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議論を呼ぶ「訂正できる」ブロックチェーン、そのメカニズムとは?

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2016/12/06
議論を呼ぶ「訂正できる」ブロックチェーン、そのメカニズムとは?: ブロックチェーンの概要(出典:ITソリューション塾) © ITmedia エンタープライズ 提供 ブロックチェーンの概要(出典:ITソリューション塾)

 コンサルティングと情報システム開発を手掛けるグローバル企業のアクセンチュアは、「訂正可能なブロックチェーン技術」のプロトタイプを開発し、同社の一部顧客と共に実システムでの検証を進めている。ブロックチェーンは、仮想通貨に起源を持つ技術として知られているが、その特徴を生かして金融機関などで活用に向けた実証実験が進んでいる。

 今回、アクセンチュアが開発した技術は、ブロックチェーンを知る人からは疑問の声も挙がっている。そこでまず、取材で分かった重要な前提を2点お伝えしたい。

 この技術は、(1)企業間の閉じた環境下で、よく管理されたパーミッション型ブロックチェーンに特化している。(2)“訂正”というのは例外的な措置であり、ブロックチェーンの価値が「信用できる記録」にある点は従来と変わらない。今回の技術を開発した背景にあるのは、「企業情報システムでは、情報の訂正が必要な場合がある」ということだ。アクセンチュアはこれを顧客へのヒアリングで知った。

 技術的には、従来のブロックチェーンで使われていたブロックを結び付ける「ハッシュチェーン」と並行して、新たに「カメレオンハッシュ」と呼ぶ別の技術を追加して訂正可能なブロックチェーンを実現した。ブロックを結び付けた後に管理者による「鍵の開け閉め」を可能とする暗号学的なメカニズムである。共同開発者である米スティーブンス工科大学のジュゼッペ・アテニエセ博士と共に、米国とEUに特許を出願中としている。

 「訂正可能なブロックチェーン」の発表はブロックチェーンに関心をもつ人々の間で大いに議論を呼んだ。そもそもブロックチェーンは、“改ざん不可能”という点が高く評価されていたからだ。

 これについて同社は「現実世界の法的規制などに対処するためのものだ。市場の反応はポジティブだが、ビットコインのコミュニティーで議論を呼び起こしていることは承知している」(アクセンチュア金融サービス本部 グループ・チーフ・エグゼクティブ リチャード・ラム氏)と話している。

●Hyperledgerに組み込み、一部顧客と検証を実施中

 訂正可能なブロックチェーンは現在、顧客企業と共にPoC(Proof of Concept:概念実証)に取り組んでいる段階で、Linux Foundationが推進するHyperledgerに組み込む形で実現している。将来的にどのような形でこの機能を公開するか、またオープンソースにするか否かは「検討中」だという。

 HyperledgerとはLinux Foundationのプロジェクト名だが、IBMがコードを寄付(コントリビュート)したパーミッション型ブロックチェーン技術、Hyperledger fabricを取り巻く動きが活発である。アクセンチュアはHyperledgerのプレミアメンバーで、他には日立製作所、富士通、IBM、Intelなどの企業が名を連ねる。

●企業間の“閉じたブロックチェーン”向けの技術

 先に触れたように「訂正可能なブロックチェーン」は、特定の企業グループが参加する閉じたブロックチェーンである「パーミッション型ブロックチェーン」(コンソーシアムチェーンと呼ばれることもある)のための技術だ。

 「ブロックチェーンにはパーミッションレス型、パーミッション型があるが、今回はパーミッション型の使い勝手を良くするための技術だ」とアクセンチュアで戦略コンサルティング本部エンタープライズアーキテクチャ&アプリケーション戦略マネジングディレクターを務める村上隆文氏は説明する。

 改ざんがほぼ不可能であるブロックチェーンは、利害が対立する当事者同士が記録内容が信用できるところに大きな価値があるものの、現実の企業情報システムにブロックチェーンを応用する場合、過去の記録を一切削除できないと困るケースがあるという。

 「不正取引が起きたときにそれを消せる機能がないと、業務を遂行できなくなる可能性がある」と金融サービス本部統括本部長の中野将志氏は話す。例えば、本来は記録されるべきではない、個人情報を誤って記録してしまうかもしれない。また、欧州で規定されている「忘れられる権利」により、ある条件を満たす過去の記録を削除しなければ、法令に違反するケースが出る可能性もある。アクセンチュアは、顧客へのヒアリングからそのようなニーズを察知したとしている。

 もちろん、訂正機能が不正に使われてはブロックチェーンの意味がない。管理責任が明確な企業間のパーミッション型ブロックチェーンを前提としているのは、そのためだ。訂正した「跡」はブロックチェーンに残る。また訂正前のブロックを保管することも可能だ。容易に悪用できる技術というわけでは決してない。

 「あくまで例外的な訂正のために使うもの。前提は(訂正機能を使うルールを定めた)ガバナンスモデルがあることだ」(アクセンチュア キャピタル・マーケッツ・ブロックチェーン専門チームでマネージングディレクターを務めるデイヴィッド・トリート氏)

●オペレーティングコスト削減の効果も

 ここで、あらためてブロックチェーン技術の意義を振り返ろう。「利害が異なる当事者同士でも、その記録内容は信用できる」という性質は、企業ユーザーにとって大きな可能性を秘めている。例えば、さまざまな国のさまざまな立場の当事者が参加するサプライチェーン上の商流を可視化するのにブロックチェーンは有用だ。

 納期が守られなかったり、発注と異なる商品が納入されたり、未払いがあったりといった取引上の問題が発生した際に、発注や納品、支払いなどの諸情報が双方にとって信用できる、ごまかしがきかない形で記録されているなら、紛争解決の手間は圧倒的に少なくなる。

 また、取引上のイレギュラーへの対処(「督促」「再発注」「キャンセル」「違約金の支払い」のどれかを判定して実施する、など)をプログラムで自動的に執行するようにしておけば、人間が紛争を解決する手間すら必要がなくなる。このような概念を「スマートコントラクト」と表現することもある。

 さらにもう1点、紛争解決のような例外処理だけでなく、日常的な事務処理の負担軽減にもブロックチェーン技術は役立つ。従来、企業間におけるデータのやりとりでは、内容の確認作業(リコンサイル)が発生していたが、ブロックチェーン上の情報を信用できるなら確認作業をなくすことができる。

 アクセンチュアでは、この特徴を「リコンサイル・レス化」と表現している。金融機関同士の決済や国際送金にブロックチェーンを使う発想が出てくるのも、リコンサイル・レス化により、送金に掛かる時間の(現状では国際送金には数日を要する)大幅な短縮が期待できるためだ。

●インフラのソフトウェア化で低コストに

 「信用できる記録」が必要ならデータベースを共有すれば事足りるのではないか、という意見もあるかもしれない。利害の対立がなければ、また、予算が潤沢ならば、それでもいいだろう。

 では、利害が対立し、言い分が食い違う可能性がある当事者同士が、どんな方法で信用できる記録を共有できるかを考えてみよう。まず考えられるのは、当事者双方が信頼できる第三者機関の情報システムで情報を管理することだ。銀行を結ぶ全銀システムや、証券会社の注文を受け付ける証券取引所は、このような信用できる第三者機関だと考えることができる。だが、全ての業種で情報共有のための組織を維持し、情報システムを運営するのに必要な予算を捻出するのは非現実的だろう。

 ブロックチェーン技術は、管理する組織も特殊な設備も必要なく、ソフトウェアのレイヤーにより「信用された記録」と「システムの可用性」を実現する。特筆すべきメリットは、耐故障性やセキュリティの機能が全てソフトウェアのレイヤーで実現されているため、従来の手法(第三者機関とハードウェアや設備によるセキュリティ確保)に比べてコストを抑えやすいことだ。アクセンチュアでは、この特性を「インフラのソフトウェア化」と呼んでいる。

 例えば、クラウド上のインスタンスを複数使うだけで、耐故障性があり、セキュリティを確保したブロックチェーンを動かすことが可能だ。オンプレミスの場合でも高価なサーバを使わずに耐故障性を確保でき、地理的に分散させてディザスタリカバリの機能を持たせることがブロックチェーンの標準機能で実現できる。自分たちにとって現実的なコストで構成し、運用できるのもブロックチェーン技術の価値だろう。

●ハードフォークのコストとリスクを避ける

 なお、従来のブロックチェーン技術でも、訂正する手段が全くないわけではない。“最後の手段”として、ブロックチェーンを巻き戻して訂正する「ハードフォーク」がある。Ethereum上の投資ファンドであるThe DAOが、2016年6月にハッキングで仮想通貨を不正移動させられたとき、仮想通貨を取り戻すためにハードフォークが実行された。

 ただ、ハードフォークによる訂正は、OSのアップデートでデータの訂正を行うような措置なので、コストもリスクも高くつく。ハードフォークによる訂正のことを「歴史改変」と呼ぶ人がいるほどだ。実質的にシステム全体を一時的に停止させることにもつながってしまうため、できれば避けたい措置といえる。

●カメレオンハッシュで訂正機能を実現

 アクセンチュアが開発した技術は、前述したカメレオンハッシュと呼ぶ暗号学的な手法でハードフォークなしに過去を改訂できる。

 ブロックチェーンで通常使われるハッシュチェーンは改ざん不能なようにブロックどうしを結び付けるが、カメレオンハッシュでは、管理者だけが持つ暗号鍵により「鍵」の開け閉めができる機能を提供する。過去のブロックを結び付けたカメレオンハッシュの「鍵」を開けてブロックの連鎖をつなぎ変えることで、過去の情報を訂正する。

 なお、この操作を行うと、カメレオンハッシュではない従来型のハッシュチェーンは壊れてしまうが、これは後から訂正箇所が発見できることを意味する。つまり、無制限に訂正を許すわけではなく、必要最低限の訂正をハードフォークなしに実現するということだ。

 同社は今回の発表の反響が大きいことを把握しており、取材の場でも「ビットコインのような、パブリックブロックチェーンのための技術ではない」と何回も強調した。ビットコインのようなパブリックブロックチェーンと、同社がターゲットとしている企業どうしを結ぶパーミッション型ブロックチェーンとは大きく異なる概念なのだ。

 反響やニーズの大きさから、同社の顧客がブロックチェーンに大きな期待を寄せていることも伺える。今後、ブロックチェーンを企業システムで活用する事例は増えていくだろう。

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