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障害者でもアイデアを形にできるkintone、仙拓の松元氏が語る

ザテレビジョン のロゴ ザテレビジョン 2017/04/25
障害者でもアイデアを形にできるkintone、仙拓の松元氏が語る © KADOKAWA CORPORATION 提供 障害者でもアイデアを形にできるkintone、仙拓の松元氏が語る

10万人に1人という重度の障害者が2人で立ち上げた仙拓。顔と親指しか動かせない彼らは、そんなハンディをものともせず、kintoneを使って、思う存分その才能を発揮している。kintone hive nagoyaに登壇した副社長の松元拓也氏に、会社立ち上げの経緯や業務改善にとどまらないkintoneの魅力について聞いた。(インタビュアーTECH.ASCII.jp 大谷イビサ) 僕たちのような重度障害者が働ける場所はなかった  仙拓は、名刺デザインやWebサイト制作のほか、ITの導入コンサルティング、iOSアプリのプロデュースまで幅広く手がけている。「寝たきり社長」として知られる仙拓代表取締役社長の佐藤仙務氏は、「脊髄性筋萎縮症」という難病のため、顔と親指しか動かすことができない。今回インタビューした副社長の松元拓也氏も佐藤氏と同じ難病を抱えているが、ITを使いこなすことで、名刺デザインやkintone活用などに自身の才能をいかんなく発揮している。  今から6年前、2人が仙拓を立ち上げた理由はきわめてシンプル。彼らのような重度障害者が働く場所がなかったからだという。 「自分のことはなんでもできるというほかの障害者であれば、一般企業でも就職できるんですけど、食事も、トイレも、ほかの方にやってもらわないといけない僕たちのような障害者は、企業も雇いにくいのが正直なところ。じゃあ、どうしたらよいか考えて、自分たちで会社を立ち上げようということになりました」(松元氏)。  ゲームやマンガが大好きだった松元氏はデジタルにも明るく、高校の頃から絵を描いたり、ホームページ作成などを手がけてきた。そんな経緯もあり、自分が好きなデザインの仕事を選んだ。当初はフリーランスでやっていこうと考えていたが、同時期に高校を卒業することになった佐藤氏に誘われる形で創業したのが2人の名前の頭文字を冠した仙拓になる。ちなみに仙は「未踏」、拓は「切り拓く」という意味で、前人未踏のビジネスを切り開くという方向性にぴったりだ。  仙拓のコアとなる事業は名刺のデザイン。取材会場となったkintone hive nagoyaで名刺を披露したサイボウズの伊佐政隆氏がアピールしていたが、プラスチック素材の作られたポップなデザインはまさにセンスがあふれ出している。 素材にもこだわったポップな名刺について紹介する伊佐氏 素材にもこだわったポップな名刺について紹介する伊佐氏 「とにかくその人が名刺を渡したときに、どんな会話をするのかをイメージします。名刺を渡したときに会話が拡がることが、すごく大事なことなので、まずは『なにこれ?』と思われるように意識して作ってます。だから、『シンプルで個性的でない名刺でお願いします』と依頼されると、悲しくなりますね(笑)」(松元氏) 僕らは紙がめくれない。だからデジタルになってほしい  とはいえ、重度障害者同士の起業。いろいろ苦労もあったと思いきや、やってみたら意外と障壁はなかったという。 「若さの勢いがあったと思うのですが、よくやったなと(笑)。ただ、障壁そのものはゼロに等しかったと思います。営業はネットを使い、お互いのやりとりは高校時代から使っていたSkypeを使えばいい。僕らにとって、ネット会議は当たり前のツールだったので、オフィスは借りずに、自分たちの部屋で働けば大丈夫だと思いました。僕らから周りの会社を見ると、テレワークとか、リモートワークとかいまさら言ってるの?って感覚ですよ(笑)」(松元氏) 仙拓 副社長の松元拓也氏 仙拓 副社長の松元拓也氏  そうなのだ。手や足が動かせない彼らにしてみれば、デジタルやネットはまさに生きるために必須のツールであり、その意味で最初からデジタルネイティブなのである。もちろん、さまざまな葛藤はあったと思うが、身体的なハンディを彼らは限界と感じず、機会とすら捉えている。当たり前のように満員電車にもみくちゃにされて会社に向かい、決められた時間で仕事をしているわれわれからすると、彼らの働き方ははるかに先を見据えている。実際、仙拓では請求書発行は「Misoca」、契約書管理は「CloudSign」といった具合に、最新のクラウドサービスを活用しており、在宅でありながら、実に効率的な働きを追求している。 「僕らは紙だと困るんですよ。自分で紙をめくるということができないので。請求書に印鑑を押して、母親に出してもらうだけでも大変なんです。だからなるべくデジタルでお願いしますと言っています。紙にこだわっている会社を、どんどん変えていきたいなと思います」  仙拓の従業員は現在5名。障害者だけではなく、子育てに忙しい主婦もいっしょに働いている。今までの働き方ではドロップアウトせざるを得なかった人たちも、時間や場所に縛られない新しい働き方ができている。商圏も会社のある中京圏に限らず、北は北海道から、南は沖縄まで幅広い。デジタルツールを駆使することでバリアフリーを自ら作り出し、業務の裾野を拡げているわけだ。 kintoneの出会いは青野社長に送りつけた寝たきり社長の本  そんな仙拓の2人がkintoneと出会ったのは約3年前。それ以前は、無償で利用できるSNS「サイボウズLive」を利用していた。もちろん便利に使いこなしてはいたが、未読と既読のコントロールが難しかったり、スレッドが増えた際の管理が面倒といった部分で使い勝手に満足できない部分も多かったという。 「佐藤と『サイボウズに文句言ってやろうぜ』と冗談で話していたら、彼が悪ふざけで自分が書いた寝たきり社長の本を直接サイボウズの青野社長に送りつけちゃったんです(笑)。そうしたら、青野社長がいたく感動してくれ、顧問アドバイザーになって、事業にいろいろ協力してくれることになったんです」 自宅で仕事中の松元氏(提供:松元氏) 自宅で仕事中の松元氏(提供:松元氏)  こうしてサイボウズとの関係が深くなった同社は、コンサルティングに携わる関西の青山 敬三郎氏の勧めで、kintoneを使い始めることになる。当初は社内の業務改善を目的とし、タイムカードの打刻時間から給与を計算するアプリから作り始めた。当時はセミナーもあまりなく、チュートリアルも整備されていなかったが、アプリをすぐに作れたのが印象的だった。 「金髪の青山さんもやばかったけど、それ以上にkintoneがやばかったー(笑)。こんなに簡単にデータベースが作れてしまうのかと思った」  松元氏は今までをExcelやWordを使っていた業務を、片っ端からkintoneに変え始めた。kintoneを使うことは、業務を変えること。非効率なやり方を考え直し、属人性を廃するため、とにかく松元氏はkintoneを使い込み続けた。こうして1年かからないうちに、松元氏はkintoneのさまざまなノウハウや使いこなしを習熟していくことになる。 「最初はタイムカードと賃金台帳。その後は社内のスケジュールとか、タスク管理とか、いろいろ使い倒しました。こうして作ってみると、使うアプリはだんだん絞られてくるので、それらをさらにカスタマイズし、洗練させていきました。たとえば、賃金台帳から給与明細も作れるようにして、スケジューラーもGoogle Calenderと連携できるようにしました」(松元氏)  あるときは社長の佐藤氏が7ヶ月に渡って入院し、生死をさまようことがあった。副社長の松元氏は、社長の業務を引き継いだが、そのときにも多くの業務をkintone化していったという。 「そのときは僕が佐藤の仕事を引き継いだんですけど、給与計算をWordでやってたり、案件の管理も佐藤本人じゃないとわからないようになっていたり。こんなに効率悪い仕事してたのか、もっとやり方あるだろうと思って、どんどんkintoneに移していきました。7ヶ月後に戻ってきた時には、システムが全然変わっていたので、佐藤も『浦島太郎になった気分』と笑ってました」(松元氏) 名刺作成から、kintoneによる名刺作成アプリの開発へ  kintoneを使い込むようになっていくと、そのノウハウはまさに商売のタネとなっていく。こうして仙拓は名刺デザインやWebデザインといった既存のビジネスに加え、ITの導入コンサルティングやiOSアプリのプロデューサー、kintoneを使った自社サービスまで手がけるようになった。  2015年には月額2万円でWebサイト制作、名刺作成、請求書管理、社内システムまでトータルでまとめた「SENTACシステム」を開始する。PC、スマホ、タブレットに最適なレスポンシブデザインのWebサイトを月額料金のみで作成し、オーダーメイドの名刺1000枚(年間)まで作成できる。顧客や案件、日報、見積もり、契約書などを管理する社内システムにはもちろんkintoneを活用し、請求書管理には仙拓でも愛用しているMisocaを用いることにした。労力やコストに限界のあるスタートアップや店舗などにオススメのサービスだ。  kintoneを使った名刺作成アプリも、導入コンサルティングを手がけたとある自治体のニーズで作られたものだ。「データを入力したら、名刺がぱぱっと作れるシステムってないの?」という相談を受けたのがきっかけだったが、予算はまったくなかったという。 「そもそもうちはシステム開発やってないし、そんなシステムがあったら、うちがほしい(笑)。でも、どうしても自治体の案件がほしい佐藤に『kintoneでどうにかできないの?』と頼まれて、悩んだあげくkintoneとフォームクリエイター、プリントクリエイター(サイボウズスタートアップ)を組み合わせればできるかもと考えた」(松元氏)  さっそくプロトタイプを作った松元氏が師匠の青山氏に相談すると、「それ、いけるで」というコメントがもらえた。そこから松元氏は30分でプロトタイプを作成。任意のサイズに出力できないというフォームクリエイターの制限を、Photoshopのマクロにあたるアクション機能で解消した。このアイデアにより、プログラムを書くことなく、名刺サイズに自動カットできるようになっているという。 青山敬一郎氏に「それ、いけるで」をいただき、30分でプロトタイプ完成 青山敬一郎氏に「それ、いけるで」をいただき、30分でプロトタイプ完成 重度障害者の工賃アップに貢献する「仙拓レンジャーズ名刺」の誕生  kintoneで名刺作成アプリを作ったことで、仙拓は自身が名刺を作るだけではなく、名刺を作るサービスを売れる会社になった。kintoneを導入している企業であれば、仙拓のシステムを使って、社員の名刺を自前で手軽に印刷できるわけだ。さらに仙拓がすごいのは、この仕組みを使って、障害者が名刺作成の仕事を受注できるプラットフォームを作ってしまったことだ。 「名刺作成アプリができたことで、今度は佐藤が『うちもアンバサダー的な名刺を作りたい』とか言い出したので、仙拓レンジャーズという名刺デザインを作ってみた。でも、うちで作る名刺は「仙拓」の名前を入れてもらうことが多いので、正直アンバサダー的な役割はすでに果たしている。むしろ、注文する人も、制作する人も、名刺をもらう人がみんなハッピーにならないと意味がないと思った」(松元氏)  こうして生まれたのが仙拓の名刺作成アプリを用いた「仙拓レンジャーズ名刺」だ。仙拓レンジャーズ名刺は、一般企業での就職が難しい重度障害者の受け皿となる作業所に名刺の作成を依頼し、売り上げの一部を工員に還元するという仕組み。これにより、注文すれば注文するほど、重度障害者の工賃を引き上げることが可能になるという。ここには松元氏たちが課題として抱えてきた重度障害者にまつわる日本の厳しい雇用環境が問題意識としてあった。 作業員に工賃を還元できる仙拓レンジャーズの仕組み 作業員に工賃を還元できる仙拓レンジャーズの仕組み 「障害者の就労の受け皿としては、雇用契約を結ぶA型事業所と結ばないB型事業所があります。でも、B型事業所の場合、最低賃金が決められていない。なかには時給数十円で働いている人もいます。時給数十円でなにができるというんですかね」(松元氏)  こうした社会課題の解決を目指した仙拓レンジャーズ名刺は、常滑市の社会教育福祉協議会 ワークセンターしんめいでいち早く導入が決まった。kintoneの特徴を活かしてスピーディな導入を実現し、利用者が絶対に迷わないよう、限りなく画面はシンプルにした。クラウドを利用することで、仙拓側がすぐにサポートできるのも、事業者側の大きなメリットになったという。 「しんめいさんには1ヶ月で100件の注文が来ました。最初は不安でいっぱいだったみなさんでしたが、100件をさばけたのは大きな自信につながりました。作業員さんに、『これからこの仕事をやって行けそうですか?』と聞いてみたら、自信に満ちた表情で『もう大丈夫です』と言ってくれて、本当にうれしかった。ITとクラウドの可能性を肌で感じました」(松元氏) 障害者だからこそ見える視点とkintoneで次の時代を切り拓く  長らくkintoneに関わってきた松元氏にとって、kintoneは単なるツールではない。自身のアイデアを形にし、障害者がハンディを感じずに生活できる世界を作るための「万能ナイフ」のような存在だ。kintone hive nagoyaに登壇した松元氏は、業務改善のツールとして使うだけではもったいないと聴衆に訴えかける。 「kintoneは単なる業務改善ツールにおさまる代物じゃない。新しい仕事を創出できる大きな可能性がある。発想次第で、いろんなサービスを作っていくことができる。kintoneによってシステム構築のハードルが大きく下がり、自分ならではのサービスを簡単に作れるんです」(松元氏)  松元氏のアイデアは止まらない。2017年1月には、kintoneを使った名刺管理サービス「ネームマネッジ」を開始。名刺情報をすべてデータ化し、kintone内で共有したり、CSVファイルで納品してもらえる。そして今年、松元氏が仲間といっしょに仕掛けるのは、kintoneアプリのコンテスト「kintone アプリ甲子園」だ。18歳以下にしぼったkintoneのアプリコンテストを手がけることで、自身のアイデアを形にできる学生を育てたいというのが、松元氏の思いだ。 「kintoneを小学校のときから使えたら、社会に出てもきっと即戦力になれる」(松元氏) 「kintoneを小学校のときから使えたら、社会に出てもきっと即戦力になれる」(松元氏)  kintone hive nagoyaではこうした仙拓とkintoneの道のりが松元氏自身の口から語られた。同じ病気を患う佐藤社長を「寝たきり社長とちやほやされて、最近調子に乗ってる(笑)」と軽くディスりながら、仲間とともにビジネスを切り開いてきた道程を語る松元氏の講演に、会場は終始穏やかな笑いに包まれた。そして、重度障害者であることにまったく甘えず、まさに前人未踏のユニークなビジネスを自ら切り開いていくその力強さに、いつの間にか勇気をもらっているのだ。  ハンディをハンディと感じず、笑い飛ばしてしまう松元さんのこの力強さは、どこから来るのだろう。取材のとき、何度も感じたことだが、おそらく6年間試行錯誤しながら積み上げてきた自身の経験から来たものに違いない。デジタルの価値、ITの可能性、ハンディキャップに対する社会の歪み、不合理な日本の働き方など、障害者だからこそ見えるユニークな視点とkintoneを武器に、仙拓はこれからも次の時代を切り拓いていく。 ■関連サイト 仙拓 ネームマネッジ kintone (提供:サイボウズ)

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