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3年目に入った「攻めのIT経営銘柄」、見えてきた成果と日本企業の課題

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2017/07/10 08:00
3年目に入った「攻めのIT経営銘柄」、見えてきた成果と日本企業の課題: 経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課長の滝澤豪氏 © ITmedia エンタープライズ 提供 経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課長の滝澤豪氏

 「ビジネスのデジタル化」が叫ばれる昨今、企業の経営戦略にもIoTやAIなど、最新のITをどう使うかという視点が欠かせなくなってきている。しかし、一体何から手をつければよいのか――、そんな悩みを持つ企業は少なくないだろう。

 そのヒントになりそうなのが、「攻めのIT経営銘柄2017」だ。経済産業省と東京証券取引所が共同で行うこの取り組みは2017年で3年目を迎えた。今回は、過去2回とは評価項目を変え、最新のITの活用と、それによる新たなビジネスモデルや価値創出の取り組みを重点的に評価した結果、各業種で非常に尖った挑戦をしている企業31社が選出されている。

 3年間の取り組みから見えてきた日本企業の課題、そして選出した企業に共通する特徴は何か――。攻めのIT経営銘柄を担当している、経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課(※)の滝澤豪氏と大田祐史氏に聞いた。

※編集部注:取材時点では、情報処理振興課でしたが、現在は情報技術利用促進課(ITイノベーション課)に変わっています

●株価と結び付けることでITを経営者の関心事に

 経産省が「攻めのIT経営銘柄」の選定を始めた狙いは、日本企業のIT活用のレベルを引き上げ、“稼ぐ力”を高めることにある。その背景には、日本企業のIT投資を諸外国と比較すると、業務効率化やコスト削減という“守りのIT”への配分が多く、ITでビジネスモデルを変革したり新しい製品やサービスを生み出したりといった“攻めのIT”の割合が低いという現状がある。

 卵と鶏のような関係ではあるが、守りのITが中心の企業では、IT投資に対する経営者の関心が薄く、そのような企業では、攻めのITの発想が生まれにくい。日本企業が生産性を高め、世界で戦えるだけの稼ぐ力を得るためには、経営戦略としてのIT活用、すなわち攻めのITへの転換が必要。そこで注目したのが、経営者の関心事である株価だった。

・関連記事→「このままだと企業の4割が消える」――経産省が“攻めのIT”を後押しするワケ(前編)

 「『攻めのIT経営銘柄』を選定して公表することが、経営者の方が最も気にする株価に反映するようになれば大きな影響力があると考え、この取り組みを続けています」(滝澤氏)

 実際、2016年にEC事業者向けのクラウドサービスを提供するHamee(東証マザーズ上場)が初めて「攻めのIT経営銘柄」に選定された際は、株価が急騰した。他にも、銘柄に選定されたある企業は、IT活用に対する注目が集まることで、経営のトップがIT活用についての講演を積極的に行うようになるほど、その意識が社内に浸透したとのことだ。

 こうして、攻めのIT経営銘柄が、投資家に注目される取り組みであることが周知されてからは、経営者も関心を向けるようになり、「我社はなぜ応募しないのか?」「なぜ選ばれないのか?」とIR部門や情報システム部門に問うケースも増えているという。

●2017年版では、ROEとの相関関係がより鮮明に

 「攻めのIT経営銘柄」は、東京証券取引所上場の国内企業約3500社を対象にアンケート調査を行い、33ある業種ごとに評価の高い1〜2社を選定する(評価の高い企業がなければ、1社も選定されない業種もある)。アンケートに回答する企業は回を重ねるごとに増え、今回は382社。回答の質も上がってきているそうで、2015年の開始当初は18業種からしか選ばれなかったものが、今回は23業種まで広がった。

 2017年度版の特徴として、担当者が強調するのが、評価の内容が企業の「稼ぐ力」をより反映するようになったという点だ。アンケートでは、企業が取り組むべき視点として5つの軸を示し、攻めのITに関する質問項目が構成されているが、各項目に掲げられた取り組みを行い「好成績である企業ほどROEが高い」という相関関係が明確に表れた。滝澤氏は「当初、われわれが意図していたことが、3回目にしてかなりの部分で実現できた」と語る。

●最新テクノロジーの活用を重点的に評価する方向へ

 他にも2017年版の特徴として、IoT、ビッグデータ、AI、ロボットなどの新たな技術を活用し、新事業や価値を創出するようなIT活用をより重点的に評価した点がある。その変化の経緯について、大田氏はこう説明する。

 「2015年に取り組みを始めたときは、企業価値の向上や稼ぐ力につながるものであれば何でも、という感じで、攻めのITの定義がまだ抽象的であり、質問項目も“意識”を問うものが多かったように思います。

 今回、経産省という立場から『企業が目指すべきもの』は何か? ということを再度議論し、政府の成長戦略にもある、“最新技術による新しい価値の創造”という点を重点的に評価しようと決め、選定委員会の皆さんにアンケート内容を検討いただきました。質問項目も意識よりも、実際の行動を問うものを増やしています」(大田氏)

 結果として、今回の「攻めのIT経営銘柄」では、IoTとデータ分析技術で鉄道の故障箇所の予測などを行う東日本旅客鉄道、ビッグデータとAIによる投資信託に乗り出したヤフー、ビットコインによるガス料金支払いや、LINEによる機器販売システムを開発した日本瓦斯(ニチガス)など、先進的な取り組みをする企業が選ばれた。

 「2年前はまだ『攻めのIT』という言葉自体が普及していなかったように思いますし、IoTという言葉も出てきたばかりだったので、いきなり今回のような取り組みを求めても、ついてこられる企業は少なかったかもしれません。そういう意味では、一段ステップを上がることができたのではないかと思います」(大田氏)

●トップも現場も、部門を超えてITを活用していく文化を

 滝澤氏と大田氏に、攻めのIT経営銘柄の今後について聞いたところ、「攻めのIT」への取り組みの裾野を拡大すべく、さらに注目度を高め、アンケートに回答する企業数を増やしていきたいとのことだった。

 そのような意図で今回からは、銘柄には選定されなかったものの、全体の中で総合的評価が高かった企業、注目されるべき取組を実施している企業等を「IT経営注目企業」として発表している。

 また、アンケートに回答した全社の企業名を原則公開することとし(希望があった場合のみ非公開)、回答した全ての企業に対して評価の結果をフィードバックするというインセンティブも付けることにした(前回までは、希望した企業のみにフィードバックしていた)。

 アンケートやヒアリングを通じて、日本企業の現状について、「経営層にも現場にもITを分かる人材が足りていないこと」「中長期的なITを活用を実現するために、必要な部門横断型の体制が取れていないこと」を滝澤氏は課題に感じているという。どのように改善していけばよいのかについては、攻めのIT経営銘柄のアンケート項目が1つのガイドラインになりそうだ。

 「われわれが考える『攻めのIT』を着実に進めていることがきちんと捉えられるようなアンケートを作っているので、その質問項目自体がメッセージになっているんです。こういうことが必要だと考えているという意図が、回を重ねるごとに伝わるようになっているという手応えがあります」(滝澤氏)

 IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット。これらの技術は、2017年5月に経済産業省が発表した「新産業構造ビジョン」でも、第4次産業革命をけん引する技術革新として取り上げられている。日本企業が勝ち残るために意識してほしいこと――攻めのIT経営銘柄は、国から各企業に課せられた“宿題”と見ることもできる。

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