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IIJが「フルMVNO」に取り組む2つの理由 佐々木氏が解説

ITmedia Mobile のロゴ ITmedia Mobile 2017/04/24
IIJが「フルMVNO」に取り組む2つの理由 佐々木氏が解説: MVNO黎明(れいめい)期は、MNOとMVNOが自由に協議し、契約を結んでビジネスを成立させることが難しかった © ITmedia Mobile 提供 MVNO黎明(れいめい)期は、MNOとMVNOが自由に協議し、契約を結んでビジネスを成立させることが難しかった

 インターネットイニシアティブ(IIJ)は、2016年8月にドコモに対して加入者管理機能である「HLR/HSS」の連携に関する申し込みを行い、承諾されたことを発表した。IIJは国内初の「フルMVNO」となり、2017年度下期にデータ通信サービスを開始する予定。IIJmio meeting 15で、同社のネットワーク本部 技術企画室 担当課長 佐々木太志氏が、フルMVNOを目指した背景と理由、フルMVNOになったIIJが目指すビジネスについて語った。

●「横並び化の打破」と「IoT時代に必要なSIMの提供」を目指す

 「フルMVNOになると、携帯電話システムのうち、キャリアが提供している部分とMVNOが提供している部分の境界線が少し動くという話。フルMVNOだから、すごいことができるかというと、そうではない」

 冒頭、このように語った佐々木氏だが、IIJがフルMVNOを目指した理由は2つあるいう。「横並び化」と「IoT時代に必要なSIM」だ。

 民間企業同士がビジネスで相対するとき、普通は自由で対応な立場で協議するのが当たり前だ。しかし、10年前のMVNOの黎明(れいめい)期は、MNOとMVNOが自由に協議し、契約を結んでビジネスを成立させることが難しかったと佐々木氏は振り返る。「事業を始めたいMVNOと、今後、競争相手となるMVNOに設備を貸すMNOの思惑は、当然食い違うところがある」(佐々木氏)

 今でこそ600社ものMVNOが存在するが、当時はMVNOの事業モデルが未熟だった。現在のように格安スマホが普及している時代を見据えていたMVNOは存在せず、キャリアのビジネスも今とは異なっていた。「MVNO側はどうしたらいいか判断ができず、協議が進まない。経営側も、事業性を予測できないので、やるべきかやめるべきかを判断できないなど、いろんな問題があって大変だった」と明かす。

 そうした状況で、2002年、MVNOの振興政策として「MVNO事業化ガイドライン」が総務省によって策定された。ガイドラインを作ることによって、MVNOとMNOの契約関係を整理しようという狙いだ。

 ガイドラインの中では、2つの契約形態が示されている。1つが事業者間接続で、2007年の改定の際にガイドラインに導入された。もう1つが卸電気通信役務契約で、業界内で「卸契約」と呼ばれている。2008年5月の改定の際に「卸標準プラン」という考え方が導入された。

 この卸標準プランは「今のMVNOの全体をほぼ支えているといっても過言ではない制度」だ。契約のテンプレートともいえるプランで、「このテンプレート通りの契約であれば、比較的スムーズに事業を始められる」(佐々木氏)。

 この卸標準プランはあくまでテンプレートなので、これを元にいろいろな条件をMNO、MVNOで議論し、自由な契約ができるというのが建前だった。しかし、現実的には卸標準プランに準拠しているケースがほとんど。MNOと再協議し、より自由な契約を達成できたケースはほとんどないという。

 なぜなら「キャリアの方が交渉力が強く、たくさんの設備を持っており、技術のノウハウもMVNOはMNOに勝てない」からだ。一方で、この卸標準プランが導入されたおかげで、MVNOの参入は容易になった。卸標準プランの通りであれば、数カ月という期間でMVNOのサービスを始めることができるので、MVNOの数が増え、現在は600社を超えた。契約数も増加している。

 反面、接続約款や卸標準プランが提供条件の事実上の標準となってしまったので、それを超えることはできなくなった。どのMVNOも卸標準プランに基づく契約でやっていると、他のMVNOとの差別化、横並びの打破が非常に難しくなる。

 現在、MVNOの通信サービスにおける競争軸は、IIJも行っているマルチキャリア(ドコモ回線とau回線を両方使ってサービスを提供すること)や、ゼロ・レーティング(特定のアプリやサービスに関してはデータ通信量をカウントしない)程度しかなく、差別化が難しい状況だ。しかも、これらが勝負のポイントになっているかといえば、そうともいえず、「むしろ量販店でどれだけカウンターを持っているか、直営の店舗数、ポイント還元、キャッシュバック、テレビCMなど、あまり通信サービスと関係ない、プロモーションの方に競争の軸が移っている」と佐々木氏は指摘する。

 こうした横並びの打破が、IIJがフルMVNOを目指した理由の1つになっている。

 横並びの現状はMNOも同様だ。料金プランも端末も、各キャリアとも、ほとんど差がない。これはスマホのコモディティ化(成熟化)による。「コモディティ化すると差別化は難しくなる。横並びを打破し、新しいビジネスをどうやって起こすかは、MVNOもMNOも含めた業界全体の課題」だ。こういった状況下で、“スマホの次”を予測するときに、よく出てくる言葉がIoT(Internet of Things モノのインターネット)だ。

●IoTが横並びを打破する?

 通信業界でIoTが注目されているのは、人が通信サービスを利用するキャパシティーが限界に近づいているため。これからはモノとモノ、モノと人がインターネットにつながることで、新しいサービスが生まれることが期待されている。

 しかし、IoTにも課題はある。MVNOの課題を明確にするために、佐々木氏が例として取り上げたのは、子どもと自然な会話ができるぬいぐるみだ。ぬいぐるみの中にはスピーカーとマイクが入り、文脈の解析処理はネットワーク側がアシスト。定期的に新しい会話やボキャブラリーがダウンロードされ、飽きずにずっと楽しめるぬいぐるみを企画したと仮定する。

 すると問題がいくつか出てくる。クラウドベースでコントロールするとなると、Wi-Fiで接続するかモバイルデータ通信でするかが問題になる。Wi-Fi版の場合は家にWi-Fiが必要で、SSIDやパスワードを入力させる方法を考えなくてはいけない。スマホ経由でSSIDを入力させることも可能だが、ユーザーにリテラシーが必要になる。

 モバイルデータ通信を採用した場合はどうか。一般的にぬいぐるみを購入するのは、孫にプレゼントする祖父母が多い。ぬいぐるみを使うには通信契約が必要だが、息子夫婦に契約させて、SIMカードを挿して、というやり方は想像しにくい。SIMカードをぬいぐるみに挿した状態で売ることもできるが、在庫時の通信料金は誰が負担するかという問題が残る。そもそも、ぬいぐるみで重要なのはかわいらしさで、どのキャリアのSIMを使っても問題にされず、SIMカードの交換ができるかどうかは重要ではない。

 通信料金をぬいぐるみの代金に含めるのは分かりやすいが、後日、ぬいぐるみをオークションで売ることになったらどうか。SIMカードを抜いて、携帯電話のようにSIMカードなしのモデルが出回り、購入者がSIMを入れて使うことになるのか。「非現実的なシナリオがいくつかあり、難しい問題がある」(佐々木氏)

 考えられる課題を整理すると、通信サービス事業者にとってIoT時代に重要になるのは、接続行程の簡便化と、料金設計の自由度だ。これらを実現するときに「一番簡単な道だったのが、IIJにとってはフルMVNOだった」(佐々木氏)。

●フルMVNOとは何か

 では、フルMVNOとは何か。世界的にフルMVNOの明確な定義はないが、おおむねね「MNOのコアネットワークの一部を自前の設備で運用しているMVNO」という意味だと佐々木氏は説明。コアネットワークを持たないMVNOが「ライトMVNO」で、日本のように、コアネットワークとインターネットのゲートウェイだけを持っているMVNOを、フルMVNOとするかライトMVNOとするかは国によって考えが変わるという。日本ではライトMVNOとされている。

 日本では、コアネットワークの中にある「HLR/HSS」という機械を自前で運用しているMVNOがフルMVNOということになってきている。

 HLR/HSSとは、SIMカードを管理するためのデータベースのことで「加入者管理機能」とも呼ばれる。SIMカードにはさまざまな情報が書き込まれているが、その情報をデータベースとして管理し、SIMカードを実際に使えるようにするためのサーバのことだ。フルMVNOになってHLR/HSSを持つと、SIMカードを自前で発行できるようになる。

 自前でSIMカードを発行できると、製品に適したSIMカードを供給できるようになる。現在は標準、micro、nanoSIMカードしか扱えないが、くまのぬいぐるみの中に入れるとなると、特別なSIMカードが必要だ。しゃべれるぬいぐるみなので何らかの基板が入っているはずで、組み込みチップのようなSIMも使える。一方、とにかく安いSIMがいいという場合もあれば、クルマに搭載するとなると、夏の炎天下では80度にもなるといわれる車内で耐えるSIMが必要になる。自前でSIMカードを発行できるので、こうした要望にもIIJが応えられるようになる。

 また、設定や料金面の課題を解消できる。組み込みタイプのSIMになると、電源を入れただけでネットワークにつながるようにすることも、かなり容易にできるようになるという。料金設計の自由度が増し、売り切りモデルや月額課金モデルも分かりやすく設定できるようになる。SIMカードの開通や廃止をIIJがコントロールできるようになるので、在庫期間中のコスト削減が可能になるほか、廃止したSIMカードの再利用も可能になるという。

●未定の部分はまだまだ多い

 IIJはドコモと約2年の協議を経て、HLR/HSSを独自に持つフルMVNO化を達成した。「テンプレートから外れた契約をMVNOがキャリアと交渉し、たどり着いたことはエポックメイキング」(佐々木氏)な出来事だ。

 HLR/HSSを自前で運用することにより関与できる範囲が広がり、IIJ自身が責任を持って、より自由にサービスを充実させることできるようになる。とはいえ、「完全に自由ではない」(佐々木氏)。基地局はMNOに借り、交換機も持っていないものが多い。それでも、「われわれがキャリアさんの設備の一部を自前で動かすようになることで、競争がしやすくなっていくのではないか」と佐々木氏は期待する。

 ただ、ユーザーにとってのメリットはまだ分かりにくい。例えば国際ローミングサービスを1枚のSIMカードで実現するにも解消すべき課題があるという。また、今回のドコモとの協議はデータ通信についての合意のみで、音声通話サービスは含まれていない。音声通話サービスには非常に難しい規制や課題があり、広範囲に渡っての事業者間協議が必要。今後、取り組むべき課題がたくさんあると佐々木氏は語る。

 「フルMVNOの話は、まだ全体の1割くらいしか語っていない。われわれが伝えなくてはいけないことはたくさんあるが、われわれの中でもまだ決まっていないこと、決まっていても話せないことがたくさんある。引き続き、IIJが何を考えているかを伝えていきたい」

 日本で最初のフルMVNOとして、これからサービスを始めるIIJ。今後の動きに引き続き注目していきたい。

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