するトラとお姫さまの話を聞く。トラが猟師に襲いかかる話に、兄弟は驚く。

 ある夕方、ティエウは、父親から用事を言いつかる。「これから客が来るので、ムーン(タイン・ミー)の家に言って、ピーナツを買ってこい」と。ムーンは、ティエウと同じ学校に通う少女だ。シャイなティエウは、ひそかにムーンに想いをよせているが、なかなか気持ちを伝えられないでいる。

 トゥオンは、しばしばニャン先生(マイ・テー・ヒエップ)の家に、鷹の爪をもらいに行く。そして先生の娘ヴィン(カイン・ヒエン)に、ダンおじさんから頼まれた手紙をヴィンに手渡す。兄弟は、興味半分、ダンおじさんとヴィンが会っているところをのぞき見したりする。

 ティエウとムーンが、入り江で遊んでいる。ティエウは、ムーンの指紋を見るふりをして、ムーンの手に触れる。「指紋がぜんぶ渦を巻いていれば、絵や字がうまい」と言いながら。

ムーンの指紋は、全部、渦が巻いている。「絵も字もうまくない」とムーン。

 トゥオンは、ダンおじさんからの手紙を、いつもヴィンに届けている話を、ティエウに打ち明ける。ある手紙には、恋愛詩が書かれていて、どんな詩か、トゥオンはティエウに教える。「神様が病気だと 空が泣く 君を想う切なさは 恋わずらい」。ティエウは、ムーンへの想いをこの詩に託すが、先生に見つかってしまう。

 夜、意を決して、ティエウはムーンの家を訪ねる。そこで、ムーンの父親がハンセン病で隔離されていることを知る。

 ある夜、ムーンの家が火事になる。ムーンは、兄弟の家に身を寄せることになる。ティエウは、ムーンといっしょに過ごす時間が増えることになり、心がときめく。しかし、それは、弟のトゥオンと過ごす時間が増えることでもある。

 似た年頃のせいか、トゥオンとムーンは、仲良く、同じ時間を過ごすようになる。おもしろくないのはティエウだ。弟への嫉妬が兄を襲う。仲良く遊んでいるムーンとトゥオンの話し声を聞いたティエウは、ある行動を起こし、トゥオンにとって、たいへんなことになる。

 トゥオンとムーンの幼い恋の行方は。また、ムーンの父親は、ほんとうにハンセン病だったのか。幸せをもたらす黄色い花を、トゥオンとティエウの兄弟は、手にするることができるのだろうか。(文・二井康雄)

<作品情報>

「草原に黄色い花を見つける」

(C)2015 Galaxy Media and Entertainment. All rights reserved.

2017年8月19日(土)、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

公式サイト

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