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西武の再上場で敗北のサーベラス、注目集まる次の一手は?西武関係者に広がる危惧

サイゾー のロゴ サイゾー 2014/06/08 00:55 Cyzo

 5月14日の東京株式市場で西武ホールディングス(以下、西武)株が一時2015円まで上昇、4月23日の再上場以来、初の2000円台に乗せた。1600円の売り出し価格で再上場した西武株が上昇したのは5月に入ってから。12日の後場半ば頃には1995円まで上昇。それが2日後、大台に乗った。同社が13日に発表した「15年3月期の営業利益が2期連続で過去最高を更新する見通し」が、市場で評価されたものとみられている。

 西武が東証に再上場を申請したのは1月15日で、東証の承認が3月19日。そして4月23日に9年4カ月ぶりの再上場となったが、ここへ来るまでには西武と米投資会社、サーベラス・キャピタル・マネジメント(以下、サーベラス)との間で、熾烈な暗闘があった。

●崩れた、サーベラスとの二人三脚

 多額の負債を隠蔽した有価証券報告書虚偽記載事件で西武鉄道が上場廃止処分を受けたのは、04年12月だった。同社は上場廃止と同時にメインバンクのみずほコーポレート銀行(現みずほフィナンシャルグループ)の管理下に置かれ、06年2月現在の西武として再スタート。この時、同社の経営再建資金として約1040億円を出資したのがサーベラスだった。西武はこの資金を元に本格的な経営再建を開始する。

 この時のサーベラスの持ち株比率は32.4%。投資会社としては異例の低さだった。投資会社の場合、過半数の株式取得などの買収で子会社化し、投資会社主導で経営再建を進めたのち、頃合いを見て売却するのが通常だからだ。当時の状況を知る証券関係者は「あの頃は米投資会社の投資ブームで、サーベラスは投資案件を探すのに苦労していた。そこでとにかく西武に出資して『経営再建を助けた』実績を示し、投資先獲得のPR材料にしたかったのだろう」と振り返る。ともあれ、サーベラスの出資に西武の後藤高志社長は「単なる出資者ではなく、パートナーと評価」(同)、西武はサーベラスと二人三脚で経営再建を進めた。

 だが、11年に入ると、サーベラスは西武に再上場を要求するようになる。同年6月、サーベラスは「12年秋までに上場してほしい」と、具体的に要求してきた。後藤社長は「それは早くても14年春頃と考えていたが、サーベラスの要求を無下にできないと、12年中に再上場する準備を始めた」(西武関係者)という。

 これが振りだしに戻ったのは、翌年の12年3月21日だった。同関係者によるとこの日、ニューヨークへ出張した後藤社長がマンハッタンのサーベラス本社を表敬訪問。後藤社長が同社CEOのスティーブン・ファインバーグ氏と和やかに会談している最中、ファインバーグ氏がさりげなく切り出した「当社は西武再上場の株価は1株1800円から2400円が妥当と判断している。この線で検討したらどうか」の言葉に、後藤社長は驚いた。後藤社長は直ちに「株価は市場が決めるもの。我々が決めるものではない」と反論した。これが意外だったのか、気色ばんだファインバーグ氏は早々に会談を打ち切った。

 それでも西武はサーベラスの要求通り、12年中の再上場を目指し、12年5月18日に東証へ株式上場の予備申請を行った。ところが、翌月8日、西武がサーベラスへ同意を求めた資本提携契約解消が、再上場紛糾の火種になった。

 西武はサーベラスの支援を受け入れる際、サーベラスの持ち株比率を3分の1未満に抑える代わりに、西武への経営関与を一部認める条項を盛り込んだ資本提携契約を締結していた。これが上場審査のネックになった。東証の上場審査は「特定株主に有利な契約は申請前に解消されていること」が条件になっているからだ。しかしサーベラスは同意しなかった。逆に「こんな不当な理由により東証への上場申請を進めるのであれば、当社はいかなる法的措置も辞さない」との書簡を10月23日付で送った。それは、サーベラスはそれまでの友好的なパートナーの仮面を剥ぎ棄てた瞬間でもあった。

●サーベラスの豹変

 サーベラスの反発で、西武の再上場は暗礁に乗り上げた。上場要求から上場反対へ、サーベラスはなぜ豹変したのだろうか。

 西武関係者は「実は10月23日付書簡の前に、私信を装った『ファインバーグ書簡』が当社の後藤宛に10月12日付で送られていた」と打ち明ける。その中で「当社が西武の上場想定株価を算定したところ、4月は1株1600~2300円だったが、10月は1100~1500円に大幅ダウンしていると述べ、後藤を非難していた」という。

 一般に米投資会社が求めるリターンは年率10%以上。この基準でゆくと、サーベラスが出資した時の株式取得価格は1株当たり919円。同社が要求している「12年中」の再上場なら出資から約7年なので、目標リターン率は70%以上、すなわち919円の1.7倍以上。したがって4月の想定株価なら1.74~2.5倍のリターンを取れる。証券関係者は「それで出口戦略発動の頃合いと再上場を要求したが、10月の想定株価では1.20~1.63倍。これでは安過ぎてとても発動できないと、急遽再上場ストップをかけたのだろう」と推測する。

 そこで、サーベラスが取った行動が「株価吊り上げ」だった。西武関係者によると、サーベラスは西武に「経営改善の促進・拡充」と称する47項目のリストラを要求した。前出の10月12日付書簡では、47項目のリストラを実施すれば「12~18カ月以内に営業利益で約80億円、EBITD(利払い・税金・償却前利益)で約180億円の収益改善ができる」と述べていたという。47項目の中には、のちに社会問題になった西武秩父線など5路線の廃線とプロ野球球団・西武ライオンズの売却も含まれていた。

 この理不尽さに西武は反発した。「当社の要求だから当然呑むだろう」と考えていたサーベラスの誤算は、西武のトップが大株主におもねらない後藤社長だったことだ。後藤社長は「総会屋利益供与事件」を引き起こした旧第一勧業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)の改革に奔走した「四人衆」の筆頭格。再建請負人として西武に転じた後は、この事件を教訓に公正な経営に腐心し、再上場に当たっては透明性にこだわった。

「後藤・ファインバーグ会談」で「株価は市場が決めるもの」と啖呵を切ったのも当然だった。

●「後藤外し」のために仕掛けたTOB

 西武の反発に驚いたサーベラスが、次に取った行動が「後藤外し」だった。その手段が市場関係者の耳目を集めたTOB(株式公開買付け)だった。

 年が明けて13年3月11日、サーベラスは西武株を追加取得するため、1株1400円でTOBを行うと突如発表。TOB期間は3月12日から4月23日、TOBによる取得株比率の上限は4%。サーベラスは西武株の32.44%をすでに保有しているが、「株主総会の特別決議で拒否権行使ができるようにするため、持ち株比率36.44%までの引き上げを目指す」というのがTOBを仕掛けた表の理由だった。

 同時にサーベラスは6月、西武定時株主総会で、元金融庁長官の五味廣文氏ら3名を取締役として推薦する方針も発表したが、これが裏の理由だった。すなわち「TOBで株主総会特別決議拒否権を行使できる持ち株比率を獲得した上で、後藤社長を退任させ、傀儡となる五味氏を社長に就け、自社主導の出口戦略を発動する。これがサーベラスの描いたTOBシナリオ」(証券アナリスト)というわけだ。

 その後、サーベラスはTOB期間を2回も延長するなど、5月末まで約2カ月半にわたる長いTOBを展開した。この間、サーベラスは「会社の業績に損害を与え、事業を安全かつ効率的に運営する責任を怠った」などの「後藤批判文書」を証券会社や機関投資家にばらまくなどの「後藤外し」工作活動を続けた。片や西武は、サーベラス以外の主要株主からTOB反対協力を取り付ける一方、西武線沿線住民や西武ライオンズファンを中心とする約1万3000名の個人株主を味方に防戦した。

 結果はサーベラスの負けだった。目標の4%を達成できず、3.04%にとどまった。敗因は、サーベラスの「1400円なら多くの株主が飛びつくだろう」とのもくろみに反して、利で釣られた株主が予想外に少なかったことだ。特に個人株主の大半が釣られなかった。彼らは株価にあまり興味を示さない「西武ファン」であり、したがって固定株主だったからだ。

 それでもサーベラスの持ち株比率はTOBで32.44%から35.48%に増加、株主総会で特別決議の拒否権を行使できるようになった。13年6月の株主総会に対する市場関係者の関心は、いやが上にも高まった。

 6月25日に開催された株主総会に、サーベラスが選任提案をした取締役候補には、五味氏のほかに同社顧問で元米副大統領のダン・クエール氏が含まれていた。著名2人を揃えたことで、サーベラスの「後藤外し」は成功するはずだった。しかし、ここでも同社の思惑は外れ、同社提案の取締役候補は全員否認された。翌日、サーベラスは「問題意識から目を逸らし、真摯な討議がなされなかった」と総会批判声明を発表するしかなかった。

●注目集めるサーベラスの次の一手

 その後も水面下で西武とサーベラスの応酬が続いたが、結局、サーベラスは西武の意見に同意せざるを得ず、再上場が実現した。

 再上場が実現した今、証券アナリストは「市場関係者の注目は西武の成長戦略よりも、出口戦略に失敗したサーベラスの次の一手」という。

 西武関係者は「ロックアップ期間【編註:株式公開後、保有する投資物・債券を売却できない期間】が切れる今年10月20日以降、サーベラスが出口戦略を発動するのは疑いがない。問題はその方法だ。市場で持ち株を売却しようとすれば、株価を見ながらになるので、発動終了まで何年かかるかわからない。そのため、市場外で売却する可能性が高い。その売却先が悪意の投資家だと再び騒動が起き、当社の成長戦略が阻害される」と心配する。

 一方、証券アナリストは「サーベラスは、鉄道、不動産開発、リゾートなど西武と同業への持ち株売却を狙っている可能性が高い。同業であれば自社との相乗効果を見込めるので、それを説得材料にサーベラスが目標としている1株2000円での売却もできるだろう。ほかにも、米投資会社なども当然狙っているだろう」と指摘する。続けて「もう1つの可能性は、このまま筆頭株主として居座り続け、金と時間のかかる不動産開発より土地売却を要求してくる『焦土戦術』だ。ある意味、こちらのほうが西武にとっては恐ろしい」と顔を曇らせる。

 後藤社長の「裏の成長戦略」には、今や西武にとって獅子身中の虫といえるサーベラスに対し、どんな策が入っているのだろうか。(文=福井晋/フリーライター)

※画像は西武鉄道(「Wikipedia」より)

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