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音楽評論家・小野島大が追い求めてきた“刺激的な音楽”たち 豪華メンツの『大還暦祭』に感じたこと

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/01/13 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 12月15日に下北沢CLUB Queで行なわれた、音楽評論家・小野島大氏の生誕祭『BIG-O 60~大還暦祭~』は、彼が出会いフックアップしてきた音楽たちを、視覚と聴覚でハッキリと理解できた、そんな特別な一夜だった。  このライブは小野島氏がヤマジカズヒデ(dip)の生誕50年イベントに協力し、その打ち上げ中にお返しとして企画されたものだが、最初は小さな宴会のつもりが、次第に豪華出演者が顔を揃える形になったという(参考:https://note.mu/onojima/n/n6c6f91b7c578)。そのラインナップは事前にアナウンスされ、なかでも公演の10日前に急遽追加発表されたRECK(FRICTION)の出演決定は、大きな反響を呼んでいた。だが、この日の目玉はそれだけではない。一人の音楽評論家の還暦祝いという域を越えた、豪華なアーティストたちが集結していたのだ。  会場にCalexico「Minas De Cobre (For Bettter Metal)」が鳴り響く中、まず最初に登場したのは、武藤昭平 with ウエノコウジ。このベテラン2人がライブの冒頭に20分の短い持ち時間で出演すること自体がレアケースで、本人たちもそれを「オープニングアクト」とネタにしてひと笑いを起こしていた。まずはこの日の宴に相応しい、飲めや歌えやの乾杯曲「LET'S BOOZE IT!」からライブをスタートさせると、武藤は小野島氏について「一番最初、10代のころに地元の福岡でThe Shamってバンドを組んでたんだけど、その時レコード会社にいた小野島さんがスカウトに来たのよ。でも結局行かなかったんだけどさ」と語る。そしてウエノも「昔やってたTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの新作について、小野島さんが2ページのレコ評を書いてくれたんだけど、『そもそもブルースとは』から始まって、ロックンロール論が脈々と続いて、最後の行の半分、100文字くらいで『さて、ミッシェルの新作ですが』って書くんだもん。この人には敵わないなと思ったよ!」と嬉しそうに話し、それを観客席から見ていた小野島氏が「話盛りすぎだよ!(笑)」と返す。そんな心温まる光景も繰り広げられた。  その後は「小野島さんの好きそうな曲を」とスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの「I Put A Spell On You」をカバー。ジェイのスタイルを踏襲しながら、武藤はブルージーかつ狂気的なシャウトを繰り広げ、観客はその歌声に耳を済ませた。最後は彼らの最新作『STRANGERS』から「ワルチング・マチルダ」を披露。酔いどれたちの<ラララ……>という合唱がQueに響き渡り、「自称オープニングアクト(笑)」としての大役を終えた。  続けて勝井祐二(Vio./ROVO)、ホッピー神山(Key.)、須藤俊明(Dr./ もう死んだ人たち、uminecosounds)、TOKIE(Ba./ACE OF SPADES、cell no.13、THE LIPSMAX、LOSALIOS、unkie)、シュガー吉永(Gt./Buffalo Daughter、Halo Orbit)がステージに登場すると、5人によるダイナミックな演奏からセッションがスタート。序盤は勝井のバイオリンとシュガーのギターを中心とし、徐々に重厚な音の壁が構築されていく。かと思いきや、須藤の正確無比なビートに合わせ、ホッピーがボコーダーで声を足しながらデジタルなダンスミュージックへと変化したり、TOKIEの力強いベース捌きからハードロックにシフトするなど、ロック、ファンク、ジャズ、テクノ、メタルと様々なジャンルがクロスオーバーする。だが、そこに雑音は一つもない。“間違いのない音”だけが鳴らされ、音の粒が一音ずつハッキリと聴こえる、心地よい音の洪水が会場を包み込んでいた。  3番手として登場したのは、武藤昭平、百々和宏(Vo.& Gt./MO'SOME TONEBENDER)と大野由美子(Ba./Buffalo Daughter)、藤田勇(Dr./MO'SOME TONEBENDER)、小林祐介(Vo. & Gt./THE NOVEMBERS)の5人。まずは武藤と百々がボーカルをとり、デヴィッド・ボウイの「Moonage Daydream」を熱唱すると、武藤と小林が一旦退場し、日暮愛葉(Vo./Seagull Screaming Kiss Her Kiss Her、THE GIRL)とヤマジカズヒデ(Vo.& Gt./dip)がステージへ。日暮が「小野島さん、こんなにお客さん集まってくれて、幸せ者だよね!」と述べ、ヤマジと百々によるナードでオルタナティブなギターの音色とともに、ヤマジがリクエストしたというシーガルの名曲「Angel」を披露。日暮がステージを後にすると、ヘビーで退廃的なバンドサウンドに合わせ、ヤマジがイギー・ポップの「I Wanna Be Your Dog」を歌い上げた。4曲目では大野が退場し、木下理樹(Vo./ART-SCHOOL)と須藤(Ba.)が登場。木下はステージに立つ先輩たちに可愛がられながら「歌詞がよくわかんねえんだけど、君らは全員『The wagon』を歌えんのか!?」と叫び、今にも立ち消えてしまいそうな刹那的な歌声でDinasaur Jr.の「The Wagon」をカバーした。  その後、再び小林がステージへ上がると、この場に居るRECKの所属バンド・FRICTIONの「BIG-S」を、シャウトを交えながら熱唱。小林らしいヒリついた雰囲気を纏いながら楽曲を演奏し、最後は小林と百々がボーカルをとるイギー・ポップ「Search And Destroy」でパフォーマンスを締めくくった。  そして会場にいる誰もが待ちわびたであろう、RECKがついに登場。RECKは小野島氏がプロデュースを手がけたニュー・ウエイヴのトリビュート・アルバム『Fine Time 2~ A Tribute to NEW WAVE』に参加するなど親交もあり、小野島氏にとっては「ガキのころから憧れてきた大先輩」だという。近年はギターレスで、ドラムの中村達也との2人編成でのFRICTIONで活動してきたRECKだが、この日は吉村由加(Dr./CATSUOMATICDEATH、ニューロマンティックス)とヤマジを引き連れた3人編成で初めてステージへと上がり、1曲目にジミ・ヘンドリックスの「Fire」をカバー。そこから2人体制でリリースした作品にも収録されていた、FRICTIONの前身バンド3/3時代の楽曲「くもの中」を演奏するが、この日はヤマジのギターサウンドもあってか、よりロックに振り切った印象を受けた。続いてはヤマジが歌うdipの「Fly by wire」からThe Doorsの「Break on through」のカバーへと続く。その後はサイケデリックな音色の「メラメラ」をパフォーマンスし、本編最後は「Zone Tripper」で幕を閉じた。  アンコールに登場したRECK、ヤマジ、吉村は、この日唯一のFRICTION・3人体制時の楽曲で、<PASS RECORDS>からの1stシングルだった「Crazy Dream」を披露。イントロで客席から悲鳴にも似た歓声が響き渡るなか、ダイナミックに同曲を演奏し、ステージを去った後もしばらくは会場が熱気に包まれたまま、イベントは終了した。  小野島氏は、そのキャリアのスタート時から現在に至るまで、常に新しい・刺激的な音楽を追い求め続けてきた。この日出演したアーティストは、その過程で彼に自身の音楽を肯定され、世間に迎合することなく、自らの牙を研ぎ続けた猛者たちだ。  小野島氏の歩んで来た道がどうであったかなどということは、誰かの言葉を待つまでもない。この日、このステージの上で鳴らされた音楽が、全てを物語っているのだから。そして今後も、彼と出会って、その存在を広められるべき音楽は次々と世に登場するだろう。いちファンとしては、これからも元気に最前線でテキストを書き続け、新たな刺激を与えてほしいと願うばかりだ。(中村拓海)

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