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阪本奨悟の一筋縄ではいかない“面白さ” デビュー直前ワンマンで見えた、シンガーとしての可能性

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/05/12 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 ミュージカル『テニスの王子様』、大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』(NHK総合)などに出演し、シンガーソングライターとしても様々な場で存在感を発揮してきた阪本奨悟が、5月31日に両A面シングル『鼻声/しょっぱい涙』でメジャーデビューする。彼がシンガーソングライターとして秘めているポテンシャルを目撃すべく、4月8日に原宿アストロホールで開催された約8カ月ぶりのワンマンライブ『阪本奨悟 ワンマンLIVE 2017 「Predawn 〜君の鼻声と僕のしょっぱい涙〜」』に足を運んだ。同公演はそのタイトル通り、メジャーデビュー直前である阪本の“Predawn=夜明け前”を感じさせるものだったと言える。

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 この日集まった観客は、ミュージカル『テニスの王子様』の頃から応援しているという人から、精力的に全国各地でライブを行なう『全国阪本化計画』で知ったという人まで、年齢層は実に様々。ライブ中に彼が見せた素直な表情に、母性本能をくすぐるような一種の中毒性を感じた。冒頭ではアニメ『王室教師ハイネ』(テレビ東京系)オープニングテーマでもあるキャッチーな「しょっぱい涙」を歌うと、「アニメのオンエアで“ハイネ先生”が<ちゃんと契約書交わしてんの?>っていう歌詞に合わせてリップシンクしてるんですよ!」と興奮したように語ったり、中盤の弾き語りではループマシンを知らないと言った観客の名前を歌ったり、自ら“天然キャラ”と称したり……。誤解を恐れずに言えば“小悪魔的”とも言える彼の振る舞いだが、嫌味はなく、多くの観客を夢中にさせていた。

 それは彼の歌にも共通することだ。1曲目の「Please me !!」では久々のワンマンへの喜びを抑えきれないように、中盤の「オセロ」では現実への絶望や無力さを真っ直ぐに歌うなど、役者経験がある彼ならではの表情の変化を見せた。バンドセットだけでなく中盤では弾き語りも披露したが、彼の芯が通った歌声は決してブレない。阪本は“声”でもきちんと勝負できるシンガーソングライターだ、と強く感じた。

 爽やかな笑顔が印象的な阪本だが、MCでは過去を振り返り「暗い歌ばっかりだった」と明かす。実は阪本は役者の道を志し上京するも、音楽への思いから地元・兵庫へ戻りシンガーソングライターとして活動を始めたという経歴を持つ。そんな過去を「“ゼロ”じゃなくて“マイナス”からのスタートみたいな気分だった」と語ったり、「マネージャーの車で昔の曲を聴いた時、暗すぎて誰の曲だか分からなかった」とあくまで冗談交じりに“マイナス”の時代を話す彼の様子から、一筋縄ではいかない魅力を感じた。明るい好青年というだけではなく、時に達観し、悟ったような表情も見せるのが阪本の面白いところだ。

 そんな阪本の魅力が現れていたのが、この日の中盤で披露された「Fly」と「Treasure」だった。代表曲の一つである「Fly」を歌う姿に、彼の圧倒的な歌唱力や凛と澄んだ歌声は生まれ持っての才能だけでなく、下積みをしてきた経験にきちんと裏打ちされたものであることを痛感した。「Fly」の<飛べるはずと助走つけて翼拡げる><どこかで輝く自分が居るって信じていたい>という切実に夢を追い続ける歌詞に説得力があるのは、そこにミュージカルへの出演や俳優経験、ストリートライブなど、9年間下積みを続けた彼自身の姿が重なるからだろう。

 一方、約2年ぶりに歌ったという「Treasure」はミュージカル『テニスの王子様』などを通じて輝かしいキャリアを築いてきた阪本があえて第一線を離れ、シンガーとして地元で伸び悩んでいた頃の思いを赤裸々に綴った楽曲だ。メジャーへの切符を手にし、希望に満ちているはずの彼がなぜ今、この曲を歌うのかーーそこには、過去をなかったことには決してするまい、という覚悟を感じた。“マイナス”、“ダークサイド”と表現した過去に書いた曲も「あの頃にしか書けない」と前向きに捉えていた阪本。その達観した表情の理由は、「後悔しかない」と言いながらも過去を全て受け入れ、真正面から向き合っていることにあった。


 さらに阪本はMCで、「明るい曲を」と思って必死で書いた「You Can Shine」が、『阪本奨悟 クリスマスLIVE 2016 ~ささやかだけど感謝を込めて~』のリクエスト投票で0票だった、と自虐すると、同楽曲を“あてつけ”のように序盤で披露したと明かし、笑いを取る場面も。普通であれば明かさない現実すらも、笑い話として観客に提供する彼のサービス精神の旺盛さに思わず感嘆した。

 実は筆者は過去『Amuse Fes 2015 BBQ in つま恋』を訪れた際、オープニングアクトという重責を果たし、物怖じせずに岡野昭仁(Vo / ポルノグラフィティ)と並んで「Runner」(爆風スランプ)を歌う阪本に驚いたのを記憶している。その後も『全国阪本化計画』などを通じて100回以上ライブを行なってきた阪本。本公演の後半ではバンドセットで手拍子で会場を盛り上げながら「HeyHeyLaLa」、ハンドマイクで飛び跳ねるように「ハルカゼ」と続けてアップテンポな楽曲を歌唱し、堂々と会場を盛り上げる姿にさらなる成長を感じた。

「大阪で路上ライブを始めたばかりの頃は『怖い』と思っていた」
「『感じることすべてを歌に』と死に物狂いで曲を作っていた」

 終盤でストリート時代を振り返り、感慨深げな表情を見せた阪本。『怖い』と感じても逃げずに自分や現実と向き合い、全てを音楽にぶつけてきたからこそ、彼は今ここに立つことができているのだ。全身全霊をかけた魂からの言葉やメロディが、幅広い年齢層のリスナーの共感を呼んでいることを改めて感じる言葉だった。そして本編最後に、新曲であるラブソング「鼻声」を披露。優しく歌う阪本の甘い声に、会場はじっくりと聴き入っていた。

 アンコールではギター1本で「しょっぱい涙」を再び歌唱。「鼻声」で見せた優しい歌声とはギャップのあるロックな一面を見せた。終盤にも関わらず疲れを感じさせぬ力強い声と晴れ晴れとした阪本の表情には、シンガーソングライターとしての可能性が満ち溢れていた。心の叫びが表れた真っ直ぐな歌詞や澄んだ歌声、演技経験を生かした表現力の豊かさ……全てを武器に、メジャーというフィールドでも戦い続けるはずだ。終始素直に周囲への感謝を口にしていた彼に、長い<助走>の終わりと、<輝く>始まりを確信した“夜明け前”だった。(村上夏菜)

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