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量子コンピューティングから自動運転へ、宇都宮聖子さんの挑戦

ザテレビジョン のロゴ ザテレビジョン 2017/06/26
量子コンピューティングから自動運転へ、宇都宮聖子さんの挑戦 © KADOKAWA CORPORATION 提供 量子コンピューティングから自動運転へ、宇都宮聖子さんの挑戦

国立情報学研究所(NII)で長らく量子コンピューティングの研究を携わってきた宇都宮聖子さん。新たに進む道は自動運転だ。プログラミングやFPGA設計の経験まで持つ生粋のリケジョが、なぜ自動運転の世界に飛び込んだのか? 学生時代から持ち続けてきたモノ作りへの思いと、アカデミック分野から飛び立った挑戦について聞いた。(インタビュアー 大谷イビサ) 世界の最先端に興味を持ち、光半導体を触りながら実験  中学時代からBASICのプログラミングに親しんでいた宇都宮さんは高校も理数科。愛媛県出身ということで、素朴に東京に出たいというモチベーションで、東工大に入り、画像処理を研究していたバリバリのリケジョだ。その後、2003年頃に東京大学に修士として入り、量子コンピューターの分野に飛び込んだ。 「もともとAIに興味があったのですが、コンピュータの理解を深めて自分の強みを作ろうと、画期的なコンピュータと言われていた量子コンピューティングを研究し始めたきっかけ。指導教官で当時NIIの所長であった坂内正夫教授の紹介で、この分野の第一人者であるスタンフォード大学の山本喜久教授に従事することになりました」  当初、山本教授はアメリカにいたため、おもにメールと電話の遠隔指導という特殊な状況だったが、世界の最先端で研究できるというところに魅力を感じた。その後、2003年から博士取得までの5年間は、大学院生も参加して研究できるNIIの連携大学院生、そして山本研究室の日本拠点一期生として研究室の立ち上げに参画した。 「山本研の立ち上げ当初は日本に実験室がありませんでした。だから、NTTの研究所で半導体をプロセスして、作ったウェハーをスタンフォードの実験室に持ち込んで、特性を評価するといった『研究室ジプシー』みたいなことをやってましたね。おかげでいろんな人と共同研究をする交渉能力が身につきました(笑)」 光の量子コンピューティングから人工知能まで幅広く  2008年からは助教として5年、2013年からは准教授として4年強、東大、スタンフォード大学、阪大、東京理科大の連携グループと、NTT物性基礎科学研究所、アルネアラボラトリなどの参画企業とともに、研究を進めてきた。  宇都宮さんが10年以上に渡って手がけてきたのは、「光半導体を用いた量子シミュレーターの開発」「光を用いた新型コンピュータの提案と、原理実証のための光学実験」「ニューラルネットワーク型最適化マシンの機械学習応用」などの基盤技術。正直、私のような商用ITメディアの記者には太刀打ちできない内容だが、量子コンピューティングのみならず、シミュレーションや機械学習の応用、量子としての光の研究など、かなり幅広い分野を手がけてきたことは理解できる。 「一言で量子と言っても、光や原子、電子だったり、いろいろ選べるのですが、私たちが対象にしてきたのは光。光の特殊な性質を使い、セキュアな通信を実現する量子暗号がこの分野に興味を持ったきっかけです。私たちは新しい計算原理で、爆速のコンピューターを作ることを目指していました。当初は紙の上で量子コンピューターを学んでいたのですが、光半導体を触りながら物性を実験してみると、量子コンピューターの実用化がいかに難しいか理解できました」  宇都宮さんが指摘するとおり、量子コンピューターはそもそも作るのが大変難しい。現状、量子コンピューターの研究でリードしているグーグルですら、今年度の目標は49量子ビット。量子誤り訂正なども必要なので、現在のパソコンに比べて有用な計算を実現するには、さらに沢山の量子ビットが必要とされるが、実際は数十ビットですら制御するのは困難を極める。 「ただプロセスすればいいわけではなく、量子的な特性を活かす必要があります。そもそも量子って見ると壊れてしまうという性質があるので、温度や磁場など外からの影響を極限まで排除し、量子コンピューター的な操作ができるよう制御しなければなりません。特性の揃った量子ビット数を増やし、状態が壊れないまま制御していくのも大変です」  とはいえ、既存のノイマン型コンピューターの限界を打破する技術として注目を集めている量子コンピューティングは、技術革新もすさまじい。先日は、東京工業大学の西森秀稔教授と門脇正史氏が開発した「量子アニーリング方式」という今までとまったく異なる計算原理を実装したカナダのD-Wave Systemsが、量子ビットを2000量子ビットに増やし、大きな話題となった。  最近の注目は超伝導を用いた量子コンピューティングの分野で、グーグルやIBMがリーダーとなって実用化に向けて研究開発をリードしている状況だ。この技術は1999年に当時NECであった中村泰信教授(現在は東京大学にて日本の量子コンピュータシーンを牽引)らが初めて実証実験に成功したもの。米国を追い越すべく、日本でも大学や国研、NTTらを中心に研究を進めており、ヨーロッパや中国とともにしのぎを削っている。 アカデミックな業績と製品化という「出口」は違う  さて、15年近くにおよぶ研究生活で、宇都宮さんも気がつけばCやC++、Python、Matlabなどのプログラミングや半導体のプロセス、FPGAの共同設計までを経験し、量子情報、離散最適化、統計物理、光半導体物性まで幅広い分野をカバーするようになった。チームとともにアカデミック分野でさまざまな成果を挙げてきたが、研究成果を製品として昇華させるという点では悩みも膨らんできたという。 「アカデミックな業績と世の中にわかりやすい業績は全然違います。量子コンピュータの実験分野では、今までできなかった量子操作ができたこと、今まで観測できなかった量子現象を実験で観測できたことなど、論文に書くことを目指している方が多いと思います。でも、基礎研究を続けても、『出口』が見えないしんどさがあるし、一方でわかりやすい『出口』ばかりを考えて両者をつなぐといびつな形になってしまうというジレンマもあります」 「アカデミックな業績と世の中にわかりやすい業績は全然違います」(宇都宮さん) 「アカデミックな業績と世の中にわかりやすい業績は全然違います」(宇都宮さん)  量子コンピューターを作るという目的が先にあると、より優れた解決法があっても、そこに目を向けることが難しくなってしまう。その点、宇都宮さんは世の中に役立つモノを作りたいという思いが先にあり、その方法が必ずしも量子コンピューティングでなくてもよいのではと感じ始めた。もちろん、一足飛びでの実用化は難しい。そのため、基礎研究から始め、プロトタイプを作り続け、実績を重ねてきたわけだ。実際、NIIのキャリアの後半では「光ネットワークを用いた次世代コンピューターの開発」というプロジェクトで産学連携のチームマネジメントも経験し、FPGAの設計まで携わったことで、出口に結びつく研究を動かしてきた。 「プロジェクトで研究してきた新しい原理のコンピューターの開発は、基本的に機械学習のニューラルネットワークと同じ考え方です。機械学習は大学時代からいつか携わってみたい分野だったので、今までやってきたこととの接点はずっと探していました」 量子コンピューティングから自動運転に飛び込んだのはなぜか?  そんな思いを抱えながら、宇都宮さんはNIIの研究者としてのキャリアをいったん終え、5月にトヨタ自動車に転職した。自動運転という分野で自身のキャリアを活かすという道だ。 「5年単位でプロジェクトをやって、周りの人から『これは役に立つんですか?』とずっと言われ続けてきました。でも、本当に役立つことが何か?という意味を理解するためには、企業に入ってモノを作る必要があると思ったんです。アカデミックなポストはパイが少なく競争が激しい一方で、AI人材が不足している現状。企業がアカデミックなバックグラウンドを持った人材をとても欲しがっているという現状に驚き、転職を考えました」  なぜトヨタ自動車か? 実は転職活動の際、エージェント(DODA)に人材動向を聞き、たまたま目に付いたのがトヨタだったという。ちょうど昨年くらいからトヨタもAI人材や博士人材の募集をスタートしており、「博士に行くと就職しづらい」という常識は少しずつ変わってきているようだ。 「若くて優秀な人が集まるソフトウェア業界は、スピード感があり新しい技術にも柔軟そうなところが魅力的でした。もともと日本の強みを生かしたAIに興味があったので、AIとロボティックスの融合で実現する自動運転分野で、次の勝負をしてみたいと思いました。日本の強みを活かせる会社で、世界で戦えるポテンシャルを持っているのは魅力的でした」  このように転職のきっかけはさまざまだが、その1つは東工大の同級生で、友人のソラコムCTOの安川健太さんがソラコムで活躍していたことだったという。 「久しぶりに安川さんに会って、ソラコムで活躍しているのを見て、刺激を受けました。博士号を持っているような私たちのようにアカデミック人材が民間企業に転職したり、逆にスタートアップを起こして、そこから大学に戻るといったキャリアパスが日本でも増えるといいなと思います」  現在、宇都宮さんはトヨタ自動車の東京技術開発センターで、次世代の自動運転車の開発に携わっている。ITの次の主戦場となっているIoTやAI、自動運転の分野で、宇都宮さんのようなアカデミック人材がどのような活躍を見せてくれるのか? セカンドステージの幕は今上がったばかりだ。 ■関連サイト 国立情報学研究所 トヨタ自動車

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