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裁判官による性犯罪、なぜ多発?被害者を恫喝、和解を強要…絶望の裁判所の実態

サイゾー のロゴ サイゾー 2014/06/02 13:55 Cyzo

 良心に従い、公正な立場で判断をすることが求められる裁判官の不祥事が後を絶たない。今月1日にも、法務省の幹部で元裁判官の近藤裕之前財産訟務管理官が、法務省内の女子トイレで盗撮したとして送検され、罰金刑を受けた事件が記憶に新しいが、ほかにも近年は裁判官による児童買春やストーカー、盗撮、痴漢など、性犯罪事件が頻発している。

 また、裁判の本業でも多数の問題が露呈している。

 筆者はこれまで、判決を書きたがらず、なんでも和解にするよう強要、脅迫する裁判官の問題や、裁判官の大手弁護士事務所への天下りと癒着問題などを取り上げ、報道してきた。

 昨年は、東京地方裁判所民事部の裁判長が、性犯罪被害者女性にまで和解を強要し、女性に「和解しなければ、被害者女性を本人尋問で何度も法廷に呼び出すぞ。長時間の尋問になるだろう」と非公開法廷で恫喝していた問題が発覚し、この事実を法務省や東京地裁所長にも取材して報じた(当サイト記事『強制わいせつ事件で、東京地裁裁判官が被害者女性を“脅迫”疑惑?』)。

 もちろん一部の裁判官であろうが、これらは裁判官による脅迫や、重大な人権侵害というべき行為ではないかと、世論から非難の声が高まり、裁判所の中はどうなっているのだろうかと疑問の声が多くなっている。

 そんな中、衝撃ともいえる裁判所の内部事情を告発する『絶望の裁判所』(講談社現代新書)が2月に出版され、法曹界はもちろん、海外も含むジャーナリズムの世界でも大変な話題となっている。本書は単なる内部告発ではなく、冤罪等の司法の病理を構造的に説き明かした書籍として注目されており、発売2カ月半で6万5000部を売り上げるベストセラーとなっている。

 著者は、裁判官として33年にわたり勤務し、最高裁判所にも2度勤務したほどの元エリート裁判官で、現在は明治大学法科大学院の教授である瀬木比呂志氏だ。本書には、裁判所の中枢に勤務した人間でなければ知り得ない裁判所や裁判官の実態と、その構造的な問題が正確に描かれている。

●明らかにされた、裁判官の実態

 本書の中で瀬木氏は、裁判官の実態を「精神的な収容所の囚人」と表現する。

 日本の裁判官は任期が10年で、更新されなければクビになり、路頭に迷う弱い立場の職業。そのため、裁判官の人事権を握る最高裁事務総局の顔色をうかがいながら働くようになる。その結果、最高裁の意向を気にして、判決の内容にとどまらず、公私にわたる個人としての意見まで最高裁の望む方向に画一化されるようになっている。

 最高裁事務総局が評価するのは、最高裁の意向に沿って、なるべく多くの「事件処理」を行うことである。それに合わせて、多くの裁判官は、自らの良心ではなく最高裁の意向に従った裁判を行う。刑事では、有罪を前提に裁判を行い、冤罪が生まれやすくなっている。民事では、裁判を早く手間をかけずに終わらせるために「和解の強要、押し付け」が横行している。裁判官によっては恫喝的ともいえるような言葉まで用いて和解を強要するため、前述のように、被害者女性に裁判官が脅迫するような事件までが起きるのだろう。

 このようにストレスがたまる仕事を続ける中で、裁判官のモラルも非常に低下している。

 そうした裁判所の実態を表すエピソードとして、こんな事実がある。瀬木氏が最高裁民事局の局付として勤務していた時に、ある国会議員が裁判所の不祥事を追及する質問をしてきた。そのため最高裁事務総局内部では、これに回答するための協議が秘密裏に開かれた。その協議の最中、局の課長を務める裁判官がこう言ったという。

「俺、知っているんだけどさ、こいつ(国会議員)、女のことで問題があるんだ。(質問対策として)そのことを、週刊誌かテレビにリークしてやったらいいんじゃねえか?」

 最高裁事務総局に勤務する裁判官が、裁判所の実態を隠ぺいするためにスキャンダルリークで対抗しようと主張したのだ。結局彼の意見は採用されなかったが、これは「良識に基づいて行動すべき」裁判官の倫理とは真逆の態度である。しかも、この発言をした裁判官は、その後最高裁の裁判官にまで出世していったという。このような発言をする体質の人間がトップになるということは、最高裁がこのような体質を裁判所全体に広めていっているといえるだろう。

 結果として裁判官の不祥事が増加している。セクハラ、パワハラ、モラハラ等も多く、2000年代に入り児童買春、勤務時間中のSMメール、ストーカー、痴漢、盗撮、強制わいせつなど、性犯罪系の不祥事が多発している。

●うつ病を患い、自殺する裁判官も

 こんな実態の裁判所に入ってしまった裁判官の中には、精神的に病んでノイローゼになる人も多い。ほかにも、うつ病になって痛ましい自殺を遂げた裁判官、自宅を出て何日も徘徊していた裁判官、裁判長からのパワハラに悩みノイローゼとなった裁判官等、問題が多発している。こうした事柄の多くは公表されず、そのような裁判官が退官に追い込まれるかたちで隠ぺいされているという。

 そして、このようにして事件当事者の心の痛みを理解することなく、良心や良識を捨て、淡々と大量に事件を処理できる人間だけが、裁判官としての出世の階段を上る状態になってしまっている。民事の裁判官の間では「先月は和解で12件も落とした」「今月の新件の最低3割は和解で落としてやる」などといった会話が交わされており、そこには良心の片鱗もない。最高裁事務総局も、多少でも自身の意見を表明する裁判官は出世させない。むしろ、現在では、裁判官を採用する段階から、その人間の能力だけではなく、その人間性が「組織(裁判所)に馴染む人物かどうか」を考慮して選ぶようになってきているという。

 このような実態の下、司法制度改革の一環として裁判員制度が導入され、一般市民が重大な刑事事件裁判に参加するようになった。施行から今月21日で5年が経過し、5万人を超える裁判員が刑事裁判に参加したが、この制度のあり方もゆがんでおり、裁判員となった市民には非常に広い「裁判員の守秘義務」が課され、少しでもその内容を明かせば6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金刑とされている。これにより、裁判員の意見を密室で抑え込むことが可能となってしまっている。

「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」では、評議の過程だけでなく、その中で述べられる裁判官の意見などもすべて守秘義務の対象となっている。この規定の主旨は、裁判員の個人情報等を被告人による報復等から守るためであったはずだが、評議における裁判官の意見まで秘密情報となっている理由は疑問で、改正を求める声が多い。

 このような裁判所の実態に嫌気が差した瀬木氏は、2012年3月に退官して大学に移った。著書や論文が多く、自身の意見を主張することが多い瀬木氏もまた、最高裁事務総局にマークされていた可能性があり、当時勤務していた裁判所の所長からの退官、転職を口外することもギリギリまで禁止され、その上退官前に、たまっていた有給休暇の消化を申請すると「そんなに有給休暇を取らずに、早く辞めてはどうか」などと執拗に迫られ、事実上早期退官を強要されたという。これは憲法78条の裁判官の身分保障の主旨に反する行為である。

 本書の内容からすると、これまでの報道で一部の裁判官の問題とされていた事実が、実際には一部ではなく、想定していたよりも広範囲に及んでいる可能性があり、まさに「絶望の裁判所」と呼ぶのが適当な実態だいえる。(文=新田龍/ブラック企業アナリスト)

※画像は「Thinkstock」より

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