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記者から「上場廃止」「法的整理」を問われた東芝 それって何?

ITmedia NEWS のロゴ ITmedia NEWS 2017/05/22
記者から「上場廃止」「法的整理」を問われた東芝 それって何?: 証券取引所はそれぞれ独自の上場廃止基準を持って1る © ITmedia NEWS 提供 証券取引所はそれぞれ独自の上場廃止基準を持って1る

 既報の通り、東芝は5月15日に2016年度の通期決算の「見通し」を発表した。決算速報を通常の「決算短信」という形で公表しなかったのは「監査法人との関係悪化防止」と「投資家への情報提供」を鑑みた結果であると思われる。

 本件の説明会において、同社の網川智社長は「上場廃止」や「法的整理」の選択肢について記者から問われ、いずれも否定した。

 そもそも「上場廃止」や「法的整理」とはどのようなものなのだろうか。

●「上場廃止」とは?

 「上場廃止」は証券取引所における株式の取り扱いを廃止(終了)することだ。

 証券取引所はそれぞれ「上場廃止基準」を設けている。上場企業がこれに抵触した場合、証券取引所は上場廃止を検討する(抵触項目によっては廃止を即時決定する)。廃止が相当と判断された場合、一定の整理(売買可能)期間を経て、その企業の株式は証券取引所から姿を消す。

 主な上場廃止基準には以下のものがある。

・株主の人数や売買できる株式数が基準未満の場合(猶予期間あり)

・完全子会社化された場合

・債務超過(株主資本額<債務額)を1年以内に解消できない場合

・不適当な合併(※)が疑われる場合(審査あり)

・倒産(経営破綻)状態になった場合(詳しくは「法的整理とは?」で解説する)

・会社の解散(消滅)が決定した場合

・有価証券報告書・四半期報告書の提出が遅れた場合

・有価証券報告書・四半期報告書に市場の秩序を乱しうる虚偽記載があった場合

・監査報告書・四半期レビュー報告書の結論が「不適正意見」または「意見の不表明」である場合(審査あり)

・企業の内部統制に問題があり、その改善がなされないか、改善見込みがないと取引所が判断した場合

●※「不適当な合併」とは?

 「不適当な合併」は、非上場企業側が上場のための手続きやその審査を回避するために上場企業と合併する行為を指す。

 存続会社が上場企業、消滅会社が非上場企業という形式で吸収合併を行った場合、通常は存続会社の株式上場は維持される。しかし、証券取引所がその合併を「不適当な合併」と判断した場合は、上場を維持するか廃止するかの審査を行うことがある。

 上場廃止となった株式は証券取引所や証券会社で売買できなくなる。そのため、株主や投資家にとっては大きな不利益となる。また、当該企業にとっても資金を調達する手段方法が減るという大きなデメリットがある。

自ら上場廃止するケースもある

 一見すると良いことがないように見える上場廃止。しかし、企業によっては自ら上場廃止を決定する場合もある。その主な理由としては以下のようなものがある。

・大株主の意向に左右されない企業運営をしたい

・敵対的買収からの防衛策

・上場にかかるコストや手間を省きたい

・いったん上場を廃止して経営再建したい(再上場が前提)

・ある企業に買収され、その完全子会社になる

・上場する証券取引所を整理するしたい(複数取引所に上場している場合)

 これらのケースでは、一般に企業価値を向上する意図で行うことが多い。また、既存の株主・投資家の利益を損なわないよう、法律などが定めるルールに基づいて手続きが進められる。

●「法的整理」とは?

 「法的整理」は裁判所が関与して会社の倒産(経営破綻)に関する手続きを進めることだ。

 「倒産」は一般に会社の経営が行き詰まった状態を指す。「行き詰まり」を解消できない場合は会社は消滅せざるを得ないが、解消できれば会社を存続させることもできる。「倒産=会社の消滅」というイメージを持つ人も少なくないが、必ずしもそうであるとは限らないのだ。

 法的整理には会社を再建するための「民事再生」「会社更生」と、会社を消滅させるための「破産」「特別清算」の計4種類が用意されている。

民事再生

 民事再生法にもとづく法的整理のことを「民事再生」という。裁判所に申し立てた後、一定の手続きを経た上で「再生計画案」を作成し、債権者集会でその承認を受け、裁判所から認可されることで再建が始まる。

 民事再生には他にも以下のような特徴がある。

・法人だけではなく個人も利用できる

・「株式会社」以外の形態を取る法人(合同会社など)でも利用できる

・既存の株主は株主の権利を留保できる

・原則として経営者を交代する必要がない(法人の場合)

・財産の管理・処分権を保有したまま再建できる(処分は裁判所が指名する「監督委員」の同意が必要)

・債権者による担保権の行使を原則として禁止できない(一定条件のもと「競売手続きの中止」や「担保権の消滅」を申し立てることはできる)

 民事再生の大きなメリットは経営者の交代が原則として不要で会社主導で再建できること、会社の資産を保持したまま再建が進められること、比較的早く再建を始められることにある。一方で、債権者・取引先が担保権を行使することで財産の一部を失う可能性を排除できないというデメリットもある。何より、債権者からの協力が得られないと再建計画を進められないという問題もある。

 なお、民事再生では再建計画が履行されない場合などに裁判所が職権で「破産手続き」を開始することもある。

会社更生

 会社更生法にもとづく法的整理のことを「会社更生」という。民事再生よりも前からある制度で、裁判所が指名した「更生管財人」が主導して「更正計画」を作成し、債権者などから承認を受け、裁判所から認可を受けることで再建が始まる。

 会社更生には他にも以下のような特徴がある。

・株式会社のみ利用できる(他の形態を取る法人では利用できない)

・旧経営陣は原則として経営権を失う(→経営陣の刷新が必要)

・既存の株主は保有株主の範囲内で責任を取る(→新たな出資者が必要となる)

・財産の管理・処分権は更生管財人に移る

・債権者による担保権の行使は、更正手続きへの参加が必要となる

 会社更生の大きなメリットは、債権者から担保権を自由に行使される可能性がなくなることにある。一方で、経営陣の刷新が原則として必須であることや、既存株主は株主としての権利を失うというデメリットもある。何より、利害関係者との調整に時間がかかる傾向にあるという問題もある。そのため、昨今では民事再生で再建を目指すケースが多い。

破産

 破産法にもとづく法的整理のことを「破産」という。

 破産は債務者の資産と債権の状況を精査した上で、債務者の財産を処分して債権者に配当(≒債務の返済)を行う制度となる。そのため、債務者が自ら申し立てる「自己破産」だけではなく、債権保全の観点で債権者が破産を申し立てることもできる。

 法人の破産手続きが決定した場合、債務者の財産を管理・調査から債務者への配当までを行う「破産管財人」が裁判所によって必ず選定される。また、破産手続きが完了するとその法人は消滅することになる。

特別清算

 法人を解散する(任意で消滅させる)手続きにおいては、手持ちの財産や債務を清算する必要がある。会社法にもとづき、株式会社の清算手続きに裁判所が介入すると「特別清算」となる。

 特別清算は清算の遂行に著しい支障をきたすべき事情が発生した場合、または清算課程で債務超過の疑いが発生した場合に清算人(※)のほか、監査役、債権者や株主が裁判所に申し立てることができる。

 手続きにおいて、清算人は財産状況の調査を行いつつ、弁済に関する「協定案」または個別の「和解案」を作成する。それが債権者集会で(和解案の場合は該当する債権者から)承認され、裁判所から認可を受ければ特別清算が成立する。

 清算自体が会社の消滅を意図したものであるため、特別清算の完了は当然に会社の消滅を意味する。

●※「清算人」とは?

 「清算人」は、法人を清算する際にその職務を執行する人を指す。

 株式会社を清算する場合、清算人は1〜2人置く必要あり、基本的には清算前に代表取締役だった人が就任する(代表取締役を設けていない会社は取締役)。ただし、定款(会社の規約)で別の定めをしている場合、あるいは株主総会で別途選任手続きが行われた場合は、(代表)取締役ではなかった人が清算人となる場合もある。

●記者が「上場廃止」「法的整理」を質問した意図

 東芝の件に話を戻す。同社は社内カンパニーの分社化(子会社への譲渡)で事業の最適化を行い、分社化済みの東芝メモリの株式売却によって債務超過を解消することで、自力での経営再建を目指している。

 しかし、東芝メモリの売却について、米Western Digital(WD)が「NANDメモリの合弁事業の持ち分を米SanDisk(WDの子会社)の合意なく譲渡するのは契約違反だ」として、国際仲裁裁判所に仲裁を申し立てた。一方の東芝は、SanDiskの同意を得ずとも売却できるとしている。

 ともあれ、この仲裁申し立てによって、東芝メモリの売却計画が順調に進まなくなる可能性が高まった。2017年度内に売却を完了できない場合、東芝は債務超過を解消ないことで強制上場廃止となる。

 2016年通期決算に関する会見で、記者が上場廃止や法的整理の可能性を綱川智社長に質問したのは、上場維持にこだわらずに経営再建をする意思はあるのかどうかを確認するためであると思われる。

 自ら進んで上場廃止・法的整理の選択肢を取ることは、ある意味で企業価値を毀損(きそん)することでもある。方法次第では株主・投資家や取引先にも少なからぬな悪影響を与えることにもなる。しかし、強制的に上場廃止になるよりは、企業価値の毀損や、株主・投資家や取引先への影響も最小限に抑えられる可能性もある。

 「真実」はいつも1つかもしれないが、現状がもたらす「可能性」は極力多く検討しておいた方が、万が一の備えになると筆者は考えている。

 上場“意地”から動くかどうか――東芝のこれからは、この1点をどうするかにかかっているのかもしれない。

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