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AIアシスタントでAmazonとMicrosoftが手を組む理由

ITmedia PC USER のロゴ ITmedia PC USER 2017/08/31
AIアシスタントでAmazonとMicrosoftが手を組む理由: Amazon.comの「Alexa」とMicrosoftの「Cortana」。2017年内に大手2社のAIアシスタントが相互に利用可能になる © ITmedia PC USER 提供 Amazon.comの「Alexa」とMicrosoftの「Cortana」。2017年内に大手2社のAIアシスタントが相互に利用可能になる

 今後の市場拡大が見込まれ、各社がしのぎを削る「AIアシスタント」。この分野で注目すべきニュースが飛び込んできた。それは米Amazon.comと米Microsoftの提携だ。

 8月30日(米国時間)、Amazon.comは「Alexa meet Cortana, Cortana meet Alexa」というタイトルのプレスリリースを出し、Microsoftも「Hey Cortana, open Alexa: Microsoft and Amazon’s first-of-its-kind collaboration」という記事を公式ブログで公開した。両社ともコラボレーションの緊密ぶりをアピールしている。

 話題のAIアシスタント分野における大手2社の提携、その背景に何があるのだろうか。

●「Alexa」と「Cortana」の連携で可能になること

 この提携により、Amazon.comの「Alexa」とMicrosoftの「Cortana」という2社のAIアシスタントが連携し、互いの機能を相互に呼び出せるようになる。つまり、Amazon.comのAlexaとMicrosoftのCortanaがクラウド上で互いに結び付き、Alexaを通じてCortanaの機能を引き出す、あるいはその逆が可能になるということだ。

 例えば、Alexa対応の「Amazon Echo」などのスピーカーデバイスに対して「Alexa, open Cortana」と呼びかけると、EchoからCortanaを呼び出してその機能を利用できる。また逆に、Windows 10搭載PCなどに対して「Cortana, open Alexa」と呼びかけることで、Windows 10上からAlexaの機能が使える。

 両社によれば、この相互連携は2017年後半のいずれかのタイミングにも開始されるという。(年内に国内投入されるというウワサはあるものの)Echoデバイスを直接入手する手段のない日本において、両方のAIアシスタントを試す契機にもなるだろう。

 米国では2016年の年末商戦においてAmazon.comのEcho関連デバイスが同社のベストセラーとなっており、多くの家庭にAlexaが鎮座している状態だ。先行の利もあって、Alexaはその機能を拡張するサードパーティー製の「スキル(Skill)」も既に2万以上に達しており、他社をリードしている。この傾向は2016年夏ごろから特に顕著となった。

 対するCortanaは専用デバイスこそないものの、2017年5月時点で5億台以上のWindows 10デバイスが動作しており、Cortanaが動作するデバイスの数という観点ではAlexaのそれを上回る。スキルの数ではAlexaが圧倒的だが、CortanaにはWindowsやOutlook、そしてOffice 365といったサービスを通じて数多くのユーザーのデータが蓄積されており、今回の提携はこの活用の幅を広げることを意味している。

 MicrosoftはWindows 10からAlexaを呼び出した際の活用例として、PC上から「オムツ」を音声で注文して、決済も自身のAmazon.comのアカウントに結び付いた支払い方法を選択できるというものを紹介している。オンラインショッピングや決済については、MicrosoftよりAmazon.comの方が秀でているのは言うまでもなく、適材適所でサービスを選択できるメリットがある。

 また忘れられがちだが、CortanaはAndroidやiPhone向けのアプリも提供されており、Windows 10搭載PC以外からの利用も可能だ。

●Amazon.comとMicrosoftが提携に至った背景

 Amazon.comは本社を米ワシントン州シアトルに構えており、Microsoftが本社を構えるレドモンドとは湖を挟んで対岸に位置している。「ご近所同士、仲よく」という面も多少はありそうだが、今回の提携にはもう少し深い意図があるようだ。

 両社が提携を発表する少し前、Amazon.comのジェフ・ベゾス氏へのインタビューを交えた形で米New York Timesが同件を報じている。ここでは、プレスリリースの裏にあった事情の一部を見ることができる。

 この記事のポイントは大きく2点ある。1つは、今回の提携をベゾス氏が自らMicrosoftのサティア・ナデラCEOに提案したということ。もう1つは、両CEOともにAI同士の連携が互いの弱点を補い合ってさらにユーザーメリットをもたらすと考えていることだ。

 記事によれば、両社の提携に向けた動きがスタートしたのは2016年5月にさかのぼる。同月に開催された米MicrosoftのCEO Summitというイベントにおいて、ベゾス氏がナデラ氏にそのアイデアを語ったのがきっかけだという。このプロジェクトが具体的に動き始め、1年以上の月日を経て現実のものとなった。

 筆者が日本マイクロソフトCTO兼執行役員の榊原彰氏に話を聞いたところ、少なくともAlexaとCortanaの連携に向けた開発は半年以上前からスタートしていたという。

 興味深いのは、この時点でMicrosoftはAmazon.comとの提携を認識していたうえで、「Windows 10 IoT Core」を搭載したデバイスの開発をサードパーティーに促していたということだ。

 現在のところ、これに対応したスピーカーデバイスはHarman Kardonの「Invoke」をはじめ、ごく一部のパートナーの開発表明にとどまっているが、もしパートナーに何も告げずプロジェクトを極秘裏に進めていたのであれば、その開発や販売意欲を削ぐ行動にも思える。

 なぜなら、コンシューマーを対象としたB2Cの市場では既にEcho関連デバイスのプレゼンスが高く、パートナーとしても最初からAlexaをターゲットとして対応デバイスの開発を行った方がメリットが大きいからだ。

 B2CではAlexaの方が有利という事実は前述の榊原氏も認めており、「Alexa対応家電など、Amazon.comを中心とした市場が既に形成されつつある」とコメントしている。

 恐らくだが、コンシューマー市場を狙ってAIアシスタント対応スピーカーや家電を投入しようと考えた場合、現状でメーカーが選択する相手は少なくともMicrosoftよりはAmazon.comだろう。

 そして今回の提携でAlexaからCortanaの呼び出しが可能になったことで、プラットフォームにCortana対応デバイスとしての「Windows 10 IoT Core」が選択肢に入る可能性は少なくなったとみている。

 もともとWindows Phone 8.1の機能の1つとしてスタートしたCortanaではあるが、現在ではWindowsの手を離れ、Microsoft組織内でもどちらかといえばAIやクラウド関連の部署にその主導権が渡っている。

 MicrosoftはCortanaとWindowsが不可分とは考えておらず、どちらかといえばプラットフォームの枠を広げてCortanaのさらなる活用を望んでいるようだ。筆者の予想だが、Invoke型のWindows 10 IoT Coreデバイスはパートナー製品を含めてこの世代で収束し、今後はAmazon.comとの提携に見られるような「Alexaとの相乗り」を目指すとみている。

●AppleとGoogleがAIアシスタントで譲れない理由

 前述の記事でベゾス氏が語っていたのは、「AIの連携によって互いの弱点を補える提携は常にウエルカムだ」ということだ。「Siri」のAppleや「Google Assistant」のGoogleには働きかけなかったようだが、どちらも意思さえあれば、いつでも提携の準備があると述べている。

 その意味で、今回のAmazon.comとMicrosoftの組み合わせは非常に相性がいい。日々の買い物からエンターテインメントまで、コンシューマーの行動に関するデータを全て持ち、さらに決済までの導線を持っているという点でAmazon.comに太刀打ちできるIT企業は、(ローカルマーケットでの競合を除いて)世界的に見ればほぼ存在しない。

 一方で、MicrosoftはOutlookやOffice 365を通じて、日々ビジネスでやりとりされるメールや連絡先、スケジュールといった膨大なデータを把握しており、Cortanaを通じて簡単に引き出すことができる。

 つまり、AlexaとCortanaが得意とする領分は完全に異なっており、両者が合わさることで日々の生活からビジネスでの活用まで、全てをカバーできる。先ほど、家電市場を見たときにCortanaよりもAlexaだと述べたのは、こうした理由による。サードパーティーもそれぞれの特性に合わせたスキルを開発しているわけで、これ以上ないうまい組み合わせだと言えるだろう。

 もう1つ、両社には興味深い共通点がある。どちらも「モバイル」というプラットフォームで足掛かりを失っており、特にスマートフォン分野ではAppleやGoogleに依存せざるを得ない点だ。

 現在、多くのインターネットユーザーはスマートフォンやタブレットなどのデバイスを情報収集やエンターテインメントに利用しており、日々の行動データを収集されている。逆に、AIアシスタント分野におけるAmazon.comとMicrosoftの連合に対して、AppleやGoogleが秀でているのはこの部分であり、優位性を確保するためにも両社との提携は避けたいはずだ。

 ビジネスモデルの違いもある。Microsoftはクラウドの利用促進によるAzureやOffice 365での収益増が重要だ。Googleはユーザーのトラフィック増で広告収入増を目指している。Amazon.comはEchoデバイスを安価にばらまいている印象があるが、そこからコンテンツや商品の販売増につなげるのが目的で、さらにAmazon Primeで囲い込めれば御の字だ。Appleは、いずれの場合でもデバイス販売で売り上げを稼がなければいけない。

 つまり、提携によってAmazon.comやMicrosoftは一方的にメリットを享受できる可能性があるが、コアとなるデータを他社に利用される可能性のあるGoogleや、自身のデバイス販売増につながる可能性はほぼ皆無なAppleはその限りではない。Appleが今のところ「HomePod」にそれほど力を入れているように見えないのは、「デバイス単体で稼がなければいけない」という理由にあるとみている。

 いずれにせよ、今回の提携は業界の対立構図をあらためて浮き彫りにしたようで面白い。AWSとAzureというクラウドサービス分野では競合するAmazon.comとMicrosoftだが、それ以外の面では非常に相性のいいベストカップルなのかもしれない。

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