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Apple Watchが医療の質を向上させる

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2016/11/08
Apple Watchが医療の質を向上させる: The DiaryのApple Watchアプリでは、ワンタップで音声認識機能が呼び出せ、「動悸(どうき)がする」などと入力することで医師に状態を知らせたり、血圧の数字を読み上げることでデータを入力したりできる © ITmedia エンタープライズ 提供 The DiaryのApple Watchアプリでは、ワンタップで音声認識機能が呼び出せ、「動悸(どうき)がする」などと入力することで医師に状態を知らせたり、血圧の数字を読み上げることでデータを入力したりできる

 人々が日常的に利用しているIT機器から取得できるデータを、診療にも生かせないか――。そんな研究をしている医師がいる。慶應義塾大学 医学部 循環器内科の特任助教、木村雄弘先生もその1人である。

 木村先生は、Appleが医療研究用にオープンソースで提供しているアプリケーションフレームワーク「ResearchKit」を活用し、脳梗塞や不整脈の検出ができるか調査するための臨床研究アプリ「Heart & Brain」の開発も手がけた医師。Heart & Brainで取得した1万人分を超えるデータは、医療を補助するデータとして十分活用できるものだった、との学会発表も行っている。

 そしてこのたび、慶應義塾大学 医学部 循環器内科では、「Apple Watch」や「iPhone」、そしてiPhoneと連携する血圧計などで取得したヘルスケアデータを、診療に活用する臨床試験を開始した。通院患者が自宅で測定した脈拍や血圧、日々の活動のデータを参照して、病院の外来診療でのサポートに活用し、診療の質の向上と、安心感の提供に役立てたいという。

●患者の詳細なヘルスケアデータがより質の高い医療に

 一般的な外来診療では、医師と患者は、病院などで対面で向き合ったときしかコミュニケーションが取れないことがほとんどだ。まれに電話やメールでやり取りするケースもあるが、いずれにせよ患者が日常生活をどう送っているかを医師が把握するためには、患者から口頭で説明をしてもらうか、手帳などを見せてもらう必要がある。

 また血圧や脈拍などのデータ、その他の検査で得られるデータは、いずれも「患者が病院に来た時点」のもので、それは「普段と同じ」とは限らない。例えば「白衣高血圧」のように、病院に行って血圧を測ると、緊張感やストレスなどから、平常時より血圧が高くなる現象はよく知られている。医師にとって、病院にいない、生活時間の多くを占める自宅などで、患者がどう過ごしているかを知ることは、非常に重要なことなのだという。

 そこで木村先生は、Apple WatchとiPhoneを活用し、平常時の患者の状態をモニタリングできないかと考えた。Apple Watchでは脈拍を計測するほか、アクティビティデータを取得。血圧は、AppleのHealthKitに対応し、「ヘルスケア」アプリとデータの連係ができるオムロンヘルスケアの専用アプリ「OMRON Connect」に対応した最新の血圧計を採用し、1日2回計測してもらったデータを自動取得する。

 取得したデータは、iOSアプリの「The Diary」を通じて、慶應大学病院側に送付され、医師が任意のタイミングで患者の状態を確認できる。実際には1日1回データを送信してもらっており、医師も毎日チェックをしているという。医師が患者に薬を飲むことを促す服薬指導や血圧計測の依頼、体調が良い/悪いといった患者から医師へのフィードバックは、The Diaryアプリに組み込まれているフレームワーク「CareKit」を用いて実現している。

 CareKitとは、Appleが用意している、健康管理用のアプリケーションを容易に開発できるオープンソースのフレームワークだ。ResearchKitが臨床研究のために作られたものだったのに対して、CareKitは医師と患者の間のコミュニケーションをサポートし、患者のケアに活用できるツールとなっている。CareKitを活用した臨床試験は、まだ世界でも例が少ない。

●臨床試験開始から2カ月、患者からはポジティブな反応

 臨床試験がスタートしたのは2カ月前。被験者は下が35歳、上は85歳(平均年齢65歳)で、外来で循環器内科を受診する20人弱の患者が参加している。参加者は必ずしもITリテラシーの高い人ばかりではないため、看護師などがまずApple WatchやiPhoneの使い方を教え、その後自宅で活用してもらっている。自由に活用していい、と渡しているせいか、試験の用途意外にも積極的に活用している人が多いという。充電は就寝時にしてもらっており、起きている間は腕にApple Watchを着けているので、「気になったときにいつでも脈拍が測れる安心感がある」と、患者には好評だそうだ。

 The DiaryのApple Watch専用アプリには、音声認識機能が組み込まれており、データの入力を音声で行うことが可能。例えば血圧は、OMRON Connectを使えば自動的にヘルスケアアプリに記録されるが、他の血圧計で測った場合などは手入力をする必要がある。そんなとき、The DiaryのApple Watchアプリを使えば、「血圧、上130、下90」と話しかけて記録することが可能だ。また「体調が悪い」と話せば、その日時やそのときの心拍などが自動的に記録される。

 「不整脈などの症状がある方は、自身の脈にとても関心を持っている方が多い。Apple Watchをしていれば、脈を測りたいと思ったときに、必ず測れます。例えばドキドキしているときに心拍を測れば、その日時や状態が簡単に記録できるわけです。また、日々のデータを意思に確認してもらっている、という安心感もあるそうです。何かあったときに気軽に記録できるのでとても有用だと考えてくれる方が多いですね」(木村先生)

 医療機器である心臓ペースメーカーのように、命に関わる異常が起きたときに警告通知を出すなどの仕組みはないものの、日々の心拍の状況がモニタリングでき、日常の診療に生かせる、十分有用なデータが取れるという。

 血圧計で計測したデータが自動的に入力され、医師に送られる点も評価が高い。通常、循環器内科にかかるような人には、「血圧手帳」というものを付けてもらうそうだが、都度書き込む必要がなく、書き間違いや書き忘れなども防げる。また、外来時に手帳を自宅に忘れてくる心配もない。

 「患者さんの家にある機器の精度が高くなればなるほど、家庭データからいろいろな医学的判断ができるようになります。民生品でも病院外での日常のデータを常にとることで、医療の方針も変わってくる可能性があります」(木村先生)

 余談だが、Apple Watchに用意されている、運動量を円形のグラフで示してくれるアクティビティリングのおかげで、患者の中には以前よりアクティブになった人も出てきているそうだ。活動度の高さと生活習慣病には相関関係があるといわれており、今後研究が進めば、症状には出ていないことが活動量から推測できる可能性も出てくると木村先生は話した。

 慶應義塾大学 医学部 循環器内科教授の福田恵一先生も「限られた時間の中で、すべての患者の情報を正確に把握するのは難しいという現実があります。血圧や体重、その他いろいろなデータが、日々の生活の中で記録されていて、それを遠隔でも見ることができれば、診療のかなりのサポートになるでしょう。例えば血圧は、季節による変動もあるし、病院に来ると上がるようなこともあります。そういったことをつぶさに見ながら微調整をしていく、個別化治療は今後非常に重要になると思っています。医師が、患者のより詳細なデータを見ることができれば、より質の高い医療が提供できるのは間違いありません」と、ヘルスケアデータ活用の可能性に期待を寄せた。

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