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1人の“ゲーム女子”が「Tableau」でデータ分析チームを作るまで

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2017/02/26
1人の“ゲーム女子”が「Tableau」でデータ分析チームを作るまで: カプコンのWebサイト。モンスターハンターのスマートフォン用ゲームもトップページで宣伝されている © ITmedia エンタープライズ 提供 カプコンのWebサイト。モンスターハンターのスマートフォン用ゲームもトップページで宣伝されている

 「ストリートファイター」「モンスターハンター」「バイオハザード」など、数々の大ヒットシリーズを世に出してきたカプコン。同社も他のゲーム会社の例にもれず、最近はスマートフォン向けタイトルなど、オンラインゲームのリリースが増えている。

 オンラインゲームのタイトルに多く見られる「運用型ゲーム」は、売り切り型のパッケージソフトとはビジネスモデルが大きく異なる。ユーザーは無料で遊ぶことができ、広告やアプリ内課金が売上の中心となる。そのため、ユーザーの属性や利用状況のデータがビジネスのカギを握ると言っても過言ではない。

 1983年の創業から約35年の歴史を持ち、アーケードゲームや家庭用ゲーム機向けのゲームの開発スタイルが主流だった同社では、オンラインゲームの利用状況を分析できる人材と環境が不足していたという。そんな中、ExcelやAccessを駆使してデータ分析業務を一手に引き受けていたのが、二瓶美帆さん(技術研究開発部 通信技術室)だ。

●社内初のデータ分析担当が誕生、ExcelとAccessを使ったが……

 彼女はカプコンに入社して8年ほど、通信販売の顧客対応やシステム管理の仕事をしてきた。データ分析を手掛けるようになったのは約4年前。所属部署でオンラインゲームのプロモーション施策を打つにあたり、ゲームの利用者属性などを分析する必要が出てきたことがきっかけだった。

 「どこにメインターゲットを置いて、どこにリーチする広告を打つのか、その検討のためには、『まずユーザーの動向を分析しなきゃダメだよね』という話になったんです。でも、ゲームのプロモーションや企画の担当はそれぞれの仕事があるので、分析に時間をかけられない状況でした。もちろん初めてのことで経験があったわけではないのですが、通販の仕事でユーザーのデータを見ていて、データ分析の必要性を感じていたので、チャンスだと思って『やります!』と手を挙げました」(二瓶さん)

 まずはExcelを使って分析を始めた二瓶さん。その存在は少しずつ社内に知られるようになり、分析を頼まれるゲームタイトルも増えてきた。依頼が増えると「ミーティングで使うから、最新の情報をすぐに出してほしい」といった素早いリクエストには応えきれなくなる。また、やりたいことが表計算ソフトでは対応できないという問題も出てきた。

●「Excel」と「Access」の限界

 「Excelで扱いきれない量はAccessで何とかしていたんですが、Accessの2Gバイト制限(※)に苦しみ、2Gバイトを超えないようにファイルを分散してデータを入れて、みたいなことをしているうちに、『うわー!』っとなっちゃいまして(笑)。

※Accessでは容量2Gバイトを超えるデータを作ることができない

 それに、各タイトルを私がずっと張り付きで見られないので、各チームの人たちができるようにしていくのも、自分の仕事だと思っていました。ExcelとAccessでVBAをガリガリ使って……などと複雑なことをすると、運用できる人が限られてしまいます。できるだけシンプルに、そして分かりやすくしようとしたら、限界は早めにきましたね」(二瓶さん)

 この状況を打開しようとWebで情報収集を始め、上司に「何らかのツールを導入しないと、今のままではもう無理だ」と話し、いくつかのツールを候補としてピックアップした。「Tableau」や「QlikView」のほかに「Pentaho」、さらには統計解析ソフトである「R」や「SPSS」も試したそうだ。

●導入と展開のしやすさで「Tableau」を導入

 二瓶さんによると、製品を選ぶポイントは“導入のしやすさ”と“社内への展開のしやすさ”の2点だったという。

 彼女は「まずは自分1人分のライセンスでいいから購入してほしい」と希望を出したそうだが、ゆくゆくは各ゲームタイトルの担当者自身でツールが使えるようになるというビジョンを描いていた。そのため、統計解析ソフトのような、難しい操作が要求されるものは教育コストがかさんでしまう問題があった。

 利用人数が増えるとネックになるのがライセンスの形態だ。カプコンの場合、全社導入をするわけではなく、ライセンス購入を決済するのは部署ごと(ゲームタイトルごと)になるため、購入単位は小さくなる。また、データベースの種類やデータの形式はゲームタイトルごとに異なるという事情からも、1アカウントから購入でき、多様なデータ形式に対応するTableauが適していたという。

 「データベースはMySQLが多いですが、それ以外にもPostgreSQLを使っているところもありますし、CSVやExcelのデータを持ってくる部署もあります。各部署なりの進化を遂げたデータを扱わなければいけないので、それを読み込む前に加工して……といった手間がなるべくかからないようにと考えると、Tableauがいいと判断しました」(二瓶さん)

●作業効率は10倍以上になるも、それを上回る量の依頼が

 こうして2年前にTableauを導入し、二瓶さんの分析作業の効率は大幅に向上した。グラフの作成など、作業の時間は10分の1以下になったという。

 「Excelでやっていたころに戻れと言われたら、泣いて拒否しますよ(笑)。以前はグラフを作るのにいっぱいいっぱいで、『あとは行間を読んでくれ』という感じで提出することもありましたが、『これは半日かかる』という作業が一瞬で終わるようになって、出た結果をどう理解してもらうか、資料の表現や説明の仕方を練ることに時間をかけられるようになったのが大きいです」(二瓶さん)

 効率が上がり、レポートのクオリティも上がったものの、Tableau導入直後はデータ分析の依頼が激増し、処理が追い付かない状態だったと二瓶さんは話す。

 「Tableau自体は難しいものではないのですが、最初から自分でやってみようと思う人は、なかなかいません。一方、人間は知的好奇心が旺盛な生き物で、結果がすぐに出るようになると、もっといろいろなことが知りたくなるものです。

 例えば『1日に来てるお客さんの半分が、こういうタイプのお客さんだ』みたいな話をすると、『じゃあ、その内さらにこういうタイプって何人ぐらいいるんだろう?』みたいな疑問が次々と出てくる。だから、最初は分析すればするほど、新しい分析の要求が増える状況になりがちでした。定常的に確認する項目がある程度固まるまで、リクエストが多くなるのは仕方ないことだと思います」(二瓶さん)

●分析結果だけではなく施策も提案、「ゲーム好き」の本領発揮

 データ分析の結果をゲームの担当者に渡す際、二瓶さんは『新イベントの開催』『難易度の調整』といった施策もセットで提案するという。ビジネス上の効果を生むには必要なことではあるが、それには実際の業務――つまり、各ゲームの中身を知らないと効果的な提案は難しい。

 「分析の結果を読み解くのも、エネルギーが要ります」と話す二瓶さんは、もともと大のゲーム好きだったが、分析を担当するようになってからは、よりゲームに時間を費やすようになったそうだ。「私が分析するとしたらどこを最初に見るかな、と考えながらプレイして、いざそのゲームのチームから相談が来たら『待ってました!』みたいな感じで対応します」と話す表情に、好きなことが仕事になっている充実感が感じられた。

 そんな彼女の活躍により、カプコンではデータ分析をする文化が着々と醸成されつつある。はじめは1人ぼっちの“分析担当”だったが、『ドラゴンズドグマオンライン』や『モンスターハンターフロンティア-Z』をはじめとするオンラインタイトルでは、Tableauを使って複数人のチームで分析業務を行う体制ができつつあるそうだ。

●オンラインサービス関連業務の組織改革が進むカプコン

 データ分析によって得られる知見は、これまでゲーム開発の現場で、勘と経験で実施してきた施策の裏付けになることが多いそうだ。定説をひっくり返すような結果はそれほどなく、あっても「大体1割くらい」(二瓶さん)だという。

 とはいえ、ユーザーを細かいクラスタに分けて分析してみることで、「こういうユーザーが平均値を上げていたんだ!」というような、それまで考慮できていなかった要素に気付くケースは多い。

 データ分析ツールの導入でよく“カベ”として挙がるのがROI(費用対効果)の問題だ。分析が売上にどのように影響を与えているか数値化しにくいため、ツールの導入時に決裁が下りにくかったり、業務の目標を立てにくかったりすることが多い。二瓶さんの仕事についても、売上に直結するような目標は課されていないというが、彼女のもとに舞い込んでくる依頼が後を絶たないことが、分析に価値があることの何よりの証拠だろう。

 今後は、各ゲームを開発、運用するチームの中に分析担当者を増やしていくことが、二瓶さんの目標だ。最近では、Tableauの導入支援や分析手法の勉強会を開催することに注力しているそうだ。その動きを後押しするかのように、カプコンでは今、社内教育やシステム基盤の共通化を担う部署が新設されるなど、オンラインサービス関連業務の組織改革が進んでいるのだという(後編に続く、3月2日公開予定)。

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